資産運用
不動産投資の税金と確定申告|不動産所得の計算方法・必要経費・青色申告・損益通算の注意点をわかりやすく解説

不動産投資で得た家賃収入は、所得税法上「不動産所得」に分類され、国税庁(No.1370)によると「総収入金額−必要経費=不動産所得の金額」で計算されます。この不動産所得は給与所得など他の所得と合算して総合課税の対象となるため、確定申告が必要になるケースがほとんどです。
不動産投資の節税効果としてよく挙げられる「損益通算」についても、国税庁(No.1391)は土地取得のために要した借入金の利子に相当する部分の損失は損益通算の対象外と定めており、「不動産投資の赤字で給与の税金が還付される」という説明はすべてのケースに当てはまるわけではありません。また、青色申告特別控除(最大65万円)を受けるには「5棟10室」の事業的規模基準を満たす必要があり、区分マンション1〜2室の投資では10万円控除にとどまる点にも注意が必要です。
この記事では、不動産所得の計算方法から確定申告の手順、必要経費として認められるもの、青色申告のメリットと要件、損益通算の制限ルール、そして売却時の譲渡所得課税まで解説します。
不動産所得の基本的な計算方法

不動産投資による収入がどのように課税されるかを正しく把握することが、税金対策の出発点です。ここでは不動産所得の定義と計算の流れを確認しましょう。
不動産所得とは何か
不動産所得とは、土地や建物などの不動産の貸付けから生じる所得のことです。国税庁のタックスアンサー(No.1370)では、不動産所得に該当するものとして「土地や建物などの不動産の貸付け」「借地権など不動産の上に存する権利の設定および貸付け」「船舶や航空機の貸付け」の3つが挙げられています。
アパートやマンションの家賃収入、駐車場の賃貸収入などが代表的な不動産所得です。ただし、不動産の売却による利益は「譲渡所得」に分類されるため、不動産所得には含まれません。
不動産所得の計算式
不動産所得の金額は「総収入金額−必要経費」で計算します。総収入金額には毎月の家賃収入のほか、名義書換料や承諾料、更新料、敷金や保証金のうち返還を要しない部分なども含まれる点に注意が必要です。
たとえば、年間の家賃収入が120万円、必要経費が80万円の場合、不動産所得は40万円となり、この40万円が給与所得などと合算されて所得税・住民税の課税対象となります。会社員で給与所得がある方は、不動産所得が年間20万円を超える場合に確定申告が必要になるのが原則となっています。
出典:国税庁 No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
必要経費として認められるもの・認められないもの

不動産所得を正しく計算するうえで、どの支出が必要経費に該当するかの把握が欠かせません。必要経費が多ければ不動産所得の金額は小さくなり、課税される税額も減少します。
必要経費に計上できる主な項目
国税庁(No.1370)では、不動産収入を得るために直接必要な費用のうち家事上の経費と明確に区分できるものを必要経費として認めています。具体的には、以下のような支出が該当します。
・固定資産税および都市計画税
・損害保険料(火災保険・地震保険など)
・減価償却費
・修繕費(原状回復や維持管理のための支出)
・管理委託費用(管理会社への支払い)
・借入金の利息部分(元本返済は含まない)
・入居者募集のための広告宣伝費
・税理士や司法書士への報酬
・不動産投資に関連する交通費や通信費(業務使用分のみ)
経費にならないもの
一方で、借入金の元本返済額は必要経費にはなりません。お金を借りた行為は収入にならないのと同様に、返済も経費にはならないという考え方に基づいています。また、所得税・住民税そのものも必要経費に計上できないため、混同しないよう注意が必要です。
自宅とは別に投資用不動産を保有している場合、自宅部分の費用を投資用不動産の経費に含めることは認められていません。兼用部分がある場合は「家事按分」で合理的に区分する必要があります。
減価償却費の重要性
不動産投資の必要経費のなかで特に金額が大きくなるのが減価償却費です。建物は年数の経過とともに価値が下がるとされるため、法定耐用年数にわたって取得費の一部を毎年経費として計上できます。国税庁の耐用年数表によると、住宅用建物の法定耐用年数は木造で22年、鉄骨造(骨格材4mm超)で34年、鉄筋コンクリート造(RC造)で47年です。
減価償却費は実際のキャッシュアウトをともなわない帳簿上の経費であるため、キャッシュフローを維持しながら不動産所得を圧縮できる点がメリットといわれています。ただし、減価償却期間が終了すると経費計上できなくなるため、借入金の返済が続いているにもかかわらず帳簿上の利益が増えて税負担が重くなる「デッドクロス」と呼ばれる状態に陥るリスクがあります。特に築古の木造物件を短期間で償却するスキームでは、償却完了後の税負担増加と売却時の譲渡所得課税を事前に試算しておく必要があるでしょう。
損益通算の仕組みと制限ルール

不動産所得が赤字になった場合、給与所得など他の所得と相殺できる「損益通算」は節税手法として知られていますが、重要な制限ルールがあります。
損益通算の基本
所得税法では、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の計算上生じた損失は、他の所得と損益通算できると定めています(国税庁 No.2250)。会社員が不動産投資で赤字が出た場合、その赤字を給与所得から差し引くことで所得税の還付を受けられるケースがあります。
土地取得の借入金利子は損益通算できない
しかし、国税庁(No.1391)は、不動産所得の赤字のうち「土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額」は損益通算の対象外とする特例を定めています。つまり、不動産投資の赤字がすべて給与所得と相殺できるわけではなく、土地部分の借入金利息に起因する赤字は他の所得から差し引けないのです。
この制限は租税特別措置法第41条の4を根拠としています。不動産投資では物件価格に占める土地の割合が高くなることも多いため、この制限によって損益通算による節税効果が想定より小さくなるケースは少なくありません。
土地・建物の借入金利子の按分方法
土地と建物を一括して借入金で取得した場合、借入金の利子をそれぞれに区分する必要があります。租税特別措置法施行令では、借入金の額をまず建物の取得価額に充て、残額を土地の取得価額に充てたものとして計算できるという納税者に有利な取扱いが認められています(租税特別措置法施行令の規定)。
たとえば、土地1,200万円・建物800万円の物件を借入金1,000万円と自己資金1,000万円で取得した場合、借入金のうちまず800万円を建物に充て、残り200万円が土地に充てられたとして計算できるため、土地部分の借入金利子を小さく抑えることが可能です。
出典:国税庁 No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
青色申告の要件とメリット

不動産投資の確定申告では「白色申告」と「青色申告」を選択できますが、節税効果の面では青色申告に優位性があります。ただし、その恩恵を最大限に受けるには一定の要件を満たさなければなりません。
青色申告特別控除の3段階
国税庁(No.2072)によると、青色申告特別控除の控除額は以下の3段階です。
・65万円控除:正規の簿記(複式簿記)で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付した確定申告書をe-Taxで提出(または優良な電子帳簿保存を実施)していること。かつ、不動産所得の場合は事業的規模であること
・55万円控除:上記の要件のうち、e-Tax提出または電子帳簿保存の要件を満たさない場合
・10万円控除:上記の要件に該当しない青色申告者(事業的規模に満たない不動産貸付けを含む)
事業的規模の「5棟10室基準」
不動産所得で65万円(または55万円)の青色申告特別控除を受けるためには、貸付けが「事業的規模」であることが必要です。事業的規模の判定基準として一般的に用いられるのが「5棟10室基準」で、独立した家屋の貸付けはおおむね5棟以上、アパートやマンションの貸付けはおおむね10室以上が事業的規模と判定されます。
区分マンション投資で1〜2室を保有しているだけでは事業的規模に該当しないため、青色申告特別控除は10万円が上限です。65万円控除と10万円控除では年間55万円の差があり、所得税率20%の方であれば控除額の差だけで年間約11万円の税額差が生じます。この差は投資規模が小さいうちは限定的ですが、規模の拡大を検討する際には重要な判断材料になるでしょう。
青色申告のその他のメリット
青色申告特別控除以外にも、青色申告には以下のようなメリットがあります。
・純損失の繰越控除:不動産所得の赤字を損益通算しても控除しきれない純損失がある場合、翌年以降3年間にわたって繰り越して各年分の所得から差し引くことが可能です
・青色事業専従者給与:事業的規模の場合、配偶者や親族への給与を必要経費として計上できます(事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要)
・少額減価償却資産の特例:取得価額30万円未満の資産を一括で経費にできます(年間合計300万円まで)
不動産投資の確定申告の流れ

不動産所得がある場合は、原則として毎年2月16日から3月15日までに確定申告を行います。初めて確定申告をする場合の基本的な手順を確認しておきましょう。
青色申告承認申請書の提出
青色申告で確定申告を行うためには、事前に所轄の税務署に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。提出期限は、青色申告をする年の3月15日までです。その年の1月16日以後に不動産の貸付けを開始した場合は、貸付け開始日から2か月以内に提出すれば間に合います。
また、不動産所得が生じる方は「個人事業の開業届出書」も併せて税務署に提出するのが一般的です。いずれも届出を忘れると青色申告が選択できないため、物件取得後すみやかに手続きを行うことが重要といえるでしょう。
確定申告に必要な主な書類
不動産所得の確定申告で準備する主な書類は以下のとおりです。
・確定申告書(第一表・第二表)
・青色申告決算書(不動産所得用)または収支内訳書(白色申告の場合)
・物件の賃貸借契約書のコピー
・家賃の入金記録(通帳コピーなど)
・経費の領収書・請求書
・借入金の返済明細(利息と元本の内訳が記載されたもの)
・固定資産税の納税通知書
・損害保険の保険料控除証明書
e-Taxの活用
65万円の青色申告特別控除を受けるためには、e-Tax(国税電子申告・納税システム)を使って確定申告書を提出するか、電子帳簿保存法に基づく要件を満たす必要があります。e-Taxの利用にはマイナンバーカードとICカードリーダー(またはスマートフォンの読み取り機能)が必要になるため、申告期限に余裕を持って準備しておくとよいでしょう。
売却時の譲渡所得と税率

不動産投資では保有期間中の不動産所得だけでなく、売却時の譲渡所得も重要な税務項目です。保有期間によって税率が大幅に異なるため、出口戦略と税金を一体で考える視点が求められます。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の税率差
不動産を売却した際の利益(譲渡所得)は、給与所得とは合算されず「分離課税」の対象です。税率は売却した年の1月1日時点の所有期間によって決まり、所有期間5年以下の「短期譲渡所得」は所得税30.63%+住民税9%の合計約39%、所有期間5年超の「長期譲渡所得」は所得税15.315%+住民税5%の合計約20%となっています。
短期と長期で約2倍の税率差があるため、投資用不動産の売却タイミングは「1月1日時点で所有期間が5年を超えているか」を必ず確認したうえで判断する必要があります。所有期間は取得日から売却日までではなく、売却年の1月1日時点で判定される点に注意してください。
減価償却と売却時の課税の関係
保有期間中に減価償却費を計上すると不動産所得が圧縮されて所得税が軽減される一方、売却時には減価償却した分だけ建物の取得費が小さくなるため、譲渡所得(売却益)が大きく計算されるという関係にあります。
つまり、保有期間中に減価償却で節税した金額は、売却時に譲渡所得課税として一部が「取り返される」構造です。この点を踏まえると、減価償却による節税メリットだけに着目するのではなく、売却時の税負担まで含めたトータルの税引後キャッシュフローで投資の採算を判断することが重要になるでしょう。
不動産投資の税金で見落としやすいポイント

不動産投資に関する税務には、初心者が見落としやすい論点がいくつかあります。確定申告でミスをすると加算税や延滞税が課されることもあるため、事前に確認しておきましょう。
個人事業税の課税
不動産貸付けが事業的規模(5棟10室基準)に該当する場合、所得税・住民税に加えて個人事業税(税率5%、事業主控除290万円)が課税されることがあります。個人事業税は所得税の確定申告をもとに都道府県が課税するため別途申告は不要ですが、税負担として考慮に入れておく必要があるでしょう。
消費税との関係
住宅の貸付けは消費税が非課税とされているため、居住用物件の家賃収入には消費税がかかりません。一方、事務所や店舗、駐車場(一定の場合を除く)の賃貸収入は課税対象です。課税売上が1,000万円を超えると消費税の納税義務が生じるため、事業規模が拡大した場合は消費税の課税事業者に該当するかどうかの確認も必要となります。
税理士への依頼の判断基準
区分マンション1室程度であれば確定申告を自力で行うことも可能ですが、複数物件の保有や事業的規模の判定が必要な場合、減価償却の計算が複雑な場合、損益通算の制限計算が必要な場合などは、税理士に依頼することも選択肢です。税理士への報酬は不動産所得の必要経費として計上できるため、申告ミスによるリスクと報酬のバランスで判断するとよいでしょう。
まとめ:不動産投資の税務で押さえておくべき原則
不動産投資の税金は「保有期間中の不動産所得」と「売却時の譲渡所得」の2つに大別されます。不動産所得は「総収入金額−必要経費」で計算され、減価償却費が主要な経費項目となる一方で、償却完了後のデッドクロスリスクや売却時の取得費減少による譲渡所得増加といった裏側の構造も理解しておく必要があります。
損益通算については、土地取得の借入金利子に相当する赤字が通算対象外となる制限があるため、「赤字で税金が還付される」という説明を額面どおりに受け取ることは避けるべきでしょう。青色申告特別控除も、事業的規模(5棟10室基準)を満たさなければ10万円にとどまるため、投資規模に応じた現実的な節税効果を試算することが大切です。
不動産投資の税務を正しく理解するためには、まず国税庁のタックスアンサー(No.1370、No.1391、No.2072)で基本ルールを確認し、個別の状況に応じて税理士に相談するという手順を踏むことをおすすめします。税金の試算は物件購入の前に行い、保有期間中の税負担から売却時の課税まで含めたトータルの収支を把握したうえで投資判断を行うことが、長期的な資産形成の土台になるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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