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親の介護費用はいくら必要?平均総額約542万円の内訳と公的介護保険・自己負担の軽減制度・資金準備の方法をわかりやすく解説

生命保険文化センターの「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護にかかる一時費用の平均は47.2万円、月額費用の平均は9.0万円、平均介護期間は55.0か月(4年7か月)で、これらを合計した介護費用の総額は約542万円に達しています。
一方、公的介護保険制度を利用すれば介護サービスの自己負担は原則1割(一定所得以上は2割または3割)に抑えられるほか、高額介護サービス費制度により一般的な課税世帯(課税所得380万円未満)であれば月額の自己負担上限は44,400円に制限される仕組みがあります。
介護費用への備えを考えるにあたっては、まず公的制度でどこまでカバーできるかを正確に把握し、そのうえで不足する部分に対して貯蓄や民間保険で手当てするという順序が合理的でしょう。この記事では、介護費用の実態と内訳、公的介護保険制度の仕組み、自己負担を軽減する各種制度、介護と仕事の両立を支える介護休業給付金、そして介護費用の資金準備に向けた考え方を解説します。
介護費用の実態:平均額と内訳

介護にかかる費用は「介護が始まるときに一度だけ発生する一時費用」と「毎月継続的にかかる月額費用」の2つに分けて把握することが重要です。ここでは最新の調査データをもとに、介護費用の全体像を確認しましょう。
一時費用と月額費用の平均
生命保険文化センターの調査によると、住宅改修やベッドの購入などの一時費用は平均47.2万円となっています。一方、介護サービスの利用料やおむつ代などの月額費用は平均9.0万円で、分布をみると月15万円以上が19.3%と最も多く、次いで月1万〜2万5,000円未満が15.1%を占めるなど、二極化の傾向が読み取れるでしょう。
この二極化の背景にあるのは、在宅介護と施設介護の費用差です。在宅介護の月額費用は平均5.3万円であるのに対し、施設介護の月額費用は平均13.8万円と約2.6倍の開きがあります。在宅と施設のどちらを選択するかによって、介護費用の総額は大幅に変わることになるでしょう。
平均介護期間と費用総額
同調査によると、介護を行った期間(介護中の場合は経過期間)の平均は55.0か月、つまり4年7か月に及びます。4年以上介護した人は全体の約4割を占め、10年以上という回答も14.8%存在するため、長期化するケースも十分に想定しておく必要があるでしょう。
一時費用47.2万円と月額費用9.0万円×55.0か月を合計すると、介護費用の総額は約542万円という計算になります。ただし、あくまで平均値であり、要介護度が高い場合や施設入所が長期にわたる場合は1,000万円を超えるケースも珍しくありません。
出典:生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」
公的介護保険制度の仕組みと自己負担

介護費用の大部分をカバーする基盤となるのが公的介護保険制度です。40歳以上の全国民が加入し、要介護認定を受けることで介護サービスを原則1〜3割の自己負担で利用できる社会保険制度であり、その仕組みを正確に理解することが介護費用の準備において最も重要なステップとなるでしょう。
介護保険の対象者と自己負担割合
介護保険の被保険者は、65歳以上の第1号被保険者と40歳〜64歳の第2号被保険者に分かれています。第1号被保険者は原因を問わず要介護認定を受けられますが、第2号被保険者は特定疾病(末期がん・脳血管疾患・初老期における認知症など16疾病)に限定されます。
介護サービスの自己負担割合は所得に応じて以下の3段階です。
・1割負担:合計所得金額が160万円未満の場合(大多数の高齢者が該当)
・2割負担:合計所得金額が160万円以上220万円未満で、年金収入+その他の合計所得金額が280万円以上(単身世帯)の場合
・3割負担:合計所得金額が220万円以上で、年金収入+その他の合計所得金額が340万円以上(単身世帯)の場合
65歳以上の約9割は1割負担に該当しており、多くの方にとって介護サービスは1割の自己負担で利用できる制度設計となっています。
要介護度別の区分支給限度額
在宅で介護サービスを利用する場合、要介護度ごとに1か月あたりの利用上限額(区分支給限度額)が定められています。厚生労働省の介護サービス情報公表システムに基づく現行の限度額は以下のとおりです(1単位=10円の地域の場合)。
・要支援1:50,320円
・要支援2:105,310円
・要介護1:167,650円
・要介護2:197,050円
・要介護3:270,480円
・要介護4:309,380円
・要介護5:362,170円
たとえば要介護3で限度額いっぱいの270,480円分のサービスを利用した場合、1割負担であれば自己負担額は約27,048円となります。限度額を超えた分は全額自己負担となるため、ケアマネジャーと相談しながら限度額の範囲内でケアプランを組み立てることが費用管理の基本です。
出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」
介護費用の自己負担を軽減する3つの制度

公的介護保険には、利用者の自己負担が過重にならないよう複数のセーフティネットが用意されています。これらの制度を知らずに全額を自己負担していると、本来受けられるはずの給付を見逃すことになりかねません。
高額介護サービス費
1か月の介護サービスの自己負担額(1〜3割)が所得に応じた上限額を超えた場合、超過分が「高額介護サービス費」として払い戻される制度です。所得区分別の負担上限額は以下のとおりとなっています。
・生活保護受給者:月額15,000円(個人)
・住民税非課税世帯で公的年金等収入額+その他の合計所得金額が80.9万円以下:月額15,000円(個人)、世帯合計24,600円
・住民税非課税世帯(上記以外):世帯合計24,600円
・一般的な課税世帯(課税所得380万円未満):世帯合計44,400円
・課税所得380万円以上690万円未満:世帯合計93,000円
・課税所得690万円以上:世帯合計140,100円
たとえば、一般的な課税世帯(課税所得380万円未満)に属する方が要介護5のサービスを限度額いっぱいまで利用し、1割負担で月36,217円を支払った場合、上限の44,400円以内に収まるため高額介護サービス費の払い戻しは発生しない計算です。一方、2割負担で月72,434円を支払った場合は、44,400円を超えた28,034円が高額介護サービス費として払い戻されます。
なお、この上限額には施設の居住費・食費・日常生活費は含まれない点に注意が必要です。
特定入所者介護サービス費(補足給付)
介護保険施設やショートステイを利用する場合、住民税非課税世帯で預貯金等が一定額以下の方には、食費・居住費について所得段階に応じた負担限度額が設けられ、超過分が介護保険から給付される制度(補足給付)があります。利用にあたっては市区町村への「負担限度額認定」の申請が必要です。
たとえば、特別養護老人ホーム(特養)の多床室を利用する場合、一般的には居住費と食費だけで月5〜6万円程度かかりますが、住民税非課税世帯に該当すれば月1〜3万円程度に軽減されるケースがあります。親の預貯金や年金収入が少ない場合には、必ず市区町村の窓口で認定の可否を確認しましょう。
高額医療・高額介護合算療養費制度
1年間(8月1日〜翌年7月31日)の医療保険と介護保険の自己負担額を合算し、世帯の所得区分に応じた年間限度額を超えた場合に超過分が支給される制度です。医療と介護の両方を利用している世帯にとっては、年間ベースで負担が軽減される仕組みとなっています。
申請は医療保険者と介護保険者(市区町村)の両方に行う必要があるため、手続きを忘れないよう留意する必要があるでしょう。
介護と仕事の両立を支える介護休業給付金

親の介護が始まると、費用面だけでなく「仕事を続けられるかどうか」という問題に直面するケースが少なくありません。厚生労働省の「雇用動向調査」(2024年)によると、介護・看護を理由に離職した人は年間約9.3万人に上りますが、離職すれば収入が途絶え、介護費用の原資そのものを失うことになります。介護離職を防ぐためにまず知っておくべき制度が介護休業と介護休業給付金です。
介護休業制度の概要
育児・介護休業法に基づき、要介護状態にある家族を介護するために、対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限に分割して休業を取得する権利が保障されています。対象となる家族は、配偶者、父母(養父母含む)、子(養子含む)、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫です。
2025年4月施行の改正育児・介護休業法により、企業に対して介護休業制度の周知や従業員への意向確認が義務付けられたため、以前よりも制度を利用しやすい環境が整いつつあります。
介護休業給付金の支給額と条件
介護休業期間中に雇用保険から支給される給付金で、支給額は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」で算出されます。たとえば月給30万円の方が30日間の介護休業を取得した場合、支給額は約20.1万円となります(賃金の支払いがない場合)。
主な受給要件は以下のとおりです。
・雇用保険に加入していること
・介護休業開始前2年間に賃金支払基礎日数11日以上の月が12か月以上あること
・支給単位期間中の就業日数が10日以下であること
・休業中の賃金が賃金月額の80%未満であること
介護休業は「介護そのものを長期間行うため」というよりも、介護体制を整えるための準備期間として活用するのが制度の趣旨に沿った使い方といえるでしょう。93日間で、地域包括支援センターへの相談、ケアマネジャーの選定、介護サービスの手配、施設の見学・申し込みなど、仕事に復帰してからも介護が回る態勢を構築することが目標となります。
在宅介護と施設介護の費用比較

介護の場所を在宅にするか施設にするかは、費用面だけでなく介護者の負担や本人の状態によって判断すべきテーマですが、費用差の大枠を把握しておくことは資金準備の前提として欠かせません。
在宅介護の費用構造
在宅介護の月額費用は平均5.3万円で、主な内訳は訪問介護やデイサービスなどの介護サービス利用料(1〜3割負担分)、おむつ代などの日用品費、介護食や配食サービスの費用などです。住宅改修(手すりの設置やバリアフリー化)は介護保険の支給限度基準額20万円までの工事に対し、所得に応じて7〜9割(最大18万円)が給付されるため、初期費用も比較的抑えやすい構造になっています。
ただし、在宅介護の場合は家族の時間的・身体的負担が大きくなりやすい点を見落としてはいけません。介護者が仕事を減らしたり離職したりした場合の収入減少は、数字には表れにくい「隠れたコスト」です。
施設介護の費用構造
施設介護の月額費用は平均13.8万円で、介護サービス費の自己負担分に加えて居住費・食費・管理費・日常生活費などが発生します。施設の種類によって費用水準は大きく異なり、特別養護老人ホーム(特養)は月額8〜15万円程度、介護付き有料老人ホームは月額15〜35万円程度が目安となっています。
特養は要介護3以上が入所条件であり、費用は比較的安い一方で待機者が多く、入所まで数か月〜数年かかる地域も珍しくないのが実情です。施設選びにあたっては、費用だけでなく入所待ちの期間や立地、提供されるサービスの内容を総合的に検討する必要があるでしょう。
民間介護保険の必要性を冷静に判断する

公的介護保険の自己負担軽減制度を正確に把握したうえで、それでも不足する部分がある場合に初めて民間介護保険の検討が意味を持ちます。「介護費用が心配だから民間保険に入る」という順序ではなく、「公的制度でカバーできない部分がいくらか」を具体的に試算してから判断することが重要です。
民間介護保険が不要なケースもある
高額介護サービス費により一般的な課税世帯の月額自己負担上限は44,400円に抑えられるため、月5万円程度の介護費用を貯蓄や年金から捻出できる家計であれば、民間介護保険の優先度は必ずしも高くありません。まして、住宅ローンの返済が残っている場合やNISA・iDeCoによる老後資金の積立が十分でない段階で民間介護保険の保険料を支払うことは、家計全体のバランスを崩す要因になり得ます。
一方、介護期間が10年以上に及ぶリスクや、施設介護で月額20万円以上の費用が継続するケースに備えたい場合には、民間の介護保険や認知症保険が選択肢になるでしょう。判断の基準は「公的制度でカバーできない金額」と「現在の貯蓄・収入で対応できる金額」の差にあります。
介護費用の準備は「ライフプラン全体の優先順位」で考える
介護費用の準備を単独で考えるのではなく、家計全体のなかで位置づけることが合理的な判断につながります。優先順位の目安を以下に整理しました。
・第1段階:生活防衛資金の確保(生活費の6か月分以上の預貯金)
・第2段階:公的保障の正確な把握(介護保険・高額介護サービス費・医療保険・年金)
・第3段階:老後資金の積立(NISA・iDeCoの活用)
・第4段階:不足部分への手当て(貯蓄の上乗せ、必要に応じて民間介護保険の検討)
親の介護に備える最も確実な方法は、まず自分自身の家計を安定させることです。住宅ローンの繰り上げ返済や老後資金の積立を後回しにして民間介護保険に加入すると、結果的に親の介護が始まったときに「保険はあるが貯蓄がない」という事態に陥りかねません。
今からできる介護費用の備え方

介護が必要になる前の段階から準備しておくことで、実際に介護が始まったときの混乱を最小限に抑えることができます。
親の資産と公的保障を把握しておく
介護費用の多くは、介護を受ける本人の年金や貯蓄から捻出されるのが一般的です。親がどのくらいの年金を受給しているか、預貯金や保険がどの程度あるかを事前に把握しておくことが、費用計画の出発点となります。話題にしづらいテーマですが、親の健康なうちにエンディングノートの作成とあわせて情報を共有しておくのが理想的でしょう。
地域包括支援センターの存在を知っておく
各市区町村に設置されている地域包括支援センターは、介護に関する総合相談の窓口です。要介護認定の申請手続き、ケアマネジャーの紹介、利用できるサービスの案内など、介護の入口で必要な情報を無料で得られる場所であり、介護が現実の問題になってから探すのではなく、「親の住む地域にどこにあるか」をあらかじめ調べておくだけで、いざというときの初動が変わります。
介護費用の目安を試算しておく
平均的なケースで考えると、月額9万円×55か月+一時費用47万円=約542万円が介護費用の目安です。ただし、高額介護サービス費の上限(一般課税世帯44,400円/月)を考慮すると、在宅介護であれば月額の介護保険サービスの自己負担は4〜5万円程度に収まるケースが多くなります。親の年金月額が10万円以上あれば、介護サービスの自己負担分は年金から賄える可能性が高いでしょう。
一方、施設入所の場合は居住費・食費を含めて月額10〜20万円程度が見込まれるため、年金だけでは不足するケースがあります。不足分を親の貯蓄で何年カバーできるかを試算し、それでも足りない場合にどう対応するかを事前に考えておくことが肝要です。
まとめ
介護費用の平均総額は約542万円(一時費用47.2万円+月額9.0万円×55か月)と決して小さくない金額ですが、公的介護保険制度の自己負担は原則1割であり、高額介護サービス費制度や補足給付制度によって実際の負担は抑えられる仕組みが整っています。介護と仕事の両立においては介護休業給付金(賃金の67%、通算93日)が利用でき、介護離職を避けることが経済的な安定を守るうえで最も重要な判断です。まずは公的保障でカバーできる範囲を正確に把握し、親の年金・貯蓄で対応できる部分を整理したうえで、ご自身の家計全体のなかで生活防衛資金→老後資金→介護への備えという優先順位で資金を準備していくことが、長期的に見て最も現実的なアプローチとなるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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