生命保険
相続対策と生命保険:非課税枠を活用した賢い財産承継

「生命保険が相続税対策に有効って聞くけど、どういう仕組みなの?」
相続は、誰にとっても避けては通れないテーマです。ご自身が築き上げた大切な財産を、できるだけ税金を抑えて、スムーズに家族へ引き継ぎたいと考えるのは自然なことでしょう。そこで、非常に有効な手段となるのが「生命保険」です。生命保険は、その独特の仕組みから、相続税対策として多くのメリットを持っています。
この記事では、生命保険を活用した賢い財産承継について解説します。生命保険金の非課税枠(500万円 × 法定相続人数)の活用、遺留分対策や納税資金の準備、そして契約者・被保険者・受取人の指定と税金の関係まで。生命保険で賢く相続対策を行うためのヒントを提案します。
生命保険金の非課税枠を活用する

生命保険金は、現金や不動産などと同様に相続財産として扱われますが、相続税の計算において、「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠が設けられています。
非課税枠の仕組みと計算方法
・非課税枠:生命保険金を受け取った場合、この非課税枠の金額までは相続税がかかりません。
・計算方法:例: 法定相続人が3人(配偶者と子ども2人)の場合、非課税枠は「500万円 × 3人 = 1,500万円」となります。
活用法:
・預貯金を現金として保有している場合、そのままでは相続税の対象となります。
・その預貯金の一部を使って、非課税枠の範囲内で生命保険に加入することで、財産を「現金」から「非課税の保険金」に変えることができます。これにより、相続税の負担を軽減できます。
納税資金の準備
・相続税の支払い:相続税は、原則として現金で一括納付する必要があります。不動産など、換金に時間がかかる財産が相続財産の多くを占める場合、納税資金の準備が大きな課題となります。
・生命保険で納税資金を確保:死亡保険金は、被保険者が亡くなった際に速やかに現金で支払われます。この保険金を納税資金として準備しておくことで、遺族が税金の支払いに困る事態を防ぐことができます。
遺留分対策や財産承継の柔軟性
生命保険は、相続税対策だけでなく、遺族間の争いを防ぐ「遺留分対策」や、財産の承継を柔軟に行う上でも有効な手段です。
遺留分対策としての活用
・遺留分とは:法律で定められた、法定相続人が最低限相続できる財産の割合です。たとえ遺言書で「全財産を長男に相続させる」と書いても、他の相続人は遺留分を主張できます。
・生命保険金の優位性:死亡保険金は、受取人固有の財産として扱われ、原則として遺留分の対象とはなりません。
活用法:相続人同士で資産の偏りが生じやすい場合、生命保険金を活用して、財産を多く相続させたい人には遺言で、公平性を保ちたい人には生命保険金で、というように財産の配分を柔軟に調整できます。
財産承継の柔軟性
・受取人指定の自由度:死亡保険金は、遺言書の内容よりも受取人指定が優先されます。これにより、遺言書とは別に、特定の人物に確実に財産を遺すことができます。
・内縁の配偶者などへの備え:法定相続人ではない内縁の配偶者などにも、受取人として指定することで財産を遺すことができます。
契約者、被保険者、受取人の指定と税金

生命保険金にかかる税金は、誰が契約者、被保険者、受取人になるかという3者の組み合わせによって変わります。
相続税がかかるケース(相続税非課税枠が適用)
・パターン:契約者=被保険者、受取人≠被保険者
例: 契約者(夫)、被保険者(夫)、受取人(妻)
・税務上の扱い:夫が亡くなった際、妻が受け取った死亡保険金は「みなし相続財産」として扱われ、相続税の対象となります。
・メリット:生命保険金の非課税枠が適用され、税負担を軽減できます。
所得税がかかるケース(一時所得)
・パターン:契約者=受取人≠被保険者
例: 契約者(夫)、被保険者(妻)、受取人(夫)
・税務上の扱い:妻が亡くなった際、夫が受け取った死亡保険金は「一時所得」として扱われ、所得税・住民税の対象となります。
・注意点:
・相続税の非課税枠は適用されません。
・しかし、受け取った保険金が払い込んだ保険料総額を大きく上回らない限り、税金がかからないケースもあります。
贈与税がかかるケース(税負担が重い)
・パターン:契約者≠被保険者≠受取人
例: 契約者(夫)、被保険者(妻)、受取人(子)
・税務上の扱い:妻が亡くなった際、子(受取人)が受け取った死亡保険金は、保険料を支払った夫からの「贈与」とみなされ、贈与税の対象となります。
・注意点:贈与税の基礎控除額は年間110万円と小さいため、多額の死亡保険金を受け取った場合、税負担が最も重くなります。 このパターンでの契約は避けるべきです。
まとめ:生命保険は「誰を誰に」で賢く相続対策
生命保険は、万が一の備えだけでなく、相続対策としても非常に有効な手段です。
・500万円×法定相続人の非課税枠を活用し、相続税を軽減しましょう。
・納税資金の準備や、遺族間の争いを防ぐ遺留分対策にも有効です。
・契約者、被保険者、受取人の組み合わせによってかかる税金が変わるため、最適な契約形態を選ぶことが重要です。
この記事を参考に、生命保険を賢く活用し、大切な財産をスムーズに家族へ承継するための準備を進めていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。