資産運用
不動産投資の減価償却とは?計算方法・耐用年数・節税効果の実態とデッドクロスのリスクをわかりやすく解説

不動産投資における減価償却とは、建物の取得価額を法定耐用年数にわたって毎年の必要経費に計上する税務上の手続きです。国税庁(No.2100)によると、減価償却資産の取得に要した金額は、取得した時に全額必要経費になるのではなく、その資産の使用可能期間の全期間にわたり分割して必要経費としていくべきものと定められています。
住宅用建物の法定耐用年数は木造22年、RC造(鉄筋コンクリート造)47年であり、この耐用年数に応じた償却率で毎年の経費額が決まる仕組みです。減価償却は実際にお金が出ていかない「帳簿上の経費」であるため、キャッシュフローを改善しながら所得税・住民税を圧縮できる効果があります。しかし、減価償却で計上した経費の総額は、売却時の譲渡所得の計算で取得費から差し引かれるため、「所得税の先送り」にすぎない側面があり、さらに減価償却期間が終了するとキャッシュフローが急激に悪化する「デッドクロス」のリスクも伴う点に注意が必要です。
以下、不動産投資における減価償却の計算方法から耐用年数の仕組み、実際の節税効果、そして売却時の課税やデッドクロスのリスクまでを確認していきます。
減価償却の基本的な仕組み

減価償却とは、時間の経過や使用によって価値が減少する資産(減価償却資産)の取得費用を、一定の方法で毎年の経費に分割して計上する手続きです。ここでは不動産投資における減価償却の基本ルールを確認します。
減価償却の対象は建物部分のみ
不動産投資で購入する物件は、土地と建物で構成されています。このうち減価償却の対象となるのは建物部分のみであり、土地は時間の経過によって価値が減少しないとされるため、減価償却の対象外です。投資用物件を購入する際には、売買契約書や固定資産税評価額などをもとに土地と建物の価額を区分しなければなりません。
建物の償却方法は定額法のみ
減価償却の計算方法には定額法と定率法がありますが、国税庁(No.2100)によると平成10年4月1日以後に取得した建物の償却方法は定額法のみと定められています。さらに平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備および構築物についても、定額法のみとなりました。定額法は毎年同じ金額を経費に計上する方法であり、計算がわかりやすい点が特徴です。
定額法の計算式は以下のとおりとなります。
各年の償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率
平成19年4月1日以後に取得した減価償却資産については、残存価額が廃止され、1円(備忘価額)まで償却できる仕組みです。
建物の法定耐用年数と償却率

不動産投資における減価償却費の金額は、建物の構造(木造・鉄骨造・RC造など)によって定められた法定耐用年数と、その耐用年数に対応する償却率で決まります。構造ごとの違いを正しく理解しておくことが、収支計画の精度を左右するポイントです。
構造別の法定耐用年数
国税庁が定める「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によると、住宅用建物の法定耐用年数は構造によって以下のように異なります。
・木造:22年(償却率0.046)
・軽量鉄骨造(骨格材3mm以下):19年(償却率0.053)
・軽量鉄骨造(骨格材3mm超4mm以下):27年(償却率0.038)
・重量鉄骨造(骨格材4mm超):34年(償却率0.030)
・RC造(鉄筋コンクリート造):47年(償却率0.022)
耐用年数が短い構造ほど1年あたりの償却費が大きくなり、短期間で多くの経費を計上できるという関係にあります。たとえば建物価額3,000万円の場合、木造なら年間138万円(3,000万円×0.046)、RC造なら年間66万円(3,000万円×0.022)と、木造はRC造の約2倍の経費を計上できる計算です。
中古物件の耐用年数(簡便法)
中古物件を取得した場合、法定耐用年数をそのまま使うのではなく、国税庁No.5404「中古資産の耐用年数」に定められた簡便法で計算した年数を適用することが認められています。
・法定耐用年数の一部を経過した場合:(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×20%
・法定耐用年数をすべて経過した場合:法定耐用年数×20%(最低2年)
たとえば築25年の木造アパート(法定耐用年数22年)を購入した場合、すでに耐用年数を超過しているため「22年×20%=4.4年→4年」となります。耐用年数4年の定額法償却率は0.250であるため、建物価額の25%を毎年経費にできる計算です。建物価額が1,200万円なら年間300万円もの経費が発生し、家賃収入を上回る赤字を生じさせて他の所得と損益通算する、いわゆる「築古木造4年償却スキーム」はここから生まれています。
ただし、取得価額の50%を超える資本的支出(大規模修繕など)を行った場合には簡便法が適用できない点に注意が必要です。
減価償却による節税効果の仕組み

減価償却が不動産投資の節税に結びつく理由は、実際に現金が出ていかない「帳簿上の経費」を計上できる点にあるといえるでしょう。ここではその仕組みと、節税効果の限界について確認していきましょう。
キャッシュフローと帳簿上の利益のズレ
減価償却費は、物件購入時にすでに支払った費用を毎年の経費に分割して計上するものであり、計上年度に新たな支出は発生しません。そのため、手元に残る現金(キャッシュフロー)は帳簿上の利益よりも多くなるのが一般的です。
たとえば年間の家賃収入が300万円、減価償却費を含む必要経費が350万円の場合、帳簿上の不動産所得はマイナス50万円となります。このマイナス分を給与所得などと損益通算すれば、課税所得が減少し、所得税・住民税の負担が軽減されるという仕組みです。
損益通算には制限がある
不動産所得の赤字を他の所得と損益通算できることが減価償却を活用した節税の核心ですが、国税庁(No.1391)は、土地取得のために要した借入金の利子に相当する部分の損失は損益通算の対象外と定めています。つまり、ローンで土地付き物件を購入している場合、赤字のすべてを損益通算に使えるわけではない点に注意が必要です。借入金利子のうち土地分に相当する額は損益通算の計算から除外される点を見落とすと、期待どおりの節税効果が得られない可能性があります。
出典:国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」
減価償却の具体的な計算例

ここでは新築RC造マンションと築25年木造アパートの2つの事例を通じて、減価償却費の金額と節税効果の違いを比較してみましょう。同じ建物価額でも、構造と築年数によって経費計上のペースは大幅に異なる点がポイントです。
事例1:新築RC造マンション(建物価額3,000万円)
・法定耐用年数:47年
・定額法償却率:0.022
・年間の減価償却費:3,000万円×0.022=66万円
・償却期間:47年間にわたり毎年66万円を経費に計上
仮に所得税率20%(住民税10%を合わせて30%)の方であれば、年間の税軽減効果は66万円×30%=約19.8万円となります。ただし47年間という長い期間で少しずつ経費化するため、1年あたりの節税効果は限定的といえるでしょう。
事例2:築25年木造アパート(建物価額1,200万円)
・簡便法による耐用年数:22年×20%=4年
・定額法償却率:0.250
・年間の減価償却費:1,200万円×0.250=300万円
・償却期間:4年間で1,200万円を全額経費化
同じく所得税率20%(+住民税10%=30%)の方であれば、年間の税軽減効果は300万円×30%=約90万円にのぼります。しかしこの経費化は4年で終了するため、5年目以降は減価償却費ゼロの状態で不動産所得が一気に増加する点に注意が必要です。
売却時に減価償却費が「回収」される仕組み

減価償却によって得られた節税効果は、物件を売却する段階で一部または全部が「取り戻される」構造になっています。この仕組みを理解していないと、「節税できた」と思っていた金額を売却時の税金で支払うことになりかねません。
取得費から減価償却費相当額が差し引かれる
国税庁(No.3261)によると、建物の取得費は、購入代金から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額です。つまり、減価償却で経費に計上した分だけ取得費が目減りし、売却時の譲渡所得(=売却金額−取得費−譲渡費用)が増加する結果となります。
築25年木造アパートの事例で具体的に確認してみると、4年間で合計1,200万円の減価償却費を計上した場合、建物の取得費は1,200万円−1,200万円=ほぼ0円(備忘価額1円)にまで低下します。仮に購入価額(土地+建物)2,500万円のうち土地分1,300万円、建物分1,200万円だった場合、4年後の取得費は土地1,300万円+建物1円=約1,300万円です。2,500万円で売却できたとすると、譲渡所得は約1,200万円にのぼります。
譲渡所得の税率と所得税率の差に注目する
不動産の譲渡所得に対する税率は、所有期間が5年超の長期譲渡所得で約20%(所得税15.315%+住民税5%)、5年以内の短期譲渡所得で約39%(所得税30.63%+住民税9%)です。
減価償却期間中の所得税率が高い人ほど、損益通算で圧縮できる税額が大きくなり、売却時には約20%(長期譲渡)の税率で課税されるため、「税率差」の分だけ実質的な節税効果が残る可能性があります。たとえば、課税所得900万円超で所得税率33%(+住民税10%=43%)の方が、減価償却期間中に43%の税率で節税し、売却時に約20%で課税される場合、23%ポイントの税率差が節税効果となる計算です。
一方、所得税率が20%の方は、減価償却期間中の節税効果(30%)と売却時の課税(約20%)の差がわずか10%ポイントにとどまり、仲介手数料や諸費用を考慮すると実質的にメリットが残らないケースもあります。
出典:国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」
デッドクロスとは?減価償却終了後のキャッシュフロー悪化リスク

「デッドクロス」とは、減価償却費がローンの元金返済額を下回る状態のことです。不動産投資における最大のリスクの一つであるにもかかわらず、物件購入前に十分なシミュレーションがなされていないケースが目立ちます。
デッドクロスが発生するメカニズム
不動産投資ローンの返済額は「元金部分」と「利息部分」で構成されており、このうち必要経費にできるのは利息部分のみです。一方、減価償却費は帳簿上の経費として計上できるものの、減価償却期間が終了すれば経費に計上できなくなります。
元利均等返済の場合、返済が進むにつれて利息部分は減少し、元金部分の割合が増加していきます。減価償却期間が終了した時点で、経費にならない元金返済額が大きくなる一方、経費にできる減価償却費はゼロとなるため、帳簿上は黒字(=所得税がかかる)なのに手元のキャッシュは不足するという状況が生じるのがデッドクロスの仕組みです。
築古木造物件で特にリスクが高い
デッドクロスのリスクは、簡便法で短い耐用年数が適用される築古木造物件で特に顕著になります。先ほどの築25年木造アパートの例でいえば、減価償却期間は4年間しかなく、5年目以降は減価償却費がゼロです。
仮に年間の家賃収入が200万円、管理費・修繕費・固定資産税などが60万円、ローン返済が年間120万円(うち元金100万円・利息20万円)の場合で考えてみましょう。
・1〜4年目(減価償却期間中):家賃200万円−経費60万円−利息20万円−減価償却費300万円=不動産所得マイナス180万円(損益通算可能)。キャッシュフローは200万円−60万円−120万円=プラス20万円。
・5年目以降(減価償却終了後):家賃200万円−経費60万円−利息20万円=不動産所得120万円(課税対象)。キャッシュフローは同じプラス20万円だが、所得税・住民税として120万円×30%=36万円が発生。実質キャッシュフローはマイナス16万円。
このように、帳簿上は年間120万円の利益が出ているにもかかわらず、税金を支払うと手元のキャッシュが不足するのがデッドクロスの本質です。この状態に陥ると、持ち続けても売却しても損失が発生するリスクが高まります。
「節税目的」の不動産投資で注意すべきポイント

「減価償却で節税できる」という説明は不動産投資の広告やセミナーで頻繁に見られますが、節税効果だけに着目して投資判断を行うと、想定外の損失につながりかねません。節税を検討する前に、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
減価償却は「非課税」ではなく「課税の先送り」
減価償却で計上した経費は、売却時に取得費の減少を通じて譲渡所得に反映されるため、税負担が消えるわけではなく、支払い時期が先送りされているにすぎない点を理解しておく必要があるでしょう。売却せずに保有し続けた場合でも、減価償却期間の終了とともに不動産所得が増加するため、所得税・住民税の負担増は避けられないでしょう。
高所得者ほど短期譲渡のリスクが大きい
築古木造物件の簡便法による耐用年数は4年が多いため、短期間で多額の償却費を計上できる一方、所有期間5年以内に売却すると短期譲渡所得として約39%の税率が課されます。減価償却期間中に43%で節税しても、売却時に39%で課税される場合、実質的な税率差はわずか4%ポイントにとどまり、仲介手数料(通常3%+6万円+消費税)や譲渡費用を考慮すると赤字になるリスクも否定できません。
5年超の長期譲渡所得として約20%の税率を適用するには、取得した年の1月1日から売却した年の1月1日までの期間が5年を超えていることが条件です。4年で償却が終わる木造物件の場合、デッドクロス期間(5年目以降)のキャッシュフロー悪化に耐えながら6年目以降まで保有する計画が求められます。
節税の前に確認すべき家計の優先順位
不動産投資による節税を検討する前に、以下の順序で家計全体の資産形成状況を確認することが重要です。
・生活防衛資金の確保(生活費の6か月〜1年分)
・公的保障の把握(高額療養費の月額上限は年収約370万〜770万円の方で80,100円+α、傷病手当金は給与の約2/3が最長18か月支給)
・NISA・iDeCoの枠を使い切っているか
・上記をすべて満たしたうえで、さらに節税や資産形成の手段として不動産投資を検討する
年収数千万円以上の高所得者で所得税率33〜45%に該当する場合は、長期譲渡所得の税率約20%との差を活かせる可能性がありますが、それ以外のケースでは減価償却を目的とした不動産投資のメリットは限定的といえます。節税だけを目的にするのではなく、物件そのものの収益力(家賃収入、立地、空室リスク)を軸に投資判断を行うことが基本となります。
まとめ|減価償却の仕組みを正確に理解して投資判断に活かす
減価償却は不動産投資における経費計上の中心的な仕組みであり、帳簿上の所得を圧縮してキャッシュフローを改善する効果を持っています。一方で、その節税効果は「課税の先送り」という側面が強く、売却時には減価償却費相当額が取得費から差し引かれて譲渡所得に反映される点を見落とすべきではないでしょう。
特に築古木造物件の「4年償却スキーム」は、短期間で多額の経費を計上できる反面、デッドクロスのリスクと短期譲渡課税のリスクを同時に抱える点に留意が必要です。減価償却の節税効果だけで投資判断を行うのではなく、物件の収益力・デッドクロスの発生時期・売却時の税負担までを一体でシミュレーションしたうえで判断することが、不動産投資で失敗しないための基本姿勢といえるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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