公的年金制度
生命保険は本当に必要?公的保障の範囲と2026年8月の高額療養費改正から考える

生命保険が必要かどうかは、高額療養費制度や遺族年金といった公的保障でカバーされない不足分があるかで決まります。
生命保険文化センターの調査では世帯加入率は89.2%にのぼりますが、全員に同じ必要性があるわけではないのが実情です。
2026年8月から高額療養費制度の自己負担上限が引き上げられ、月々の負担が増える一方で、年間上限の新設という機能強化も行われました。保険の要否を考える前提が変わったタイミングです。
この記事では、公的保障でカバーされる範囲を最新の制度で確認し、生命保険の必要性が高いケースと低いケースの見分け方を解説します。
生命保険の要否は「公的保障の不足分」で決まる

日本では、生命保険に入るのが当たり前という空気があります。
生命保険文化センターの2024(令和6)年度調査によると、生命保険の世帯加入率は89.2%、世帯あたりの平均加入件数は3.8件という結果です。
ただ、約9割が加入しているという事実は、「入らないと損」の根拠にはなりません。
保険で備えるのは、公的保障と貯蓄で吸収できない不足分だけで足りるためです。
出典:生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」
医療費の公的保障|高額療養費制度は2026年8月に変わった

医療費の自己負担を抑える柱が、健康保険の高額療養費制度による月ごとの上限です。
2026年8月に上限額が改定されたため、改正前と改正後を分けて確認します。
改正前(2026年7月まで)の自己負担上限
70歳未満で年収約370万〜約770万円の場合、2026年7月までの1か月の自己負担上限は「80,100円+(医療費−267,000円)×1%」でした。
たとえば年収500万円の方に1か月300万円の医療費がかかった場合、窓口負担は3割の90万円に対し、改正前の上限で計算した自己負担は107,430円です。差額の約79万円が、申請により高額療養費として支給される仕組みになります。
2026年8月からの上限額
2026年8月1日から、月々の自己負担上限は次のように引き上げられました。
70歳未満の主な区分の新旧は以下のとおりです。
・年収約1,160万円〜:252,600円+1% → 270,300円+1%
・年収約770万〜約1,160万円:167,400円+1% → 179,100円+1%
・年収約370万〜約770万円:80,100円+1% → 85,800円+1%
・年収約370万円未満:57,600円 → 61,500円
・住民税非課税:35,400円 → 36,900円
先ほどの例(年収500万円・医療費300万円)を新しい上限で計算し直すと、自己負担は「85,800円+(3,000,000円−286,000円)×1%」で112,940円となり、改正前より5,510円増えました。
翌2027年8月には所得区分の細分化も予定されており、たとえば年収約650万〜約770万円の区分は110,400円+1%まで上がります。年収500万円前後(約370万〜約510万円の区分)は85,800円+1%のまま変わらない見込みです。
長期の治療には「据え置き」と「年間上限」で配慮
負担増の一方で、長期に治療が続く方への配慮も盛り込まれました。
直近12か月で3回以上上限に達した場合の多数回該当(年収約370万〜約770万円で44,400円)は据え置かれ、加えて年間の自己負担に上限を設ける仕組みが新設されました。
年間上限は年収約370万〜約770万円で53万円とされ、月々の上限に届かない月が続いても、年間の合計がこの額に達すればそれ以上の負担が不要になる設計です。
当面は患者本人からの申出を前提とした運用とされている点も、あわせて知っておきたいところでしょう。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」(令和7年12月25日 社会保障審議会医療保険部会 資料)
死亡時の公的保障|遺族年金はいくら受け取れるか(令和8年度)

一家の生計を支える方が亡くなった場合には、遺族年金があります。
令和8年度の金額で確認します。
遺族基礎年金|子2人なら年約133万円
遺族基礎年金は、18歳になった年度の3月31日までの子がいる配偶者などが対象です。
令和8年4月分からの額は、昭和31年4月2日以後生まれの配偶者で年847,300円に子の加算(1・2人目各243,800円、3人目以降各81,300円)を足した額となり、子2人の世帯では年1,334,900円(月約11.1万円)になります。末子が高校を卒業する年度末で支給が終わる点は、備えを考えるうえで見落とせません。
遺族厚生年金|会社員には上乗せがある
会社員や公務員だった方が亡くなった場合は、遺族基礎年金への上乗せとして遺族厚生年金の対象です。
金額は老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3で、加入が300月(25年)に満たないときは300月とみなして計算されます。さらに条件を満たす妻には、40歳から65歳まで中高齢寡婦加算(年635,500円)が上乗せされる場合もあります。
自営業の世帯は公的保障が薄くなる
国民年金だけに加入する自営業・フリーランスの世帯には、遺族厚生年金の上乗せがない点が重要です。
子のない配偶者は遺族基礎年金も対象外のため、公的保障で埋まる範囲は会社員の世帯より狭くなります。働き方によって、民間保険で備える必要性が変わるわけです。
出典:日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」、日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
働けないときの公的保障|傷病手当金は会社員だけ

病気やケガで長期間働けなくなったときの収入面には、健康保険の傷病手当金があります。
協会けんぽによると、支給額は直近12か月の標準報酬月額の平均から計算した日額の3分の2で、支給期間は支給開始日から通算して1年6か月です。一方、国民健康保険にはこの仕組みがないため、自営業・フリーランスは働けない期間の収入減に自分で備える必要があります。
生命保険の必要性が高いケース・低いケース

ここまでの公的保障を前提にすると、保険の要否はケースごとに分かれます。
代表例は次のとおりです。
必要性が高いケース
・小さな子どもがいる世帯:遺族年金だけでは生活費や教育費に不足が出やすく、末子の独立までの死亡保障に意味がある
・自営業・フリーランスの世帯:遺族厚生年金も傷病手当金もなく、公的保障で埋まらない部分が会社員より広い
・貯蓄がまだ少ない世帯:高額療養費があっても、対象外の費用や収入減を貯蓄で吸収しにくい
必要性が低いケース
・扶養家族のいない独身の方:死亡保障で守る対象がなく、葬儀費用程度なら貯蓄で対応できる
・十分な貯蓄がある世帯:医療費の上限や収入減を貯蓄で吸収できるなら、保険料を払う合理性は下がる
・共働きで各自が生計を維持できる世帯:一方が亡くなっても、もう一方の収入と遺族年金で生活を組み立てやすい
なお、住宅ローンを団体信用生命保険付きで組んでいる場合、契約者が亡くなればローン残高は保険で完済されます。
その分の死亡保障を別に用意する必要はないため、保障の重複がないかも確かめておきたい点です。
医療保険・がん保険は「公的保障の対象外」から考える

民間の医療保険・がん保険を検討する場合も、出発点は変わりません。
高額療養費でカバーされない部分に絞って考えます。
医療保険|対象外の費用を貯蓄で持てるか
高額療養費の対象になるのは保険診療の自己負担分で、入院時の食事の一部負担や差額ベッド代、先進医療の技術料などは対象外です。
こうした費用と、上限額までの自己負担が続く期間を貯蓄でまかなえるなら、医療保険の優先度は下がります。逆に貯蓄が育つまでのつなぎとして、期間を区切って持つ考え方もあります。
がん保険|長期化・通院化する治療への備え
がん治療は通院で長く続くケースがあり、月々の自己負担が上限近くで積み重なる点が特徴です。
2026年8月の改正で多数回該当の据え置きと年間上限の新設が行われたため、長期治療の負担への公的側の配慮は厚くなりました。それでも自由診療や先進医療の技術料は対象外のままのため、備えるならこうした「制度の外側」に目的を絞るのが合理的でしょう。
まとめ|「みんな入っているから」ではなく不足分から
生命保険の要否のポイントをまとめます。
・要否は公的保障と貯蓄で吸収できない不足分があるかで決まる。世帯加入率89.2%は理由にならない
・高額療養費の上限は2026年8月から引き上げ(年収約370万〜約770万円で月85,800円+1%)。一方で多数回該当は据え置き、年間上限53万円が新設
・遺族基礎年金は年847,300円+子の加算(令和8年度)。子2人で年1,334,900円、末子の18歳年度末で終了
・会社員には遺族厚生年金と傷病手当金がある一方、自営業の世帯にはどちらもない
・必要性が高いのは子育て世帯・自営業・貯蓄形成中の世帯、低いのは扶養家族のいない独身・十分な貯蓄・共働き自立世帯
・医療保険・がん保険は高額療養費の対象外(差額ベッド代・先進医療の技術料など)に絞って考える
「必要か」の答えは世帯ごとに違いますが、判断の物差しは共通で、公的保障を知ることがその第一歩です。
必要と判断した場合に「いくら備えるか」は、遺族年金を差し引いた必要保障額の計算で決まります。金額の決め方は、以下の記事で解説しています。
生命保険料の相場は年35.3万円|平均ではなく必要保障額から決める手順を解説
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司による執筆です。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムでご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズにお調べいただけるでしょう。
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