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老後の住まいはどうする?持ち家・賃貸・リバースモーゲージ・高齢者向け住宅の選択肢と資金計画

老後の住まいの選択は、生活費・介護費・相続を左右する重要な判断です。持ち家には修繕費や固定資産税といった維持コストがかかる一方、賃貸には高齢者の入居拒否リスクがあり、どちらにも見落としがちな費用や課題が存在します。この記事では、持ち家とマンションの維持費、賃貸を続ける場合の注意点、リバースモーゲージの仕組みとリスク、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の実態を公的データから読み解き、住まいの選択で後悔しないための判断基準を解説します。
老後の住まい選びで最初に考えるべきこと

老後の住まいを検討する際、まず押さえておきたいのは、住居費が長期にわたって固定的にかかり続け、途中で変更しにくい支出だという点です。年金生活に入ってから住み替えるには心理的にも経済的にもハードルが高く、できれば60代前半までに方針を固めておくことが望ましいでしょう。
判断の軸になるのは、住居費の総額だけではありません。健康状態の変化への対応力、介護が必要になった場合の選択肢、そして配偶者が先に亡くなった場合の住まいの確保まで含めて考える必要があります。持ち家か賃貸かという二択ではなく、ライフステージに応じて住み替える「段階的な計画」が、後悔を防ぐポイントです。
持ち家を維持する場合のコストと判断基準

持ち家は「住宅ローンを完済すれば住居費がかからない」と思われがちですが、実際には修繕費・固定資産税・保険料などの維持費が継続的に発生します。ここでは、老後に持ち家を維持する際のコストを具体的に見ていきましょう。
修繕費・リフォーム費の目安
築30年以上の戸建て住宅では、屋根・外壁の塗り替え、給排水管の交換、水回りの設備更新などが必要になります。国土交通省の令和6年度住宅市場動向調査(リフォーム住宅は三大都市圏が調査対象)によると、1回あたりのリフォーム資金は平均154万円、中央値は48万円でした。
平均値と中央値がこれだけ離れているのは、小規模な工事が件数として多い一方、数百万円規模の工事を行う世帯が平均を押し上げているためです。老後の資金計画では平均値をあてにせず、「屋根と外壁をまとめて直す年」が数回訪れる前提で備えておくほうが安全でしょう。
マンションの場合は修繕積立金が毎月発生します。国土交通省のガイドラインには、築後30年間に必要な修繕工事費を戸当たり522万円と想定した積立イメージが示され、均等積立方式であれば月額14,500円という計算になります。
注意したいのは、当初の積立額を抑えて段階的に値上げする「段階増額積立方式」を採用しているケースです。値上げの局面で区分所有者の合意形成ができず、修繕積立金が不足する事例も生じています。老後も住み続ける前提であれば、長期修繕計画と積立方式を早めに確認しておきましょう。
出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)
加えて、加齢に伴いバリアフリー化のリフォームが必要になるケースも少なくありません。介護保険には住宅改修費の給付があり、手すりの取付けや段差の解消などの工事が対象です。
ここで押さえておきたいのが、支給限度基準額は生涯20万円という点になります。毎年20万円が使えるわけではなく、要支援・要介護の区分にかかわらず定額で、限度額の範囲内なら複数回に分けて申請できるという仕組みになっています。
給付されるのは原則9割(上限18万円)で、所得に応じて8割(上限16万円)・7割(上限14万円)という区分です。要介護状態区分が三段階上昇したときや転居した場合には、再度20万円までの支給限度基準額が設定されます。
なお、原則として工事前に市町村へ申請する必要があり、着工後に申請しても給付を受けられない場合があります。まずケアマネジャー等に相談するのが手順です。
固定資産税・都市計画税の負担
持ち家を所有し続ける限り、固定資産税と都市計画税は毎年発生します。土地の評価額は3年ごとに見直され、地価が下落している地域では税額が減る場合もあるでしょう。
住宅用地には特例があり、200㎡以下の小規模住宅用地は課税標準額が固定資産税で評価額の6分の1、都市計画税で3分の1に軽減されます。200㎡を超える部分(一般住宅用地)の特例率は、それぞれ3分の1と3分の2です。
注意したいのは、建物を取り壊して更地にするとこの特例が外れ、土地の税負担が一気に重くなる点になります。建物が残っていても、空家法に基づく特定空家等または管理不全空家等として勧告を受ければ、同じく特例の対象から除外されます。
空き家になった実家をそのまま放置する判断には、管理の手間だけでなく税負担の面でもリスクがあるわけです。
持ち家を維持すべきケース・手放すべきケース
持ち家の維持が合理的なのは、住宅ローンを完済済みで修繕費の積立てがある場合、同居家族がいて住み続ける見通しがある場合、そして地域の不動産市場で一定の資産価値が見込める場合です。一方、ひとり暮らしで管理が難しくなっている場合や、修繕費が蓄えを圧迫している場合は、元気なうちに売却して住み替える判断も検討に値します。不動産は売りたいときに売れるとは限らず、特に地方では買い手が見つかりにくい状況も増えています。
賃貸を続ける場合の注意点とリスク

賃貸住宅には、修繕費や固定資産税がかからず、住み替えの自由度が高いというメリットがあります。しかし、高齢になるほど家賃負担が重くなり、入居時のハードルも上がるという現実は知っておく必要があります。
高齢者の入居拒否問題と改正住宅セーフティネット法
高齢者が賃貸住宅を探す際、孤独死や家賃滞納への懸念を理由に入居を断られるケースは依然として少なくないのが現状です。国土交通省が賃貸住宅管理業者を対象に行った令和3年度調査では、高齢者の入居に拒否感を持つ賃貸人(大家等)は約7割にのぼりました。
入居制限を行う理由として最も多く挙げられたのは「居室内での死亡事故等に対する不安」で90.9%を占め、「家賃の支払いに対する不安」は1.3%にとどまります。つまり、断られる主因は経済力ではなく、亡くなった後の対応への不安です。収入や貯蓄が十分でも入居を断られる可能性がある点は、老後の住まいを考えるうえで前提として押さえておきたいところでしょう。
出典:国土交通省住宅局「令和6年 住宅セーフティネット制度の改正」
こうした状況を改善するため、2025年10月1日に改正住宅セーフティネット法が施行されています。改正のポイントは主に3つで、入居後の安否確認や生活相談を提供する「居住サポート住宅」の創設、高齢者でも家賃債務保証を受けやすくする「認定家賃債務保証業者制度」の導入、そして居住支援法人による残置物処理等の業務が正式に位置づけられた点が挙げられるでしょう。
老後30年間の家賃総額シミュレーション
65歳から95歳までの30年間、月額家賃8万円の賃貸住宅に住み続けた場合、家賃の総額は2,880万円になります。更新料を2年ごとに家賃1か月分と仮定して加えると、約3,000万円に達する計算です。家賃6万円なら総額は約2,160万円、更新料込みで2,250万円前後という水準でしょう。
ここで注意したいのは、更新料の有無や金額が地域や物件によって異なる点です。更新料の慣行がない地域もあるため、実際の試算は自分の住むエリアの条件に置き換えて行ってみてください。
「老後の平均生活費」は持ち家前提の数字
老後の生活費を考えるとき、よく引き合いに出されるのが総務省の家計調査です。2025年平均では、高齢単身無職世帯の実収入は131,456円、そこから税・社会保険料を差し引いた可処分所得は118,465円。ここに消費支出148,445円がかかるため、毎月29,980円の赤字となります。
65歳以上の夫婦のみの無職世帯も同様で、可処分所得221,544円に対して消費支出263,979円、毎月42,434円の不足です。年金を主な収入源とする世帯は、平均で見ればすでに貯蓄を取り崩しながら暮らしている計算になります。
ここで注目したいのが住居費の額です。高齢単身無職世帯の住居費は月11,416円、夫婦高齢者無職世帯でも17,739円にすぎません。同じ調査で、二人以上の65歳以上無職世帯の持家率は95.5%に達しています。
家計調査の「住居」は家賃地代と設備修繕・維持からなる費目です。持ち家でローンを完済した層が多数を占めるため、平均は家賃ではなく修繕・維持を中心とした低い水準に収まっています。
つまり、よく見かける「老後の生活費は毎月いくら」という試算は、家賃をほとんど払っていない世帯を前提にした数字といえるでしょう。
単身で家賃8万円の賃貸に暮らすなら、平均の住居費11,416円との差額はおよそ6.9万円。これが毎月そのまま上乗せされます。
平均ですでに月3万円ほどの赤字が出ている家計に、さらに6.9万円が重なる計算です。老後を賃貸で考えるなら、世間で言われる生活費の目安をそのまま当てはめず、自分の家賃を前提に組み直す必要があります。
出典:総務省「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」
公的住宅という選択肢
家賃負担が重くなりそうなら、公的住宅の活用も視野に入ります。UR賃貸住宅は礼金・仲介手数料・更新料・保証人が不要で、年齢を理由に入居を断られることもありません。申込資格や家賃は物件ごとに異なるため、公式サイトで条件を確認するとよいでしょう。
出典:UR都市機構「賃貸住宅」
公営住宅は家賃が所得に応じて決まるため、負担を抑えやすい選択肢といえます。保証人については、国土交通省が平成30年3月に公営住宅管理標準条例(案)から保証人に関する規定を削除し、各自治体に見直しを求めてきました。
ただし条例を改めるかどうかは自治体の判断であり、対応は分かれているのが実情です。同省は自治体ごとの取扱状況を毎年調査して公表しているため、検討先の対応を事前に確認しておきましょう。
出典:国土交通省「公営住宅への入居に際しての保証人の取扱い等に関する調査結果について」
リバースモーゲージの仕組みと3つのリスク

リバースモーゲージは、自宅を担保に金融機関から資金を借り入れ、契約者が亡くなった時点で相続人による一括返済または担保物件の売却によって精算する仕組みです。自宅に住み続けたまま資金を用意できる点が特徴といえます。
ただし、メリットの裏に見落とせないリスクがあるため、仕組みを正確に理解した上で判断する必要があります。
リバースモーゲージの基本的な仕組み
リバースモーゲージでは、毎月の返済は利息のみで、元金は契約者の死亡時に相続人が一括返済するか、担保物件を売却して返済する仕組みです。住宅金融支援機構が提供する「リ・バース60」の場合、利用できるのは借入申込日現在で満60歳以上の方で(満50歳以上60歳未満も利用可能、限度額は異なります)、融資限度額は担保評価額の50%または60%と定められています。
資金の使いみちは住宅の建設・購入、リフォーム、住宅ローンの借換え、サービス付き高齢者向け住宅の入居一時金などに限られ、生活資金には利用できません。「老後の生活費が足りないから自宅を担保に借りる」という使い方は想定されていない点は、誤解が生じやすいところです。
また、相続人に残債の返済義務が及ばない「ノンリコース型」と、及ぶ「リコース型」があり、全期間固定金利タイプはノンリコース型のみの取扱いとなります。民間金融機関のリバースモーゲージは資金使途が比較的自由な反面、条件は各社で異なるため、契約前の確認が欠かせません。
見落としがちな3つのリスク
①長生きリスク:長寿は喜ばしいことですが、リバースモーゲージでは存命中ずっと利息を払い続ける必要があります。住宅金融支援機構自身も、返済期間が同じで金利も同じ場合、一般的な住宅ローン(元利均等返済)よりリ・バース60のほうが総返済額(元金+利息)は多くなると明示しています。
元金が減らないまま利息だけを払い続ける構造である以上、長生きするほど支払総額は膨らんでいく点に注意が必要です。
②金利上昇リスク:リバースモーゲージには変動金利タイプがあり、金利が上がれば毎月の利息負担も増えます。日本銀行は2026年6月16日の金融政策決定会合で、政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標を1.0%程度に引き上げました。
政策金利は会合のたびに見直されるため、契約時点の水準は日銀の発表で確認が必要です。マイナス金利政策が続いていた時期とは前提が変わっており、変動金利を選ぶなら金利が上昇した場合の支払額も試算しておきたいところでしょう。全期間固定金利タイプを選べば、この不確実性は避けられます。
出典:日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年6月16日)
③不動産価値の下落リスク:担保評価額に応じて融資限度額が決まる以上、不動産の価値が下がれば借りられる額も縮みます。人口減少が進む地域では、担保として見込んでいた価値が想定を下回る可能性も否定できません。
リ・バース60でも、担保評価額によっては自己資金が必要になる場合があるとされ、担保物件には第1順位の抵当権が設定される仕組みです。「自宅があるから何とかなる」という前提は、必ずしも成り立つとは限りません。
リバースモーゲージが向かないケース
担保となるのは住宅と土地です。住宅金融支援機構も、金利や利用条件の取扱いは金融機関によって異なる場合があると案内しており、対象とする物件の種類や条件は一律ではありません。
相続人に自宅をそのまま残したい場合や、契約者が亡くなった後も配偶者が住み続ける必要がある場合は、契約の形によって扱いが変わります。リバースモーゲージはあくまで「不動産を現金化する手段の一つ」であり、万能な老後資金の調達方法ではないという認識が重要です。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の実態と選び方

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、バリアフリー構造で安否確認・生活相談サービスが提供される高齢者向けの賃貸住宅です。サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム(一般社団法人高齢者住宅協会が運営)の集計では、令和8年6月末時点の登録は全国で8,312棟・290,803戸となっています。
選択肢としては広がっているものの、名称から受ける印象と実際の中身にはずれがあり、そこを確認しないまま契約すると後悔しかねません。
出典:サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム「登録状況」
サ高住の実態は「イメージ」と異なる
サ高住と聞くと、ゆとりのある高齢者向け住宅を思い浮かべる方が多いかもしれません。ところが、同システムを運営する一般社団法人高齢者住宅協会がまとめた集計(令和7年8月末時点)を見ると、実像はかなり違います。
専用部分の床面積は25㎡未満が78.7%を占め、平均は21.9㎡。設備面では便所・洗面・収納がほぼ全戸に備わる一方、浴室があるのは20.2%、台所があるのは35.5%にとどまります。この5点すべてが揃っているのは19.3%にすぎません。
つまり大半のサ高住は、共用の浴室や食堂を使う前提のワンルームに近い造りです。事業を行う法人も介護系事業者が72.7%を占め、不動産業者は7.6%でした。「住宅」という名称ですが、運営の実態は介護事業者主導と考えたほうが実像に近いでしょう。
出典:サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム「サービス付き高齢者向け住宅の現状と分析」(令和7年8月末時点)
費用は住宅ごとに開示されている
サ高住の費用は、家賃・共益費・サービス費・食費などの合計で決まり、立地や設備、食事の有無によって差が出ます。相場を一律の金額で語ることは難しく、比較サイトの平均値をあてにするより、実際に検討している地域の住宅を個別に確認するほうが確実です。
サ高住は都道府県・政令市・中核市への登録制度であり、料金やサービス内容などの情報が事業者から開示されます。前述の情報提供システムでは地域ごとに登録住宅を検索でき、住宅単位で条件を比べられます。
入居契約の種類は賃貸借契約が91.6%を占め、残りは利用権契約や終身建物賃貸借契約です。契約の型によって権利の性質や中途解約時の扱いが変わるため、重要事項説明の段階で確認しておきましょう。
介護が重くなったとき住み続けられるか
サ高住を選ぶ際に最も重要なのが、介護度が上がった場合に住み続けられるかどうかです。施設内で介護を受けられるのは、介護保険の特定施設入居者生活介護の指定を受けた住宅に限られます。
ここで見落とされがちなのが、その指定を受けた住宅の割合です。特定施設入居者生活介護等の指定を受けているサ高住は10.0%にとどまり、残る90.0%は指定を受けていません。
指定のない住宅では、介護が必要になったら外部の事業者と別途契約してサービスを受ける形になり、その自己負担分(1〜3割)が家賃とは別に発生します。要介護度が重くなれば、住宅側で対応しきれず退去を求められることもあるでしょう。実際、提供サービスとして入浴等の介護を挙げている住宅は49.9%と半数程度でした。
見学の際は、月額費用の総額だけでなく、特定施設の指定の有無、夜間の職員配置、医療機関との連携体制、そしてどの状態になったら退去となるのかを、契約書の条文で確認しておきましょう。
なお、状況把握・生活相談サービスについては、日中・夜間とも職員が常駐している住宅が75.9%、日中のみ常駐が24.1%という内訳でした。夜間の体制は住宅によって差があります。
特別養護老人ホーム(特養)という選択肢

介護度が重くなった場合の住まいとして、公的施設である特別養護老人ホーム(特養)も選択肢に入ります。特養は原則として要介護3以上の方が対象で、有料老人ホームのような入居一時金は不要です。
食費と居住費については、低所得の方を対象に「特定入所者介護サービス費(補足給付)」による負担軽減があります。ここで見落とされがちなのが、その適用条件です。
補足給付には預貯金の要件がある
補足給付を受けられるのは世帯全員が市町村民税非課税である場合に限られ、さらに預貯金額の要件も課されます。世帯に課税されている方が一人でもいれば対象外です。
預貯金の上限は所得段階によって異なり、単身の場合で1,000万円・650万円・550万円・500万円と段階的に設定されています(夫婦の場合はそれぞれ1,000万円加算)。「特養なら安く入れる」と考えていた方が、一定の蓄えがあるために軽減の対象外となるケースは少なくないでしょう。
負担限度額は令和8年8月1日から引き上げとなりました。第3段階①・②に該当する方は食費が日額30〜60円、一部を除き居住費が日額100円上がり、食費の基準費用額も日額100円の引き上げとなっています。
たとえば特養の多床室を利用する第2段階の方であれば、食費の負担限度額は日額390円(月額約1.2万円)、居住費は日額430円(月額約1.3万円)という水準です。これに介護サービス費の自己負担が加わります。
出典:厚生労働省「令和8年8月からの特定入所者介護(予防)サービス費の見直し等に係る周知への協力依頼について」(介護保険最新情報Vol.1506)
ただし、特養は入居待ちが長期にわたることが多く、地域によっては数年待ちになるケースも珍しくないのが実情です。「いざというときにすぐ入れる場所」として計画に組み込むのではなく、早めに申し込みをしておくのが現実的な対応でしょう。
住まいの選択と公的制度の組み合わせ

老後の住まい選びでは、住居費だけを見て判断するのではなく、公的制度を組み合わせることで実質的な負担を軽減できる可能性があります。ここでは、住まいに関連する主な公的制度を確認します。
介護保険の住宅改修費制度
前述の通り、要支援・要介護認定を受けた方が自宅をバリアフリー化する場合、介護保険から住宅改修費が支給されます。対象となる工事は手すりの取付け、段差の解消、滑りの防止のための床材の変更、引き戸等への扉の取替え、洋式便器等への便器の取替え、およびこれらに付帯して必要となる工事です。
支給限度基準額が生涯20万円である以上、どの工事を優先するかの見極めが問われます。「今すぐ必要な工事」と「将来必要になる工事」を分けて考え、限られた枠を使い切ってしまわない設計が現実的でしょう。
住宅セーフティネット制度の活用
改正住宅セーフティネット法により、高齢者が入居しやすい住宅の供給が進められています。入居を拒まない「セーフティネット登録住宅」は国土交通省のセーフティネット住宅情報提供システムで、見守り機能のある「居住サポート住宅」は居住サポート住宅情報提供システムで、それぞれ地域ごとに検索できます。
要配慮者専用の住宅には、改修費や家賃の低廉化に対する補助制度も用意されている状況です。ただし補助を実施しているかどうかは自治体によって異なるため、居住地の窓口で確認しましょう。
住まい探しそのものに困っている場合は、居住支援法人に相談する方法もあるでしょう。物件の紹介から入居後の見守りまで対応しており、入居者から委託を受けた残置物処理も令和7年10月に業務として追加されました。
高額介護サービス費との関係
サ高住や自宅での介護サービス利用が増えた場合、高額介護サービス費制度により月々の自己負担に上限が設けられます。所得区分に応じて上限額が決まる仕組みで、上限を超えた分は申請により払い戻されるため、介護費用が青天井に膨らむことはありません。
ただし、この所得区分の判定基準は固定ではない点に注意が必要です。令和8年8月1日施行の政令改正により、前年の公的年金等収入金額と合計所得金額の合計額について、基準の一部が80.9万円から82.65万円に引き上げられました。
背景にあるのは年金額の改定です。令和7年の老齢基礎年金(満額)が80.9万円を超えたため、基準を据え置くと年金だけで暮らす方が自動的に上位の所得区分へ移り、負担が重くなってしまいます。それを避けるための改正でした。
出典:厚生労働省「健康保険法施行令等の一部を改正する政令の公布について」(介護保険最新情報Vol.1516)
このように基準額は年金額に連動して動くため、数年前の情報のまま自分の区分を判断すると実際とずれる可能性があります。介護保険の負担割合や所得区分は毎年8月に切り替わるので、利用する時点で市区町村の窓口に確認するのが確実でしょう。
老後の住まい選びで後悔しないための判断フロー

最後に、老後の住まい選びで確認したい順序を示します。
ステップ1:現在の住居費と老後の収支を把握する
年金収入から住居費(家賃または維持費)を差し引き、残りで生活費を賄えるかを試算します。家計調査の平均値は持ち家世帯が大半を占める数字なので、賃貸の場合は自分の家賃を入れた計算が必要です。
ステップ2:健康状態の変化に対応できるか確認する
現在の住まいがバリアフリーに対応しているか、介護が必要になった場合にサービスを受けやすい立地かどうかを確認します。持ち家の場合は介護保険の住宅改修費制度の活用を検討し、賃貸の場合はサ高住や居住サポート住宅への住み替えも選択肢の一つです。
ステップ3:配偶者の死亡後・ひとり暮らしになった場合を想定する
配偶者が先に亡くなった場合の年金額がどう変わるか(遺族年金の有無を含む)を確認し、ひとり暮らしでも住居費を賄えるかを見ておきましょう。持ち家の場合はリバースモーゲージや売却による住み替えも選択肢に入り、賃貸の場合はUR賃貸住宅や公営住宅への申し込みを検討する時期でしょう。
ステップ4:不動産の売却・活用は「元気なうち」に判断する
持ち家の売却やリバースモーゲージの契約は、判断力が十分にある元気なうちに行うことが鉄則といえます。認知機能が低下してからでは契約行為自体が難しくなり、選べる手立てが一気に減るためです。家族とも早い段階で方針を共有しておくことをお勧めします。
まとめ
老後の住まい選びは、「持ち家か賃貸か」の二択ではなく、ライフステージや健康状態の変化に応じた段階的な計画が求められます。持ち家には修繕費や固定資産税の維持コストがあり、賃貸には入居拒否リスクや家賃負担の重さがあるでしょう。リバースモーゲージやサ高住も万能ではなく、それぞれにリスクとコストが存在します。
重要なのは、公的制度(介護保険の住宅改修費、住宅セーフティネット制度、高額介護サービス費)を正確に把握した上で、住居費・介護費・生活費のトータルで判断することです。不動産会社や金融機関の情報だけでなく、公的データに基づいた比較検討を行い、元気なうちに方針を固めておくことが、老後の住まいで後悔しないための最善の備えになるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



