資産運用
一棟アパート・マンション投資とは?収益性・建物構造別の特徴・融資・リスクと運営のポイントをわかりやすく解説

一棟アパート・マンション投資とは、建物1棟をまるごと購入し、複数の入居者から家賃収入を得る不動産投資の手法です。区分マンション投資と異なり土地を含めた所有権を取得できるため、建て替えや大規模修繕の判断をオーナー自身で行える自由度の高さが特徴といえます。
一方で、国税庁の耐用年数表によると住宅用建物の法定耐用年数は木造22年、重量鉄骨造(骨格材4mm超)34年、RC造(鉄筋コンクリート造)47年と構造によって大幅に異なり、この耐用年数の違いが融資期間・減価償却・出口戦略のすべてに影響を及ぼします。一棟投資は区分投資と比べて初期投資額が数千万円〜数億円と桁違いに大きく、空室率の上昇や金利変動が家計全体を直撃するリスクがあるため、購入前の収支シミュレーションと融資条件の精査が不可欠です。
この記事では、一棟アパート・マンション投資の収益構造から建物構造別の特徴、融資の実態、運営上のポイント、そして購入前に検討すべき判断基準までを解説します。
一棟投資の基本的な収益構造

一棟アパート・マンション投資の収益は、複数戸からの家賃収入(インカムゲイン)と、将来の売却益(キャピタルゲイン)の2つで構成されます。ここでは区分マンション投資との違いを踏まえながら、一棟投資ならではの収益構造を整理しましょう。
複数戸からの家賃収入で空室リスクを分散できる
区分マンション投資では所有する1戸が空室になると家賃収入はゼロになりますが、一棟投資の場合は複数の部屋を所有しているため、1戸が空室になっても残りの部屋からの家賃収入でローン返済や管理費をカバーできる構造になっています。
たとえば、全8戸のアパートで1戸が空室になった場合、稼働率は87.5%となり、収入の減少幅は12.5%にとどまります。ただし、立地や築年数によっては複数戸が同時に空室になるケースもあり、「一棟だから安心」と単純に考えるのは禁物です。
土地を含めた所有で資産価値の裏付けがある
一棟投資では建物だけでなく土地も取得するため、建物が老朽化した後も土地の資産価値が残ります。区分マンションの場合、土地は他の区分所有者との共有持分にすぎず、建て替えには区分所有者の5分の4以上の賛成が必要で、オーナー単独では判断できません。
一棟投資であれば、建物の老朽化に伴い「建て替えて新たに賃貸経営を続ける」「更地にして土地を売却する」「自宅や駐車場に転用する」といった出口戦略の選択肢が広がるでしょう。
高い表面利回りの裏にあるコスト構造
一棟アパートは区分マンションと比べて表面利回りが高く設定されるケースが多い一方で、建物全体の修繕費・保険料・管理費・固定資産税をオーナーがすべて負担する必要があります。別記事で解説した「表面利回りと実質利回りの乖離」は、一棟投資においてより顕著に表れます。
表面利回りが8%と提示された物件でも、修繕積立・管理委託・空室損・固定資産税などを差し引くと実質利回りが4〜5%程度に下がることも珍しくないのが実態です。利回りの高さだけに注目するのではなく、ランニングコストを漏れなく積算したうえで判断することが重要です。
建物構造別の特徴:木造・鉄骨造・RC造の違い

一棟投資で最初に検討すべきポイントの一つが、建物の構造です。木造・鉄骨造・RC造では、法定耐用年数・建築コスト・融資条件・減価償却のスピードが大きく異なり、投資戦略そのものに影響を与えます。
木造アパート(法定耐用年数22年)
木造は3つの構造の中で建築コストが最も低く、小規模な土地でも建築しやすい構造です。法定耐用年数が22年と短いため、減価償却のスピードが速く、短期間で経費計上額を大きくとれるという税務上のメリットがあります。
一方で、耐用年数の短さは融資期間にも影響を及ぼします。金融機関は融資期間を法定耐用年数の残存年数を基準に設定するケースが多いため、築年数が経過した木造アパートでは融資期間が短くなり、毎月の返済額が大きくなりやすい点に注意が必要です。
また、木造はRC造と比べて遮音性が低く、入居者から騒音に関するクレームが発生しやすい傾向にあります。ファミリー層の長期入居を狙う場合は、防音対策の追加費用も見込んでおく必要があるでしょう。
鉄骨造(法定耐用年数19〜34年)
鉄骨造は骨格材の厚みによって法定耐用年数が3段階に分かれており、国税庁の耐用年数表では骨格材の肉厚3mm以下が19年、3mm超4mm以下が27年、4mm超が34年と定められています。
大手ハウスメーカーの賃貸住宅(いわゆるアパート)には軽量鉄骨造(骨格材3mm超4mm以下、耐用年数27年)が多く採用されており、木造よりも融資期間を長くとりやすいメリットがあります。
ただし、鉄骨造の建築コストは木造より高くなるため、初期投資額の増加分を家賃収入で回収できるかの試算が欠かせないでしょう。特に地方の賃料水準が低いエリアでは、建築コスト増に見合う家賃設定が困難なケースもあるため、立地選びとの兼ね合いが重要になります。
RC造・SRC造(法定耐用年数47年)
RC造(鉄筋コンクリート造)・SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)は法定耐用年数が47年と最も長く、融資期間を30年以上に設定できるケースもあります。構造上の耐久性・遮音性・耐火性に優れ、中高層のマンション建築に適した構造です。
融資期間が長くとれるため月々の返済額を抑えやすく、キャッシュフローの観点では有利に見える一方、建築コストは木造の1.5〜2倍程度になるのが一般的で、初期投資額が1億円を超えるケースも珍しくないのが実情です。
RC造は減価償却期間が長い分、1年あたりに経費として計上できる減価償却費は小さくなる傾向にあるでしょう。木造アパートのように「短期間で多額の節税効果を得る」という運用には向いておらず、長期的に安定したキャッシュフローを重視する投資スタイルに適した構造です。
中古一棟物件の耐用年数と減価償却の計算方法

中古の一棟物件を購入する場合、減価償却費の計算に使う耐用年数は新築時の法定耐用年数ではなく、国税庁No.5404「中古資産の耐用年数」に基づく「簡便法」で算出した年数を用います。この耐用年数の計算方法を正しく理解しておくことが、投資判断の精度を左右します。
簡便法による耐用年数の計算式
国税庁が定める簡便法では、中古資産の耐用年数を以下の2つの計算式で求めます。
・法定耐用年数の一部を経過している場合:(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×20%
・法定耐用年数のすべてを経過している場合:法定耐用年数×20%(最低2年)
たとえば、築10年の木造アパート(法定耐用年数22年)を購入した場合、簡便法による耐用年数は(22年−10年)+10年×20%=14年となります。一方、築25年の木造アパートは法定耐用年数を超えているため、22年×20%=4.4年→4年(端数切り捨て)が耐用年数となります。
「築古木造4年償却」の節税スキームとその落とし穴
法定耐用年数を超えた木造アパート(築22年超)は簡便法で耐用年数が4年となるため、建物価格を4年間で償却でき、年間の減価償却費を大きく計上できます。この仕組みを利用した「築古木造アパートの短期集中償却による節税」は不動産投資の書籍やセミナーでしばしば取り上げられるスキームです。
しかし、減価償却期間が終了する5年目以降は経費として計上できる金額が激減する一方、ローン返済は継続するため、キャッシュフローが急激に悪化する「デッドクロス」のリスクがあります。さらに、売却時には建物の帳簿価格がほぼゼロになっているため、売却価格のほぼ全額が譲渡所得として課税される構造にも留意が必要です。
節税を主目的として築古木造アパートを購入する場合は、償却期間終了後のキャッシュフローの変化と、売却時の譲渡所得税(5年超保有の長期譲渡所得で約20%、5年以内の短期譲渡所得で約39%)まで含めたトータルの収支シミュレーションが不可欠でしょう。
一棟投資の融資:審査のポイントと注意点

一棟アパート・マンションの購入には数千万円〜数億円の資金が必要で、大半の投資家は金融機関からの融資(不動産投資ローン)を利用します。融資条件は投資の収益性を大きく左右するため、審査の仕組みと注意点を理解しておくことが重要です。
融資審査で見られる2つの柱:物件評価と属性
金融機関が一棟投資の融資を審査する際には、「物件の収益力・担保価値」と「借り手の属性(年収・勤務先・金融資産・既存借入額)」の2つを総合的に判断します。
物件評価では、積算価格(土地+建物の再調達価格から減価を差し引いた金額)と収益価格(将来の家賃収入から算出した金額)の両面が検討されます。一棟物件は土地を含むため、区分マンションと比べて積算価格による担保評価が高くなりやすい特徴があります。
一方、属性面では年収1,000万円以上を求める金融機関もあり、給与所得者であれば勤続年数や勤務先の安定性も考慮されます。自己資金の割合が少ないほど審査のハードルは上がるため、物件価格の10〜30%程度の頭金を準備しておくことが現実的な目安でしょう。
融資期間は法定耐用年数の残存年数が上限の目安
多くの金融機関は、不動産投資ローンの融資期間を法定耐用年数の残存年数以内に設定します。たとえば、新築の木造アパート(法定耐用年数22年)であれば最長22年程度、新築のRC造マンション(47年)であれば最長30〜35年程度が融資期間の目安となるケースが一般的です。
築年数が経過した木造アパートでは融資期間が10年以下に短縮されることもあり、月々の返済額が増加してキャッシュフローを圧迫するリスクがあります。「利回りが高いから」と築古物件を購入しても、融資期間が短ければ手残りが想定を大きく下回る可能性があるでしょう。
フルローン・オーバーローンのリスク
自己資金をほとんど投入せずに物件価格の全額を借り入れる「フルローン」や、諸経費分も含めて借り入れる「オーバーローン」は、投資の利回り(自己資金利回り)を高める効果がある反面、構造的なリスクを抱えています。
フルローン・オーバーローンでは返済比率(家賃収入に対するローン返済額の割合)が高くなり、空室率の上昇や金利引き上げが直接キャッシュフローの赤字に直結する危険性があります。日本銀行は2025年12月に政策金利を0.75%に引き上げており、変動金利を選択した場合の返済額増加リスクは現実の問題として考慮すべきでしょう。
返済比率は50%以下を安全圏の目安とし、可能であれば40%以下を目指すことが望ましいとされています。物件価格の20〜30%の自己資金を投入することで返済比率を下げ、金利上昇や空室発生に対する耐久力を確保することが合理的な判断です。
一棟投資の運営で押さえるべき3つのポイント

一棟アパート・マンションの購入はゴールではなく、安定したキャッシュフローを生み出す「運営」のスタートラインです。区分マンションと異なり、建物全体の管理・修繕・入居者対応のすべてがオーナーの責任範囲となるため、運営の巧拙が投資成果を左右します。
管理会社の選定が収益を左右する
一棟物件の管理を自ら行う「自主管理」と、管理会社に委託する「管理委託」の2つの選択肢があります。管理委託の場合、管理手数料は家賃収入の3〜5%程度が相場とされ、入居者募集・家賃回収・クレーム対応・退去時の精算・共用部の清掃・設備点検などを一括で任せることができます。
管理会社を選ぶ際には、管理手数料の安さだけでなく、入居率の実績・対応速度・修繕の提案力・退去時の原状回復コストの管理能力を総合的に比較することが重要です。管理手数料が安くても空室期間が長引けば、結果的に収益は低下します。
修繕費用の長期計画を購入前に策定する
一棟物件では外壁塗装・屋根防水・給排水管の交換・設備更新などの大規模修繕が周期的に必要となります。木造アパートの場合、外壁塗装は10〜15年ごと、給排水管の更新は築20〜30年頃にまとまった費用が発生するのが一般的で、建物の規模や状態によっては数百万円単位の支出になることもあります。
これらの修繕費を家賃収入から毎月積み立てておかないと、大規模修繕のタイミングで一括の支出が発生し、キャッシュフローが急激に悪化する恐れがあるでしょう。購入前の収支シミュレーションには、修繕費の年間見込額を必ず組み込んでおくことが欠かせません。
出口戦略を購入前に想定しておく
一棟投資では「いつ、どのような形で投資を終了するか」という出口戦略を購入前に設計しておくことが、区分マンション投資以上に重要となります。
出口戦略としては、「収益物件として第三者に売却する」「建物を解体して更地で売却する」「建て替えて賃貸経営を継続する」「自己利用に転換する」などが考えられます。特に売却を視野に入れる場合、実質利回りの水準が買い手にとって魅力的かどうかが売却価格に直結するため、物件の築年数・立地・修繕履歴の管理が長期的な資産価値の維持に直結するでしょう。
なお、売却時の譲渡所得税は保有期間によって税率が異なり、5年超の長期譲渡所得であれば約20%(所得税15.315%+住民税5%)、5年以内の短期譲渡所得であれば約39%(所得税30.63%+住民税9%)が課されます。この税率差を踏まえると、最低でも5年超の保有を前提とした投資計画が税務上は合理的といえるでしょう。
一棟投資が向いている人・向いていない人の判断基準

一棟アパート・マンション投資は区分マンション投資と比べて収益の上振れ余地が大きい反面、失敗時のダメージも格段に大きくなります。購入を検討する前に、自身の家計状況や投資目的に照らして適性を冷静に判断することが重要です。
一棟投資が向いているケース
・年収が安定しており、物件価格の20〜30%程度の自己資金を用意できる
・生活防衛資金(生活費の6か月〜1年分)をすでに確保している
・公的保障(高額療養費制度の自己負担上限月額80,100円+α、傷病手当金=給与の約3分の2×最長18か月)を把握したうえで投資に回せる余剰資金がある
・不動産市場や賃貸経営に関する学習意欲があり、物件選定・管理・修繕に主体的に関与できる
・10年以上の長期投資を前提としており、短期的な価格変動に動じない
一棟投資が向いていないケース
・生活防衛資金が十分に確保できていない段階で、一棟投資に踏み切ることは家計全体の安全性を損なうため避けるべきでしょう。一棟物件のローン返済は毎月数十万円〜百万円規模になることもあり、突発的な修繕費や空室の発生と重なれば資金ショートに直結します。
・「不動産投資セミナーで勧められた」「営業担当者にフルローンで購入可能と言われた」など、他者の提案をきっかけに検討を始めた場合は、国土交通省の「サブリース事業適正化ガイドライン」を改めて確認してください。賃貸住宅管理業法では誇大広告や不当な勧誘が禁止されており、「家賃保証」をうたう勧誘には構造的なリスクが伴う点に留意が必要です。
・NISAやiDeCoの非課税枠をまだ活用しきれていない場合は、まずこれらの制度を優先的に活用する方が、流動性・分散効果・税制優遇の面で合理的といえるでしょう。一棟投資は流動性が低く、換金に数か月以上かかることもあるため、資産の大部分を不動産に集中させることは避けたいところでしょう。
まとめ:一棟投資は「家計の土台」を固めたうえで慎重に検討する
一棟アパート・マンション投資は、区分マンション投資にはない「土地の所有」「複数戸による空室リスク分散」「建て替え・用途変更の自由度」といったメリットがある一方で、初期投資額の大きさ・建物全体の修繕責任・融資条件の厳しさなど、格段に高いハードルが存在します。
建物構造の選択一つをとっても、木造22年・鉄骨造19〜34年・RC造47年と法定耐用年数が大きく異なり、融資期間・減価償却・修繕計画・出口戦略のすべてが連動して変化する構造になっています。「利回りが高い」「営業担当者に勧められた」という理由だけで購入を決断するのではなく、ランニングコスト・融資条件・修繕費用・売却時の税金を含めたトータルの収支で判断することが不可欠です。
投資に回す資金を確保するためには、まず生活防衛資金の確保と公的保障の把握が先決です。高額療養費制度の自己負担上限額や傷病手当金の給付額を確認したうえで、過剰な民間保険を見直し、NISAやiDeCoの非課税枠を活用するという順序で家計の土台を整えることが、結果的に不動産投資の成功確率を高めることにもつながるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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