公的年金制度
産前産後休業中の社会保険料免除とは?会社員・自営業者別の制度内容と手続きをわかりやすく解説

産前産後休業中は、健康保険料・厚生年金保険料が被保険者・事業主の双方とも全額免除されます。国民年金第1号被保険者にも出産前後4か月間の保険料免除制度があり、いずれも免除期間は保険料を納付したものとして将来の年金額に反映されるのが特徴です。
出産手当金や出産育児一時金と合わせて活用することで、出産前後の家計への影響を抑えられます。ここでは、会社員と自営業者それぞれの制度内容・手続き方法・注意点を整理していきます。
会社員・公務員の産前産後休業中の保険料免除

健康保険・厚生年金保険の被保険者が産前産後休業を取得した場合、申出により保険料が免除される制度があります。2014年4月に施行された制度で、出産前後の経済的負担を軽減する目的で設けられました。
免除の対象期間
産前産後休業期間とは、出産日(出産予定日より遅れた場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日後56日までの間で、妊娠または出産を理由に労務に従事しなかった期間を指します。出産には、妊娠85日(4か月)以上の分娩が含まれ、早産・死産・流産・人工妊娠中絶も対象となります。
保険料免除が適用される月の範囲は、産前産後休業の開始月から終了日の翌日が属する月の前月までです。ただし、産前産後休業の終了日が月の末日にあたる場合は、その終了月まで免除の対象となります。
免除される保険料の範囲
健康保険料(介護保険料を含む)と厚生年金保険料の両方が免除されます。被保険者の負担分だけでなく事業主の負担分も免除されるため、企業にとっても保険料の負担がなくなる仕組みになっています。免除期間中も被保険者の資格に変更はなく、健康保険証も引き続き使用可能です。
給与が有給であるか無給であるかは問われません。年次有給休暇を取得していた場合でも、産前産後休業期間中であれば免除の対象になります。
将来の年金額への影響
免除期間は保険料を納めた期間として扱われるため、将来の老齢厚生年金の額が減ることはありません。報酬比例部分の計算においても、休業前の標準報酬月額がそのまま反映されます。一般的な所得免除(国民年金の全額免除など)では年金額が減少することがありますが、産前産後休業中の免除ではその心配がない点は重要です。
手続きの方法
事業主が「健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書」を管轄の年金事務所に提出することで免除が適用されます。提出期限は、産前産後休業期間中または産前産後休業終了日から1か月以内です。電子申請(e-Gov)や郵送でも手続きが可能で、届出が遅れると免除の適用開始が遅れる場合があるため、産休取得が決まった段階で早めに準備しておくのが望ましいでしょう。
出産日が予定日と異なった場合や、予定より早く復職した場合は、「産前産後休業取得者変更(終了)届」を速やかに提出する必要があります。
出典:日本年金機構「従業員が産前産後休業を取得したときの手続き」
事業主や役員の取り扱い
事業主等であっても、健康保険・厚生年金保険の被保険者であれば産前産後休業期間中の保険料免除を受けることができます。ただし、育児休業期間中の保険料免除は、育児・介護休業法に基づく休業が対象となるため、労働者性のない役員は原則として適用対象外です。この点は産前産後休業の免除と育児休業の免除で取り扱いが異なるため、注意が必要でしょう。
自営業者・フリーランスの産前産後期間の保険料免除

2019年4月から、国民年金第1号被保険者にも産前産後期間の保険料免除制度が設けられました。会社員の制度との違いを理解しておくことが、適切な家計計画につながります。
免除の対象期間と保険料
出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月間の国民年金保険料が免除されます。多胎妊娠の場合は、出産予定日または出産日が属する月の3か月前から6か月間です。
令和7年度の国民年金保険料は月額17,510円のため、単胎の場合は4か月分で70,040円、多胎の場合は6か月分で105,060円の保険料が免除される計算になります。
免除期間の年金上の扱い
免除された期間は「保険料納付済期間」として扱われ、老齢基礎年金の受給額に満額で反映されます。通常の経済的理由による全額免除(年金額が1/2で計算)とは異なり、保険料を実際に納付したのと同じ扱いになる点が重要です。また、付加保険料の納付や国民年金基金への加入も免除期間中に継続可能となっています。
届出の手続き
届出先は住所地の市区町村窓口で、出産予定日の6か月前から届出が可能です。出産後の届出もでき、届出に期限はありません。必要書類は、国民年金被保険者関係届書(申出書)と、出産予定日または出産日を確認できる書類(母子健康手帳等)です。
出産前に届出をした場合は「出産予定日」が基準となり、出産後に届出をした場合は「実際の出産日」が基準になります。予定日と出産日の属する月がずれた場合でも、原則として後から免除月の変更は行われません。
出典:厚生労働省「国民年金の産前産後期間の保険料免除制度について」
国民健康保険料の免除制度
2024年1月からは、国民健康保険の被保険者についても産前産後期間の保険料免除制度がスタートしました。対象期間は出産予定月(出産月)の前月から4か月間で、国民年金の免除制度と同様の仕組みとなっています。届出先は市区町村の国民健康保険窓口となっており、国民年金の産前産後免除とは別に手続きが必要な場合があるため、両方の届出を忘れないことが大切です。
会社員と自営業者の保険料免除の主な違い

同じ「産前産後の保険料免除」でも、働き方によって制度の内容に差があります。主な違いを整理しておくと、家計への影響を正確に把握できます。
会社員(第2号被保険者)の場合は、免除される保険料が健康保険料と厚生年金保険料の両方で、事業主負担分も含めた全額が対象です。免除期間は実際に産前産後休業を取得した月単位で決まり、育児休業の保険料免除に切れ目なくつなげられる構造になっています。さらに、出産手当金(給与の約3分の2、産前42日・産後56日)が受け取れるため、収入の減少幅を一定程度カバーできるのが特徴です。
一方、自営業者(第1号被保険者)の場合は、国民年金保険料の免除が4か月間に限定されます。出産手当金や傷病手当金といった所得保障の仕組みがないため、産前産後の収入減少を公的制度でカバーしにくいという構造的な課題があります。国民健康保険料の免除が2024年から始まったものの、会社員との保障格差は依然として残っている状況です。
2026年10月施行予定:国民年金第1号被保険者の育児期間免除

2025年6月13日に成立した年金制度改正法により、令和8年(2026年)10月から、国民年金第1号被保険者に対する育児期間中の保険料免除制度が新設されます。制度の概要は以下のとおりです。
・対象:1歳未満の子を養育するすべての父母(所得要件・休業要件なし)
・免除期間:原則として子を養育することになった日から1歳になるまで
・母親の場合:産前産後免除期間に引き続く9か月間が育児期間免除の対象
・免除期間中の年金額:満額の基礎年金額が保障される
これまで、厚生年金には育児休業期間中の保険料免除(最長3歳まで)がありましたが、国民年金第1号被保険者には育児期間の免除がありませんでした。この改正により、自営業者やフリーランスの育児期間中の保険料負担が軽減される見通しです。
出産前後の公的保障を積み上げて考える

保険料免除は単体で見ると「保険料がかからない」という点だけが注目されがちですが、出産手当金・出産育児一時金・育児休業給付金といった他の公的保障と組み合わせることで、出産前後の家計への影響をより正確に把握できます。
会社員の場合の公的保障の全体像
会社員が出産する場合、受け取れる公的保障と免除の主な内容は次のとおりです。
・出産育児一時金:50万円(産科医療補償制度加入の医療機関で出産した場合)
・出産手当金:給与の約3分の2(産前42日+産後56日)
・産前産後休業中の保険料免除:健康保険料+厚生年金保険料の全額
・育児休業給付金:休業開始後180日間は給与の67%、以降50%
・育児休業中の保険料免除:子が3歳になるまで
たとえば月収25万円の会社員の場合、出産手当金として約54万円(日額約5,550円×98日)が支給されます。産前産後休業中の保険料免除額は、健康保険料と厚生年金保険料を合わせて月額約3.7万円程度(本人負担分)になるため、約3か月の免除で10万円以上の実質的な負担軽減につながります。
自営業者の場合の公的保障の全体像
自営業者の場合は、出産育児一時金50万円と国民年金保険料の4か月免除(70,040円相当)、国民健康保険料の免除が主な公的保障となります。出産手当金や育児休業給付金は受けられないため、収入が途絶える期間への備えは自身で用意する必要があるでしょう。
この保障格差を踏まえると、自営業者の場合は就業不能保険や貯蓄による備えの優先度が高くなります。ただし、2026年10月からの育児期間免除が施行されると、保険料負担の面では一定の改善が見込めます。
民間保険を検討する前に確認しておきたいこと

出産に備えて民間の医療保険への加入を検討するケースは少なくありませんが、まず公的保障でどこまでカバーされるかを把握しておくことが判断の第一歩になります。
正常分娩の場合は健康保険の対象外ですが、出産育児一時金50万円と出産手当金(会社員の場合)で出産費用と休業中の収入をある程度まかなえるケースも多いでしょう。帝王切開など異常分娩の場合は健康保険が適用されるため、高額療養費制度と合わせて自己負担は月8〜9万円程度(年収約370万〜約770万円の区分)に抑えられます。
公的保障でカバーできる範囲を先に把握し、不足分にだけ民間保険で備えるという考え方が、保険料の過剰な支出を防ぐポイントです。特に会社員の場合は、産前産後休業中の保険料免除も含めた実質的な手取りを計算すると、想定より負担が軽いケースが少なくありません。
まとめ
産前産後休業中の保険料免除は、会社員・自営業者いずれにとっても出産前後の家計を支える重要な制度です。免除期間中も将来の年金額に影響がない点は、他の保険料免除制度にはない特徴といえます。会社員は出産手当金や育児休業給付金と組み合わせることで手厚い保障を受けられる一方、自営業者は保障の範囲が限定的であるため、2026年10月施行予定の育児期間免除制度の動向も含めて、家計計画を立てておくことが大切でしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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