損害保険
個人賠償責任保険は重複すると無駄?保険法が定める重複保険の扱い

2つ入っても2倍もらえるわけではありません。ただし「重複は無駄」という説明も正確ではありません。
保険法では、他社にも契約があるという理由だけで支払額が減ることはない、と定められているからです。
よく言われる「按分される」は、保険会社どうしがあとで精算するときの話。契約者が受け取る場面の話ではありません。
この記事では、限度額1億円で足りるか不安な場合に何を確認すればいいかを説明します。
重複するとどうなるのか

まず、重複したときに何が起きるかを確かめます。
条文を読むと、よく聞く説明とは少し違う姿が見えてきます。
他社に契約があっても支払額は減らない
保険法の第20条は、こう定めています。
同じ損害を他の保険もカバーすることになっている場合でも、保険会社は損害額の全額について保険金を払う義務を負う。
つまり他社にも契約があるという理由だけで、支払う額が自動的に減ることはありません。
それぞれの保険会社が、損害額の全額について義務を負うという建て付けです。
按分は保険会社どうしの精算
では、よく聞く「按分」はどこから出てくるのか。
同じ第20条の2項に、その場面が書かれています。
複数の保険会社が払うべき金額の合計が損害額を超えたとき。
1社が自分の負担分を超えて払い、それによって他社の支払い義務も消えた場合、その1社は超えた分を他社に請求できます。
按分が問題になるのは保険会社どうしの精算の場面であり、契約者が受け取る過程で自動的に減額されるわけではありません。
ただし、合計が損害額を超えても、受け取れるのは実際の損害額まで。
「2つ入れば2倍もらえる」という誤解と「重複は無駄」という説明は、どちらも条文とずれています。
出典:e-Gov法令検索「保険法(平成二十年法律第五十六号)」
限度額を超える部分には意味がある
ここから、限度額1億円という不安への答えが出ます。
賠償額が1億円に収まるなら、2つ目の契約から追加で受け取れるものはありません。
一方、1億円を超えた場合、超えた分は1つ目の契約では埋まらない計算です。
限度額の違う契約を持っておくことは、上限を超える部分への備えとして働きます。
ただし実際の取り扱いは商品ごとに違うので、この点は保険会社への確認が必要です。
「按分」が本当に起きる場面は別にある

按分という言葉は、別の場面でも使われます。
混同しやすいので、区別しておきます。
建物や家財の保険では割合で減らされる
保険法の第19条は、契約金額が対象物の価値に届いていない場合を定めています。
この場合、支払われる保険金は、契約金額が価値の何割にあたるかに応じて減らされます。
火災保険で建物の評価額より低い金額で契約していると、損害額に対して割合で減額される。これがその例です。
賠償責任の保険には対象物の価値がない
一方、個人賠償責任保険が備えるのは、他人に対して負う賠償責任です。
建物のように「対象の価値」があらかじめ決まっているわけではありません。
したがって建物の保険で起きる割合の減額と、重複したときの保険会社間の精算は、別の規定に基づく別の話になります。
「重複すると按分される」と聞いたら、どちらの意味で言っているのかを確かめてください。
賠償責任の保険には独自の決まりがある

保険法は、賠償責任を対象とする保険に、いくつか特別な扱いを置いています。
いずれも、一般の損害保険とは違う点です。
重大な不注意でも保険金は出る
これは知られていない点です。
通常の損害保険では、わざと起こした場合と、重大な不注意による場合は保険金が出ません。
ところが賠償責任の保険では、この「重大な不注意」が外れる扱いになっています。
保険法の第17条2項が、そう読み替えると定めているためです。
つまり賠償責任の保険で保険金が出ないのは、わざと起こした場合だけになります。
「不注意がひどかったら出ないのでは」という心配は、条文上は区別されています。
保険金は賠償以外に使えない
もうひとつ、保険金の行き先に関する決まりがあります。
被害を受けた側は、保険金を請求する権利について優先的な地位を持ちます。
加えてこの請求権は、他人に譲ったり、借金の担保にしたり、差し押さえたりすることが原則としてできない決まりです。
保険金が賠償以外の用途に流れないよう、法律の側で手当てされています。
示談が済まないと請求できない
請求できる範囲にも決まりがあります。
被保険者が請求できるのは、実際に賠償金を払った金額、または相手が承諾した金額の範囲までです。
事故が起きたら、示談交渉や賠償額の確定を保険会社と一緒に進める必要があるということ。
この点が、後述する示談交渉サービスの重要性につながります。
出典:e-Gov法令検索「保険法(平成二十年法律第五十六号)」
限度額を上げる方法を確かめる

ここからは実際の対応です。
公開資料でわかることと、保険会社に聞くしかないことを分けます。
まず今の契約で上げられるか聞く
個人賠償責任保険は、他の保険に特約として付く形で提供されることがあります。
限度額をいくらまで設定できるか、無制限があるかは、商品ごとの設計次第です。
だから最初にやるべきなのは、いまの契約で限度額を上げられるかどうかの確認になります。
証券の記載が現在も同じとは限らないので、問い合わせて確かめてください。
保険会社に確認する5項目
次の点は公開資料ではわからないので、直接尋ねてください。
・いまの契約で限度額を上げられるか。上限はいくらか
・無制限の設定があるか
・示談交渉サービスが付いているか。その範囲は
・同じ保険会社で複数契約がある場合、限度額はどう扱われるか
・重複した場合、請求の手続きはどう進むか
とくに示談交渉サービスの有無は、実際の場面で差が出ます。
先ほどのとおり賠償額の確定が請求の前提になるため、交渉を任せられるかどうかは金額の大小とは別の意味を持ちます。
減らす前に限度額を確かめる
複数の契約を持てば、請求のとき連絡する先も増えます。
手間を理由に契約を減らすという判断は、それ自体として理解できるものです。
ただし「重複は無駄だから解約する」という判断は、限度額を下げる結果になりかねません。
減らす前に、残す契約の限度額が十分かどうかを確かめてください。
まとめ
個人賠償責任保険の重複について、保険法から言えることは次のとおりです。
・他社に契約があっても、それぞれの保険会社が損害額の全額について支払い義務を負う
・按分は、支払額の合計が損害額を超えたときの保険会社どうしの精算の話
・受け取れるのは実際の損害額まで。2倍にはならない
・建物の保険で起きる割合の減額とは、別の規定に基づく別の話
・賠償責任の保険で保険金が出ないのは、わざと起こした場合だけ
・保険金は賠償以外に使えないよう、法律で手当てされている
・限度額の上限や無制限の可否は商品ごとの設計で、公開資料ではわからない
「重複すると無駄になる」という説明は、保険会社どうしの精算の話を契約者の話に置き換えたものと考えられます。
実際には、限度額を超える部分への備えとして機能する余地が残っています。
先に確かめるべきなのは、いまの契約で限度額を上げられるかどうかです。
上げられるなら、それが最も手続きの少ない方法。
上げられない場合に、別の契約を持つ意味が出てきます。
重複を避けること自体を目的にせず、必要な限度額から逆算して決めてください。
本記事の執筆者は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司です。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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