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独身・おひとりさまの老後資金はいくら必要?公的年金・任意後見・死後事務委任まで解説

国立社会保障・人口問題研究所の推計(2024年)によると、2050年には全世帯の44.3%が単独世帯となり、65歳以上の高齢単身世帯は約1,084万世帯に達する見通しとなっています。
総務省「家計調査」(2024年)では、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は月約14.9万円で、実収入との差額は月約2.8万円の不足です。夫婦世帯と異なり、遺族年金の受給が見込めない独身・おひとりさまの場合、老後資金の準備に加えて、認知症になった場合の財産管理や、亡くなった後の手続きを誰に託すかまで含めた備えが求められるでしょう。
この記事では、単身世帯に特化した老後の収支シミュレーションから、任意後見制度・死後事務委任契約の活用まで、公的制度を軸に解説していきます。
おひとりさまの老後を取り巻く現状

単身高齢世帯の増加は、未婚率の上昇を背景に今後さらに加速する見通しです。ここでは最新のデータから現状を確認しましょう。
単身世帯の増加と将来推計
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計」(2024年推計)によると、単独世帯は2020年の2,115万世帯から2036年に2,453万世帯でピークを迎え、2050年には2,330万世帯になると予測されています。
65歳以上の男性単身世帯に占める未婚者の割合は、2020年の33.7%から2050年には59.7%へ上昇する見込みであり、生涯未婚のまま高齢期を迎える方が多数派になりつつあるのが実情です。
出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」令和6年推計
独身者が直面する「3つの不在リスク」
夫婦世帯と比較して、おひとりさまが直面する特有のリスクは次の3点に整理できます。
・遺族年金の不在:配偶者や子がいない場合、遺族基礎年金・遺族厚生年金ともに受給対象者がいないため、老後の収入は自分自身の年金のみとなる
・意思決定の代行者の不在:認知症や要介護状態になった際に、入院・施設入所の手続きや財産管理を担う人がいない
・死後の手続きの担い手の不在:葬儀、納骨、各種契約の解約、遺品整理など、亡くなった後に発生する事務を引き受ける人がいない
これらのリスクに対しては、お金の準備だけでなく制度やサービスの活用が不可欠です。
単身高齢世帯の家計収支と必要資金

老後資金を考えるうえで、まず公的年金でどの程度カバーできるのかを把握することが出発点になります。
65歳以上・単身無職世帯の収支
総務省「家計調査」(2024年平均)によると、65歳以上の単身無職世帯の家計収支は以下のとおりです。
・実収入:134,116円/月
・消費支出:149,286円/月(うち食料42,085円、住居12,693円、光熱・水道14,490円、交通・通信14,935円)
・非消費支出(税・社会保険料):約1.3万円/月
・毎月の不足額:約2.8万円
この不足額がそのまま続くと仮定した場合、65歳から90歳までの25年間で約840万円、95歳までの30年間で約1,008万円を貯蓄から取り崩す計算になります。
ただし、これはあくまで平均値であり、住居費が持ち家の場合と賃貸の場合で状況は変わってきます。
持ち家と賃貸で変わる老後資金
上記の住居費12,693円は、持ち家率が高い高齢単身世帯の平均値です。賃貸住宅に住み続ける場合、住居費は月4〜6万円程度に増加する可能性があり、不足額は月5〜8万円に拡大します。
賃貸の場合、25年間で1,500万〜2,400万円程度の追加負担が見込まれるため、資金計画を早めに見直す必要があるでしょう。
夫婦世帯との違い:遺族年金がないことの影響
夫婦世帯では、一方が亡くなった後も遺族厚生年金(報酬比例部分の3/4)を受給でき、収入の激減を一定程度カバーできる仕組みがあります。
一方、独身者の場合はそもそも遺族年金の受給対象者がおらず、自分自身の老齢年金だけで生活を支え続ける必要がある点を認識しておくことが重要です。
国民年金のみの加入者(自営業者・フリーランスなど)の場合、老齢基礎年金の満額は令和8年度で年間847,300円(月額70,608円)にとどまります。
会社員であれば厚生年金が上乗せされるものの、単身の場合は夫婦世帯のように配偶者加給年金の加算もないため、現役時代からの資産形成が一層重要になってきます。
公的制度を活用した老後の備え

老後資金の不足を補う方法として、まず公的制度を最大限に活用することが基本となります。
年金の繰下げ受給で受給額を増やす
年金の受給開始を65歳から繰り下げると、1か月あたり0.7%、最大75歳まで繰り下げた場合は84%の増額が適用されます。たとえば、老齢基礎年金の満額を75歳から受給する場合、年間約156万円(月約13万円)になります。
単身者は配偶者の年金に頼れないぶん、繰下げ受給による増額効果はとくに有効な選択肢といえるでしょう。
ただし、繰下げ期間中は年金収入がないため、その間の生活費をまかなう貯蓄や就労収入が必要になります。繰下げは健康状態や資産状況を踏まえて判断することが大切です。
iDeCo・NISAの活用
独身者は扶養家族がいないぶん、可処分所得を資産形成に回しやすい側面もあります。iDeCo(個人型確定拠出年金)では掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税で受け取れるため、老後資金の準備と節税を同時に進められる制度です。
NISA(少額投資非課税制度)も生涯投資枠1,800万円まで運用益が非課税となるため、長期・分散投資による資産形成の軸として活用できます。
高額療養費制度と医療費の備え
病気やケガで医療費がかさんだ場合でも、高額療養費制度により月の自己負担に上限が設けられています。2026年8月からは上限額が引き上げられ、年収約370万〜約770万円の区分(区分ウ)では、月85,800円+(医療費−286,000円)×1%が新たな上限となりました(改定前は80,100円+1%)。
あわせて年間上限53万円(同区分)が新設され、長期療養で月々の上限には届かなくても、年間を通じた負担に歯止めがかかる仕組みが導入されています。
75歳以上の後期高齢者医療制度についても、2026年8月から一般所得者の外来上限が月18,000円から月22,000円に、入院を含む世帯合算の上限が月57,600円から月61,500円に引き上げられています。上限額は引き上げられたものの、医療費が青天井になるわけではありません。
民間の医療保険を検討する前に、こうした公的制度でカバーされる範囲を把握しておくことが、過剰な保険加入を防ぐ第一歩です。
認知症への備え:任意後見制度の活用

おひとりさまにとって、認知症になった場合に誰が財産管理や各種手続きを行うのかという問題は、資金面と同等かそれ以上に深刻な課題となります。
任意後見制度とは
任意後見制度は、判断能力が十分あるうちに、将来の後見人(任意後見受任者)と支援内容を自分で決めて契約しておく制度です。公正証書によって契約を結び、法務局に登記されるため、法的な効力が確保されています。
判断能力が低下した段階で家庭裁判所に申立てを行い、任意後見監督人が選任されると、契約の効力が発生する仕組みとなっています。
任意後見制度にかかる費用
任意後見制度を利用する際の主な費用は以下のとおりです。
・公正証書作成手数料:11,000円(公証人手数料令に基づく基本手数料)+登記嘱託手数料1,400円+書留郵便料等
・専門家への契約書作成依頼:10〜20万円程度(弁護士・司法書士に依頼する場合)
・任意後見監督人への報酬:月1〜3万円程度(本人の財産額や事務量に応じて家庭裁判所が決定)
任意後見監督人への報酬は本人の死亡まで続くため、利用期間が長くなるほど総額は膨らんでいきます。
仮に月2万円の報酬が15年間続いた場合、総額は約360万円となるため、この費用も老後資金に織り込んでおく必要があるでしょう。
法定後見制度との違い
何の準備もしないまま認知症が進行した場合、家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見制度」が適用されます。法定後見では、後見人を自分で選ぶことができず、弁護士や司法書士などの第三者専門家が選任されるケースが多いのが実情です。
自分の意思を反映した支援を受けるためには、判断能力が十分あるうちに任意後見契約を結んでおくことが望ましいといえます。
亡くなった後の備え:死後事務委任契約

遺言書は財産の行き先を決める手段ですが、葬儀の手配や契約の解約など、亡くなった後に発生する「事務手続き」はカバーできません。
おひとりさまにとっては、死後事務委任契約も重要な備えのひとつとなります。
死後事務委任契約で委任できる内容
死後事務委任契約では、以下のような手続きを第三者に委任できます。
・親族・関係者への死亡連絡
・葬儀・納骨の手配と執行
・役所への届出(死亡届等)
・病院・施設の費用精算と退去手続き
・公共料金・クレジットカード・各種サービスの解約
・遺品整理・自宅の原状回復
・デジタル遺品(SNSアカウント等)の処理
死後事務委任契約にかかる費用の目安
死後事務委任契約の費用は、契約内容や依頼先によって幅がありますが、一般的な目安を確認しておきましょう。
・契約書作成費用(専門家への依頼):10〜30万円程度
・公正証書作成手数料:11,000円+謄本手数料約3,000円
・死後事務の執行費用(葬儀代・遺品整理等の実費+受任者への報酬):100〜200万円程度
執行費用は生前に預託金として預ける方式と、遺言書を活用して遺産から支払う方式の2通りがあります。
預託金方式は確実性が高い反面、事業者の経営破綻リスクがある点に注意が必要です。
おひとりさまが備えておくべき費用の全体像

ここまでの内容を踏まえ、おひとりさまが老後に備えておくべき費用をまとめます。
必要資金の目安
・基本生活費の不足分:月2.8万円×25年(65〜90歳)=約840万円(賃貸の場合はさらに上乗せ)
・介護費用:一時費用+月々の自己負担で平均500万円前後
・任意後見制度の費用:月2万円×15年(仮定)=約360万円
・死後事務委任契約の費用:100〜200万円程度
・住宅修繕・医療の予備費:200〜300万円程度
これらを合算すると、持ち家の場合でも2,000〜2,200万円程度、賃貸の場合は3,000万円以上の備えが目安となります。
ただし、公的年金の受給額や退職金の有無、生活水準によって個人差が出るため、定期的に「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で自分の年金見込額を確認し、不足額を把握しておくことが大切です。
優先順位の考え方
すべてを一度に準備するのは困難なため、以下の優先順位で進めるのが合理的です。
・第1段階:生活防衛資金(生活費の6か月〜1年分)の確保
・第2段階:公的年金の受給見込額を確認し、iDeCo・NISAで資産形成を開始
・第3段階:任意後見契約と死後事務委任契約の締結(50〜60代のうちに)
・第4段階:遺言書の作成(法定相続人がいない場合は国庫帰属を防ぐため)
おひとりさまの老後資金計画で押さえておきたいポイント

最後に、おひとりさまならではの注意点を整理しておきましょう。
「身元保証」の問題に備える
入院や施設入所の際に身元保証人を求められるケースは少なくありません。身元保証人がいない場合は、身元保証サービスを提供する社会福祉協議会やNPO法人、民間事業者の活用を検討しておくと安心です。
ただし、民間事業者の中にはトラブル事例も報告されているため、契約内容と費用体系を事前にしっかり確認することが欠かせません。
エンディングノートの活用
遺言書は法的効力がある一方、葬儀の希望や友人への連絡先、デジタル関連のパスワードなどは記載できません。
エンディングノートにこれらの情報をまとめておくことで、任意後見人や死後事務の受任者がスムーズに対応でき、本人の希望を反映しやすくなります。
制度は「元気なうちに」準備する
任意後見契約は判断能力が十分あるうちにしか締結できず、認知症が進行してからでは手遅れになります。
死後事務委任契約も同様であり、50〜60代の健康なうちに弁護士・司法書士などの専門家に相談して準備を進めておくことが何よりも重要です。
まとめ
おひとりさまの老後資金計画は、単純な「貯蓄額の目安」だけでは済まない問題を含んでいます。
遺族年金がないぶん自分自身の年金と貯蓄で生活を維持する必要があり、認知症リスクへの任意後見制度の活用、亡くなった後の手続きを託す死後事務委任契約まで含めた包括的な備えが求められるでしょう。
まずは「ねんきん定期便」で自分の年金見込額を確認し、不足額を具体的に把握するところから始めてみてはいかがでしょうか。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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