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親の介護と仕事を両立するには?介護離職を防ぐ公的制度と判断基準を解説

厚生労働省「雇用動向調査」(2024年)によると、介護・看護を理由に離職した人は年間約9.3万人にのぼり、そのうち約63%が女性です。
介護離職は収入が途絶えるだけでなく、厚生年金の加入期間が短くなることで将来の年金額にも響くため、仕事を続けながら介護体制を整えることが家計を守る現実的な選択肢といえるでしょう。
この記事では、介護休業・介護休暇の使い分けから、地域包括支援センターの活用法、介護費用の負担まで、仕事と介護の両立に必要な情報を公的制度に沿って解説します。
介護離職の現状と経済的リスク

家族の介護が必要になったとき、離職を選ぶ前に知っておきたいのが、介護離職がもたらす経済的な影響の全体像です。
介護離職者の実態
厚生労働省「雇用動向調査」(2024年)によると、介護・看護を理由に離職した人は年間約9.3万人で、男性約3.4万人、女性約5.9万人となっています。
性別・年齢階級別にみると、男性では45〜49歳が、女性では55〜59歳が最も多い層です。
介護・看護を理由とする離職は2000年には3.8万人でしたが、2024年には約9.3万人と2.4倍以上に増えています。
出典:公益財団法人生命保険文化センター「介護離職者はどれくらい? 介護離職をしないための支援制度は?」
介護に直面するのは働き盛りの年代
総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、雇用労働者のうち介護をしている人の割合は55〜59歳の12.3%が最も高く、次いで60〜64歳が11.6%、50〜54歳が8.7%です。
55〜59歳では、10人に1人以上が介護に直面している計算になります。
この年代で離職すると、定年までの給与収入を失うだけでなく、厚生年金の加入期間も短くなる点が痛手です。
介護に直面しやすい時期と、離職による損失が大きくなる時期が重なっているところに、介護離職の難しさがあります。
一人で抱え込んだ末の離職が最も危うい
生命保険文化センターは、誰にも相談しないまま介護離職に至ると、経済面だけでなく精神面や肉体面でもかえって追い込まれる場合があると注意を促しています。
「介護に専念すれば楽になる」と考えて辞めても、収入が途絶えることで別の負担が生まれるためです。
同センターは、勤務先や地域包括支援センター、ケアマネジャーに相談したうえで、両立支援制度と介護保険サービスを組み合わせる進め方を勧めています。
介護を家族だけで抱え込まない体制をつくれるかどうかが、離職を避ける分かれ目になります。
介護休業制度の仕組みと活用のポイント

育児・介護休業法に基づく介護休業は、自ら介護を行うためだけの休業ではなく、仕事と介護を両立できる体制を整えるための制度と位置づけられています。
介護休業の基本的な仕組み
介護休業は、対象家族1人につき3回まで、通算93日まで取得できる制度です。
対象家族は配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫と幅広く定められています。
93日という期間は介護の全期間をカバーするものではなく、市区町村や地域包括支援センターへの相談、介護サービスの手配、家族間での分担決定といった体制づくりに充てる期間として設計されています。
3回に分割できるため、要介護認定の申請時、施設入所の準備時、容態の急変時といった節目で使い分けるのが現実的でしょう。
手続きは、休業開始予定日の2週間前までに書面等で事業主に申し出るのが原則です。急な入院などで期限に間に合わない場合もあるため、早めに勤務先へ相談しておくと選択肢が広がります。
介護休業給付金の金額と受給要件
雇用保険の被保険者が介護休業を取得した場合、各支給対象期間の支給額は休業開始時賃金日額×支給日数×67%で計算されます。
賃金月額には上限があり、1支給対象期間あたりの介護休業給付金の上限額は356,574円です(令和8年7月31日までの額)。
受給するには、介護休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月が12か月以上あることが必要になります。
給付金の対象となる1回の介護休業期間は最長3か月で、同一の対象家族については93日を限度に3回までが支給対象です。
介護休業を開始する時点で、休業終了後に離職することが予定されている場合、介護休業給付金は支給されません。
この給付金は仕事を続けることを前提に設計された制度であり、退職までのつなぎとして使えるものではない点は押さえておきたいところです。
休業中も社会保険料は自分で払い続ける
介護休業中は、育児休業と違って健康保険料・厚生年金保険料が免除されません。
厚生労働省が示す「介護休業取扱通知書」の様式には、休業開始によって社会保険料の本人負担分を給与から天引きできなくなるため、会社が月ごとに支払請求書を送付し、労働者が指定された期日までに振り込む、という手順が記載されています。
税についても、市区町村から直接納税通知書が届き、それにしたがって支払う扱いです。
給付率67%がそのまま手取りの補填率になるわけではなく、休業中も毎月の出金が続く点を織り込んで手元資金を用意しておく必要があります。
出典:厚生労働省・都道府県労働局・公共職業安定所「介護休業給付の内容及び支給申請手続について」
出典:日本年金機構「厚生年金保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間)」
介護休暇と介護休業の使い分け

介護に関する休みの制度は「介護休業」と「介護休暇」の2種類があり、対応に必要な期間で使い分けることが両立のカギになります。
介護休暇の概要
介護休暇は、1年度において5労働日(対象家族が2人以上の場合は10労働日)まで取得できる制度です。
この「1年度」は、勤務先が特に定めをしない場合、毎年4月1日から翌年3月31日を指します。
1日単位のほか時間単位でも取得でき、通院等の付き添いや、介護サービスを受けるために必要な手続きの代行といった用事に向いた制度です。
申出は書面に限定されておらず口頭でも可能で、当日の電話等による申出でも取得を認めることが事業主に求められています。
急に通院の付き添いが必要になった日でも使える点が、2週間前の申出を原則とする介護休業との違いです。
2025年4月からは、勤続6か月未満の労働者を労使協定によって介護休暇の対象から除外できるとする規定が撤廃されました。入社間もない時期でも取得が可能です。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし(令和7年12月作成)Ⅴ 介護休暇制度」
2つの制度の使い分け方
切り分けの目安は次のとおりです。
・介護休暇:通院等の付き添い、介護サービスの手続きの代行、ケアマネジャーとの面談など、1日以内または数時間で完了する用事
・介護休業:要介護認定の申請から介護サービス開始までの体制構築、施設探し、退院後の生活環境の整備など、まとまった期間を要する対応
5労働日の介護休暇で足りる場面まで介護休業を消費してしまうと、いざ体制を組み直したいときに93日の枠が残っていない事態になりかねません。
短時間の用事は介護休暇、体制構築は介護休業という切り分けが、限られた制度枠を有効に使うポイントになるでしょう。
介護休業以外の両立支援制度

育児・介護休業法には、介護休業・介護休暇以外にも仕事と介護を両立するための制度が複数用意されています。
労働時間に関する4つの措置
要介護状態の対象家族を介護する労働者には、次の4つの措置が用意されています。前の3つは労働者の申出にもとづくもの、最後の1つは事業主に導入が義務づけられているものです。
・所定外労働の制限:申し出た場合、事業主は所定外労働を免除しなければならない
・時間外労働の制限:申し出た場合、事業主は1か月24時間・1年150時間を超える時間外労働をさせてはならない
・深夜業の制限:申し出た場合、事業主は午後10時から午前5時の間に労働させてはならない
・所定労働時間の短縮等の措置:事業主は介護休業とは別に、対象家族1人につき、利用開始の日から3年以上の期間内に2回以上利用できる措置を講じなければならない
言葉が似ている「所定外労働」と「時間外労働」は指す範囲が異なります。
所定外労働とは会社が就業規則で定めた勤務時間を超えて働く分で、たとえば所定7時間の会社で8時間働いた1時間がこれにあたります。一方の時間外労働は法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働く分です。所定外労働の制限を申し出たほうが、免除される範囲は広くなります。
所定労働時間の短縮等の措置とは、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、時差出勤制度、介護サービス費用の助成のうち、いずれか1つ以上を指します。
どの措置が導入されているかは会社によって異なるため、就業規則で確認しておくことが重要です。
93日を使い切った後も働き方の調整は続けられる
介護休業には通算93日という上限がありますが、所定外労働の制限・時間外労働の制限・深夜業の制限には回数の制限がありません。
1回の請求で指定できる期間は、所定外労働の制限と時間外労働の制限が1か月以上1年以内、深夜業の制限が1か月以上6か月以内となっています。いずれも請求を繰り返せるため、介護が必要な間は継続して利用が可能です。
ここが介護休業との構造的な違いになります。
介護休業が体制を整えるための93日という有限の枠であるのに対し、働き方の調整は回数を区切られていない枠と考えると、制度の組み立て方が見えてきます。93日を使い切ったからといって、そこで手立てが尽きるわけではないでしょう。
請求は、制限開始予定日の1か月前までに書面等で行います。
ただし、事業の正常な運営を妨げる場合、事業主は請求を拒めます。
対象から外れる条件は、3つの制度で仕組みが異なる点にも注意が必要です。
まず日々雇用される労働者は、いずれの制度でも対象になりません。
継続雇用1年未満の労働者と1週間の所定労働日数が2日以下の労働者については、所定外労働の制限では労使協定を結んでいる場合に限って対象外にできるのに対し、時間外労働の制限と深夜業の制限では法律上そのまま対象外です。
深夜業の制限には、介護ができる16歳以上の同居家族がいる場合は対象外になるという条件も加わります。
深夜に就労していない、負傷や疾病などで介護が困難ではない、といった要件を満たす家族が同居していると請求できない扱いです。
配偶者や成人した子と同居しているケースでは、事前に勤務先へ確認しておくと判断を誤らずに済むでしょう。
出典:厚生労働省「介護休業制度 特設サイト 所定外労働の制限(残業免除)」
不利益取扱いの禁止とハラスメント防止措置
事業主は、介護休業などの申出や取得を理由に解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないと定められています。
また、制度の申出や利用に関する言動によって就業環境が害されないよう、相談体制の整備などの措置を講じる義務も課されています。
制度の利用は法律で保障された権利であり、遠慮して申し出を控える判断に合理性はないでしょう。
地域包括支援センターの活用法

介護が必要になったとき、最初に相談すべき窓口が地域包括支援センターです。
市町村が設置する高齢者の総合相談機関で、令和7年4月末現在、全国に5,487か所(ブランチを含めると7,374か所)が置かれています。
地域包括支援センターでできること
地域包括支援センターは、地域の高齢者の総合相談、権利擁護、地域の支援体制づくり、介護予防に必要な援助などを担う中核機関として位置づけられています。
要介護認定の申請手続きの支援や介護サービスの情報提供、ケアマネジャーの紹介まで幅広く対応してもらえるため、何から手をつければよいか分からない段階でも相談できます。
離れて暮らす親の介護への対応
遠距離介護では、親が住む地域の地域包括支援センターが窓口です。
親の住所地を管轄するセンターは各都道府県のホームページから検索でき、厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」からも探せます。
介護が始まる前に、親の住所地のセンターの連絡先を調べておくだけでも、いざというときの初動が変わります。
親が入院してから窓口を探し始めると、要介護認定の申請やケアマネジャーとの契約に着手するまでに時間がかかりがちです。退院日が決まってから慌てるより、元気なうちに調べておくほうが確実といえます。
介護費用の負担と家計への影響

介護にかかる費用は、介護保険の自己負担分だけでなく、交通費や日用品、住宅改修費など多岐にわたります。
親の介護費用は原則として親自身の収入・資産から支出するのが出発点です。
親の資産から支出する考え方
介護費用の財源は、まず親の年金収入や預貯金から確保します。子ども側の家計から持ち出しを始めると、子ども世代の老後資金や教育費に影響が及びかねない点に注意が必要です。
厚生労働省は企業向けの両立支援ツールのなかで「親が元気なうちから把握しておくべきこと」チェックリストを公開しています。
親の資産状況や加入している保険、かかりつけ医などを元気なうちに家族で共有しておくことが、介護が始まってからの意思決定を早めます。
高額介護サービス費で自己負担に上限がある
月々の利用者負担額(福祉用具購入費や食費・居住費等の一部を除く)の合計が、所得に応じて区分された上限額を超えた場合、その超えた分は高額介護サービス費として介護保険から支給されます。
市区町村民税課税世帯の上限額(世帯単位・月額)は、課税所得に応じた3段階です。
・課税所得380万円(年収約770万円)未満:44,400円
・課税所得380万円以上690万円(年収約1,160万円)未満:93,000円
・課税所得690万円以上:140,100円
市町村民税世帯非課税の場合はさらに低い上限額が設定されています。
支給を受けるには市区町村への申請が必要で、自動的に払い戻されるわけではない点に注意してください。
出典:厚生労働省「介護サービス情報公表システム サービスにかかる利用料」
2025年4月施行の法改正で会社に義務づけられたこと

令和6年(2024年)に改正された育児・介護休業法は令和7年(2025年)4月1日から段階的に施行され、介護離職防止のための仕組みが強化されました。
事業主に義務づけられた3つの対応
改正法により、事業主には次の3つが義務づけられています。
・介護離職防止のための雇用環境整備:研修、相談窓口の設置、制度利用事例の収集・提供、制度利用促進に関する方針の周知のうち、いずれか1つ以上
・両立支援制度等の早期(40歳)の情報提供:40歳に達した労働者への制度情報の提供
・介護に直面した労働者への個別の周知・意向確認:介護に直面した旨の申出があった場合の個別周知と利用意向の確認
制度を知らないまま離職してしまう事態を防ぐ狙いです。
勤務先から40歳のタイミングで介護関連の資料を受け取った場合、それはこの義務にもとづく情報提供にあたります。
公開されている支援ツールを確認する
厚生労働省は、この義務化に対応するための実務ツールを公開しています。
「仕事と介護の両立準備ガイド」リーフレットや「ケアマネジャーに相談する際に確認しておくべきこと」チェックリストなど、労働者側が直接使える資料も公開対象です。
勤務先の制度が整っていない場合でも、こうした公開資料から準備を進められます。
介護離職を防ぐための確認手順

介護が必要になったとき、離職を考える前に確認すべきポイントを順序立てておくと、冷静な判断につながります。
離職前に踏むべき5つのステップ
介護離職は一度してしまうと元の待遇に戻ることが難しく、生涯収入への影響が長期に及ぶ選択です。
以下の順番で制度の活用を検討してみてください。
・ステップ1:親の住所地の地域包括支援センターに相談し、要介護認定の申請と介護サービスの利用につなげる
・ステップ2:勤務先に介護の状況を伝え、介護休業・介護休暇・所定外労働の制限・短時間勤務など利用可能な制度を確認する
・ステップ3:介護休業(3回まで・通算93日)を体制構築に充て、ケアマネジャーと介護サービスの組み立てを固める
・ステップ4:所定外労働の制限や短時間勤務・フレックスタイムなどの措置に切り替え、日常的な働き方を調整する(回数の制限がないため請求を繰り返せる)
・ステップ5:親の資産状況を確認し、高額介護サービス費も含めた費用の財源計画を立てる
相談先を確保しておくことが分かれ目になる
介護休業や介護休暇は法律で認められた権利であり、申出を理由とする不利益取扱いは禁止されています。
それでも勤務先に切り出せないまま一人で抱え、限界を迎えてから辞めてしまうケースは少なくないでしょう。
勤務先とケアマネジャー、地域包括支援センターの3か所に相談の糸口を作っておくことが、離職を回避する土台になります。
厚生労働省も介護休業を、一人で抱え込まずに制度やサービスを活用するための準備期間と位置づけているところです。
まとめ
親の介護と仕事の両立は、公的制度を正しく理解して組み合わせることで実現の余地が広がります。
介護休業(3回まで・通算93日)、介護休暇(1年度に5労働日・時間単位取得可)、所定外労働の制限、所定労働時間の短縮等の措置といった法律上の権利を段階的に使うことで、離職せずに体制を整える道筋が見えてくるでしょう。
とくに所定外労働の制限などは回数を区切られておらず、介護が続く限り請求を重ねられる仕組みです。
2025年4月からは事業主による雇用環境整備・40歳での情報提供・個別周知が義務化され、制度を利用しやすい環境が整いつつあります。
介護休業中も社会保険料を自分で払い続ける点など、資金面で押さえるべき注意点もあります。まずは親の住所地の地域包括支援センターへの相談と、勤務先の制度確認から始めてみてください。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



