税金(一般的な内容)
退職金の税金はいくら?退職所得控除の計算方法・iDeCoとの重複問題・確定申告が必要なケースを解説

退職金は退職所得として分離課税され、退職所得控除によって税負担が軽減される仕組みになっています。国税庁のタックスアンサーNo.1420によると、退職所得の計算式は「(収入金額-退職所得控除額)×1/2」であり、勤続年数が長いほど控除額が増えるのが特徴です。一方、令和7年度税制改正により、iDeCoなどの確定拠出年金と退職金の受取順やタイミングによって控除額が調整される「10年ルール」が2026年1月から適用されました。この記事では、退職所得控除の計算方法から、iDeCoとの重複問題、確定申告が必要になるケースまで、退職金にかかる税金の実務的なポイントを整理します。
退職所得の計算方法と退職所得控除の仕組み

退職金にかかる税金は、給与所得などとは分けて計算される「分離課税」の対象です。ここでは退職所得控除の計算方法と、勤続年数のカウントルールを確認しましょう。
退職所得の基本的な計算式
退職所得の金額は、次の計算式で求めます。
(退職金の額-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
この計算式のポイントは2つあります。まず、退職所得控除によって一定額が差し引かれること。そして、控除後の金額がさらに2分の1になるため、同じ金額を給与で受け取る場合と比べて税負担が軽くなる設計になっています。退職所得は他の所得と合算せず、単独で税額を計算するため、累進課税の影響を受けにくい点も特徴でしょう。
出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
退職所得控除額の計算方法
退職所得控除額は、勤続年数に応じて次のように計算します。
・勤続年数20年以下の場合:40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
・勤続年数20年超の場合:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
たとえば勤続年数が30年の場合、800万円+70万円×10年=1,500万円が控除額となります。退職金が1,500万円以下であれば、退職所得はゼロとなり税金はかかりません。
勤続年数の端数は「切り上げ」になる
勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1年に切り上げて計算します。たとえば勤続10年2か月であれば、勤続年数は「11年」として40万円×11年=440万円が控除額です。退職の時期が数か月ずれるだけで控除額が40万円(もしくは70万円)変わるケースもあるため、退職時期の検討は手取り額に直結するでしょう。
なお、障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、通常の退職所得控除額に100万円が加算されます。
1/2課税が適用されないケース

退職所得の計算では原則として1/2課税が適用されますが、例外として1/2計算が制限される場合があります。
特定役員退職手当等(役員等の勤続5年以下)
法人の取締役・監査役・理事などの役員等としての勤続年数が5年以下の場合、支払を受ける退職手当等は「特定役員退職手当等」に該当します。この場合、退職金の額から退職所得控除額を差し引いた全額が退職所得の金額となり、1/2計算は適用されません。役員報酬を低く設定し退職金で多額に受け取る手法への租税回避防止措置として設けられた制度です。
短期退職手当等(従業員の勤続5年以下)
役員等以外の従業員で、勤続年数が5年以下の場合に受け取る退職手当等は「短期退職手当等」に該当します。こちらは退職所得控除額を差し引いた残額のうち、300万円を超える部分について1/2計算が適用されない仕組みです。300万円以下の部分は通常どおり1/2計算が適用されるため、特定役員退職手当等ほど厳しい制限ではありません。令和4年1月1日以後の退職金から適用されています。
転職を複数回繰り返す働き方が増えるなかで、この制度の影響を受ける方も少なくないでしょう。短期間の勤務で退職金を受け取る場合は、税額が想定より多くなる可能性がある点に注意が必要です。
iDeCo・企業型DCとの退職所得控除の重複問題

iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DCの老齢給付金を一時金で受け取る場合も、退職所得として課税されます。退職金とDC一時金の両方を受け取る場合、受取順序とタイミングによって退職所得控除の適用額が変わるため、事前の検討が欠かせません。
令和7年度税制改正で「5年ルール」が「10年ルール」に
令和7年度税制改正大綱により、DC一時金を先に受け取り、その後に退職手当等を受け取る場合の調整期間が拡大されました。改正前は退職手当等を受ける年の「前年以前4年以内」にDC一時金を受給していなければ、それぞれ独立して退職所得控除を適用できていました(いわゆる「5年ルール」)。改正後は、この期間が「前年以前9年以内」に延長され、実務上10年以上の間隔を空けなければ控除が調整されることになります。
この改正は2026年1月1日以後にDC一時金の支払を受け、同日以後に支払を受けるべき退職手当等について適用されます。
受取順序で異なる調整期間
退職金とDC一時金を別々の年に受け取る場合、受取順序によって調整期間が異なります。
・DC一時金を先に受取→その後に退職金を受取:前年以前9年以内(改正後の10年ルール)
・退職金を先に受取→その後にDC一時金を受取:前年以前19年以内(改正前から変更なし)
退職金を先に受け取り、後からDC一時金を受け取るパターンでは19年ルールが適用されるため、ほとんどのケースで調整の対象となります。一方、DC一時金を先に受け取るパターンでは10年以上空ければ調整を回避できるため、受取順序の検討が重要になるでしょう。
公的年金等控除の活用という選択肢
DC一時金を一時金ではなく年金形式で受け取る場合は、退職所得ではなく雑所得として「公的年金等控除」の対象になります。たとえば65歳以上であれば公的年金等の収入金額が110万円以下の場合は課税対象外です。退職所得控除の重複が問題になるケースでは、一時金と年金を併用して受け取ることで、全体の税負担を抑えられる可能性もあります。ただし、年金受取の場合は国民健康保険料や介護保険料の算定基礎に含まれるため、社会保険料の負担も含めた総合的な判断が求められるでしょう。
「退職所得の受給に関する申告書」と確定申告

退職金を受け取る際には「退職所得の受給に関する申告書」の提出が重要な手続きとなります。この書類の提出の有無によって、源泉徴収のされ方が変わります。
申告書を提出した場合
勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合、勤務先が退職所得の金額に応じた正規の税額を計算し、退職金の支払時に源泉徴収を行います。この場合、原則として確定申告は不要です。ただし、医療費控除やふるさと納税の確定申告をする場合は、退職所得の金額も申告書に記載する必要があります。
申告書を提出しなかった場合
申告書を提出しなかった場合、退職金の支払金額に対して一律20.42%の税率で所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます。たとえば退職金が2,000万円であれば約408万円が源泉徴収されることになりますが、正規の計算では税額がこれよりも低くなるケースがほとんどです。この差額を取り戻すには、受給者本人が確定申告を行って精算する必要があるため、申告書の提出を忘れた場合は必ず確定申告で対応しましょう。
令和8年からの源泉徴収票提出義務の拡大
令和7年度税制改正により、2026年1月1日以後に提出すべき退職所得の源泉徴収票については、退職手当等の支払を受けるすべての居住者が税務署への提出対象となりました。改正前は法人の役員のみが対象でしたが、一般の従業員も含めて義務化の対象です。また、DC一時金に係る「退職所得の受給に関する申告書」の保存期間も、従来の7年から10年に延長されました。
退職後の公的保障も含めた手取り最大化の考え方

退職金の手取り額を検討する際は、税金の計算だけでなく退職後に利用できる公的保障も踏まえた判断が重要です。
退職後に利用できる主な公的制度
退職後の生活を支える公的制度として、以下のような仕組みがあります。
・雇用保険の基本手当(失業給付):自己都合退職の場合、給付制限期間を経て所定給付日数分の手当を受給可能
・傷病手当金の継続給付:在職中に受給していた場合、退職後も一定条件のもとで最長1年6か月まで継続受給が可能
・国民健康保険料の減免:会社都合の退職(特定受給資格者等)の場合、前年の給与所得を30/100として保険料を算定する軽減措置がある
・高額療養費制度:退職後も医療費の自己負担に上限が設けられ、年収に応じた限度額が適用される
退職金を取り崩す前にこれらの公的保障を把握しておくことで、退職金を生活費の補填ではなく老後資金として温存する計画が立てやすくなるでしょう。
退職金の受取時期を調整する際の注意点
iDeCoとの控除重複を避けるために退職金の受取時期を調整する場合は、勤務先の退職金規程で受取時期の繰り下げが認められているかを確認する必要があります。また、再雇用制度を利用して勤続年数を延ばすことで退職所得控除額を増やせる可能性もありますが、再雇用期間中の収入や社会保険料、在職老齢年金の支給停止基準なども考慮したうえで判断することが望ましいでしょう。
まとめ
退職金は退職所得控除と1/2課税により税負担が軽減されますが、勤続年数5年以下の短期退職や、iDeCo・企業型DCとの重複がある場合には注意が必要です。特に2026年1月以降は、DC一時金を先に受け取ってから退職金を受け取る場合の調整期間が5年から10年に延長されたため、受取順序やタイミングの検討がこれまで以上に重要になっています。「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合は20.42%の源泉徴収となり、確定申告での精算が必須となるため、手続き面の確認も欠かせないポイントです。退職後に利用できる公的保障も含めて、退職金の受取方法を総合的に判断しましょう。
出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
出典:国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」
出典:財務省「令和7年度税制改正の大綱」
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



