税金(一般的な内容)
インボイス2割特例終了後はどうなる?3割特例・簡易課税との比較と副業者の判断基準を解説

インボイス制度の導入にともなう負担軽減措置として設けられた「2割特例」は、国税庁によると令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間が適用期限となっています。個人事業者の場合、令和8年(2026年)分の確定申告が最後の適用となり、令和9年分以降は別の方法を選ばなければなりません。
令和8年度税制改正大綱(令和7年12月閣議決定)では、個人事業者に限り納税額を売上税額の3割とする経過措置が令和9年・令和10年分に設けられる見込みですが、この措置も2年間限定であり、最終的には本則課税か簡易課税かの選択を迫られることになります。
この記事では、2割特例終了後に取るべき選択肢の比較、簡易課税制度との損得分岐点、副業者がインボイス登録を続けるべきかの判断基準について解説します。
2割特例の仕組みと終了スケジュール

2割特例の終了後に取るべき行動を判断するためには、まず現行の特例の仕組みと終了タイミングを正確に把握しておくことが重要です。
2割特例の概要と適用要件
2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった方を対象に、消費税の納付税額を売上税額の2割に抑えられる経過措置です。正式には「インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置」と呼ばれています。
適用を受けるための主な要件は、インボイス発行事業者の登録がなければ免税事業者であること、つまり基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円以下であることが条件となっています。
事前の届出は不要で、消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記するだけで利用でき、課税期間ごとに適用するかどうかを選択できる柔軟な制度でしょう。
出典:国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」
個人事業者の適用は令和8年分の確定申告まで
2割特例の適用期限は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間です。個人事業者の場合、課税期間は暦年(1月1日〜12月31日)であるため、令和8年(2026年)分の確定申告が最後の適用対象となります。
令和8年分は9月30日までしか特例期間に含まれませんが、課税期間全体に適用できる仕組みです。
令和9年(2027年)分以降は2割特例が使えなくなるため、それまでに「3割特例を利用する」「簡易課税に移行する」「本則課税で申告する」「登録を取り消して免税事業者に戻る」のいずれかを判断する必要があります。
令和8年度税制改正で新設される3割特例の概要

令和8年度税制改正大綱(令和7年12月26日閣議決定)では、2割特例の終了にともなう激変緩和措置として、個人事業者向けの3割特例が盛り込まれました。関連法案の成立を前提とした内容となりますが、ここでは大綱に基づいて概要を整理します。
3割特例の適用対象と期間
3割特例は、個人事業者に限り、納付税額を売上税額の3割とすることができる措置です。適用期間は令和9年分および令和10年分の2年間限定の見込みとなっています。
これまで2割特例の対象だった個人事業者も含めて適用が可能とされており、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることなどの要件は2割特例と同様の方向です。
手続き面についても、2割特例と同様に事前の届出は不要で、確定申告書にその旨を付記することで適用できる方向性が示されています。
ただし、法人は3割特例の対象外となるため、法人化を検討している個人事業者は移行時期に注意が必要でしょう。
2割特例と3割特例の負担変化
売上にかかる消費税額を100とした場合、2割特例では納付税額が20だったものが、3割特例では30に増加します。
たとえば年間の課税売上が500万円(税込550万円)であれば、売上税額は50万円です。2割特例での納税額は10万円、3割特例では15万円となるため、年間5万円の負担増が生じる計算になるでしょう。
3割特例はあくまで2年間の激変緩和であり、令和11年分以降は本則課税か簡易課税のいずれかで申告することになります。3割特例の期間中に、自分の事業にとってどちらが有利かを見極めておくことが重要です。
簡易課税制度との損得分岐点

3割特例が終了した後の選択肢として、多くの小規模事業者にとって現実的な選択肢が簡易課税制度への移行です。ここでは、国税庁が定める事業区分ごとのみなし仕入率をもとに、どの業種で簡易課税が有利になるかを整理します。
みなし仕入率と実質納税率の関係
簡易課税制度では、実際の仕入税額を計算する代わりに、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を売上税額に乗じた金額を仕入税額として控除できます。国税庁(No.6505)によると、みなし仕入率は以下のとおりです。
・第1種事業(卸売業):みなし仕入率90%→実質納税率10%
・第2種事業(小売業):みなし仕入率80%→実質納税率20%
・第3種事業(製造業・建設業等):みなし仕入率70%→実質納税率30%
・第4種事業(飲食店業等):みなし仕入率60%→実質納税率40%
・第5種事業(サービス業・金融保険業等):みなし仕入率50%→実質納税率50%
・第6種事業(不動産業):みなし仕入率40%→実質納税率60%
3割特例と簡易課税の損得比較
3割特例の実質納税率は30%(売上税額の3割を納付)であるため、簡易課税と比較すると以下のように整理できます。
・第1種・第2種事業(卸売業・小売業):簡易課税の実質納税率が10〜20%のため、3割特例より簡易課税が有利
・第3種事業(製造業・建設業等):実質納税率30%で3割特例と同等
・第4種〜第6種事業(飲食店業・サービス業・不動産業):実質納税率40〜60%のため、3割特例が有利
フリーランスのライター、デザイナー、コンサルタント、プログラマーといったサービス業は第5種事業(みなし仕入率50%)に該当するケースが多く、簡易課税の実質納税率は50%です。
この場合、3割特例の30%と比べて簡易課税は不利となるため、3割特例が使える令和9〜10年は3割特例を選び、終了後に簡易課税へ移行するのが合理的な判断になります。
簡易課税への移行で知っておくべき届出の特例
簡易課税制度を適用するためには、原則として適用を受けたい課税期間の初日の前日まで(個人事業者なら前年12月31日まで)に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
ただし、国税庁(No.6505)によると、2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中に届出書を提出すれば、その翌課税期間から簡易課税を適用できる特例が設けられています。3割特例についても同様の「簡易課税への円滑な移行措置」が創設される方向です。
たとえば、個人事業者が令和10年分で3割特例を適用した場合、令和11年分について簡易課税の適用を受けるためには、令和11年中(令和11年12月31日まで)に届出書を提出すればよいことになります。
届出を忘れると本則課税が強制適用されるため、3割特例が使える期間中に移行先を決め、届出の準備を進めておくことが重要です。
免税事業者からの仕入控除の経過措置も変わる

インボイス制度の影響は「売り手」だけでなく「買い手」にも及びます。免税事業者からの仕入れに係る経過措置のスケジュールが変更された点も、登録を続けるかどうかの判断に影響する要素です。
買い手側の控除割合は段階的に縮小
インボイス制度の導入後、免税事業者からの仕入れについては一定割合を仕入税額として控除できる経過措置が設けられています。令和8年度税制改正大綱では、このスケジュールが以下のように見直される方向です。
・令和5年10月〜令和8年9月:80%控除(現行どおり)
・令和8年10月〜令和10年9月:70%控除(改正前は50%の予定だったものが緩和)
・令和10年10月〜令和12年9月:50%控除
・令和12年10月〜令和13年9月:30%控除
・令和13年10月以降:控除なし
加えて、1免税事業者ごとの年間適用上限仕入額が10億円から1億円に引き下げられる点も改正前から変更されています。
買い手側の負担変化が登録判断に与える影響
この経過措置の段階的縮小は、免税事業者側にとっても重要な意味を持っています。取引先(買い手)にとって、免税事業者との取引はインボイスがないため仕入税額控除ができず、その分がコスト増になります。
経過措置の控除割合が段階的に下がっていくほど、買い手側が負担するコスト増が拡大し、免税事業者との取引条件の見直しや値下げ交渉が増える可能性があるでしょう。
ただし、取引先が消費者(一般個人)の場合はそもそも仕入税額控除の問題が発生しないため、経過措置の縮小は影響しません。売上先が課税事業者中心か消費者中心かによって、登録を維持する必要性は変わってきます。
副業者がインボイス登録を続けるべきかの判断基準

会社員の副業としてフリーランス業を営む場合、インボイス登録を続けるかどうかは売上規模や取引先の属性によって判断が分かれます。
副業の消費税申告は、所得税の確定申告とは別に手続きが必要になる点にも留意が必要です。
取引先が課税事業者か消費者かで判断が変わる
インボイス登録を維持するかどうかの最も重要な判断基準は、主な取引先(売上先)が課税事業者か消費者かという点です。
・取引先が企業(課税事業者)中心の場合:インボイスを発行できないと取引先の仕入税額控除に影響し、取引条件の悪化や取引終了のリスクがあるため、登録を維持する合理性が高い
・取引先が消費者(個人客)中心の場合:消費者は仕入税額控除を行わないため、インボイスの有無は取引に影響しない。登録を取り消して免税事業者に戻ることで消費税の納付義務がなくなる
副業の場合、クラウドソーシングなどのプラットフォーム経由の仕事では、発注元が課税事業者であるケースが多いため、登録を維持する方向で判断することが多いでしょう。
一方、個人向けのハンドメイド販売や個人レッスンなどでは、登録を取り消す選択肢も十分に検討する価値があります。
売上規模が小さい場合は免税事業者に戻る選択肢も
副業の課税売上が年間200〜300万円程度の場合、消費税の納付額は2割特例で4〜6万円、3割特例で6〜9万円程度です。
この金額と、消費税の申告にかかる手間やコスト(会計ソフトの費用、申告書作成の時間など)を天秤にかけると、取引先への影響が限定的であれば免税事業者に戻った方が経済的に合理的なケースも少なくありません。
一方、副業の売上が成長しており、2年前の課税売上高が1,000万円を超える見込みがある場合は、いずれ課税事業者となるため、登録を維持した方がスムーズでしょう。
インボイス登録を取り消す場合の手続きと注意点

免税事業者に戻ることを選んだ場合、登録取消の手続きにはタイミングの制約があります。手続きが遅れると免税に戻れる時期が1年延びるため、スケジュールの把握は欠かせません。
登録取消届出書の提出期限
インボイス発行事業者の登録を取りやめるためには、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を税務署に提出します。
国税庁によると、登録の効力は届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間の初日に失われます。
ただし、翌課税期間の初日から起算して15日前の日を過ぎて提出した場合には、翌々課税期間の初日まで登録の効力が継続する点に注意が必要です。
個人事業者が令和10年1月1日から免税事業者に戻りたい場合、令和9年12月17日までに届出書を提出しなければなりません。1日でも遅れると令和11年1月1日まで課税事業者のままとなります。
出典:国税庁「D1-70 適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める手続」
登録取消後に再登録する場合の制約
登録を取り消した後に事業環境が変わり、再び登録が必要になった場合は、改めて登録申請書を提出することで再登録が可能です。
ただし、再登録の審査には一定の期間がかかるため、取引先からの要望に即座に対応できない可能性があります。
また、登録に係る経過措置(登録申請書の提出のみで課税事業者になれる措置)を利用して登録した場合、登録開始日以後2年を経過する日の属する課税期間までは免税事業者に戻れないという制約がある点にも注意が必要です。
2割特例終了後の選択を整理するための判断フロー

2割特例の終了に向けて、自分の事業に合った選択をするためには、いくつかの判断ポイントを順番に確認していくことが有効です。
判断のステップ
まず確認すべきは、主な取引先が課税事業者か消費者かという点です。取引先の大半が消費者であれば、インボイスの必要性自体が低いため、登録を取り消して免税事業者に戻ることを検討しましょう。
取引先が課税事業者中心の場合は、登録を維持したうえで、3割特例(令和9〜10年分)を活用しながら、簡易課税への移行準備を進めるのが基本方針となります。
その際、自分の事業がどの事業区分に該当するかを確認し、みなし仕入率から実質的な納税率を把握しておくことが重要でしょう。
簡易課税の実質納税率が30%以下(第1種〜第3種事業)であれば、3割特例の期間中でも簡易課税を選んだ方が有利になるケースもあります。
一方、サービス業(第5種、実質納税率50%)や不動産業(第6種、実質納税率60%)に該当する場合は、3割特例が使える間は3割特例を活用し、終了後に簡易課税へ移行する流れが合理的です。
本則課税が有利になるケース
実際の課税仕入れが多い事業、たとえば材料費や外注費の割合が高い製造業や建設業では、簡易課税のみなし仕入率よりも実際の仕入率の方が高い場合があります。
この場合は本則課税(原則課税)を選んだ方が納税額が少なくなりますが、インボイスの保存や帳簿の記帳が正確に求められるため、事務負担は増加するでしょう。
また、高額な設備投資を行った年には、仕入税額控除が売上税額を上回り、消費税が還付されるケースもあるでしょう。簡易課税を選んでいる場合は還付を受けられないため、多額の投資を予定している年は本則課税を視野に入れる必要があります。
ただし、簡易課税は一度選択すると原則2年間は変更できない点にも留意してください。
まとめ
インボイス制度の2割特例は令和8年分で終了し、個人事業者向けには令和9〜10年分に3割特例が設けられる方向です。3割特例の終了後は、簡易課税か本則課税のいずれかを選ぶことになり、自分の事業区分(みなし仕入率)を正確に把握したうえで損得を比較することが判断の出発点になります。
フリーランスのサービス業であれば3割特例→簡易課税の流れが基本となりますが、取引先が消費者中心の場合は免税事業者に戻る選択肢も合理的でしょう。
いずれの選択をするにしても、届出書の提出期限には十分注意し、期限切れによる不利益が生じないよう計画的に準備を進めることが重要です。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



