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事実婚・内縁関係のお金の制度|社会保障・税制・相続で法律婚とどう違う?

事実婚(内縁関係)では、社会保障の多くが法律婚と同じように適用される一方、税制と相続では原則として配偶者としての優遇を受けられません。
厚生年金保険法第3条第2項は「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む」と定めており、遺族年金や健康保険の被扶養者認定では事実婚のパートナーも保護の対象になります。
しかし所得税法や相続税法では「民法の規定による配偶者」に限定されるため、配偶者控除・配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例といった主要な税制優遇がすべて適用外となる点に注意が必要です。
この記事では、社会保障・税制・相続の3つの領域で法律婚と事実婚の違いを横断的に整理し、事実婚を選択する場合に知っておくべきお金の制度と備え方を解説します。
事実婚(内縁関係)とは?法律婚との違い

法律婚は婚姻届を市区町村に提出することで成立しますが、事実婚は届出を行わずに夫婦としての共同生活を営む関係を指します。
厚生労働省の通達では、事実婚関係にある者を「婚姻の届出を欠くが、社会通念上、夫婦としての共同生活と認められる事実関係」と定義しています。
事実婚が認められるための2つの要件
厚生労働省の認定基準(平成23年3月23日年発0323第1号)では、以下の2つの要件を満たす必要があるとされています。
・当事者間に、社会通念上、夫婦の共同生活と認められる事実関係を成立させようとする合意があること
・当事者間に、社会通念上、夫婦の共同生活と認められる事実関係が存在すること
単なる同棲や交際関係では事実婚とは認められません。
住民票に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載することで、行政手続き上の証明がしやすくなります。ただし、この記載には税制上のデメリットも生じるため、後述の税制の項目も踏まえて判断することが重要でしょう。
社会保障:法律婚とほぼ同等の保護が受けられる

社会保障制度は「生活の実態」を重視する設計になっているため、事実婚であっても法律婚とほぼ同じ保護が受けられます。制度ごとの具体的な取扱いを確認しましょう。
遺族年金:事実婚でも受給可能
厚生年金保険法第3条第2項および国民年金法第5条第7項は、いずれも「配偶者には事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む」と明記しています。
そのため、事実婚のパートナーが亡くなった場合でも、事実婚関係と生計維持関係が日本年金機構に認定されれば遺族年金を受給できます。
ただし、認定には健康保険の被扶養者証や給与の扶養手当記録、住民票の記載などの証明書類が求められ、法律婚の場合と比べて手続きのハードルが高い点は認識しておく必要があるでしょう。
出典:日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
健康保険・国民年金第3号被保険者
健康保険の被扶養者認定や国民年金第3号被保険者の届出も、事実婚のパートナーが対象になります。
年収130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満)などの収入要件は法律婚と同じです。協会けんぽや健康保険組合への届出の際、住民票に「妻(未届)」等の記載があると認定がスムーズに進みます。
傷病手当金・出産手当金・労災保険
健康保険の傷病手当金や出産手当金は被保険者本人への給付であり、婚姻形態に関係なく支給されます。労災保険の遺族補償給付も、事実婚のパートナーが受給対象に含まれています。
税制:事実婚では配偶者としての優遇を受けられない

税制は社会保障とは対照的に、「法律上の婚姻関係」を厳格に求めます。国税庁のタックスアンサーNo.1191では、配偶者控除の対象について「民法の規定により効力が生じた婚姻に基づく配偶者」に限定されると明記されています。
適用されない主な所得税の控除
事実婚のパートナーは、以下の所得控除の対象外となります。
・配偶者控除(一般の場合最大38万円):適用不可
・配偶者特別控除:適用不可(No.1195「内縁関係の人は該当しません」と明記)
・医療費控除の家族合算:事実婚パートナーの分は合算不可
・社会保険料控除のパートナー分:合算不可
たとえば法律婚の夫婦で片方がパートタイムの場合、配偶者控除38万円により所得税率20%の世帯では年間約7.6万円の節税効果がありますが、事実婚ではこの恩恵を受けられません。
住民税の配偶者控除33万円と合わせると、年間で約10.9万円の差が生じる計算です。
ひとり親控除の適用判定にも影響
令和2年に創設されたひとり親控除(35万円)は、住民票に「妻(未届)」「夫(未届)」などの記載がある場合、事実婚関係にあるとみなされ適用されません。
つまり、住民票への事実婚記載は社会保障手続きでは有利に働く一方、ひとり親控除の適用を阻む要因になり得るという相反関係があります。
贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)も対象外
婚姻期間20年以上の法律婚夫婦が居住用不動産を贈与する場合に使える2,000万円の非課税枠(国税庁No.4452)も、事実婚では利用できません。
長年にわたり共同生活を営んでいても、居住用不動産の名義移転には通常の贈与税が課税される点に注意が必要です。
相続:最も影響が大きい領域

事実婚において経済的な影響が最も大きいのが相続の領域です。国税庁タックスアンサーNo.4132には「内縁関係の人は、相続人に含まれません」と明記されており、法定相続人としての権利が一切認められていません。
法定相続人に該当しない
事実婚のパートナーには法定相続権がないため、パートナーが遺言を残さずに亡くなった場合、共同生活で築いた財産であっても相続できないリスクがあります。遺言書の作成が事実婚カップルにとって最優先の備えといえるでしょう。
遺贈で財産を受け取る場合の5つの不利益
遺言により財産を「遺贈」で受け取ることは可能ですが、法律婚の配偶者と比べて以下のような不利益が生じます。
・相続税の2割加算:被相続人の一親等の血族および配偶者以外の者は、算出された相続税額に2割が加算されます(相続税法第18条、国税庁No.4157)
・配偶者の税額軽減が使えない:法律婚の配偶者は1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額まで非課税になりますが、事実婚では適用されません
・小規模宅地等の特例が使えない:同居していた自宅の土地について最大80%の評価減を受けられる特例も、対象は「親族」に限定されます
・生命保険金の非課税枠が使えない:「500万円×法定相続人の数」の非課税枠は法定相続人のみが対象です
・登録免許税が高い:不動産の名義変更の際、相続人への遺贈は固定資産税評価額の0.4%で済みますが、相続人以外への遺贈は2%となり5倍の負担になります
子どもの相続権は「認知」が前提
事実婚の夫婦の間に生まれた子どもは、母親との親子関係は出生届で自動的に成立しますが、父親との法律上の親子関係は「認知」をしなければ発生しません。
認知がなければ父親の法定相続人になれないため、子どもの権利を守るためにも認知の手続きは欠かせないでしょう。なお、認知された子と法律婚の子の相続分は平等です。
社会保障と税制の「ねじれ」を理解する

事実婚における制度上の最大の特徴は、社会保障では保護されるのに税制・相続では保護されないという「ねじれ」にあります。
これは、社会保障法が「生活の実態」を、税法が「法律上の身分関係」をそれぞれ重視しているためです。
住民票の記載をめぐるジレンマ
住民票に「妻(未届)」と記載すると、健康保険の被扶養者認定や遺族年金の請求では有利に働きます。
しかし、ひとり親控除の適用判定では事実婚関係とみなされて控除が受けられなくなるという逆効果が生じます。子どものいるひとり親が事実婚を始める場合は、控除の喪失と社会保険の利点を天秤にかける必要があるでしょう。
事実婚を選ぶ場合に取るべき5つの備え

事実婚を選択する場合でも、制度上の不利益を最小限に抑えるための方法は用意されています。生前の段階から対策を講じておくことが重要です。
遺言書の作成
事実婚で最も優先すべき対策は遺言書の作成です。公正証書遺言を作成し、パートナーに財産を「遺贈」する旨を記載しておくことで、法定相続人がいない場合や他の相続人との争いを防ぐことにつながります。
ただし、法定相続人がいる場合は遺留分を侵害しない範囲で遺贈額を設定することが望ましいでしょう。
生命保険の受取人指定
保険会社によっては、一定の条件(同居期間の証明、互いに法律上の配偶者がいないこと等)を満たせば、事実婚のパートナーを死亡保険金の受取人に指定できます。
ただし、事実婚パートナーが受け取る保険金には「500万円×法定相続人の数」の生命保険金非課税枠が適用されないため、全額が相続税の課税対象になる点に留意が必要です。
任意後見契約・死後事務委任契約
パートナーが認知症や重い病気になった場合の財産管理・意思決定を託すためには、任意後見契約の締結が有効です。
また、死後の葬儀や各種届出をパートナーに委任する死後事務委任契約を結んでおくと、法定相続人がいない場合のトラブル防止に役立ちます。
不動産の共有名義での取得
住宅を取得する際、出資割合に応じた共有名義で登記しておくことで、パートナーの死亡時に相続対象にならない持分を確保できます。
ただし、事実婚では住宅ローン控除の連帯債務者としての要件が認められないケースもあるため、金融機関や税務署への事前確認が欠かせないでしょう。
子どもの認知と養育費の取り決め
事実婚の間に子どもが生まれた場合、父親による認知を早期に行うことで、子どもの相続権と扶養義務が法的に確定します。
養育費についても公正証書で取り決めておくことが、万が一関係が解消された場合の子どもの生活保障に直結します。
まとめ
事実婚は、社会保障では法律婚とほぼ同等の保護を受けられる一方、税制と相続では配偶者としての優遇が一切適用されないという制度上の「ねじれ」があります。
特に相続では、法定相続権がないこと、相続税の2割加算、配偶者の税額軽減の不適用、小規模宅地等の特例の不適用が重なり、法律婚との経済格差は長期的に見ると数百万円から数千万円に及ぶ可能性があるでしょう。
事実婚を選択する場合は、遺言書の作成と生命保険の受取人指定を最優先で進め、社会保障の手続きに必要な証明書類(住民票・健康保険証等)を計画的に整備しておくことが、パートナーの生活を守るための具体的な一歩になります。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



