社会保障
脱退一時金とは?外国人が帰国時に受け取れる年金の払い戻し制度をわかりやすく解説

脱退一時金とは、日本国籍を有しない方が年金の受給資格期間(10年)を満たさずに帰国する場合に、納めた年金保険料の一部を払い戻してもらえる制度です。
国民年金・厚生年金の両方に設けられており、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求できます。
2025年6月に成立した年金制度改正法では、支給上限が現行の5年から8年に引き上げられる見直しも決定済みです。
この記事では、脱退一時金の支給要件・支給額の計算方法・請求手続きに加え、社会保障協定との関係や請求すべきかどうかの判断基準を整理しています。
脱退一時金の支給要件

脱退一時金を受け取るためには、国民年金・厚生年金ともに以下の要件をすべて満たす必要があります。
国民年金の脱退一時金の要件
国民年金の脱退一時金は、次のすべてに該当する場合に請求できます。
・日本国籍を有していないこと
・公的年金制度(国民年金または厚生年金)の被保険者でないこと
・保険料納付済期間等の月数が6か月以上あること(未納期間は含まれない)
・老齢年金の受給資格期間(10年)を満たしていないこと
・障害基礎年金などの受給権を有したことがないこと
・日本国内に住所を有していないこと
・最後に被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していないこと
厚生年金の脱退一時金の要件
厚生年金の場合も基本的な要件は同様ですが、加入期間が6か月以上あることが条件となります。
国民年金が「保険料を実際に納付した期間」で判定されるのに対し、厚生年金は「加入期間」で判定される点が異なります。
厚生年金では保険料が給与から天引きされるため、加入期間と保険料納付期間が基本的に一致する仕組みです。
脱退一時金の支給額の計算方法

国民年金と厚生年金では、支給額の計算方法が異なります。
いずれも保険料の全額が戻るわけではなく、納めた保険料のおおむね半額程度が戻る仕組みです。
国民年金の脱退一時金の支給額
国民年金の脱退一時金は、「最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額×1/2×支給額計算に用いる数」で算出されます。
令和8年度(2026年4月〜2027年3月)の保険料は月額17,920円で、加入期間に応じた支給額は次のとおりです。
・6か月以上12か月未満:53,760円
・12か月以上18か月未満:107,520円
・24か月以上30か月未満:215,040円
・36か月以上42か月未満:322,560円
・48か月以上54か月未満:430,080円
・60か月以上(上限):537,600円
厚生年金の脱退一時金の支給額
厚生年金の脱退一時金は、「被保険者期間の平均標準報酬額×支給率」で計算されます。
支給率は「保険料率(18.3%)×1/2×支給率計算に用いる数」で算出されるため、加入期間が長いほど、また報酬が高いほど支給額も増えます。
たとえば、平均標準報酬額が20万円で5年間(60か月)加入した場合、支給率は18.3%×1/2×60=5.49(四捨五入で5.5)となり、支給額は200,000円×5.5=約110万円です。
ただし、この金額から20.42%の所得税等が源泉徴収されるため、実際の手取り額は約87万円程度になります。
脱退一時金にかかる税金と還付手続き

厚生年金の脱退一時金は税法上「退職手当等」として扱われ、20.42%の所得税等が源泉徴収されます。
一方、国民年金の脱退一時金は課税対象外です。
ただし、厚生年金分については「退職所得の選択課税」を申告することで、源泉徴収された所得税の還付を受けられる場合があります。
これは居住者と同じ方法で退職所得控除を適用して税額を計算し直す制度です。
加入期間が短く控除の枠内に収まる場合は、源泉徴収額の全部または一部が還付されます。
申告できるのは、脱退一時金の支給を受けた年の翌年1月1日以降です。
納税管理人を通じて、最終住所地を管轄する税務署へ申告書を提出します。
納税管理人の届出は出国前に行うのが原則ですが、申告書と併せて提出することもできます。
2025年改正法による脱退一時金の見直し

2025年6月13日に成立した年金制度改正法では、脱退一時金について2つの見直しが行われました。
施行は公布日から4年以内とされています。
支給上限の引き上げ(5年→8年)
現行制度では支給額の計算に用いる月数の上限は60か月(5年)ですが、改正後は96か月(8年)に引き上げられます。
この背景には、育成就労制度(3年)から特定技能1号(5年)への移行により、計8年間日本に滞在する外国人の増加が見込まれることがあります。
上限が引き上げられることで、長期滞在した方がより多くの払い戻しを受けられる見込みです。
再入国許可保持中の請求制限
改正後は、再入国許可を保持したまま出国した場合、許可の有効期間内は脱退一時金を請求できなくなります。
現行制度では、再入国の予定があっても転出届を提出すれば請求が可能でしたが、この改正により一時帰国中の請求ができなくなります。
再入国しないまま許可期限を超過した場合は、従来どおり請求が可能です。
社会保障協定と脱退一時金の関係

脱退一時金を請求するかどうかを判断する際に、社会保障協定の有無は重要な検討材料になります。
社会保障協定の仕組み
社会保障協定とは、保険料の二重負担を防止し、年金加入期間を通算するために日本と相手国の間で結ばれる協定です。
2025年12月のオーストリアとの協定発効により、日本は24か国との間で社会保障協定が発効しています。
主な締結国には、ドイツ・アメリカ・フランス・カナダ・オーストラリア・フィリピン・インドなどが含まれます。
ただし、イギリス・韓国・中国・イタリアとの協定は「保険料の二重負担防止」のみで、年金加入期間の通算はできません。
脱退一時金を請求すると加入期間がリセットされる
脱退一時金を受け取ると、その計算の基礎となった加入期間は「年金制度に加入していなかった期間」として扱われます。
つまり、脱退一時金を受給すると日本での年金加入期間がゼロに戻る点に注意が必要です。
将来、再び日本で働く可能性がある場合や、社会保障協定による期間通算を利用して母国の年金受給に活かせる場合には、請求しない方が有利になるケースも考えられます。
脱退一時金を請求すべきかどうかの判断基準

脱退一時金は「請求できる」制度であり、「請求しなければならない」ものではありません。
請求するかどうかは、将来の生活設計に応じて慎重に判断する必要があります。
請求した方がよいケース
・日本に再入国する予定がなく、母国に完全帰国する場合
・社会保障協定の締結がない国の出身で、期間通算のメリットがない場合
・加入期間が短く(6か月〜数年程度)、将来10年の受給資格期間に届く見込みがない場合
請求しない方がよいケース
・将来、再び日本で働く可能性があり、加入期間を積み上げて老齢年金の受給資格(10年)を満たせる見込みがある場合
・社会保障協定の締結国(期間通算可能な国)の出身で、日本の加入期間を母国の年金受給要件に活用できる場合
・加入期間がすでに8年以上あり、あと2年で受給資格を満たせる場合
特に、受給資格期間の10年にあと数年で届く方が脱退一時金を請求してしまうと、それまでの加入期間がすべて消滅し、将来の老齢年金を受け取れなくなります。
老齢年金は一生涯受給できるため、長期的には脱退一時金を上回る価値になる場合も少なくありません。
「今受け取れるお金」と「将来の年金」を比較検討することが重要です。
脱退一時金の請求手続き

脱退一時金の請求は、日本を出国した後に行います。
帰国前に転出届を市区町村に提出しておくことで手続きがスムーズになります。
請求の流れと必要書類
・帰国前に、住所地の市区町村役場に転出届を提出する
・帰国後、脱退一時金請求書と必要書類を日本年金機構本部に郵送または電子申請で提出する
・必要書類:パスポートの写し、銀行口座情報(送金先)、基礎年金番号がわかる書類の写し、住民票の除票等
・審査を経て、指定口座に脱退一時金が支給される
国民年金と厚生年金の両方に加入していた場合は、それぞれ別々に請求が必要です。
提出先は加入していた制度や共済組合等によって異なる場合がありますが、一般的には日本年金機構が窓口となります。
まとめ
脱退一時金は、日本で働いた外国人が帰国する際に年金保険料の一部を取り戻せる制度です。
国民年金では最大537,600円(令和8年度・5年加入の場合)、厚生年金では報酬額に応じて100万円を超える場合もあります。
2025年改正法により、支給上限が5年から8年に引き上げられる予定ですが、再入国許可保持中の請求が制限される点には注意が必要です。
一方で、脱退一時金を受給すると加入期間がリセットされるため、再来日の可能性がある方や社会保障協定による期間通算が使える方は、請求しないことで将来の老齢年金受給につながる場合があります。
目先の払い戻し額だけでなく、将来の年金受給の可能性も含めて、帰国前に年金事務所や専門家に相談しておくことをおすすめします。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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