税金(一般的な内容)
不動産所得の確定申告|事業的規模の判定・減価償却・修繕費と資本的支出の違いを解説

不動産所得とは、賃貸アパートやマンションなどの貸付けによって得た収入から必要経費を差し引いた金額で、「総収入金額 - 必要経費 = 不動産所得の金額」で計算されます。
不動産の貸付けが「事業的規模」に該当するかどうかで、青色申告特別控除の金額や経費計上のルールが変わるため、規模の判定は確定申告において重要な分岐点です。
ここでは、事業的規模の判定基準から減価償却の計算方法、修繕費と資本的支出の区別、そして損益通算の制限まで、不動産所得の確定申告で押さえるべきポイントを確認していきます。
不動産所得の基本と事業的規模の判定基準

不動産所得の金額は、家賃や地代などの収入から、固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費、管理費、借入金利子などの経費を差し引いて算出します。
この計算自体は貸付規模にかかわらず同じですが、事業的規模に該当するかどうかで税務上の取扱いに差が出る点に注意が必要です。
5棟10室基準の考え方
国税庁のタックスアンサー(No.1373)では、不動産貸付けが事業として行われているかどうかは「社会通念上事業と称するに至る程度の規模」で実質的に判断するとしています。
ただし、建物の貸付けについては、独立した貸室がおおむね10室以上(アパート等)、または独立家屋がおおむね5棟以上のいずれかに該当すれば、原則として事業的規模として取り扱われるとされています。
この「5棟10室基準」はあくまで形式的な目安であり、室数や棟数が基準を下回っていても、賃料水準や管理の実態によっては事業的規模と認められるケースもあるでしょう。
逆に、基準を満たしていても、ほとんどが空室で実態が伴わなければ否認される可能性も否定できません。
出典:国税庁「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」
事業的規模の場合に適用される主な優遇措置
事業的規模に該当すると、以下の税務上の優遇措置が受けられるようになります。
・青色申告特別控除65万円(e-Taxまたは電子帳簿保存が要件。それ以外は55万円)。非事業的規模では最高10万円にとどまります
・青色事業専従者給与の経費算入が可能。非事業的規模では適用がありません
・賃貸用固定資産の取壊し・除却などの資産損失を全額必要経費に算入できる。非事業的規模では、資産損失を差し引く前の不動産所得の金額が上限です
・賃貸料の貸倒損失を回収不能となった年分の必要経費に算入できる。非事業的規模では収入計上した年にさかのぼって所得金額を再計算する方式となります
65万円と10万円の差は、所得税率20%の場合で年間約11万円(住民税を含めれば約16.5万円)の税額差になるため、貸付規模の拡大を検討する場合はこの基準を意識しておくことが重要でしょう。
減価償却の計算方法と中古建物の耐用年数

不動産所得の経費のうち、金額面で高い比率を占めるのが減価償却費です。
建物は使用や経年により価値が減少する「減価償却資産」にあたり、取得価額を耐用年数にわたって経費計上していく仕組みになっています。
土地は減価償却の対象外である点を理解しておきましょう。
建物の法定耐用年数と償却方法
個人が平成10年4月1日以後に取得した建物の償却方法は定額法のみで、毎年同額を経費に計上します。
主な構造ごとの法定耐用年数(住宅用)は、木造が22年、軽量鉄骨造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下)が27年、重量鉄骨造が34年、鉄筋コンクリート造(RC)・鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)が47年です。
たとえば、新築の木造アパートを2,200万円(建物部分)で取得した場合、年間の減価償却費は「2,200万円 × 償却率0.046(耐用年数22年)= 約101万円」となり、22年間にわたって毎年この金額を経費に計上できます。
中古建物の簡便法による耐用年数の算定
中古物件を取得した場合、法定耐用年数ではなく、残りの使用可能期間を見積もった年数を耐用年数として使うことが認められています。
実務では見積りが困難なケースが多いため、「簡便法」と呼ばれる計算式が広く利用されています。
・法定耐用年数の全部を経過した中古資産:法定耐用年数 × 20%
・法定耐用年数の一部を経過した中古資産:(法定耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 × 20%
・算出した年数に1年未満の端数があるときは切り捨て、2年に満たない場合は2年とします
具体例として、築30年の木造アパート(法定耐用年数22年=全部経過)を購入した場合、簡便法による耐用年数は「22年 × 20% = 4.4年 → 4年」です。築12年の木造アパート(一部経過)であれば「(22年 - 12年)+ 12年 × 20% = 10年 + 2.4年 = 12.4年 → 12年」となります。
中古物件は簡便法により法定耐用年数よりも短い期間で減価償却できるため、1年あたりの経費計上額が増加し、短期的な節税効果が期待できる反面、償却が終わった後は経費計上できなくなり、税負担が急増する「デッドクロス」のリスクがある点を認識しておく必要があります。
修繕費と資本的支出の判定基準

賃貸物件の維持管理や修理に支出した金額の税務処理は、「修繕費」として全額をその年の経費にできるか、「資本的支出」として減価償却の対象にするかで大きく異なります。
判定を誤ると税務調査で否認されるリスクがあるため、国税庁が示す判定基準を正しく理解しておくことが欠かせません。
修繕費と資本的支出の基本的な違い
修繕費とは、固定資産の通常の維持管理や、毀損した部分を原状回復するための支出を指します。
雨漏りの修理や外壁塗装の塗り替え、故障した給湯器の修理などが該当し、支出した年に全額を経費計上できるのが特徴です。
一方、資本的支出とは、資産の使用可能期間を延長させたり、資産の価値を高めたりする支出を指し、減価償却の対象となるため複数年にわたって経費化される仕組みとなっています。
避難階段の新設や間取り変更の改装工事、設備のグレードアップなどが該当します。
実務で使える判定フローチャート
国税庁のタックスアンサー(No.1379)では、修繕費と資本的支出の判定について段階的な基準を示しています。判定の流れは以下のとおりです。
・1回の支出が20万円未満であれば、内容にかかわらず修繕費として処理可能
・おおむね3年以内の周期で行われる修理・改良であれば修繕費として処理可能
・明らかに通常の維持管理・原状回復にあたるものは修繕費、明らかに資産価値を高める・耐久性を増すものは資本的支出
・上記で判定できない場合、60万円未満であるか、前年末の取得価額のおおむね10%以下であれば修繕費として処理可能
・それでも判定が難しい場合は、支出金額の30%と取得価額の10%のいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする「割合区分」の方法も認められています
判定は工事の名目ではなく支出の実質で行われるため、「修繕工事」という名目であっても、グレードアップを伴う内容であれば資本的支出と判断される可能性があります。
工事の見積書・請求書は、原状回復部分と機能向上部分を明確に分けて記録しておくことが、税務調査への備えとして有効でしょう。
損益通算の制限と注意点

不動産所得に赤字(損失)が生じた場合、原則として給与所得や事業所得などの黒字と相殺(損益通算)することが認められています。ただし、すべての赤字が損益通算の対象になるわけではなく、一定の制限がある点に注意が必要です。
土地取得にかかる借入金利子の制限
不動産所得の赤字のうち、土地を取得するために要した借入金の利子に相当する部分の金額は、損益通算の対象外とされています(租税特別措置法第41条の4)。
この制限は貸付規模の大小にかかわらず適用される点がポイントです。
たとえば、土地建物を一括でローンを組んで取得した場合、借入金はまず建物の取得対価に充てられ、残額が土地の取得対価に充てられたものとして計算する方法が認められています。
この順序は納税者に有利な取扱いですが、土地部分のローン比率が高いほど損益通算できない金額が増える仕組みとなっているため、物件購入時にはローンの構成比率も考慮した資金計画が求められます。
その他の損益通算できない損失
土地借入金利子の制限以外にも、以下の不動産所得の損失は損益通算の対象外とされています。
・別荘など、主として趣味や保養目的で所有する不動産の貸付けに係る損失
・令和3年分以後、国外にある中古建物から生じた不動産所得の損失のうち、簡便法等で計算した減価償却費に相当する部分(国内不動産所得との内部通算も不可)
・民法組合等の特定組合員が、組合事業から生じた不動産所得の損失(内部通算も不可)
特に国外中古建物の規制は、かつて海外不動産を利用した節税スキーム(短い耐用年数で多額の減価償却費を計上し、給与所得と損益通算する手法)への対策として設けられたものです。
出典:国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」
デッドクロスと不動産所得の長期的なリスク

「デッドクロス」とは、ローンの元本返済額が減価償却費を上回る状態のことです。
元本返済は経費にならない一方、減価償却費は実際の支出を伴わない経費であるため、減価償却が終了するとキャッシュフロー上は変わらなくても課税所得だけが急増し、手元に残る金額が減少してしまうリスクがあります。
特に中古物件を簡便法で短い耐用年数で償却している場合、デッドクロスに到達する時期が早まりやすい傾向にあります。
物件購入時には、償却期間が終了した後の税負担増も含めた長期シミュレーションを行うことが望ましいでしょう。
また、不動産所得の金額は国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の算定基礎にもなります。
減価償却費が計上できる期間は課税所得が低く抑えられるため保険料への影響は限定的ですが、償却終了後に所得が急増すると保険料負担も跳ね上がる可能性があります。
高額療養費の自己負担限度額にも影響するため、不動産投資の収支は「税引後・社会保険料控除後のキャッシュフロー」で評価する視点が不可欠です。
不動産所得の確定申告で見落としやすいポイント

不動産所得の確定申告では、家賃収入や経費の計上方法に関して、見落としやすい実務上のポイントがいくつかあります。
収入計上の時期と敷金・礼金の扱い
家賃収入は、実際に入金があった時点ではなく、契約や慣習に基づいて「支払うべき日」が到来した時点で収入に計上するのが原則です。
入居者が家賃を滞納している場合でも、支払期日が到来していれば未収賃料として収入に含める必要がある点に注意しましょう。
礼金や更新料など、返還を要しない一時金は受領した年の収入に計上します。
一方、敷金や保証金のうち返還を要しないことが確定した部分は、確定した時点で収入に算入する仕組みです。
入居時に全額を収入計上する必要はありません。
経費にできるもの・できないもの
不動産所得の必要経費として計上できる主な項目は、固定資産税・都市計画税、損害保険料、減価償却費、修繕費、管理委託費、借入金の利子、不動産取得に関する登録免許税や不動産取得税などが挙げられます。
一方、借入金の元本返済額は経費にならない点は最も誤りやすいポイントです。
借りた金額は所得にならないのと同様に、返済額も経費にはなりません。
また、所得税・住民税、相続により取得した物件のうち相続税そのもの、事業主自身の生活費に該当する支出も経費の対象外です。
公的保障と不動産投資の判断

不動産投資は「老後の年金代わり」として勧められることもありますが、投資判断の前に、まずは公的年金でどの程度の収入が見込めるかを把握しておくことが前提となります。
令和7年度の老齢基礎年金は満額で年間831,700円であり、厚生年金を含めた受給見込み額は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認が可能です。
老後資金の不足分に対しては、iDeCoやNISAなどの税制優遇制度を活用した資産形成が第一選択となり、不動産投資はそれらを補完する手段として位置づけるのが合理的でしょう。
不動産投資には空室リスク、修繕リスク、金利変動リスク、流動性リスクなど固有のリスクがあるため、家計全体のバランスの中で不動産投資の割合を判断することが重要です。
まとめ
不動産所得の確定申告では、事業的規模の判定(5棟10室基準)、中古建物の減価償却計算(簡便法)、修繕費と資本的支出の区分(国税庁の判定フロー)、損益通算の制限(土地借入金利子・国外中古建物)といった複数の論点が絡み合います。
特に、減価償却費は短期的な節税効果がある反面、償却終了後の税負担増や社会保険料への影響まで見通した長期的な視点が欠かせません。
不動産投資の収支は「税引後・社会保険料控除後のキャッシュフロー」で評価し、公的年金やiDeCo・NISAとの組み合わせの中で適切な位置づけを検討していくことが、堅実な資産形成につながるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



