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死亡保障はいくら必要?遺族年金と団信から必要額を計算する手順

死亡保障の必要額は、遺族が今後必要とする支出の合計から、遺族年金・団体信用生命保険(団信)・勤務先の給付・貯蓄といった既存の備えを差し引いて求めます。生命保険文化センターの2024年度調査では、2人以上世帯の世帯普通死亡保険金額は平均1,936万円でした。
ただし平均値は目安にすぎず、世帯ごとの必要額は計算してみないとわかりません。この記事では令和8年4月からの年金額をもとに、計算の手順と間違えやすい点を具体例つきで解説します。
死亡保障の必要額を逆算する基本の考え方

必要額の計算式そのものは単純で、「遺族に必要な支出の合計」から「すでにある備えの合計」を引くだけです。難しいのは、それぞれの中身を漏れなく、かつ重複なく積み上げる部分でしょう。
必要額=将来の支出−すでにある備え
支出側には遺族の生活費、子どもの教育費、葬儀費用などが入ります。備え側には遺族年金、団信、勤務先の死亡退職金、貯蓄などが該当するでしょう。
この差額がプラスであれば、その金額が民間の生命保険などで用意すべき金額になります。
計算でつまずきやすい5つの落とし穴
試算の誤りとして繰り返し見られるのは、次の5点です。いずれも結果を数百万円から数千万円単位で狂わせます。
・支出と収入で計算する期間がずれている(支出は妻65歳まで、年金は妻87歳まで、といった不整合)
・遺族基礎年金と中高齢寡婦加算を同時に受け取れる前提で計算している
・生活費に住居費を含めたまま、団信で消える住宅ローン残高も備えに足している
・遺族基礎年金の終了時点を「子どもの独立」と同じ時期として扱っている
・配偶者が今後納める国民年金保険料を支出に入れていない
この5点を直すだけで、必要額の計算結果は1,000万円単位で変わることがあります。以下の手順では、それぞれをどう処理すべきかも合わせて示します。
手順1:遺族年金がいくら受け取れるかを確認する

最初に確認するのは公的年金です。会社員・公務員か自営業者かで受け取れる年金が変わるため、加入している制度から押さえていきましょう。
遺族基礎年金の額(令和8年4月分から)
遺族基礎年金は、18歳到達年度の末日までの子がいる配偶者、または子が受け取れる年金です。令和8年4月分からの額は年額847,300円(昭和31年4月2日以後生まれ)に子の加算額を足した金額で、子の加算額は1人目・2人目が各243,800円、3人目以降が各81,300円となっています。
配偶者と子ども2人の世帯なら、年額1,334,900円(月額約11.1万円)を受け取れる計算です。
遺族厚生年金の額(会社員・公務員の遺族)
厚生年金に加入していた方の遺族は、遺族基礎年金に加えて遺族厚生年金も受け取れます。額は亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3で、厚生年金の加入期間が300月(25年)未満なら300月とみなして計算する決まりがあるため、加入期間の短い若い世帯でも一定額が確保されるでしょう。
報酬比例部分は、平成15年4月以降の加入期間について「平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数」で計算します。平均標準報酬額とは、標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入期間で割った額のことです。
現在の年収をそのまま使うと過大になる
ここで注意したいのが、平均標準報酬額に現在の年収を当てはめてしまう誤りでしょう。30代の方であれば20代の報酬も平均に含まれるため、現在の年収を12で割った額をそのまま使うと遺族厚生年金が過大に出ます。
過去の報酬には賃金水準や物価水準に応じた再評価率を乗じる決まりがあり、本来の計算額が従前額を下回る場合は従前額が適用される仕組みです。正確な数字はねんきんネットや年金事務所で確認できますので、試算はあくまで概算として扱いましょう。
中高齢寡婦加算が始まるのは遺族基礎年金が終わってから
中高齢寡婦加算は、遺族厚生年金に年額635,500円が上乗せされる仕組みです。ここで見落とされやすいのが支給の始まる時期でしょう。
日本年金機構の説明では、子のある妻の場合、この加算が付くのは子が18歳到達年度の末日に達するなどして遺族基礎年金を受け取れなくなったときからで、そこから65歳になるまでです。遺族基礎年金を受給している間は加算されません。
「40歳から65歳までの25年分」とまとめて計算してしまうと、遺族基礎年金の受給期間と重複して数百万円を過大に見積もる原因になるでしょう。
出典:日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」
出典:日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
手順2:住宅ローンの団信を確認する

住宅ローンを借りている世帯では、団信の有無が必要額を左右します。多くの民間金融機関では団信への加入が借入条件になっているでしょう。
団信が付いていれば住宅ローンの返済は不要になる
住宅金融支援機構の【フラット35】では、新機構団体信用生命保険制度として、加入者が死亡または所定の身体障害状態になった場合に、以後の債務の返済が不要になる仕組みが設けられています。
民間金融機関の住宅ローンでも、同様の団信が付帯するのが一般的です。
出典:住宅金融支援機構【フラット35】「新機構団体信用生命保険制度」
団信を「備え」に足し算してはいけない理由
団信の扱いは、必要額の計算で最も間違いが起きやすいところでしょう。住宅ローン残高が3,000万円あるからといって、備え側に3,000万円を加えるのは誤りです。
正しい処理は、支出側の生活費から住居費(ローン返済分)をあらかじめ除くことになります。団信で消えるのは将来のローン返済という支出であって、現金3,000万円が遺族の手元に入るわけではない点に注意が必要でしょう。
支出側にローン返済を計上しないまま備え側に残高を足すと、同じ効果を二重に数えることになり、必要額が実際より小さく出てしまいます。
団信が使えないケース
フラット35で団信に加入せずに借りている場合や、ペアローンで片方だけ団信を付けている場合は、住宅ローンの返済が遺族に残ります。
賃貸住宅の世帯にも団信はありませんので、生活費に家賃を含めて計算する必要があるでしょう。
手順3:勤務先から受け取れるお金を調べる

会社員の場合、勤務先の制度から受け取れるお金も備えに入ります。見落とされがちな項目を確認しましょう。
死亡退職金・弔慰金
在職中に亡くなった場合、死亡退職金や弔慰金を支給する企業は少なくないでしょう。金額は企業規模や勤続年数で変わるものの、計算方法は就業規則や退職金規程に定められているはずです。
金額の見当がつかないときは、人事や総務に確認しておくと計算の精度が上がるでしょう。
企業の団体定期保険
従業員向けの団体定期保険(グループ保険)を用意している勤務先もあります。保険料が割安で、年1回の更新時に保障額を見直せるのが特徴です。
すでにここで一定の死亡保障を確保しているなら、個人契約の生命保険と重複していないか確かめてみてください。
手順4:遺族が必要とする支出を見積もる

備えの側が固まったら、次は支出です。ここで期間の取り方を誤ると、計算全体が狂います。
生活費は住居費を除いて計算する
手順2で述べたとおり、団信が付いている世帯では住居費を生活費から外します。管理費や修繕積立金、固定資産税は残りますので、その分は別途見込んでおくとよいでしょう。
「遺族基礎年金の終了」と「子どもの独立」は違う時期
生活費が下がるタイミングの設定にも注意が必要です。遺族基礎年金が終わるのは末子が18歳到達年度の末日を迎えたときですが、これは高校卒業の時点にすぎません。
大学進学を前提に教育費を見込んでいるなら、子どもの生活費が家計から抜けるのは末子が22歳になるときです。この2つを同じ時期として扱うと、生活費が下がるタイミングが4年早くなり、必要額を数百万円小さく見積もることになるでしょう。
配偶者の国民年金保険料を忘れない
会社員に扶養されていた配偶者は第3号被保険者ですが、配偶者の死亡により第1号被保険者へ切り替わります。以後は自分で国民年金保険料を納めることになるでしょう。
令和8年度の国民年金保険料は月額17,920円で、これを60歳まで納め続ける前提なら、その総額を支出側に計上する必要があります。
収入が少ない場合は申請により保険料の全額免除を受けられることもあるものの、全額免除の期間は老齢基礎年金への反映が2分の1にとどまる点に注意が必要です。保険料を納めるか免除を受けるかで、将来の老齢基礎年金の額が変わる点は押さえておきましょう。
支出と備えの期間をそろえる
支出を妻65歳までしか計上していないのに、年金は妻87歳まで数えるといった計算は成り立たないでしょう。支出も備えも、同じ終期でそろえるのが計算の前提です。
手順5:計算例で不足額を求める

ここまでの手順を、具体的な世帯にあてはめてみましょう。
計算の時点と前提の置き方
以下の試算は2026年時点の制度と金額で、現時点で死亡した場合を想定したものです。後述する2028年4月の見直し後に亡くなった場合は、取り扱いが変わる可能性があります。
また、54年分を現在の年金額と生活費の水準で固定した計算です。年金額も物価も将来は変動しますが、両者が同じ方向に動く前提を置き、名目値のまま計算する簡便法を採っています。
前提条件
・夫35歳(会社員・年収500万円)、妻33歳(専業主婦・厚生年金の加入歴なし)、子2人(5歳・3歳)
・平均標準報酬額は月38万円(20代の報酬を含む生涯平均として設定)
・住宅ローンあり、団信に加入済み
・生活費は住居費を除き、末子22歳までは月20万円、その後は月13万円
・教育費は1人1,000万円、葬儀費用と予備費で300万円
・妻は60歳まで国民年金保険料を納付
・計算の終期は妻87歳(夫の死亡から54年間)
子は5歳と3歳ですので、第1子が18歳到達年度末を迎えるのは13年後、第2子(末子)は15年後です。末子が22歳になるのは19年後で、妻の年齢でいえば46歳・48歳・52歳の各時点にあたります。
受け取れる公的年金の合計
平均標準報酬額38万円・300月みなしで計算した遺族厚生年金は、年額で約47万円です。
・妻33〜46歳(13年)遺族基礎年金+子の加算2人分+遺族厚生年金=年約180万円 → 約2,340万円
・妻46〜48歳(2年)遺族基礎年金+子の加算1人分+遺族厚生年金=年約156万円 → 約312万円
・妻48〜65歳(17年)中高齢寡婦加算+遺族厚生年金=年約110万円 → 約1,870万円
・妻65〜87歳(22年)老齢基礎年金+遺族厚生年金=年約132万円 → 約2,904万円
・年金の合計:約7,426万円
これに死亡退職金・弔慰金300万円と貯蓄500万円を加えた約8,226万円が備えの合計です。団信は住居費を支出から除く形で反映済みですので、ここには足しません。
必要な支出の合計
・末子22歳までの生活費(19年)月20万円×12か月×19年=4,560万円
・その後の生活費(35年)月13万円×12か月×35年=5,460万円
・教育費(2人分)=2,000万円
・葬儀費用・予備費=300万円
・妻の国民年金保険料(27年)月17,920円×12か月×27年=約581万円
・支出の合計:約12,901万円
不足額と平均加入額の比較
支出約12,901万円から備え約8,226万円を引いた約4,675万円が不足額です。これがこの世帯で民間保険などにより用意すべき金額になります。
先ほどの平均加入額1,936万円と比べると、この前提では平均の2倍を超える保障が要る計算になりました。平均値に合わせて保険金額を決めても、世帯の実態に合うとは限らないということでしょう。
逆に、妻に就労収入が見込める世帯や貯蓄が厚い世帯では、不足額はここより小さくなります。
出典:生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」
自営業・フリーランスは保障の差が出る

ここまでは会社員世帯を前提にしてきました。国民年金だけに加入している自営業者やフリーランスの場合、受け取れる年金の構成が変わるでしょう。
遺族基礎年金だけで中高齢寡婦加算はない
自営業者の遺族が受け取れるのは遺族基礎年金のみで、遺族厚生年金は支給の対象になりません。子ども2人の世帯なら年額1,334,900円を受け取れますが、末子が18歳到達年度末を迎えると支給が終わる形です。
中高齢寡婦加算は遺族厚生年金に上乗せされる加算ですので、自営業者の遺族には支給されません。子どもの独立から配偶者が65歳で老齢基礎年金を受け取るまでの十数年間、公的な遺族給付が途切れる形になるでしょう。
寡婦年金・死亡一時金という別の給付
国民年金の第1号被保険者期間がある方が亡くなった場合、寡婦年金や死亡一時金を受け取れることがあります。いずれも遺族基礎年金とは別の給付で、要件を満たすかどうかは加入期間などで決まります。
額としては遺族厚生年金の代わりになる水準ではないものの、計算に入れられるものは確認しておくとよいでしょう。
空白期間をどう埋めるか
会社員世帯との差は、この「空白期間」に集約されるでしょう。子の独立後から配偶者が65歳になるまでの生活費を、保険か貯蓄か事業資産のいずれかで用意しておく必要があります。
収入保障保険や定期保険で期間を区切って備える方法のほか、小規模企業共済やiDeCoで資産を積み上げる方法も選択肢になるでしょう。
2028年4月の遺族厚生年金の見直しで変わること

2025年6月に成立した年金制度改正法により、遺族厚生年金の見直しが2028年4月に施行される予定です。報道では広く取り上げられましたが、実際に影響を受ける層は限られています。
対象になるのは限られた層
厚生労働省の資料によると、施行直後に原則5年間の有期給付の対象となる女性は、18歳年度末までの子がおらず、2028年度末時点で40歳未満の方です。新たに対象となる30代女性は推計で年間約250人とされています。
男性については、18歳年度末までの子がいない60歳未満の方が新たに対象となり、推計で年間約1万6千人です。
すでに遺族厚生年金を受給している方、60歳以降に受給権が発生する方、2028年度に40歳以上になる女性は、この見直しによる影響を受けません。
子がいる世帯への影響
18歳年度末までの子がいる場合、子が18歳年度末を迎えるまでは現行制度と同じ扱いが続きます。その後さらに5年間は、増額された有期給付と継続給付の対象になる仕組みです。
有期給付には有期給付加算が上乗せされ、現在の遺族厚生年金の額の約1.3倍になります。5年間の有期給付が終わった後も、障害の状態にある方や収入が十分でない方は継続給付を受けられるでしょう。
あわせて遺族基礎年金の子の加算額も増額される予定です。
必要額は年々変わるので定期的に計算し直す

必要額は一度出したら終わりではありません。時間の経過とともに、支出も備えも両方が変化していきます。
計算し直したいタイミング
・子どもの誕生や進路の決定:教育費の前提が変わるため
・住宅の購入:団信により住居費の扱いが変わるため
・配偶者の就職や収入の増加:遺族の収入見込みが変わるため
・子どもの独立:教育費と生活費が同時に下がるため
・住宅ローンの完済:団信の保障が終わる一方、返済もなくなるため
・年金額の改定:毎年度4月に年金額が改定されるため
不足分だけを保険で埋める
公的保障と勤務先の給付、団信、貯蓄を積み上げたうえで、残った不足分だけを民間保険で用意する。この順序で考えると、保険金額も保険の種類も決めやすくなるでしょう。
必要額が年々減っていく世帯であれば、保険金額が逓減する収入保障保険が形として合いやすくなります。保障が必要な期間と金額を先に決めてから商品を選ぶことで、保険料の払いすぎを避けられるはずです。
まとめ
死亡保障の必要額は、遺族の支出の合計から遺族年金・団信・勤務先の給付・貯蓄を差し引いて求めます。計算の精度を左右するのは、支出と備えの期間をそろえること、中高齢寡婦加算を遺族基礎年金と重複させないこと、団信を二重に数えないこと、遺族基礎年金の終了と子の独立を分けること、配偶者の国民年金保険料を計上することの5点でしょう。
令和8年4月からの年金額をもとに計算し直したうえで、ライフステージが変わるたびに見直していくことをおすすめします。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



