税金(一般的な内容)
損益通算と繰越控除をわかりやすく解説|赤字を活用して税金を取り戻す方法

損益通算とは、特定の所得で生じた赤字を他の所得の黒字と相殺して課税所得を減らす制度です。国税庁のタックスアンサー(No.2250)によると、対象となるのは不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の4つに限られています。
さらに、損益通算を行っても控除しきれない赤字がある場合は、青色申告者であれば翌年以後3年間にわたって繰り越す「繰越控除」が利用可能です。
この記事では、損益通算の仕組みと通算順序、繰越控除や繰戻還付の活用法、注意すべき制限事項までを整理し、赤字が生じた年の確定申告に役立つ情報をまとめました。
損益通算とは?対象となる4つの所得と基本的な仕組み

損益通算は、所得税の計算過程で赤字と黒字を相殺できる制度です。ここでは対象となる所得の範囲と、相殺できないケースを確認しておきましょう。
損益通算の対象は「不動産・事業・譲渡・山林」の4所得
所得税では、所得を10種類に区分して計算しますが、すべての赤字が他の所得と相殺できるわけではありません。損益通算の対象は、不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の4つだけです。
たとえば、副業で事業所得に赤字が出た場合は、本業の給与所得から差し引けます。
一方、雑所得・配当所得・給与所得・一時所得で損失が生じても、他の所得との損益通算はできません。
副業の所得が「雑所得」に該当する場合は、赤字になっても給与所得と相殺できない点に注意が必要です。
損益通算の通算順序
損益通算には法律で定められた順序があります。まず同じグループ内で通算(第1次通算)を行い、それでも残った赤字を別グループと通算(第2次通算)する流れになっています。
具体的には、経常所得グループ(不動産所得・事業所得・利子所得・配当所得・給与所得・雑所得)の中で通算したあと、その赤字を譲渡所得・一時所得のグループと相殺するという手順です。
山林所得・退職所得はさらに後の段階で通算されるため、実務上は税理士への相談や確定申告書等作成コーナーの利用が安心でしょう。
損益通算できないケース|よくある誤解と制限事項

損益通算にはいくつかの例外・制限があり、対象の4所得であっても通算が認められないケースがあります。見落としやすいポイントを整理しておきましょう。
雑所得の赤字は損益通算の対象外
副業で赤字が出た場合に損益通算できるかどうかは、その所得が「事業所得」か「雑所得」かによって結論が変わります。
国税庁の通達(令和4年改正)では、帳簿書類を保存しているかどうかが事業所得と雑所得の判定で重視される基準です。
帳簿を備え付けていない場合や、収入規模が小さく副業的な位置づけの場合は雑所得とみなされ、赤字があっても給与所得と通算できない可能性が高くなります。
不動産所得の赤字のうち損益通算できない部分
不動産所得の赤字は原則として損益通算の対象ですが、次の2つは例外として通算できません。
・土地を取得するための借入金利子に相当する部分の赤字
・別荘など、主として趣味・娯楽・保養・鑑賞目的で所有する不動産の貸付けによる赤字
不動産投資のシミュレーションでは「減価償却で赤字を出して給与所得と損益通算すれば節税になる」という説明がされることがありますが、土地取得分の借入金利子は損益通算の対象から除かれるため、実際の節税効果は想定より小さくなることがあるでしょう。
不動産投資を検討する際は、建物部分と土地部分の借入金利子を分けて試算することが欠かせません。
出典:国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」
生活に通常必要でない資産の損失
生活に通常必要でない資産に係る譲渡損失も、損益通算の対象外となります。
具体的には、競走馬などの射こう的行為に使う動産、趣味・娯楽目的の不動産やゴルフ会員権、1個(1組)30万円を超える貴金属・書画・骨とう品などが該当します。
土地建物の譲渡損失は原則として通算不可
土地や建物を売却して譲渡損失が生じた場合、原則として他の所得と損益通算することはできません。
ただし、マイホームの売却で一定の要件を満たす場合には、特例として損益通算と繰越控除が認められています。
住宅ローン残高がある居住用財産の売却(措置法41条の5の2)や、買い換えた場合の譲渡損失(措置法41条の5)が特例の対象です。
繰越控除の仕組み|青色申告なら赤字を3年間繰り越せる

損益通算をしても控除しきれない赤字が残った場合、青色申告者にはその赤字を将来の所得から差し引ける制度が用意されています。
純損失の繰越控除とは
損益通算を行ってもなお控除しきれない部分の金額を「純損失」と呼びます。
青色申告者は、この純損失を翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年分の所得金額から控除することが可能です。
たとえば、開業初年度に300万円の赤字が出た場合、翌年に200万円の黒字が出ても、繰り越した赤字と相殺して課税所得をゼロにでき、控除しきれない100万円分の赤字はさらに翌年以降へ繰り越せます。
白色申告者の場合は、純損失のうち「被災事業用資産の損失」と「変動所得の損失」のみが繰越控除の対象となり、事業不振による赤字は繰り越せません。
被災事業用資産の損失とは、棚卸資産や事業用固定資産、山林が災害によって被害を受けた場合の損失を指し、変動所得の損失とは、漁獲やのりの採取、原稿料・作曲料・著作権使用料などに係る所得の計算上生じた損失を指します。
繰越控除を受けるための手続き
繰越控除の適用を受けるには、赤字が生じた年分の確定申告書(損失申告用:第四表)を提出し、その後も連続して確定申告書を提出し続ける必要があります。
翌年に所得がゼロであっても確定申告を行わないと、繰越控除の権利が途切れてしまうため、損失が生じた年以降は毎年申告を欠かさないことが重要でしょう。
特定非常災害の場合は繰越期間が5年に延長
令和5年4月1日以降に特定非常災害の指定を受けた災害によって生じた純損失については、一定の要件のもとで繰越控除期間が3年間から5年間に延長されます。
事業用資産のうち特定被災事業用資産の損失の割合が10%以上の場合は、その年に発生した純損失の全額が延長の対象です。
自然災害による事業の被害が大きい場合には、この特例を確認しておきましょう。
繰戻還付の仕組み|前年の税金を取り戻す選択肢

赤字を将来に繰り越す「繰越控除」に対して、過去の所得と相殺する方法が「繰戻還付」です。どちらを選ぶかは資金繰りや将来の見通しによって判断が分かれます。
繰戻還付の概要と要件
前年も青色申告をしている場合は、純損失の繰越しに代えて、その損失額を前年分の所得金額に繰り戻して控除し、前年分の所得税額の還付を受けることが可能です。
還付される金額は、前年の課税所得から純損失を差し引いた場合に算出される税額と、実際に納付した税額との差額になります。
繰戻還付を受けるには、赤字が生じた年分の確定申告書の提出期限までに「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を確定申告書と同時に提出する必要があるでしょう。
繰越控除と繰戻還付はどちらを選ぶべきか
繰戻還付は実際にお金が戻ってくるため、資金繰りが厳しい状況では即効性のある手段です。
一方、繰越控除は翌年以降3年間の黒字と相殺することで所得税だけでなく住民税・事業税・国民健康保険料の軽減にもつながる点がメリットとなります。
繰戻還付は国税(所得税)にのみ適用される制度のため、住民税や事業税には還付の効果が及びません。
翌年以降に安定した黒字が見込める場合は繰越控除のほうが節税効果の総額が大きくなるケースもあるでしょう。
両方を同時に使うことはできないため、税理士へ相談したうえでの判断をおすすめします。
上場株式等の譲渡損失の損益通算と繰越控除

株式投資で生じた損失には、事業所得等の損益通算とは別の特例が設けられています。投資をしている場合はこちらの制度も確認しておきましょう。
上場株式等の譲渡損失は配当所得と通算できる
上場株式等を証券会社などを通じて売却したことにより生じた譲渡損失は、確定申告をすることで申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得等と損益通算が可能です。
さらに、通算しても控除しきれない損失は翌年以後3年間にわたって繰越控除できます。
出典:国税庁「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」
上場株式等の損益通算で注意すべき3つのポイント
・NISA口座内の損失は「ないもの」とみなされるため、特定口座や一般口座の利益と損益通算することはできません。
NISAは利益が非課税になるメリットの裏側として、損失が出ても税務上のメリットがない点に注意が必要です。
・上場株式等の譲渡損失は、一般株式等(非上場株式等)の譲渡所得とは通算できません。また、その逆(一般株式等の損失を上場株式等の利益と通算する)も原則としてできない仕組みです。
・繰越控除を受けるには、損失が生じた年から連続して確定申告書を提出する必要があります。取引がない年であっても、繰越控除の適用を受けたい場合は確定申告を行いましょう。
複数の証券口座がある場合の取り扱い
特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合、同一口座内では年間の損益が自動的に計算されます。
しかし、複数の証券会社に口座がある場合は、確定申告によって口座間の損益を通算できます。
A証券で利益、B証券で損失が出ている場合には、確定申告することで納めすぎた税金の還付を受けられる可能性があるでしょう。
損益通算が住民税・国民健康保険料に与える影響

損益通算の効果は所得税だけにとどまりません。課税所得が下がることで、住民税や国民健康保険料の負担も連動して軽減されるケースがあります。
住民税は所得税と連動して軽減される
住民税の所得割は、所得税の確定申告で計算された課税所得をもとに算出されます。損益通算によって課税所得が下がれば、翌年度の住民税も自動的に軽減される仕組みです。
国民健康保険料への影響
国民健康保険料の所得割は、前年の総所得金額等をもとに算出されるため、損益通算で総所得が下がれば保険料の軽減につながります。
さらに、総所得が一定水準以下になると、保険料の均等割・平等割の軽減判定(7割・5割・2割軽減)にも影響する場合があるでしょう。
また、高額療養費制度における自己負担限度額の区分も所得に基づいて決まるため、損益通算の結果として区分が変わり、医療費の負担が軽くなることもあり得ます。
赤字が生じた年は、税金だけでなくこうした社会保障制度への影響も含めて全体像を把握しておくことが大切です。
まとめ|赤字を放置せず、損益通算と繰越控除を活用しよう
損益通算と繰越控除のポイントを整理します。
・損益通算の対象は不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の4つに限定されており、雑所得や配当所得の赤字は通算できない
・不動産所得の赤字のうち、土地取得のための借入金利子部分は通算の対象外
・損益通算しても控除しきれない赤字は、青色申告者なら翌年以後3年間の繰越控除が可能
・前年が黒字だった場合は、繰戻還付で前年分の所得税の還付を受ける選択肢もある
・上場株式等の譲渡損失には別枠の損益通算・繰越控除の特例があるが、NISA口座の損失は対象外
・損益通算の効果は所得税にとどまらず、住民税・国民健康保険料・高額療養費の自己負担区分にも影響する
赤字が出た年は精神的にも厳しい時期ですが、確定申告を適切に行うことで将来の税負担を軽減できる可能性があります。
特に青色申告者は繰越控除や繰戻還付といった制度が活用できるため、赤字が出た年こそ確定申告を怠らないようにしましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



