税金(一般的な内容)
開業届と青色申告承認申請書の出し方|届出タイミング・届出後の義務・廃業届の手続きまで解説

個人事業を始める際に税務署へ提出する「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」と「所得税の青色申告承認申請書」は、届出のタイミングを誤ると開業初年度の青色申告特別控除(最高65万円)を受けられなくなる場合があります。
開業届自体は提出が遅れても罰則がない一方、青色申告承認申請書には明確な提出期限があり、1日でも過ぎるとその年は白色申告になるため注意が必要です。
ここでは、届出の提出タイミング戦略から届出後に発生する義務、会社員が開業届を出す場合の注意点、廃業届の手続きまでを整理していきましょう。
開業届の基本と提出期限

開業届は、新たに事業所得・不動産所得・山林所得が発生する事業を開始した際に、納税地の所轄税務署に提出する書類です。提出方法は、税務署窓口への持参、郵送、e-Tax(電子申告)の3つから選べます。
提出期限と罰則の有無
国税庁の現行ガイダンスでは、事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出することとされています。
提出が遅れても罰則はありませんが、開業届を提出していないと、屋号付き銀行口座の開設や小規模企業共済への加入、各種補助金・助成金の申請時に不利になる場合があります。
提出時の注意点:2025年1月からの変更
2025年1月から、DX推進の一環として税務署での収受日付印の押なつが廃止されました。以前は開業届の控えに収受印をもらうことで提出の証拠としていましたが、現在は窓口提出時にリーフレット(提出日・税務署名の記載あり)が交付される形に変わっています。
e-Taxで提出した場合は、メッセージボックスの受信通知で受付日時の確認が可能です。提出した日付や届出内容は、自身で記録・保管しておきましょう。
出典:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
青色申告承認申請書の提出期限と「逃すと損」なポイント

青色申告の最高65万円控除を活用するには、事前に「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出しておく必要があります。この申請書には明確な提出期限があり、期限を1日でも過ぎるとその年は青色申告ができません。
提出期限の2つのパターン
提出期限は、開業時期によって異なります。
すでに事業を行っていて翌年から青色申告に変更したい場合は、青色申告をしようとする年の3月15日までが期限です。一方、その年の1月16日以後に新規開業した場合は、事業開始日から2か月以内が期限となります。
たとえば、4月1日に開業した場合は5月31日が期限です。1月1日〜1月15日に開業した場合は、3月15日が一律の期限となる点に注意しましょう。
いずれの場合も、期限が土日・祝日に当たるときは翌開庁日が期限です。
開業届と同時提出が最善策
実務上は、開業届と青色申告承認申請書を同時に提出するのが最も確実な方法です。別々のタイミングで提出しようとすると、うっかり申請期限を過ぎてしまうリスクがあります。
開業届はe-Taxでも提出できるため、自宅からまとめて手続きを済ませることも可能でしょう。
なお、青色申告承認申請書は一度提出すれば毎年出し直す必要はなく、取りやめの届出をしない限り翌年以降も自動的に適用が継続されます。
開業届を出すことで発生する義務と影響

開業届は「出すだけ」の手続きではなく、届出後にはいくつかの義務や影響が生じます。特に会社員が副業で開業届を出す場合は、税務面だけでなく公的保障への影響も把握しておく必要があるでしょう。
記帳・帳簿保存の義務
青色申告承認申請書を提出して青色申告者になると、取引を帳簿に記録し、一定期間保存する義務が発生します。65万円控除を受けるには複式簿記による記帳が必要で、仕訳帳・総勘定元帳を7年間保存しなければなりません。
10万円控除であれば簡易簿記で済む一方、節税効果は限定的です。白色申告でも帳簿の備付け義務はありますが、青色申告のほうが求められる記帳の水準が高い点を理解しておきましょう。
個人事業税の課税対象になる
開業届を提出し事業所得が生じると、業種によっては個人事業税(税率3〜5%、事業主控除290万円)の課税対象になります。
開業届は税務署(国税)への届出ですが、都道府県税事務所にも「個人事業開始申告書」を別途提出する必要がある点を見落としがちです。提出期限や様式は都道府県によって異なり、東京都では事業開始日から15日以内と定められています。
会社員が開業届を出す場合の注意点
会社員が副業として開業届を出す場合、税務上のメリットだけでなく、公的保障への影響も慎重に検討する必要があります。
まず、退職後の失業給付(雇用保険の基本手当)との関係です。失業給付は「失業の状態」であることが受給要件のため、開業届を出して個人事業を営んでいると、退職しても失業状態と認められず受給できない可能性があります。
ただし、退職後に事業の準備を始めた場合でも「待期期間中の求職活動」として認められるケースもあるため、ハローワークへの個別相談が欠かせません。
また、副業の収入が一定額を超えて社会保険の適用要件を満たす場合、健康保険・厚生年金の適用関係にも影響が出る可能性がある点に留意してください。とはいえ、個人事業主として開業した場合は雇用関係がないため、通常は勤務先の社会保険にそのまま加入し続けるケースがほとんどでしょう。
傷病手当金についても、会社員としての雇用関係が継続していれば受給権は維持されますが、副業で得た収入がある状態で「労務不能」と認められるかどうかは別の問題です。
開業届を「出さないほうがいい」ケース

開業届はメリットばかりが注目されがちですが、状況によっては提出を見送ったほうがよい場合もあります。
収入が安定しない段階
副業を始めたばかりで収入が不安定な場合、すぐに開業届を出す必要はないでしょう。年間の副業の所得(収入から経費を差し引いた金額)が20万円以下であれば所得税の確定申告は不要(ただし住民税の申告は必要)ですし、収入の見通しが立ってから開業届を提出しても遅くはありません。
開業届を出さなくても確定申告自体は可能で、雑所得として申告すれば帳簿の義務も軽くなります。
退職を控えている場合
近い将来に退職を予定している場合は、開業届の提出時期と失業給付の受給計画を慎重にすり合わせる必要があります。退職前に開業届を出していると、失業給付を受給できなくなるリスクがあるためです。
退職後に改めて開業届を提出し、ハローワークでの手続きと並行して進める方法もあります。
廃業届の手続きと提出時に必要な書類

事業をやめる際には、開業時と同じ「個人事業の開業・廃業等届出書」を使って廃業届を税務署に提出します。
廃業届の提出期限
廃業届の提出期限は、事業廃止の事実があった日の属する年分の確定申告期限までです。
開業届と同様、提出が遅れても罰則はありませんが、届出をしないまま放置すると税務署から申告書の用紙が届き続けるなど、不要な手続きが発生する原因になります。
廃業届とあわせて提出する書類
廃業時には、廃業届のほかにも状況に応じて以下の書類を提出する必要があります。
・青色申告者の場合:「所得税の青色申告の取りやめ届出書」(取りやめようとする年の翌年3月15日まで)
・消費税の課税事業者の場合:「事業廃止届出書」(廃止する事業以外に課税売上がない場合)
・適格請求書発行事業者の場合:「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」
・従業員を雇用していた場合:「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」
なお、都道府県税事務所にも「個人事業廃止申告書」を提出する必要があります。
廃業年の確定申告と経費の取扱い
廃業した年も確定申告は必要です。1月1日から廃業日までの所得を計算して申告しますが、廃業後に届く経費(家賃の精算や通信費の最終請求など)も、その事業に関連する支出であれば必要経費として計上できます。
また、青色申告で赤字が出た場合は、翌年以降3年間の繰越控除を受けられるため、廃業年の赤字も確定申告で損失として申告しておくことが重要です。
まとめ
開業届と青色申告承認申請書は、個人事業を始める際に最初に行う税務手続きです。特に青色申告承認申請書は、新規開業の場合「開業日から2か月以内」という期限を過ぎるとその年の青色申告ができなくなるため、開業届と同時に提出するのが最も確実な方法でしょう。
届出後は帳簿の記帳・保存義務が発生し、個人事業税の課税対象にもなります。会社員が副業で開業届を出す場合は、失業給付や傷病手当金など公的保障への影響も踏まえて判断してください。
廃業する際には廃業届に加え、青色申告の取りやめ届出書など関連書類もあわせて提出する必要があります。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



