生命保険
ドル建て生命保険の予定利率・積立利率・利回りの違いと確認ポイント

ドル建て生命保険の予定利率・積立利率・利回りの違いと確認ポイント
設計書に並ぶ3つの数字のうち、実際に手元がどれだけ増えるかを表しているのは「利回り」だけです。
予定利率と積立利率がかかるのは、払った保険料の全額ではありません。そこから費用を引いた残りの金額です。
だから積立利率3%の商品でも、払ったお金が年3%で増えるわけではありません。
この記事では3つの言葉の関係と、設計書で見るべき数字を説明します。
3つの数字は、かかる対象が違う
まず、何に対する利率なのかを確かめます。
ここがわかると、数字がそろわない理由も見えてきます。
予定利率と積立利率は「積立金」にかかる
ドル建て保険では、払った保険料の全額が運用に回るわけではありません。
そこから費用が引かれ、残った分が運用されます。この残った分が積立金です。
予定利率と積立利率がかかるのは、この積立金。
払った保険料にかかるのではありません。
利回りは「払った保険料」にかかる
一方、利回りが基準にするのは払い込んだ保険料そのものです。
費用を引く前の、実際に支払った金額が出発点になります。
生命保険協会のルールでは、これを「実質的な利回り」と呼びます。
将来受け取る金額と、支払った保険料をつなぐ年あたりの増加率、という定義です。
積立利率は費用を引いた後のお金にかかる利率、実質的な利回りは費用を引く前のお金にかかる利率。この違いが数字の差になります。
予定利率には2つの意味がある
ややこしいのが、予定利率という言葉です。
商品の種類によって、指すものが変わります。
・伝統的な定額の保険:保険料を割り引くための利率。予定利率が高いほど保険料が安くなる
・ドル建てなど市場金利に連動する商品:積立金にかかる利率
設計書の予定利率がどちらの意味なのかは、商品ごとに確かめる必要があります。
出典:生命保険文化センター「生命保険相談マニュアル」第6章 保険料と配当金
数字で見ると差がはっきりする
言葉だけではわかりにくいので、仮の数字で計算してみます。
次の前提で考えてみましょう。
積立利率3%でも利回りは2.26%
・払った保険料:100万円
・契約時にかかる費用:7%
・積立利率:年3%
・期間:10年
計算はこうなります。
・運用に回るお金:100万円 − 7万円 = 93万円
・10年後:93万円 × 1.03の10乗 = 約125.0万円
・払った100万円に対する年あたりの増加率:約2.26%
積立利率は年3%でも、実際の増え方は年2.26%です。
これは特定の商品の費用ではなく、仕組みを確かめるための仮の計算になります。
期間が長いほど差は縮まる
同じ条件で期間を20年に延ばすと、増加率は約2.63%になります。
契約時の費用は1回きりなので、期間が長いほど1年あたりの影響が薄まるためです。
逆に言えば、早く解約するほど、積立利率と実際の増え方の差は開きます。
ドル建て保険が長期前提で説明されるのは、この構造があるからです。
引かれる費用は3種類
生命保険文化センターが挙げている費用は、次の3つです。
・保険契約関係費:契約時の初期費用や、契約を維持・管理する費用
・資産運用関係費:投資信託の運用にかかる費用
・解約控除:一定期間内に解約すると差し引かれる金額
このうち資産運用関係費は、変額タイプでない定額のドル建て保険にはかかりません。
定額タイプで積立金を減らすのは、保険契約関係費と、途中解約したときの解約控除の2つです。
出典:生命保険文化センター「市場リスクを有する生命保険とは?」
業界団体も「利率だけでは比べられない」と認めている
これは特別な見方ではありません。
生命保険業界そのものが、文書でそう書いています。
比較が難しい理由
生命保険協会のガイドラインには、こう書かれています。
費用を引くタイミングや死亡保障の大きさによって差が出るため、積立利率や予定利率だけで比べるのは難しい、という内容です。
死亡保障が大きい商品ほど、その分の費用がかかります。
同じ積立利率でも、手元に残る金額は変わるということです。
設計書に「実質的な利回り」が載っていない場合もある
ただし、このガイドラインには2つ注意点があります。
1つ目は、拘束力がないこと。会員各社が表示するときの参考として作られたもので、冒頭にその旨が明記されています。
2つ目は、上記の記載が銀行での販売を対象にした項目にあること。
保険代理店や営業職員を通じて契約する場合に、そのまま当てはまるわけではありません。
設計書に実質的な利回りが載っていないなら、販売者に尋ねてください。
対象になる商品と、その定義
ガイドラインが実質的な利回りの表示を求めているのは、外貨建て一時払いの終身保険・養老保険・年金保険です。
変額商品や終身年金保険などは対象から外れます。
終身保険の場合、基準にする時点は、市場価格調整や解約控除の期間が終わったタイミングとされています。
出典:生命保険協会「生命保険商品に関する適正表示ガイドライン」(令和8年1月29日)
ドル建てでは為替がもう一段のせられる
ここまでは費用の話でした。
ドル建てには、これに為替が加わります。
ドルで増えても円で減ることがある
外貨建ての保険は、外貨で払い込み、外貨で受け取る仕組みです。
それを円に換える段階で、為替の影響を受けます。
円で受け取る金額が、円換算した払込保険料の総額を下回ることもあります。
この為替リスクを負うのは、契約者または受取人です。
同じ運用成績でも円換算で結果が変わる
仮の数字で確かめます。
ドルベースで年3%、10年で約1.34倍になったとします。契約時のレートは1ドル150円。
受取時のレート別に、円換算した年あたりの増加率は次のようになります。
・150円のまま:約+3.0%
・130円(円高):約+1.5%
・110円(円高):約−0.1%
・170円(円安):約+4.3%
ドルの中での増え方は同じでも、円に戻したときの結果はここまで変わります。
これも仕組みを確かめるための仮の計算。将来の相場を予測したものではありません。
「ドルで元本確保」は円での元本確保ではない
ガイドラインは、ドルで最低保証がある商品について注意を促しています。
為替の変動により、円に換算すると元本割れする可能性がある旨を、わかりやすく表示することとされています。
どちらの通貨で元本を考えるのか。契約前にはっきりさせてください。
解約する時期でも受取額は変わる
費用と為替に加えて、もうひとつ変数があります。
いつ解約するか、です。
解約控除はおおむね10年以内
金融庁のレポートによれば、生命保険会社は初年度の販売手数料などを長期の保険期間をかけて回収する設計にしています。
そのため契約者の都合でおおむね10年以内に解約すると、回収しきれていない分が解約返戻金から差し引かれます。
費用の水準は、商品や契約時期によって違うもの。
解約控除がいつまで、いくらかかるのかは、契約前に確かめてください。
出典:金融庁「2025年 保険モニタリングレポート」(2025年7月)
MVA付きなら金利で受取額が動く
市場価格調整(MVA)とは、解約時の市場金利に応じて解約返戻金が増減する仕組みです。
方向は直感と逆になります。
・解約時の金利が契約時より上がっていた:解約返戻金は減る
・解約時の金利が契約時より下がっていた:解約返戻金は増える
MVA付きの商品では、積立利率が示す増え方と、途中解約したときの受取額が別々に動きます。
設計書で見る順番
ここまでを、確認の手順にします。
この順で見れば、利率の数字だけに引っ張られません。
6つの項目を順に確認する
・実質的な利回りが載っているか。あればまずその数字を見る
・表示されているのは積立利率か予定利率か
・契約時の費用はいくらか。払った保険料のうち、いくらが運用に回るのか
・解約控除がかかる期間と、その間に解約したときの金額
・MVAが付いているか。金利が動いたときの影響
・死亡保障の額と、それにかかる費用
とくに「積立利率○%」と「実質的な利回り」を並べて見ること。これがこの商品を理解する近道です。
例表の前提も確かめる
設計書には、為替や金利が動いた場合の例が載っていることがあります。
ガイドラインは、この例の作り方にも注意を促しています。
短すぎる期間の実績を使う、都合のよい期間だけを抜き出す、変動の幅を小さく見せる。
こうした表示は誤解を与えるおそれがあるとされ、市場が動かなかった場合の例も併せて示すこととされています。
提示された例がどの範囲の為替変動を想定しているか確認し、それより円高が進んだ場合の数字も尋ねてください。
まとめ
3つの言葉の関係は、次のとおりです。
・予定利率:定額保険では保険料の割引率。ドル建てでは積立金にかかる利率
・積立利率:予定利率から費用分を引いた、積立金にかかる利率
・利回り:払った保険料を基準にした増え方。実質的な利回りとも呼ぶ
基準になるお金が「費用を引いた後」か「引く前」か。これが数字がそろわない理由です。
ドル建てなら、円に換える段階で為替の影響も加わります。
比べるべきは積立利率ではなく、実質的な利回りと為替の前提です。
業界団体自身が利率だけでの比較は難しいと書いている以上、利率の数字で商品を選ぶ理由はありません。
そのうえで、保障が欲しいのか、運用が目的なのかをはっきりさせてください。
運用が目的なら、費用の低い制度を先に使うという選択肢もあります。
本記事の執筆者は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司です。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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