ライフプラン
生命保険の見直しタイミングはいつ?ライフステージ別の判断基準と公的保障の活用法

生命保険文化センター「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、2人以上世帯の生命保険加入率は89.2%、世帯年間払込保険料は平均35.3万円にのぼります。一方で、世帯の普通死亡保険金額は平均1,936万円と低下傾向が続いており、保障内容が現在の家計状況に合っているかを定期的に確認する必要性が高まっています。
生命保険の見直しは、結婚・出産・住宅購入・子の独立・退職といったライフステージの変化に合わせて行うのが基本であり、そのつど公的保障の変化を確認したうえで「増やす・減らす・やめる」を判断することが重要です。
生命保険の見直しが必要な理由
生命保険は加入したまま放置しがちですが、ライフステージが変われば必要な保障額も変化します。ここでは見直しが必要になる根本的な理由を確認します。
ライフステージの変化で必要保障額は変わる
独身のときに必要な保障と、子育て中に必要な保障では金額が異なります。独身で扶養家族がいなければ、死亡保障は葬儀費用程度で足りるケースがほとんどでしょう。
一方、子どもが小さい時期は、万一のときに残された家族の生活費・教育費を確保する必要があるため、死亡保障を手厚くすべきタイミングです。
子どもが独立した後は、扶養すべき家族が減るため死亡保障の必要額は下がります。このように、同じ人でもライフステージによって適切な保障額は変動するため、「入ったまま」の状態は保険料の払いすぎにつながりやすくなるでしょう。
公的保障の変化を把握していないと判断を誤る
金融庁は2021年12月に「保険会社向けの総合的な監督指針」を改正し、公的保険を補完する民間保険の趣旨に鑑み、保険募集人が公的保険制度について顧客に適切な情報提供を行うことを監督上の着眼点として明確化しました。
つまり、民間保険はあくまで公的保障の不足分を補うものであり、公的保障を正確に把握しないまま保険の見直しを行うと、本来不要な保障まで維持してしまう可能性があります。
見直しタイミング①:結婚したとき

結婚は保険を見直す最初のタイミングです。配偶者を扶養する関係になるかどうかで、必要な保障が変わります。
配偶者のための死亡保障を検討する
共働きで双方に十分な収入がある場合、死亡保障の上乗せは最小限で済む場合があります。一方、配偶者が専業主婦(主夫)の場合やパート収入が中心の場合は、万一のときの生活費を確保するための死亡保障が必要になるでしょう。
ただし、子どもがいない段階では遺族基礎年金の受給権が発生しない点に注意が必要です。
配偶者が会社員であれば遺族厚生年金は受給できるため、その金額を差し引いたうえで民間保険の保障額を決めることが合理的な判断になります。
独身時代の保険を見直す
親に勧められて加入した保険や、社会人になったときに付き合いで入った保険をそのまま継続しているケースは少なくありません。結婚を機に保障内容を確認し、現在の家計に合った保険に切り替えることで保険料を適正化できます。
見直しタイミング②:出産・子の誕生

子どもが生まれると必要保障額は一気に上がります。ただし、公的保障も同時に手厚くなるため、その分を差し引いた判断が欠かせません。
死亡保障を手厚くすべき時期
子どもが生まれてから独立するまでの期間は、生命保険の必要保障額がもっとも高くなる時期です。万一の場合に残された家族の生活費・教育費・住居費を賄えるだけの保障を確保する必要があります。
とはいえ、すべてを民間保険で備えるのではなく、公的保障を差し引いた「不足額」だけを保険でカバーするのが合理的な考え方でしょう。
遺族基礎年金の加算で保障額を逆算する
子どもがいる世帯では遺族基礎年金が受給できるようになります。令和8年度の金額は年間847,300円で、子が1人の場合は243,800円が加算され、合計で年間約109万円が支給される仕組みです。子が2人なら約133万円になります。
会社員の場合はこれに遺族厚生年金が上乗せされるため、年間の公的保障額はさらに増えます。住宅ローンを組んでいれば団体信用生命保険(団信)で住居費の心配もなくなるため、実際に民間保険で備えるべき金額は「必要な生活費の総額」から「公的保障+団信+配偶者の収入」を差し引いた残りとなるでしょう。
見直しタイミング③:住宅購入(団信加入時)

住宅ローンを組む際に団信に加入すると、万一のときにローン残債がゼロになります。この変化を保険に反映することが、見直しの重要なポイントです。
団信で死亡保障が実質的に上乗せされる
団信は「住宅ローンの残債」と同額の死亡保障を持つのと同じ効果を発揮します。3,000万円のローンを組んでいれば、万一のときに3,000万円分の住居費負担がなくなるため、その分だけ民間の死亡保障を減らすことが合理的です。
減額すべき保障の判断基準
住宅購入時は、既存の死亡保険金額からローン残債相当額を差し引き、不足がなければ保障額を引き下げるのが基本的な考え方です。
たとえば死亡保険金3,000万円の定期保険に加入しており、住宅ローン3,000万円の団信がカバーされるなら、死亡保障を1,000〜1,500万円程度に減額しても、遺族年金や配偶者の収入と組み合わせれば生活費を賄える場合があります。
保険料の節約分をNISAなどの資産形成に回すことで、家計全体としてはより効率的な備えにつなげることができるでしょう。
見直しタイミング④:子どもの独立

子どもが経済的に自立すると、扶養家族が減り、死亡保障の必要額は下がります。保険を「減らす」判断がもっとも重要になる時期です。
死亡保障を減額できる時期
子育て中に必要だった教育費や生活費の上乗せ分がなくなるため、死亡保障は葬儀費用+配偶者の当面の生活費程度に縮小できるケースが多くなります。定期保険の更新が近い場合は、更新せずに解約して保険料負担を軽減する判断も選択肢に入るでしょう。
遺族厚生年金だけで生活費を賄えるケース
会社員として長く勤めた場合、遺族厚生年金の金額は一定の水準です。子が独立した後も配偶者は遺族厚生年金を生涯受け取れるため、年金収入と預貯金・資産運用の取り崩しで生活費を賄える可能性が十分にあります。
住宅ローンを完済していれば住居費の心配もなく、公的保障だけで生活が成り立つケースも珍しくありません。この段階で高額な死亡保障を維持し続ける必要性は低いでしょう。
見直しタイミング⑤:定年退職・年金受給開始

退職後は収入源が年金中心に変わり、保険の役割も変化します。「保険で備える」から「資産で備える」への切り替えを検討する時期です。
死亡保障の役割が終わるタイミング
子どもが独立し、住宅ローンも完済していれば、死亡保障で守るべき対象がほとんど残っていない状態です。葬儀費用200〜300万円程度を預貯金で確保できているなら、死亡保険を解約しても問題ないケースが多いでしょう。
終身保険に加入している場合、解約返戻金がまとまった金額になっていることがあります。老後の生活資金として活用する選択肢も検討に値するでしょう。
医療保険の要否を再検討する
退職後は傷病手当金がなくなるため、就業不能リスクへの備えは不要になります。一方で、高額療養費制度により医療費の自己負担には月ごとの上限が設けられている点も見逃せないポイントです。
年収約370万〜約770万円の区分(70歳未満)では、2026年8月から月額上限が85,800円+αに改定されました(改定前は80,100円+α)。70歳以上はさらに上限が下がるため、十分な貯蓄があれば医療保険を継続する必要性は低くなります。
医療保険の見直し判断基準

医療保険はすべてのライフステージで見直しの対象になります。高額療養費制度を正しく理解したうえで、本当に必要かどうかを判断することが重要です。
高額療養費制度の自己負担上限を確認する
日本の公的医療保険には高額療養費制度があり、1か月の医療費自己負担額が一定額を超えると、超過分が払い戻される仕組みになっています。
年収約370万〜約770万円の区分(70歳未満)の場合、自己負担の上限は月額85,800円+(総医療費−286,000円)×1%です(2026年8月改定後)。この金額を貯蓄から支払えるなら、入院時の医療費リスクは公的制度でカバーできていることになります。
なお、2026年8月の改定では年間上限(年収約370万〜770万円の区分で53万円)が新設されており、長期療養で月ごとの上限に達しなくても年間の自己負担合計に上限がかかる仕組みが加わりました。多数回該当(直近12か月で3回以上上限に達した場合の4回目以降の軽減額44,400円)は据え置きとなっています。
健康保険組合の付加給付がある場合
大企業の健康保険組合には「付加給付」として、自己負担をさらに引き下げる制度がある場合があります。月額2万〜3万円を上限とする組合も存在し、この場合は入院しても自己負担がかなり抑えられるため、医療保険の必要性はいっそう低くなるでしょう。勤務先の健康保険組合の給付内容を確認することが、見直しの第一歩です。
見直しで「解約」が正解になるケース

保険の見直しというと「別の保険に乗り換える」イメージが強いかもしれませんが、公的保障と照らし合わせると「解約して保険料をゼロにする」ことが最善の選択になるケースもあります。
公的保障で十分なケースの具体例
以下のようなケースでは、民間保険の死亡保障が不要または最小限で済む可能性があります。
・子どもが独立済みで住宅ローンも完済している
・配偶者自身に十分な年金受給権がある
・遺族厚生年金と老齢年金の合計で生活費を賄える
・葬儀費用を預貯金で確保できている
医療保険についても、以下に該当する場合は解約を検討する余地があります。
・高額療養費制度の自己負担上限額を貯蓄から問題なく支払える
・健保組合の付加給付で自己負担がさらに低い
・会社員で傷病手当金(給与の約2/3、最長1年6か月)が受けられる
保険料の機会費用を考える
年間35.3万円の保険料を30年間支払い続けると、総額は約1,059万円になります。仮にこの金額の一部でもNISAで長期運用に回していれば、資産形成の効果が期待できるでしょう。
保険は「万一の備え」として重要ですが、公的保障で十分にカバーされている部分にまで保険料を支払い続けることは、家計にとって機会費用の損失となる点を意識すべきです。
保険の見直し手順と注意点

実際に保険を見直す際には、手順を間違えると無保険状態になるリスクがあります。正しい手順と注意点を確認しておきましょう。
新しい保険に加入してから既存の保険を解約する
保険の切り替えを行う場合、必ず新しい保険の保障が開始されてから既存の保険を解約する手順を守ることが鉄則です。先に解約してしまうと、新しい保険の審査に通らなかった場合に無保険状態になるリスクがあります。
健康状態の変化で加入できないリスク
年齢が上がると健康状態が変化し、新たな保険に加入できなくなる場合があります。とくに持病がある場合や健康診断で指摘事項がある場合は、現在の保険を安易に解約せず、加入可能かどうかを事前に確認することが重要です。
保障額を減らす(減額)だけであれば、新たな審査は不要なケースがほとんどでしょう。「解約」ではなく「減額」で対応できないかを保険会社に確認するのも有効な方法です。
保険料控除の影響も考慮する
生命保険料控除は所得税・住民税の負担を軽減する効果があります。保険を解約すると控除がなくなるため、節税効果も含めた総合的な判断が必要です。
ただし、控除額は年間最大12万円(所得税の一般・介護医療・個人年金を合算)であり、控除のためだけに不要な保険を維持する合理性は低いでしょう。
まとめ
生命保険の見直しは、結婚・出産・住宅購入・子の独立・退職という5つのライフステージの変化に合わせて行うのが基本です。見直しの際に重要なのは、公的保障(遺族年金・高額療養費・傷病手当金など)がどれだけカバーしてくれるかを先に確認し、その不足分だけを民間保険で補うという考え方でしょう。
金融庁の監督指針改正でも示されているとおり、民間保険は公的保障を補完する位置づけです。保険料の払いすぎを防ぎ、浮いた資金をNISAなどの資産形成に回すことで、家計全体のバランスを保つことができます。
定期的に公的保障と家計の状況を照らし合わせ、「今の保険が本当に必要か」を確認する習慣を持つことが、合理的な家計管理の第一歩となるでしょう。
出典:生命保険文化センター「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



