公的年金制度
公的年金は破綻する?賦課方式とマクロ経済スライドで見る年金の仕組み

公的年金は、現役世代の保険料と国庫負担(税金)を主な財源とする賦課方式で運営されており、給付が完全にゼロになる姿は財政検証でも想定されていません。
2024年の財政検証では、最も慎重とされる「過去30年投影ケース」でも、給付水準の指標である所得代替率は50.4%と示されました。
一方で、少子高齢化に合わせて給付水準を自動的に抑える仕組みが組み込まれているのも事実です。
「破綻するかどうか」の二択ではなく、どの程度の調整が見込まれるのかを数字で確認することが、老後準備の出発点になります。
この記事では、賦課方式・マクロ経済スライド・財政検証という3つの仕組みと、2025年に成立した年金制度改正法までを、厚生労働省の一次資料に沿って解説します。
結論:給付がゼロになる姿は想定されていないが、水準は調整される

「年金は破綻する」という言葉は、給付が完全に止まる意味でも、金額が目減りする意味でも使われる、指す内容が定まっていない言葉です。
公的資料に沿って言い換えると、「給付がゼロになる姿は想定されていないものの、現役世代の収入と比べた給付水準は徐々に低下していく」が実態に近い理解といえます。
給付がゼロになりにくいと考えられる根拠として、次の3点が挙げられます。
・現役世代がいる限り保険料収入が生まれる「賦課方式」を基本としていること
・保険料に加えて、国庫負担(基礎年金の給付費の2分の1)と積立金という財源を持つこと
・少なくとも5年ごとの財政検証で長期の収支を点検し、マクロ経済スライドで給付水準を自動調整する仕組みがあること
2024年の財政検証では、最も厳しい「1人当たりゼロ成長ケース」で機械的に給付水準の調整を続けた場合の試算も公表されました。
国民年金の積立金がなくなった後でも、保険料と国庫負担により所得代替率37~33%程度の給付は賄えると試算されており、給付がゼロになる姿は財政検証上も想定されていません。
この「最も厳しい前提でも残る水準」は、老後資金を考えるうえでの下限の目安になる数字です。
出典:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証結果」(PDF)
財政検証とは:5年ごとに100年先まで点検する年金の定期診断

財政検証とは、国民年金法などの規定に基づき、少なくとも5年ごとに、おおむね100年間の年金財政の収支見通しを点検する仕組みを指します。
直近の結果は2024年7月3日に公表されました。
複数の経済前提で将来を幅広く試算する
将来の出生率や経済成長は不確実なため、財政検証では複数の前提を置いた試算が行われるのが特徴です。
2024年財政検証では、経済前提として次の4つのケースが設定されました。
・高成長実現ケース
・成長型経済移行・継続ケース
・過去30年投影ケース(過去30年と同程度の経済状況が続く前提)
・1人当たりゼロ成長ケース
人口については、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口に基づく前提が使われています。
単一の予言ではなく「幅を持った見通し」として読むことが、財政検証の正しい使い方です。
2024年財政検証の主な結果
2024年度の所得代替率は61.2%で、前回2019年の検証時より将来の見通しは改善しました。
背景にあるのは、厚生年金の被保険者数が前回の見通しを上回り、積立金残高も見通しを約70兆円上回ったという実績です。
ケース別の将来見通しは、所得代替率の章で数字とともに確認します。
出典:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証結果」(PDF)
賦課方式:現役世代の保険料が今の年金を支える仕組み

日本の公的年金は、その時々の現役世代が納める保険料を年金給付に充てる「賦課方式」が基本です。
賦課方式と積立方式の違い
賦課方式は、現役世代から年金受給世代への仕送りに近い仕組みで、保険料がそのときの給与水準に応じて集まるため、物価や賃金の変動に対応しやすい特徴があります。
一方の積立方式は、将来自分が受け取る年金の財源を現役時代に積み立てておく方式です。
積立方式には運用収入を活用できる利点がある反面、インフレによる価値の目減りや運用環境の悪化があると、積立金の範囲でしか給付できないという弱点があります。
公的年金が賦課方式を基本とするのは、物価や所得水準に応じた「実質的な価値」を維持しやすいためです。
そして賦課方式である以上、現役世代がいる限り保険料収入は生まれ続けるため、給付が完全に止まる事態は構造上起こりにくいと考えられます。
出典:厚生労働省「いっしょに検証!公的年金 賦課方式と積立方式」
財源は保険料だけではない:国庫負担と積立金
年金給付の財源は、保険料収入だけではありません。
2004年の制度改正で定められたのは、保険料の上限を固定(厚生年金は18.3%)し、基礎年金の給付費の2分の1を国庫負担とし、おおむね100年間で財政の均衡を図りながら積立金を活用するという枠組みです。
積立金は、少子高齢化で保険料収入が細る局面の給付を補う位置づけで、財政均衡期間の終了時にも給付費1年分程度を保有する設計になっています。
保険料・国庫負担・積立金という3つの財源で支えられている点が、「保険料収入が減れば即座に破綻する」という見方と実際の制度設計との違いです。
出典:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証結果」(PDF)
マクロ経済スライド:破綻ではなく「調整」で対応する仕組み

マクロ経済スライドとは、2004年の年金制度改正で導入された、賃金や物価の伸びから「スライド調整率」を差し引いて年金額の伸びを抑える仕組みを指します。
調整率は現役世代の減少と平均余命の伸びで決まる
スライド調整率は、公的年金の被保険者数の変動率と、平均余命の伸びを勘案した一定率(マイナス0.3%)から計算されます。
賃金や物価がプラスのときに調整を計画的に進めることが、将来世代の給付水準の確保につながるというのが制度の考え方です。
2026年度(令和8年度)の年金額改定に見る実例
令和8年度の年金額は、物価変動率(プラス3.2%)が名目手取り賃金変動率(プラス2.1%)を上回ったため、現役世代の負担能力に応じた給付とする観点から、賃金変動率を基準に改定されました。
ここからマクロ経済スライドによる調整(基礎年金はマイナス0.2%、厚生年金の報酬比例部分はマイナス0.1%)が行われ、改定率は基礎年金がプラス1.9%、報酬比例部分がプラス2.0%となっています。
基礎年金と報酬比例部分で調整率が異なる背景にあるのは、2025年の制度改正です。
名目の年金額は増えている一方で、その上昇幅は物価上昇率の3.2%には届いていません。
額面は増えても、買える量で見た実質的な価値は少しずつ抑えられていくのが、マクロ経済スライドによる「調整」の実像といえます。
なお、マクロ経済スライドの発動は令和8年度で計7回目です。
出典:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」(PDF)
所得代替率の見通し:50%が法律上の目安として機能する

所得代替率とは、年金を受け取り始める時点の年金額が、現役男子の平均手取り収入の何%に当たるかを示す指標で、2024年度は61.2%となっています。
所得代替率61.2%の中身
2024年度の数字を分解すると、現役男子の平均手取り収入が月額37.0万円であるのに対し、モデル年金(夫婦2人の基礎年金13.4万円+夫の厚生年金9.2万円)が月額22.6万円という関係です。
相談の場面では、このモデル年金を「自分がもらえる額」と受け取っている方が少なくありません。
共働きか片働きか、厚生年金の加入期間がどれだけあるかで実際の受給額は世帯ごとに異なるため、モデル年金はあくまで水準を測る物差しとして見る必要があります。
ケース別の見通しと「50%」の法律上の位置づけ
給付水準の調整終了後の所得代替率の見通しは次のとおりです。
・高成長実現ケース:56.9%(2039年度に調整終了)
・成長型経済移行・継続ケース:57.6%(2037年度に調整終了)
・過去30年投影ケース:50.4%(2057年度に調整終了)
2024年度の61.2%と比べると、ケースに応じておよそ4~11ポイント低い水準へ向かう計算になります。
法律には、次の財政検証までに所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合、給付水準調整の終了などの措置を講じ、給付と負担の在り方を検討する旨が定められています(平成16年改正法附則第2条)。
2029年度の所得代替率は60.3~59.4%と見込まれており、現時点で50%割れは想定されていません。
50%というラインは「そこまで下がって終わり」ではなく、「下回る見通しになれば制度の見直しが法律上求められる」水準として機能します。
出典:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証結果」(PDF)
2025年成立の年金制度改正法:支え手を増やし基礎年金を底上げする布石

2025年6月13日に成立した年金制度改正法は、社会保険の加入対象の拡大や在職老齢年金の見直しなど、年金制度の支え手と給付の両面を強化する内容です。
主な改正内容
厚生労働省の資料では、主な改正事項として次の項目が挙げられています。
・社会保険の加入対象の拡大(短時間労働者の賃金要件を公布から3年以内に撤廃、企業規模要件も10年かけて段階的に縮小・撤廃)
・在職老齢年金の見直し(2026年4月から、年金が減額され始める基準額を50万円から62万円〔いずれも令和6年度価格〕へ引き上げ)
・厚生年金の標準報酬月額の上限の段階的引き上げ(月額65万円から75万円へ)
・遺族厚生年金の男女差の段階的な解消
・iDeCoの加入可能年齢の上限引き上げ(公布から3年以内に70歳未満へ)
このうち加入対象の拡大は、制度の支え手を増やすと同時に、加入する本人の将来の年金額の上乗せにもつながる見直しです。
在職老齢年金の見直しはすでに2026年4月に施行され、働きながら年金を受け取る人が年金を減額されにくい仕組みへ変わっています。
出典:厚生労働省「令和7年度年金制度改正法が6月20日に公布されました」
基礎年金の底上げは次の財政検証を見て判断される
衆議院での修正により、経済が好調に推移せず、将来の基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合には、基礎年金と厚生年金(報酬比例部分)のマクロ経済スライドを同時に終了させる措置を講じる規定が追加されました。
前の章で触れた「報酬比例部分の調整率だけが3分の1に緩和されている」のは、この判断に備えて、次期財政検証翌年度(令和12年度を予定)まで報酬比例部分の調整を続けることとしたためです。
実施の要否は次の財政検証の結果を見て判断される見込みで、基礎年金の給付水準の低下に歯止めをかける選択肢が法律の中に用意されたことになります。
相談の場面でよくある「年金は破綻する」への3つの誤解

年金相談の場面では、「破綻」という言葉の受け止め方の違いから、実際の制度とずれた前提で老後資金を考えているケースに出会うことがあります。
特に多いのは、次の3つの誤解です。
誤解1:破綻すると年金がゼロになる
財政検証は、最も厳しい前提でも保険料と国庫負担で一定水準の給付を賄える姿を示しており、「ゼロになる」という想定は置かれていません。
「破綻」という言葉は、「給付水準がどこまで下がるか」という程度の問題に置き換えて考えるのが、実態に合った理解です。
誤解2:所得代替率が下がる分だけ、受け取る金額も同じ割合で減る
所得代替率は現役世代の収入との「比率」であり、年金の名目額そのものの増減を示す指標ではありません。
賃金や物価が上がる経済では、令和8年度の改定のように、名目額は増えつつ現役収入や物価との比較では水準が下がる形で調整が進みます。
押さえるべきは、「額面が減る」のではなく「額面は増えても相対的な水準が下がっていく」という調整の方向性です。
誤解3:どうせもらえないなら保険料を払わないほうが得
保険料の未納がもたらす影響は、老後の年金だけにとどまりません。
未納のままにすると、病気やけがで障害が残ったときの障害基礎年金や、亡くなったときに家族が受け取る遺族基礎年金まで、納付要件を満たせず受け取れない場合があります。
「破綻するから払わない」という選択は、老後より前に起こり得る不測の事態への保障まで手放す行為です。
収入の減少などで納付が難しいときは、未納ではなく免除・納付猶予の申請という選択肢があります。
全額免除の期間は、保険料を納めていなくても国庫負担分として満額の2分の1(平成21年3月分までは3分の1)が老齢基礎年金額に反映され、免除・納付猶予の期間は障害基礎年金や遺族基礎年金の受給資格期間にも算入されます。
出典:日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」
年金不安への向き合い方:見込み額の確認から始める

老後の備えは、公的年金の見込み額を確認し、公的制度内の増額手段を検討したうえで、足りない分を私的な資産形成で補う順序が基本です。
「ねんきんネット」で自分の見込み額を把握する
モデル年金や平均額ではなく、自分の加入記録に基づく見込み額を知ることが、老後資金の議論を具体的にします。
日本年金機構の「ねんきんネット」では、年金記録の確認や年金見込額の試算が、スマートフォンやパソコンから24時間利用できます。
まずは、自分の記録に基づく数字を出発点にすることが大切です。
繰下げ受給という公的制度内の増額手段
年金額を増やす手段は、民間の金融商品だけとは限りません。
老齢年金は66歳以降75歳まで受給開始を繰り下げることができ、増額率は1カ月あたり0.7%、最大84%で、増額された年金は生涯続きます。
老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げることも可能です。
ただし、繰下げ待機中は対象の年金を受け取れないほか、税金や社会保険料の負担が変わる場合もあるため、手元資金や健康状態を含めた検討が欠かせません。
iDeCo・NISAは不足分を補う位置づけで使う
公的年金の見込み額と繰下げなどの選択肢を確認したうえで、それでも見込まれる不足分を、iDeCoやNISAといった税制優遇のある資産形成で計画的に補うのが実務的な順序です。
これらは運用リスクを伴うため、値動きにどこまで耐えられるかというリスク許容度に照らして、商品や金額を選ぶ「適合性」の視点が前提になります。
「破綻するから投資が必要」という順番ではなく、「公的年金で足りない分を数字で確かめてから補う」という順番が、過不足のない備えにつながります。
まとめ:年金は「破綻」ではなく「調整」で維持される
公的年金は、賦課方式と国庫負担・積立金という財源構成に加えて、財政検証とマクロ経済スライドという点検・調整の仕組みを備えた制度です。
給付がゼロになる姿は最も厳しい試算でも想定されていない一方、現役収入と比べた給付水準は50%程度に向けて低下していく見通しがあります。
2025年の制度改正では、支え手を増やす適用拡大や、基礎年金の底上げに向けた規定も加わりました。
不安の言葉に反応する前に、まず自分の見込み額を確かめ、繰下げなどの公的制度内の選択肢と、iDeCo・NISAなどの自助を順序立てて組み合わせることが、現実的な年金不安への向き合い方です。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。
当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。
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