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NISAで大きく下落した時の対処法と長期投資戦略を解説

NISA口座で投資している商品が大きく下落すると、「今すぐ損切りすべきか」「このまま保有し続けるべきか」と不安になる投資家は多いでしょう。特にNISA口座は損益通算や繰越控除ができないという特殊性があるため、通常の課税口座とは異なる対処法が必要です。
しかし、この制約を正しく理解し、適切な戦略を取れば、下落はむしろ将来の大きなリターンにつながる機会となります。新NISAでは非課税保有期間が無期限となったことで、長期的な視点での投資がより実践しやすくなりました。
本記事では、CFP資格を持つファイナンシャルプランナーが、NISA口座で大きく下落した時の具体的な対処法を解説します。損失の特殊性を理解した上での基本戦略、ドルコスト平均法を活用した追加投資の方法、例外的に損切りを検討すべきケース、そして下落を乗り越えるための心理的対処法まで、実践的な長期投資戦略を詳しく紹介していきます。
NISA口座での損失が持つ特殊性を理解する

NISA口座で保有する投資信託や株式が大きく下落した場合、通常の課税口座とは異なる対処が必要です。NISA最大の特徴は、損益通算や繰越控除ができないという点にあります。これは利益が非課税である代わりに、損失も税制上「なかったもの」として扱われるためです。
例えば、NISA口座で50万円の損失、特定口座で70万円の利益が発生した場合でも、NISA口座の損失は他の利益と相殺できません。結果として、70万円の利益全額に対して約20%の税金がかかります。
しかし、この制約があるからこそ、NISA口座では損失を確定させない長期投資戦略が重要になります。新NISAでは非課税保有期間が無期限となったため、価格が回復するまで保有を続けることが可能です。
下落時に取るべき基本戦略

長期保有による回復を待つ
投資信託や株式市場は短期的には大きく変動しますが、長期的には世界経済の成長に伴って上昇する傾向があります。過去のデータを見ても、リーマンショックやコロナショックなどの大暴落後も、数年で価格は回復し、その後さらに上昇しています。
新NISAでは非課税保有期間が無期限のため、焦って損切りする必要はありません。むしろ、下落時は将来の回復を信じて保有を継続することが、NISA投資の基本戦略となります。
特に、インデックスファンドなど分散投資された商品であれば、個別企業の倒産リスクがなく、市場全体の回復とともに価格も回復する可能性が高いといえます。
ドルコスト平均法の活用
定期的に一定額を投資するドルコスト平均法は、下落時にこそ真価を発揮します。価格が下がった時は同じ金額でより多くの口数を購入でき、結果として平均取得単価を引き下げる効果があります。
例えば、毎月1万円ずつ投資している場合、基準価額が10,000円の時は1口しか買えませんが、5,000円に下落した時は2口購入できます。この仕組みにより、下落は「安く大量に仕込めるチャンス」と前向きに捉えることができます。
長期的に右肩上がりの成長が期待できる投資対象であれば、下落時の追加投資は将来の大きなリターンにつながる可能性があります。
下落時の追加投資戦略

成長投資枠を活用した買い増し
新NISAでは、つみたて投資枠(年間120万円)と成長投資枠(年間240万円)を併用できます。通常はつみたて投資枠で定額積立を行い、大きく下落した時に成長投資枠で追加購入することで、平均取得単価を効率的に引き下げられます。
例えば、基準価額が30%下落した時に成長投資枠で追加購入すれば、その後価格が元の水準に戻った時の利益率は大きく改善します。ただし、追加投資は余裕資金の範囲内で行い、生活資金には手を付けないことが大前提です。
暴落時の段階的な買い増し戦略
市場が大きく下落した際、一度に全資金を投入するのではなく、段階的に買い増しする戦略が有効です。例えば、10%下落ごとに追加投資額を増やしていく方法があります。
この方法により、底値を完璧に当てることはできなくても、下落局面全体を通じて有利な価格で買い増しができます。重要なのは、事前に買い増しルールを決めておき、感情に流されない機械的な投資を心がけることです。
出典:金融庁「NISAを知る」
損切りを検討すべき例外的なケース

個別株投資での企業リスク
NISAでは基本的に損切りを避けるべきですが、個別株投資で企業の経営状況が根本的に悪化した場合は例外です。例えば、主力事業の競争力喪失、不正会計の発覚、経営陣の総退陣など、回復の見込みが立たない状況では損切りも選択肢となります。
ただし、NISA口座での損失は損益通算できないため、損切り後は特定口座での運用に切り替えるなど、税制面も考慮した判断が必要です。個別株のリスクを避けるため、投資信託やETFによる分散投資を基本とすることを推奨します。
旧NISAの非課税期間終了が迫る場合
旧一般NISAは5年、つみたてNISAは20年の非課税期間があります。非課税期間終了時に損失が出ている場合、課税口座に移管されると、移管時の低い価格が新たな取得価額となります。
その後価格が回復して当初の購入価格に戻っても、移管時価格からの値上がり分には課税されてしまいます。このような状況では、非課税期間内での損切りも検討せざるを得ません。ただし、新NISAでは非課税期間が無期限のため、この問題は解消されています。
下落時の心理的対処法

長期投資の本質を再確認する
投資信託や株式の価格は日々変動しますが、長期投資において重要なのは最終的な到達点です。途中の下落は、山登りでいえば一時的な下り坂のようなもので、頂上を目指す過程では避けられません。
過去の歴史を見ても、株式市場は幾度となく暴落を経験しながらも、長期的には右肩上がりの成長を続けています。20年、30年という長期視点で見れば、一時的な下落は誤差の範囲といえるでしょう。
定期的な情報収集と冷静な判断
下落時は不安から頻繁に価格をチェックしたくなりますが、毎日の値動きに一喜一憂するのは避けるべきです。月に1回程度の確認にとどめ、むしろ投資先の企業業績や経済動向など、本質的な情報収集に時間を使うことが大切です。
また、SNSやネット掲示板の悲観的な意見に影響されやすくなりますが、こうした情報は感情的なものが多く、投資判断の参考にはなりません。信頼できる金融機関や公的機関の情報を基に、冷静な判断を心がけましょう。
出典:日本証券業協会「2024年以降の新しいNISAについて」
下落を乗り越えるためのポートフォリオ戦略

資産分散によるリスク軽減
NISA口座での投資は、複数の資産クラスに分散投資することでリスクを軽減できます。株式だけでなく、債券やREIT(不動産投資信託)を組み入れたバランス型ファンドを選択することで、下落時の衝撃を和らげられます。
特に年齢が高い投資家や、リスク許容度が低い投資家は、株式の比率を抑えめにし、債券の比率を高めることで、価格変動を抑えた安定的な運用が可能です。
国際分散投資の重要性
日本株だけでなく、先進国株式や新興国株式への分散投資も重要です。特定の国や地域の経済が低迷しても、他の地域がカバーすることで、全体としての下落幅を抑えられます。
全世界株式インデックスファンドなどを活用すれば、一つの商品で世界中の株式市場に分散投資できます。これにより、地政学的リスクや為替リスクも分散され、長期的に安定したリターンが期待できます。
まとめ:下落は長期投資の通過点
NISAで大きく下落した時、最も重要なのは慌てて損切りしないことです。NISA口座では損益通算ができないため、損失を確定させるメリットはほとんどありません。
むしろ、下落は平均取得単価を下げる絶好の機会と捉え、ドルコスト平均法による積立投資を継続することが大切です。新NISAでは非課税保有期間が無期限となったため、価格が回復するまでじっくりと待つことができます。
投資における下落は避けられない現象ですが、それは長期的な資産形成の過程における一時的な出来事に過ぎません。10年、20年という長期視点を持ち、市場の回復力を信じて投資を継続することが、NISA投資で成功するための鍵となるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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