社会保障
社会保険の適用拡大とは?2024年改正と2035年までのスケジュールをわかりやすく解説<

社会保険(健康保険・厚生年金)の加入対象は段階的に拡大されており、2024年10月からは従業員数51人以上の企業で働く短時間労働者も加入対象となりました。
さらに2025年6月に成立した年金制度改正法により、企業規模要件は2035年10月までに完全撤廃される予定です。
この記事では、適用拡大の変遷と今後のスケジュール、社会保険に加入することで得られる公的保障の全体像について解説します。
社会保険の適用拡大とは

社会保険の適用拡大とは、パートやアルバイトなどの短時間労働者にも健康保険・厚生年金保険の加入対象を広げる制度改革のことです。
従来、社会保険の加入が義務付けられていたのは、正社員やフルタイムに近い働き方をする人に限られていました。
しかし、少子高齢化による労働力不足や、多様な働き方への対応を背景に、2016年から段階的に対象が拡大されています。
適用拡大の歴史と2024年10月改正の内容

適用拡大は3段階にわたって企業規模要件が引き下げられてきました。2024年10月の改正では、対象がさらに広がっています。
段階的に拡大してきた企業規模要件
短時間労働者への社会保険適用は、2016年10月に従業員501人以上の企業で始まりました。
その後、2022年10月に101人以上、そして2024年10月に51人以上の企業へと段階的に引き下げられています。
2024年10月改正で変わったこと
2024年10月からは、厚生年金保険の被保険者数が常時51人以上の企業(特定適用事業所)に勤務する短時間労働者が新たに社会保険の加入対象となりました。
ここでいう「51人以上」は全従業員数ではなく、フルタイムの従業員と週所定労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員の合計で判定されます。
直近12か月のうち6か月で基準を上回ると対象になる点にも注意が必要でしょう。
短時間労働者の加入要件
特定適用事業所に勤務する短時間労働者のうち、次の要件をすべて満たす場合に社会保険の加入対象となります。
・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金が8.8万円以上(残業代・通勤手当・賞与は含まない)
・雇用期間が2か月を超える見込み
・学生でないこと(夜間・通信制の学生は加入対象)
2025年年金制度改正法で何が変わるのか

2025年6月13日に成立した年金制度改正法では、適用拡大がさらに大きく進む内容が盛り込まれています。
企業規模要件の撤廃と賃金要件の撤廃という2つの変更は、家計への影響も無視できないため、今のうちに把握しておくことが重要です。
企業規模要件の段階的撤廃スケジュール
企業規模要件は2027年10月から段階的に引き下げられ、2035年10月に完全撤廃されます。具体的なスケジュールは次のとおりです。
・2024年10月〜:従業員51人以上(現行)
・2027年10月〜:従業員36人以上
・2029年10月〜:従業員21人以上
・2032年10月〜:従業員11人以上
・2035年10月〜:企業規模要件撤廃(全企業対象)
2035年以降は、企業の従業員数にかかわらず、一定の要件を満たす短時間労働者はすべて社会保険に加入することになります。
賃金要件(106万円の壁)の撤廃
現在の加入要件の一つである「月額賃金8.8万円以上」(いわゆる年収106万円の壁)は、法律の公布日から3年以内に撤廃される予定です。
全国の最低賃金が時給1,016円以上となる時期を見極めて判断されることになっています。
最低賃金が1,016円以上の地域では、週20時間働くだけで年収が約106万円に達するため、実質的に賃金要件が意味を持たなくなるという背景があります。
個人事業所の適用業種拡大
個人事業所の社会保険適用は、現在は法定17業種(製造業・小売業など)に限られていますが、2029年10月からは全業種に拡大される予定です。
常時5人以上を雇用する飲食業やサービス業なども対象に加わることになります。
ただし、2029年10月の施行時点で既に存在している事業所は当分の間、適用除外とされる経過措置が設けられています。
社会保険に加入するメリット

適用拡大の対象となり社会保険に加入すると、国民健康保険や国民年金にはない保障を受けられるようになります。
目先の保険料負担だけでなく、長期的な保障の充実という視点が欠かせません。
将来の年金額の増加
厚生年金に加入すると、国民年金(基礎年金)に上乗せして報酬比例の年金を終身で受け取れるようになります。
たとえば月額8.8万円の賃金で20年間加入した場合、年間の老齢厚生年金が約11.6万円増える計算です。
加入期間が長いほど上乗せ額は増加します。
傷病手当金・出産手当金が受けられる
健康保険に加入することで、病気やケガで働けない場合に給与の約3分の2が最長1年6か月支給される傷病手当金の対象となります。
また、出産時には出産手当金として産前42日・産後56日間、同じく給与の約3分の2が支給されます。
国民健康保険にはこれらの制度がないため、適用拡大で新たに加入する方にとって見逃せないメリットです。
保険料は労使折半
厚生年金・健康保険の保険料は事業主と従業員が折半で負担する仕組みです。
国民年金と国民健康保険を全額自己負担する場合と比べて、自己負担が軽くなるケースも少なくありません。
さらに、障害厚生年金や遺族厚生年金の対象にもなるため、万一の保障も手厚い内容です。
社会保険加入による手取りへの影響

社会保険に加入すると、給与から保険料が天引きされるため、手取り額は減少します。
たとえば月額8.8万円の賃金で働く場合、厚生年金保険料と健康保険料(介護保険料含む)の本人負担は合計で月額約1.3万円程度です。
この手取り減少を避けるために労働時間を減らす「就業調整」を行う方もいますが、長期的にはデメリットが大きくなる可能性があります。
なお、年金制度改正法では、新たに社会保険に加入する短時間労働者に対して3年間の保険料軽減措置も設けられました。
事業主が追加負担した保険料は国が全額支援する仕組みで、加入初期の負担感を和らげる制度設計です。
就業調整は長期的に不利になることがある

「手取りが減るなら働く時間を減らそう」と考える方は少なくありませんが、就業調整にはいくつかの落とし穴があります。
まず、厚生年金に加入しない期間が長くなるほど、将来受け取れる年金額は増えません。
老後の収入源が基礎年金のみになると、生活資金が不足するリスクは無視できないでしょう。
また、傷病手当金や出産手当金の対象外となるため、病気やケガで働けなくなった場合に収入が途絶えるリスクもそのまま残ります。
企業規模要件が段階的に撤廃されていく以上、いずれ社会保険に加入する流れは避けられないでしょう。
早めに加入して厚生年金の上乗せ額を積み上げつつ、傷病手当金などの保障を確保するほうが、民間の医療保険や個人年金に加入するよりも費用対効果が高いケースは多いといえます。
まとめ
社会保険の適用拡大は、2016年から段階的に進められてきた制度改革で、2024年10月には従業員51人以上の企業まで対象が広がりました。
2025年6月に成立した年金制度改正法により、企業規模要件は2035年10月までに完全撤廃され、賃金要件(106万円の壁)も公布から3年以内に撤廃される予定です。
手取りが一時的に減少する面はありますが、将来の年金増額、傷病手当金・出産手当金・障害厚生年金・遺族厚生年金といった公的保障の充実を考えると、社会保険への加入はメリットが上回るケースが多いと考えられます。
企業規模要件の撤廃スケジュールを確認し、家計への影響を事前にシミュレーションしておくことが重要です。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



