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健康保険とは?保険料の計算方法・7つの給付内容・任意継続・国民健康保険との違いをわかりやすく解説

健康保険は、企業などに勤務する方とその扶養家族が病気やケガをした際に医療費の自己負担を原則3割に抑える公的医療保険制度です。全国健康保険協会(協会けんぽ)の令和7年度の保険料率は全国平均で10.00%となっており、保険料は事業主と被保険者で折半(半分ずつ負担)する仕組みになっています。
医療費の負担軽減に加えて、高額療養費制度による月額自己負担の上限設定、病気やケガで働けないときの傷病手当金(給与のおよそ3分の2を最長18か月)、出産育児一時金(原則50万円)など、健康保険には医療費以外にも家計を支える給付が複数含まれており、これらを正確に把握しておくことで、民間の医療保険や生命保険に必要以上に加入するリスクを防げます。
この記事では、健康保険の仕組みと保険料の計算方法、主な給付内容、退職後の任意継続制度、国民健康保険との違いについて整理し、家計全体での位置づけを確認していきましょう。
健康保険の仕組みと加入対象者

健康保険は、会社員や公務員が加入する公的医療保険の一つで、病気やケガに対する医療給付を中心にさまざまな保障を提供しています。まずは制度の基本的な仕組みと、誰が加入対象になるのかを確認しましょう。
健康保険の運営主体と種類
健康保険の運営主体は大きく2種類に分かれます。一つは全国健康保険協会(協会けんぽ)で、主に中小企業の従業員とその扶養家族が加入しています。もう一つは健康保険組合(組合健保)で、大企業が単独または共同で設立し、独自の保険料率や付加給付を設定できる点が特徴です。
協会けんぽの加入者数(被保険者+被扶養者)は約3,960万人(令和6年7月末時点)に達しており、日本最大の医療保険者として位置づけられています。公務員や私立学校の教職員は「共済組合」に加入するため、健康保険の対象外となりますが、給付内容は健康保険とおおむね同等の水準となっています。
被保険者と被扶養者の範囲
健康保険の被保険者(加入者本人)は、適用事業所に常時使用される方が対象です。正社員だけでなく、所定労働時間と労働日数が正社員の4分の3以上であるパート・アルバイトも加入義務があります。
さらに、2024年10月からは社会保険の適用拡大により、従業員数51人以上の企業で働く短時間労働者(週20時間以上・月額賃金8万8,000円以上・2か月超の雇用見込み・学生でないこと)も新たに加入対象となりました。
被扶養者は、被保険者に生計を維持されている配偶者・子・父母などが該当し、年収130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)かつ被保険者の年収の2分の1未満であることが条件です。被扶養者は保険料の負担なく健康保険の医療給付を受けられるため、国民健康保険にはないメリットといえるでしょう。
保険料の計算方法と負担の仕組み

健康保険料は毎月の給与から天引きされますが、その計算方法を理解しておくと、手取り収入の把握や退職時の選択に役立ちます。
標準報酬月額と保険料率
健康保険料は「標準報酬月額×保険料率」で計算されます。標準報酬月額とは、毎月の給与(基本給+通勤手当+残業代などの各種手当を含む報酬月額)を、1等級(5万8,000円)から50等級(139万円)までの50段階に区分した金額です。毎年4月〜6月の報酬をもとに「定時決定」が行われ、9月から新しい標準報酬月額が適用されます。
協会けんぽの令和7年度の保険料率は全国平均で10.00%ですが、都道府県ごとに異なり、最も高い佐賀県は10.78%、最も低い沖縄県は9.44%となっています。この保険料は事業主と被保険者が折半するため、本人の負担割合は保険料率の半分にあたります。
保険料の計算例
たとえば、標準報酬月額が30万円で保険料率が10.00%の場合、月額保険料は30万円×10.00%=3万円です。これを事業主と折半するため、本人負担は月額1万5,000円となります。40歳から64歳までの方は、これに全国一律の介護保険料率1.59%が加算されるため、本人負担分はさらに月額約2,385円が上乗せされる計算です。
賞与(ボーナス)にも保険料がかかり、「標準賞与額×保険料率」で計算されます。標準賞与額の上限は年度累計573万円と定められています。
健康保険の7つの主な給付内容

健康保険は医療費の3割負担だけでなく、病気・ケガ・出産・死亡に関する複数の給付があります。民間保険の加入を検討する前に、健康保険でカバーされる範囲を正確に把握しておくことが合理的な判断の出発点です。
療養の給付(医療費の自己負担軽減)
健康保険の最も基本的な給付で、医療機関の窓口での自己負担を原則3割に抑える制度です。義務教育就学前の子どもは2割、70歳〜74歳は原則2割(現役並み所得者は3割)の負担割合となっています。
高額療養費制度
1か月の医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、超過分が払い戻される制度です。年収約370万〜770万円の方であれば、月額の自己負担上限は80,100円+(総医療費−267,000円)×1%で計算されます。年収約370万円以下の方は月額57,600円が上限です。
事前に「限度額適用認定証」を取得しておくか、マイナ保険証を利用すれば、窓口での支払い自体を上限額までに抑えられるため、一時的な立替負担も軽減できます。さらに、直近12か月で3回以上高額療養費に該当した場合は「多数回該当」として上限額がさらに引き下げられ、年収約370万〜770万円の方で月額44,400円となります。
傷病手当金
業務外の病気やケガで連続3日以上仕事を休み、給与が支払われない場合に、休業4日目から最長1年6か月にわたり、1日あたり標準報酬日額のおよそ3分の2が支給される制度です。2022年1月の法改正により、支給期間は「暦日ベース」ではなく「実際に支給された日数の通算」で計算されるようになり、途中で復職と再休職を繰り返しても合計18か月分の支給を受けられるようになっています。
標準報酬月額30万円の方であれば、1日あたり約6,667円(30万円÷30日×2/3)、月額換算で約20万円が支給される計算です。なお、国民健康保険には傷病手当金の制度がないため、会社員と自営業者では病気やケガで働けなくなった場合の収入保障に構造的な差があります。民間の就業不能保険や所得補償保険の必要性を判断するうえでも、この傷病手当金の有無は重要な検討材料となるでしょう。
出産育児一時金
被保険者または被扶養者が出産した場合に、1児につき原則50万円が支給されます。令和5年4月に42万円から引き上げられました。多くの場合、医療機関への「直接支払制度」を利用することで、窓口での高額な支払いを避けられます。
出産手当金
被保険者本人が出産のために仕事を休み、給与が支払われない場合に、出産日以前42日(多胎妊娠は98日)から出産日後56日までの期間について、1日あたり標準報酬日額のおよそ3分の2が支給されます。傷病手当金と同様に、国民健康保険にはこの制度がない点は押さえておく必要があるでしょう。
埋葬料(埋葬費)
被保険者が亡くなった場合に、埋葬を行う方に対して5万円が支給されます。被扶養者が亡くなった場合は「家族埋葬料」として同額が支給されます。
療養費・海外療養費
やむを得ず保険証を持たずに受診した場合や、治療用装具(コルセット等)を作成した場合に、後から自己負担分を除いた金額が払い戻されます。海外での急な受診についても、日本国内の医療費を基準に算定した金額の一部が還付される「海外療養費」の制度があります。
退職後の任意継続制度

退職すると健康保険の被保険者資格を失いますが、一定の条件を満たせば退職前の健康保険に引き続き加入できる「任意継続被保険者制度」を利用できます。国民健康保険との比較検討が重要になるポイントです。
任意継続の加入条件と手続き
任意継続制度を利用するには、次の2つの条件をいずれも満たす必要があります。
・退職日までに継続して2か月以上の被保険者期間があること
・資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に申請すること
加入期間は最長2年間で、その間は在職中とおおむね同じ給付を受けられます。ただし、傷病手当金と出産手当金については、退職日時点で受給中または受給条件を満たしていた場合を除き、原則として支給対象外となる点に注意が必要です。
任意継続の保険料
任意継続の保険料は、在職中と異なり全額自己負担(事業主負担分がなくなる)になります。計算の基礎となる標準報酬月額は、次の(1)(2)のうち低い方が適用されます。
・(1) 退職時の標準報酬月額
・(2) 全被保険者の標準報酬月額の平均額に対応する等級(協会けんぽの場合、令和7〜8年度は32万円が上限)
たとえば、退職時の標準報酬月額が50万円だった方でも、上限の32万円で計算されます。保険料率10.00%の都道府県であれば、月額保険料は32万円×10.00%=3万2,000円です。在職中は事業主と折半していた分を全額負担するため、退職前の約2倍になるケースが一般的でしょう。
任意継続を途中でやめたいとき
2022年1月の法改正により、任意継続被保険者は「資格喪失申出書」を提出することで、申出が受理された月の翌月1日に資格を喪失できるようになりました。従来は保険料を納付しないことで資格を喪失させる方法しかなかったため、制度の柔軟性が向上しています。
国民健康保険との違い

退職後に加入する公的医療保険の選択肢は、任意継続のほかに国民健康保険とご家族の健康保険(被扶養者)の3つがあります。ここでは健康保険と国民健康保険の構造的な違いを整理します。
保険料の算定方法の違い
健康保険の保険料は「標準報酬月額×保険料率」で算出され、事業主と折半です。一方、国民健康保険の保険料は前年の所得をもとに市区町村ごとの独自の算定式で計算され、全額自己負担となります。そのため、在職中の収入が高かった方は退職翌年の国民健康保険料がかなり高くなる場合があります。
なお、倒産や解雇など自ら望まない形で失業した方(非自発的失業者)については、前年の給与所得を100分の30に減額して保険料を算定する軽減措置が設けられています。この軽減を受ければ、任意継続よりも保険料が安くなるケースがあるため、退職理由によっては国民健康保険を選ぶほうが有利になる可能性があるでしょう。
給付内容の違い
医療費の自己負担割合(原則3割)や高額療養費制度は、健康保険でも国民健康保険でも同じです。しかし、国民健康保険には傷病手当金と出産手当金の制度がありません。会社員として健康保険に加入している間は、病気で長期間働けなくなっても傷病手当金で給与のおよそ3分の2が補填されますが、自営業者やフリーランスとして国民健康保険に加入する場合はこうした所得保障がない点を認識しておく必要があります。
扶養制度の有無
健康保険には被扶養者制度があり、要件を満たす家族は保険料の追加負担なく医療給付を受けられます。国民健康保険にはこの扶養の概念がなく、世帯員一人ひとりが被保険者としてカウントされるため、家族が多い世帯ほど保険料の総額が増える構造になっています。
退職時の健康保険の選び方

退職時に任意継続と国民健康保険のどちらが有利かは、退職時の標準報酬月額や前年所得、家族構成、退職理由によって異なります。以下の3つのポイントで比較検討するとよいでしょう。
保険料の比較
任意継続の保険料は最長2年間ほぼ固定(保険料率の改定による変動はあり)である一方、国民健康保険は前年所得に基づくため、退職翌年度と翌々年度で大きく変わる場合があります。退職1年目は任意継続のほうが安くても、2年目は所得減少により国民健康保険のほうが安くなるケースもあります。市区町村の窓口で国民健康保険料の概算を確認してから判断しましょう。
家族構成による影響
被扶養者が多い場合は、追加の保険料負担なく家族をカバーできる任意継続が有利になりやすいでしょう。国民健康保険では世帯員それぞれに保険料がかかるため、配偶者や子どもを扶養している場合は保険料の総額が高くなりがちです。
非自発的失業者の軽減制度
解雇や雇止めなどで退職した場合は、国民健康保険の保険料軽減措置を受けられる可能性があります。この軽減は失業の翌年度末まで適用されるため、非自発的失業者は国民健康保険のほうが保険料を抑えられるケースが少なくありません。ハローワークで「特定受給資格者」または「特定理由離職者」に該当するかどうかを確認したうえで判断しましょう。
健康保険の給付を家計にどう活かすか

健康保険は「医療費が3割負担になる制度」と認識されがちですが、実際にはそれ以上に幅広い保障が組み込まれています。この保障範囲を正確に理解しておくことは、家計全体のリスク管理において重要な意味を持つでしょう。
民間医療保険の必要額を逆算する
高額療養費制度により、年収約370万〜770万円の方であれば医療費の月額自己負担は実質的に10万円前後が上限となります。加えて傷病手当金で給与のおよそ3分の2が最長18か月保障されることを踏まえると、会社員の場合、医療費と収入減少の両面で一定の公的保障がすでに用意されている状態です。この公的保障の範囲を把握したうえで、「それでもカバーできない差額(差額ベッド代や先進医療費など)」に限定して民間保険を検討するほうが、保険料の無駄を防ぎやすくなります。
自営業・フリーランスは追加の備えが必要
国民健康保険に加入する自営業者やフリーランスは、傷病手当金と出産手当金がないため、会社員と比べて所得保障の空白が生じやすい構造です。この場合は、就業不能保険や所得補償保険で傷病手当金に相当する保障を確保するか、生活防衛資金(生活費の6か月〜1年分)を手厚めに準備しておくことが合理的といえます。公的保障の有無によって必要な備えが異なる点は、保険の見直しや新規加入を検討するうえで最も重要な判断基準の一つです。
まとめ
健康保険は、医療費の3割負担に加えて、高額療養費・傷病手当金・出産育児一時金・出産手当金など、家計を守るための複数の給付を備えた制度です。特に傷病手当金(給与のおよそ3分の2・最長18か月)と高額療養費の組み合わせにより、会社員は病気やケガで長期間働けなくなった場合にも一定の収入と医療費の上限が保障されています。
退職後は任意継続(最長2年・全額自己負担・標準報酬月額上限32万円)と国民健康保険の比較検討が必要で、家族構成や退職理由によって有利な選択肢が変わります。民間保険の加入や見直しを検討する際は、まず健康保険でカバーされる範囲を正確に確認し、不足する部分だけを民間保険で補うというアプローチが、保険料の適正化につながるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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