相続
親の相続対策は何から始める?遺言書・生前贈与・家族信託の優先順位

親の相続対策は、まず遺言書で「誰に何を渡すか」を決め、次に認知症に備え、そのうえで生前贈与や生命保険による税負担の軽減を検討するという順番が土台になります。
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」であり、配偶者と子2人の場合は4,800万円がひとつの目安です。
ただし、親が亡くなった後の相続(一次相続)だけを見て動くと、残された親が亡くなる「二次相続」まで含めた家族全体の負担が増えることも珍しくありません。遺言書・生前贈与・家族信託・二次相続の分割方針まで、公的制度を軸に解説します。
相続対策はなぜ「親が元気なうちに」始める必要があるのか

相続対策を後回しにすると、いざというときに選択肢が限られてしまいます。ここでは、早期に着手すべき理由を確認しましょう。
判断能力を失うと打てる手が減る
日本公証人連合会は遺言について、判断能力があるうちなら死期が近くなってもできるものの、判断能力がなくなればもうできなくなると説明しています。
裁判所も任意後見を、本人の判断能力が不十分になったときに、あらかじめ結んでおいた任意後見契約にしたがって任意後見人が本人を援助する制度と位置づけています。
いずれも、あらかじめ手を打っておくことが前提の仕組みです。対策を講じるタイミングが遅れるほど、打てる手は減る一方でしょう。
判断能力が十分でなくなった後は、預貯金の解約や遺産分割といった手続きのために、家庭裁判所へ成年後見の申立てをする必要が生じるケースがあります。
裁判所が後見開始の申立てのきっかけとして挙げているのは、預貯金の解約、遺産分割、保険金の受取などです。
つまり、判断能力があるうちに手を打たなければ、家族は家庭裁判所への申立てという手続きから始めることになります。
出典:裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」
生前贈与は「時間」が味方になる
暦年課税では年間110万円までの贈与に贈与税がかかりません。
ただし、相続開始前の一定期間内に行われた贈与は相続財産に持ち戻されるため、亡くなる直前に慌てて贈与しても、相続税を減らす効果はほとんど生まれない仕組みです。
持ち戻しの対象期間は3年から7年へ段階的に延長されている最中であり、贈与を始める時期が早いほど、持ち戻しの対象から外れる金額が増えます。
具体的な期間と計算方法は、後述する「暦年課税」の項目で確認しましょう。
遺言書の種類と選び方

遺言書は、相続発生後の財産分割を円滑に進めるための基本的な対策です。主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類が利用されており、それぞれ特徴が異なります。
自筆証書遺言と法務局の保管制度
自筆証書遺言は、遺言書の全文・作成日付・氏名を遺言者が自書し、押印して作成するものです(民法968条)。
財産目録に限り、パソコンで作成したり、不動産の登記事項証明書や通帳のコピーを添付したりする方法も認められています。ただし、その場合は目録の全てのページに署名押印が必要です。
紙とペンがあれば作成でき、費用負担がない点が利点でしょう。
一方で、要件を満たさないと無効になるリスクや、紛失・改ざんの恐れがありました。
こうした課題を解消するため、令和2年7月10日から「自筆証書遺言書保管制度」が始まっています。法務局に1件3,900円の手数料で遺言書を預けられる制度です。
保管を申請すると、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて、遺言書保管官による外形的なチェックが受けられます。
保管された遺言書は家庭裁判所での検認手続が不要になり、相続発生後にすぐ手続きを進められる点もメリットといえるでしょう。
出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度 01 遺言書保管制度とは?」
出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度 03 遺言書の様式等についての注意事項」
出典:法務局「『自筆証書遺言書保管制度』について(令和2年7月10日開始)」
保管制度には見落とされやすい制約がある
低コストで使える制度ではあるものの、宣伝されにくい制約もあわせて押さえておきたいところです。
第一に、法務局は遺言の内容についての相談には応じられず、この制度は保管された遺言書の有効性を保証するものでもありません。形式が整っていても、内容が曖昧で解釈が分かれる余地は残るでしょう。
第二に、様式のルールが細かく定められています。
用紙はA4サイズ、上部5ミリ・下部10ミリ・左20ミリ・右5ミリの余白確保、片面のみに記載、ホチキス止め不可、封筒に入れない無封の状態、といった条件です。
余白に1文字でもはみ出していれば書き直しになります。「令和3年3月吉日」のような日付も、特定できないため不可です。
ただし、来庁前に不備を洗い出せる余地も生まれています。39都道府県・68の遺言書保管所では、希望に応じて保管申請書・添付書類・遺言書の形式面をメールで事前チェックする取組が試行されています。利用できる保管所かどうか、予約の前に確認しておくとよいでしょう。
第三に、保管の申請ができるのは遺言者本人だけで、代理人による申請も郵送による申請もできません。手続には予約が必須であり、本人確認のための顔写真付き身分証明書も必要です。
体力が弱って外出が難しくなってからでは、この制度自体が使えなくなります。
出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度 01 遺言書保管制度とは?」
出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度 03 遺言書の様式等についての注意事項」
公正証書遺言の特徴と作成費用
公正証書遺言は、遺言者本人が公証人と証人2名の前で遺言の内容を口頭で告げ、公証人が文章にまとめる形式です。
原本は公証役場(電磁的記録の場合は日本公証人連合会が運営するシステム)に保管されるため、紛失や改ざんのリスクがありません。手書きが困難になった場合でも作成でき、公証人が遺言者の自宅や介護施設へ出張することも可能です。
実務で意外な壁になりやすいのが、証人の手配でしょう。
未成年者、推定相続人、遺贈を受ける者、およびそれらの配偶者や直系血族は証人になれません。つまり、子や配偶者に頼むことはできない仕組みです。
適当な証人が見つからない場合は、公証役場に紹介を依頼できます。
作成費用は「公証人手数料令」という政令で定められています。
ここで誤解が生じやすいのが、費用の決まり方です。手数料は財産の総額ではなく、相続または遺贈を受ける人ごとの財産の価額をもとに算出し、それらを合算する仕組みになっています。同じ財産額でも、渡す相手の人数が増えるほど手数料は高くなります。
目的の価額ごとの手数料は次のとおりです。
・200万円超500万円以下:13,000円
・500万円超1,000万円以下:20,000円
・1,000万円超3,000万円以下:26,000円
・3,000万円超5,000万円以下:33,000円
・5,000万円超1億円以下:49,000円
これに加えて、財産の総額が1億円以下の場合は「遺言加算」として13,000円が上乗せされます。
たとえば4,000万円をすべて長男に相続させるなら33,000円+13,000円で46,000円、2,000万円ずつ長男と長女に分けるなら26,000円×2人+13,000円で65,000円という計算です。
このほか、証書の枚数に応じた用紙代や、正本・謄本に相当するものの交付手数料もかかります。
費用を調べるときに注意したいのが、情報の新しさでしょう。公証人手数料令は令和7年政令第263号により改正され、令和7年10月1日から新しい金額が適用されています。改正前の料金を掲載したままのサイトも残っているため、金額は公証役場や日本公証人連合会で確認するのが確実です。
出典:日本公証人連合会「Q7.公正証書遺言の作成手数料は、どれくらいですか?」
出典:日本公証人連合会「公証人手数料」(令和7年政令第263号改正、令和7年10月1日施行)
生前贈与の2つの制度と使い分け

生前贈与には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの制度があり、家族構成や財産の種類によって有利な選択が異なります。
暦年課税(年110万円の基礎控除)
暦年課税は、1年間(1月1日~12月31日)に贈与を受けた財産の合計額から110万円の基礎控除を差し引き、残額に贈与税率を適用する制度です。
110万円以下であれば贈与税はかからず、申告も不要となります。
注意したいのが、相続開始前の一定期間に受けた贈与が相続財産に加算されるルールでしょう。
加算対象期間は被相続人の相続開始日によって異なり、次のように段階的に延長されます。
・令和8年12月31日まで:相続開始前3年以内
・令和9年1月1日~令和12年12月31日:令和6年1月1日から死亡の日まで
・令和13年1月1日以降:相続開始前7年以内
ここで誤解しやすいのが、「毎年110万円ずつ贈与を続ければ、その全額が相続税の対象から外れる」という理解です。
贈与税がかからない110万円以下の贈与であっても、加算対象期間に入っていれば相続財産に加算されます。基礎控除の範囲内かどうかと、持ち戻しの対象になるかどうかは別の話です。
たとえば持ち戻しが7年となる時期に、10年間毎年110万円を贈与し、10年目に相続が発生したとしましょう。
直近7年分の770万円は加算の対象に入り、7年より前に贈与した3年分の330万円だけが期間の外に出る計算です。
ただし、相続開始の日が令和9年1月2日以後の場合、加算対象期間のうち相続開始前3年以内を除いた部分については、贈与時の価額の合計額から総額100万円までが加算されません。この100万円と合わせると、1,100万円のうち相続財産から外れるのは430万円程度にとどまる計算です。
出典:国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
相続時精算課税(累計2,500万円の特別控除)
相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について選択できる制度です。
年110万円の基礎控除を差し引いた後、累計2,500万円の特別控除額まで贈与税がかかりません。
令和6年1月1日以降の贈与からは、暦年課税の基礎控除とは別に年110万円の基礎控除が設けられ、この基礎控除額を控除した残額が相続財産に加算される仕組みです。基礎控除の範囲内であれば持ち戻しの対象になりません。
見落とされやすいのが、手続きの要件でしょう。
最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を提出しなければ、この制度は使えません。さらに、2,500万円の特別控除額は、贈与税の期限内申告書を提出した場合に限って控除できます。
届出や申告を忘れると、制度そのものが機能しない点は押さえておきたいところです。
一度選択すると、その贈与者からの贈与について暦年課税に戻れない点にも注意が必要になります。
また、贈与時の価額で相続税が計算されるため、将来値上がりが見込まれる財産(株式や不動産など)を早めに贈与する場合には、相続時精算課税が有利に働く可能性があります。
家族信託と成年後見制度の使い分け

認知症による財産管理の停滞に備える方法として、「家族信託」と「成年後見制度」の2つがあります。どちらも財産管理を他者に任せる仕組みですが、費用の決まり方や裁判所の関与に違いがあるため、状況に応じた選択が求められます。
家族信託の仕組みと利用状況
家族信託は民事信託とも呼ばれます。
内閣府の規制改革推進会議に2025年3月に提出された資料では、財産の所有者(委託者)が、加齢などで認知・判断能力が低下・喪失したときに備え、元気なうちに、あらかじめ財産の全部または一部の管理・処分を信頼できる人(受託者)に任せる財産管理および財産承継の仕組みと説明されています。
同資料によれば、委託者と受益者を同じ本人に設定する「自益信託」がほとんどです。
信託財産の所有権は受託者に移ります。
そのため、信託財産の処分にあたって委託者本人の判断能力が失われていても、有効な法律行為ができる点が特徴でしょう。
認知症対策のほか、障害のある子の生活を支える「親なきあと対策」、自社株を後継者に託す事業承継対策、共有不動産の権限を集約する対策にも使われています。
ここで押さえておきたいのが、家族信託がまだ広く使われている仕組みではないという現実です。
同資料によれば、令和5年の民事信託に係る公正証書の作成件数は約4,500件、私文書での契約を含めても年間1〜1.5万件程度と見込まれています。
認知症・軽度認知障害の高齢者が1,000万人を上回るなか、後見制度の利用者数約25万人(令和5年時点)や公正証書遺言の作成数約12万件(令和5年)と比べると、活用は進んでいません。
家族信託の5つの課題と費用の考え方
同じ資料は、民事信託の普及に向けた課題として次の5点を挙げています。
・民事信託の知名度が必ずしも十分ではない
・民事信託の担い手である専門家が不足している
・民事信託の正確な情報が分かりにくい
・信託口口座を容易に準備できない
・公証役場手続が手間
家族の立場から注意したいのが、2つ目と3つ目でしょう。
専門家の自己研鑽の機会が少ないため、不十分なサービス提供が起きやすく、トラブルが生じやすいと指摘されています。
情報についても、散逸していて真偽が判然とせず、誤った情報を得た結果トラブルに陥る例があるという指摘です。
費用にも公的な基準がありません。
政令で定められた公証人手数料や、家庭裁判所が決める成年後見人の報酬と違い、家族信託の専門家報酬に定まった基準はなく、同資料も国が作成すべきガイドラインの項目として「専門家への報酬面」を挙げています。
提示された金額を鵜呑みにせず、何にいくらかかるのかを分解して確認したいところでしょう。
もうひとつ見落とされやすいのが、信託口口座です。
信託口口座は法律上の概念ではなく、受託者に開設義務があるわけでもありません。受託者が負うのは信託法34条の分別管理義務までです。
それでいて、実務上開設が推奨されている信託口口座は、どの都道府県でも開設できる状況にはなっていないと指摘されています。
契約を結んでも預ける口座を用意できない事態はあり得るため、金融機関との事前調整が必要です。
出典:内閣府 規制改革推進会議 第2回デジタル・AIワーキング・グループ 資料1-1「超高齢社会に対応した親族間での信託の活用による柔軟な資産管理の推進 民事信託の実状と課題」(2025年3月13日)
成年後見制度の3つの注意点
成年後見制度は、認知症や知的障害などによって物事を判断する能力が十分ではない方について、本人の権利を守る人(後見人等)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度です。
判断能力が欠けているのが通常の状態の方は「後見」、著しく不十分な方は「保佐」、不十分な方は「補助」に分かれます。
裁判所が申立て前の留意事項として公表している内容のうち、家族の想定と食い違いやすいのが次の3点でしょう。
第一に、申立書に候補者として記載した人が必ず選任されるわけではありません。事案に応じて弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が選ばれることがあり、希望した人が選ばれなかったという理由では不服申立てもできない仕組みです。
第二に、後見等が一度開始されると、申立てのきっかけとなったことが解決した後も、本人の能力が回復するか本人が亡くなるまで手続は続きます。家族の意思や本人の希望でやめることはできません。申立書を提出した後も、家庭裁判所の許可がなければ取り下げられない点も同様です。
第三に、費用が継続します。後見人等の報酬は、家庭裁判所が付与の当否と金額を決定し、本人の財産から支払われる仕組みです。
東京家庭裁判所が公表しているめやすでは、専門職が選任された場合の基本報酬は月額2万円、管理財産額が1,000万円超5,000万円以下なら月額3万~4万円、5,000万円超なら月額5万~6万円とされています。
なお、親族が後見人になった場合は報酬付与の申立て自体がされないことが多く、報酬が発生しないケースも少なくないでしょう。
もっとも、裁判所の関与は制約であると同時に安全装置でもあります。
後見人が不適切な事務処理をした場合には解任されるほか、損害賠償や刑事責任を問われることもあり、本人の財産を守るために専門職の後見人や監督人が選任されたり、後見制度支援信託・後見制度支援預貯金の利用が検討されたりします。
柔軟さと監督は裏表の関係にある点を理解したうえで選びたいところでしょう。
出典:裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」
出典:東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部「成年後見人等の報酬額のめやす」
二次相続を見据えた一次相続の分割方針

一次相続(たとえば父の相続)で配偶者の税額軽減を活用すると、一次相続の税負担はゼロになることもあります。
しかし、二次相続(母の相続)では配偶者の税額軽減が使えず、基礎控除も法定相続人が1人減ることで600万円少なくなります。
一次相続と二次相続の合計税額で判断しなければ、結果的に家族全体の負担が増える恐れがあるのです。
配偶者の税額軽減と二次相続の関係
配偶者の税額軽減は、1億6,000万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額まで相続税がかからない制度です。
この軽減は配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産をもとに計算されるため、相続税の申告期限までに分割されていない財産は原則として対象になりません。
ただし、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、申告期限から3年以内に分割したときは軽減の対象になります。分割協議が長引きそうなら、この書類の添付を忘れないことが重要でしょう。
一次相続で配偶者が多くの財産を取得すると、その分だけ二次相続の課税対象が膨らみます。
たとえば、遺産1億円を配偶者が全額相続すると一次相続の税額はゼロですが、二次相続で子2人が1億円を相続する場合、基礎控除は4,200万円に減り、課税遺産総額が5,800万円になります。
法定相続分で分割した場合と比べて一次・二次の合計税額が数百万円増えるケースもあるため、一次相続の時点で「配偶者がいくら取得するか」を試算しておきたいところです。
小規模宅地等の特例は「誰が取得するか」で効果が変わる
被相続人が居住していた宅地について、330㎡まで評価額を80%減額できるのが「小規模宅地等の特例」です。
配偶者が取得する場合は取得者としての追加要件がありませんが、子が適用を受けるには同居や「家なき子」などの要件を満たす必要があります。
配偶者は税額軽減により相続税がゼロになるケースが多いため、小規模宅地等の特例を配偶者が使っても、実質的な節税効果が生まれないことがあります。
むしろ、要件を満たす子が宅地を取得して特例を適用する方が、一次・二次相続の合計税額を抑えられる可能性がある点は見落としやすいポイントでしょう。
ただし、税額だけで決めるわけにもいきません。自宅を子が取得すれば、配偶者の住まいをどう確保するかという問題が残ります。
数字の有利不利と、残された親の暮らしの安定を、両方の側面から検討したいところです。
出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
生命保険の非課税枠を活用した相続対策

被相続人が保険料を負担していた死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額が設けられています。配偶者と子2人の場合、1,500万円が上限です。
ここで押さえておきたいのが、「人数を数えるルール」と「実際に枠を使える人」がずれている点でしょう。
非課税限度額を計算する法定相続人の数には、相続放棄をした人も、放棄がなかったものとして含めます。
一方で、非課税枠を実際に使えるのは、死亡保険金を受け取った人が相続人である場合に限られ、相続を放棄した人や相続権を失った人、相続人以外の人が取得した死亡保険金には適用されません。
孫を受取人に指定していたために非課税枠が使えなかった、というのは典型的な誤算です(孫が代襲相続人である場合を除きます)。
受取人が誰かによって結果が変わる点は、契約時に確認しておきましょう。
なお、法定相続人の数に含める養子は、実子がいるとき1人、いないとき2人までに制限される点も押さえておきたいところです。
この非課税枠があるため、同じ金額を預貯金として残すよりも生命保険として準備する方が、税制上有利になるケースがあります。
一方で、高齢になるほど保険料が高くなり、持病によっては加入できない場合もあるでしょう。使えるかどうかは健康状態次第という側面がある以上、早めの検討が望ましいといえます。
出典:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」
相続放棄と限定承認の判断基準

親の財産にはプラスの財産だけでなく、借入金や連帯保証債務などのマイナスの財産が含まれる場合もあります。
相続が開始した場合、相続人が選べるのは「単純承認」「相続放棄」「限定承認」の3つです。
プラスの財産よりもマイナスの財産が明らかに多い場合は、権利や義務を一切受け継がない相続放棄を検討する必要があります。
債務がどの程度あるか不明で、財産が残る可能性もある場合には限定承認という選択肢もあり、相続によって得た財産の限度で債務の負担を受け継ぐ形です。
ただし、限定承認は相続人全員が共同して申述しなければなりません。
相続放棄も限定承認も、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。
3か月以内に財産の状況を調査してもなお判断できない場合は、期間の伸長を家庭裁判所に申し立てる方法もあるでしょう。
とはいえ、期限に追われながら調査するより、親が元気なうちに財産と債務の全体像を把握しておく方が現実的です。
親の相続に備えて今からできること

相続対策は、個別の制度を単独で使うのではなく、複数の対策を組み合わせることで効果を発揮します。
家族で「財産の棚卸し」を行う
まず取り組みたいのが、親の財産の全体像を把握する作業です。
不動産・預貯金・有価証券・生命保険・借入金などを一覧にまとめることで、相続税がかかるかどうかの見当がつきます。相続税は、課税価格の合計額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引いた「課税遺産総額」をもとに計算する仕組みです。
なお、この法定相続人の数は、相続放棄をした人がいてもその放棄がなかったものとして数え、養子は実子がいるとき1人、いないとき2人までに制限されます。
この作業は相続が発生してからでは遅いため、親が元気なうちに家族で情報を共有しておくことが理想的でしょう。エンディングノートを活用すれば、財産の所在だけでなく、葬儀の希望や介護の方針も書き残せます。
対策には優先順位がある
相続対策には着手すべき順番があります。まずは遺言書の作成で「誰に何を渡すか」を明確にし、次に認知症対策(家族信託または任意後見)で判断能力を失った後に備え、そのうえで生前贈与や生命保険の活用による税負担の軽減を検討するという流れが合理的でしょう。
遺言書がなければ遺産分割協議が必要となり、相続人間の意見が合わないと手続きが長期化する恐れがあります。
税制面の対策よりも先に、円滑な財産承継の土台を固めることが優先される点は押さえておきたいところです。
まとめ
親の相続に備えるためには、遺言書の作成、生前贈与の計画、認知症対策としての家族信託、二次相続を見据えた分割方針など、複数の視点から準備を進める必要があります。
遺言も任意後見も、あらかじめ手を打っておくことが前提の仕組みです。
一次相続と二次相続の合計税額を試算するには専門的な知識が求められるため、不安がある場合は税理士や司法書士などの専門家に早めに相談するとよいでしょう。
公的制度で使える枠や手続きの期限をまず確認し、そのうえで民間の保険や信託をどこまで組み合わせるかを考えることが、家族全体の負担を抑えるための基本的な順序です。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



