相続
相続税はいくらからかかる?基礎控除・計算方法・小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減をわかりやすく解説

相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、令和6年分の課税割合は10.4%と過去最高を記録しました。これは昭和42年分以降で初めて10%を超えた水準で、亡くなった方のおよそ10人に1人が相続税の申告対象となっている計算です。
一方で、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減といった制度を正しく活用すれば、相続税を大幅に抑えられるケースも少なくありません。
この記事では、相続税の計算の流れから主要な特例・控除、さらに遺族年金などの公的保障を含めた二次相続対策まで、判断に必要なポイントを解説します。
相続税の基礎控除と課税の仕組み

相続税がかかるかどうかは、まず基礎控除額を超えるかどうかで判断します。ここでは計算の出発点となる基礎控除の仕組みと、税額の算出までの流れを確認しましょう。
基礎控除額の計算方法
相続税の基礎控除額は、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)で計算されます。
たとえば配偶者と子2人の計3人が法定相続人の場合、基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。正味の遺産額がこの金額以下であれば、相続税はかかりません。
法定相続人の数え方には注意点があり、相続放棄をした人がいても「放棄がなかったものとした場合の人数」で計算します。また、養子がいる場合は、実子がいれば養子1人まで、実子がいなければ養子2人までが法定相続人に含められる上限です。
相続税の税率と速算表
相続税は、遺産の総額にそのまま税率をかけるのではなく、課税遺産総額を法定相続分で按分した後に、それぞれの取得金額に応じた税率を適用する仕組みです。
税率は10%(1,000万円以下)から最高55%(6億円超)までの8段階に分かれており、超過累進課税方式が採用されています。
たとえば法定相続分に応ずる取得金額が3,000万円の場合、税率15%・控除額50万円を適用して400万円と計算します。各法定相続人について算出した税額を合計したものが「相続税の総額」となり、実際の相続割合に応じて各人に按分される流れです。
相続税がかかる人の割合
国税庁の報道発表資料によると、令和6年分の被相続人数(死亡者数)約160.5万人のうち、相続税の申告書の提出があったのは約16.7万人で、課税割合は10.4%でした。
平成27年の基礎控除引き下げ以降、課税割合は上昇を続け、令和6年分で初めて10%を超えており、もはや「相続税は一部の富裕層だけの問題」とはいえない状況になっています。
被相続人1人あたりの課税価格は平均1億4,025万円、税額は平均1,946万円です。
小規模宅地等の特例で土地の評価額を最大80%減額

相続財産に自宅や事業用の土地が含まれている場合、小規模宅地等の特例を使うことで相続税の課税価格を大幅に引き下げられる可能性があります。対象となる宅地の種類と限度面積・減額割合は以下のとおりです。
特定居住用宅地等(自宅の敷地)
被相続人が住んでいた自宅の敷地について、330㎡まで評価額が80%減額される特例です。
たとえば評価額5,000万円・面積300㎡の自宅敷地の場合、全面積が330㎡以内のため、5,000万円×80%=4,000万円が減額され、課税上の評価額は1,000万円となります。
適用を受けられるのは、配偶者、被相続人と同居していた親族、または「家なき子」と呼ばれる一定の要件を満たす別居の親族に限られています。配偶者は無条件で適用対象となる一方、同居親族は相続税の申告期限までの居住・保有の継続が要件です。
家なき子特例の適用要件と注意点
配偶者も同居親族もいない場合に限り、被相続人と別居していた親族でも特定居住用宅地等の特例を受けられるのが、いわゆる「家なき子特例」です。
主な要件は、相続開始前3年以内に自分や配偶者、3親等以内の親族などが所有する家屋に居住していないこと、相続開始時に住んでいる家屋を相続開始前に自分が所有していたことがないこと、相続税の申告期限まで保有を継続することなどが挙げられます。
住民票だけを移しても同居とは認められない点に注意が必要で、居住の実態がなければ同居親族としての適用は受けられません。また、持ち家のある親族がわざと名義を変更して要件を満たそうとするケースへの対策は、平成30年度の税制改正で手当て済みです。
事業用宅地等・貸付事業用宅地等
被相続人が事業(貸付を除く)に使っていた土地は「特定事業用宅地等」として400㎡まで80%減額、賃貸アパートなど貸付事業に使っていた土地は「貸付事業用宅地等」として200㎡まで50%減額の対象となります。
特定居住用宅地等と特定事業用宅地等は完全併用が可能で、最大730㎡(330㎡+400㎡)まで特例を適用できるのが特徴です。
一方、貸付事業用宅地等を含む場合は調整計算が必要になり、限度面積の計算が複雑になります。また、相続開始前3年以内に新たに貸付を始めた土地は原則として対象外となるため、短期間での駆け込み貸付は効果がない点にも留意が必要でしょう。
配偶者の税額軽減と二次相続リスク

配偶者の税額軽減は相続税の負担を大幅に軽減できる制度ですが、使い方を誤ると次の相続(二次相続)で家族全体の税負担が増える可能性があります。制度のメリットとリスクの両面を把握しておくことが重要です。
配偶者の税額軽減の仕組み
配偶者の税額軽減とは、被相続人の配偶者が実際に取得した正味の遺産額が、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは相続税がかからない制度です。
たとえば遺産総額が2億円で法定相続分(1/2)の1億円を配偶者が取得した場合、1億6,000万円以下のため配偶者の相続税はゼロになります。
ただし、この制度を利用するためには相続税の申告書を税務署に提出する必要がある点に注意してください。
「配偶者の税額軽減で税額がゼロになるから申告不要」と誤解して申告しないと、軽減が適用されず本来不要な相続税を支払うことになりかねません。
二次相続で税負担が増えるケース
配偶者の税額軽減を最大限に使って一次相続(最初の相続)の税負担を抑えると、配偶者の財産が膨らんだ状態で次の相続(二次相続)を迎えることになります。
二次相続では法定相続人の数が1人減り、基礎控除額も600万円少なくなるうえに、配偶者の税額軽減は使えません。
結果として、一次・二次の合計で見ると配偶者が多くの財産を取得するよりも、一次相続の段階で子に一定の財産を渡したほうが税負担を抑えられるケースも珍しくないのが実情です。遺産分割を決める際は、一次相続だけでなく二次相続までのトータルの税額をシミュレーションすることが判断の出発点になるでしょう。
生命保険金・死亡退職金の非課税枠

相続税の計算では、被相続人の死亡によって支払われる生命保険金や死亡退職金も課税対象に含まれます。
ただし、それぞれ「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設けられており、法定相続人が3人であれば保険金・退職金ともに1,500万円までは課税されません。
生命保険金は現金で受け取れるため、相続税の納税資金としても活用しやすい点がメリットです。一方で、保険料の支払者・被保険者・受取人の組み合わせによって課税される税金の種類が変わる(所得税・贈与税になる場合がある)ため、加入前に契約形態を確認しておくことが欠かせません。
公的保障から考える相続後の生活設計

相続税対策を考える際に見落としがちなのが、残された家族が受けられる公的保障の存在です。遺族年金をはじめとする公的な給付を把握したうえで、民間の生命保険や遺産分割の方法を決めるという順序が合理的といえます。
遺族年金でカバーできる範囲
会社員の配偶者が亡くなった場合、子のいる配偶者は遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受給できる可能性があります。
令和8年度の遺族基礎年金は年額847,300円に子1人あたり243,800円の加算(第1子・第2子)が付き、子1人の場合は年額約109万円です。
これに遺族厚生年金が上乗せされます。遺族厚生年金の額は被相続人の報酬水準や厚生年金の加入期間によって変動するため、実際の受給額には幅があります。
子のいない65歳未満の配偶者(妻)には、遺族厚生年金に加えて中高齢寡婦加算(年額635,500円)が支給される場合もあるため、公的保障の全体像を把握してから遺産分割や保険の必要額を検討するのが効果的でしょう。
出典:日本年金機構「遺族基礎年金」/日本年金機構「遺族厚生年金」
遺産分割と公的保障の組み合わせで考える
配偶者の税額軽減を使って配偶者が多くの遺産を取得するか、二次相続を見据えて子に多く渡すかは、公的保障の受給額を含めた生活設計によって判断が変わります。
たとえば遺族年金で生活費の大部分をまかなえる場合は、配偶者が取得する遺産を抑えて子に多く渡したほうが、家族全体の税負担を軽減できる可能性が高くなるでしょう。
反対に、自営業者の遺族のように遺族基礎年金しか受給できないケースでは、配偶者の生活資金を確保する必要性が高く、税額軽減を最大限に活用して配偶者の手元資金を厚くするほうが合理的な場合もあります。「税負担の最小化」だけを目的にするのではなく、公的保障を含めた家族全体の生活設計をベースに判断することが重要です。
相続税の申告期限と手続きの注意点

相続税の申告・納税期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
この期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が発生するだけでなく、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減といった有利な制度が使えなくなるリスクもあります。
「特例適用=税額ゼロ」でも申告は必要
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使うことで結果的に相続税がゼロになるケースでも、申告書の提出は必須です。申告しなければ特例の適用が認められず、本来は不要だったはずの相続税を課されてしまいます。これは実務上もっとも多いミスのひとつといわれており、「税額ゼロ=申告不要」と思い込まないよう注意が求められます。
遺産分割が間に合わない場合の対処法
申告期限までに遺産分割がまとまらない場合、配偶者の税額軽減は原則として適用できません。
ただし、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出し、3年以内に分割が確定すれば、更正の請求によって軽減を受けることが可能です。
遺産分割に時間がかかりそうな場合は、いったん法定相続分で仮の申告を行い、分割確定後に精算する方法が実務上の一般的な対応となっています。
まとめ:相続税は「全体像の把握」から始める
相続税は基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える遺産に対して課税され、税率は10%〜55%の超過累進課税方式で計算されます。
小規模宅地等の特例(居住用330㎡まで80%減額)や配偶者の税額軽減(1億6,000万円 or 法定相続分まで非課税)といった制度を活用すれば税負担を大幅に抑えることが可能ですが、いずれも申告書の提出が前提条件です。
配偶者の税額軽減を最大限に活用する場合は、二次相続まで見据えたシミュレーションが欠かせません。さらに、遺族年金や高額療養費などの公的保障も視野に入れて遺産分割の方針を決めることが、家族全体の生活と資産を守るための判断の出発点になるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



