iDeCo
iDeCoは退職金がない(少ない)人にこそ必要?老後資金の不安を解消

多くの会社員にとって、退職金は老後資金の大きな柱の一つです。しかし、近年は退職金制度がない会社が増えており、退職金が期待できない、あるいは少額であるために、老後資金に不安を感じている方もいるかもしれません。
ご安心ください。iDeCo(個人型確定拠出年金)は、このような方々にとって、まさに「退職金の代わり」として、あるいはそれを補完する強力な老後資金準備の手段となり得ます。税制優遇を受けながら、自分で計画的に退職金のようなまとまった資金を形成できるからです。
この記事では、退職金がない(少ない)人にとってのiDeCoの重要性を解説します。iDeCoを「自分で作る退職金」と捉える考え方や、退職所得控除の活用と老後の課税シミュレーションまで、退職金がない場合にiDeCoで安心できる老後を築くための具体的な戦略を提案します。
退職金制度がない企業に勤める人のiDeCo活用メリット

退職金制度がない、あるいは少額の退職金しか見込めない場合、老後資金の準備はすべて自分自身の肩にかかります。iDeCoは、その自助努力を強力に後押しする存在です。
公的年金だけでは不足する老後資金
公的年金(国民年金や厚生年金)だけでは、ゆとりある老後生活を送るには不足すると言われています。多くの会社員は、この不足分を退職金や個人の貯蓄・投資で補うことを想定しています。退職金が期待できない場合、その穴埋めを別の方法で行う必要があります。
iDeCoは現役時代の節税メリットが特に強力
iDeCoの最大の魅力の一つが、毎月拠出した掛金が全額所得控除になることです。
・現役時代の税金軽減: 退職金がない分、iDeCoの掛金で現役時代の所得税・住民税を軽減できます。これにより、手元に残るお金が増えるため、その分をiDeCoの掛金に回すなど、老後資金の準備に充てやすくなります。
・運用益の非課税: 運用中に得た利益(運用益)が非課税になるため、効率的に資産を増やし、複利効果を最大限に享受できます。
これらの税制メリットは、退職金がないために将来の老後資金に不安を感じる方にとって、非常に大きな支えとなります。
iDeCoを「自分で作る退職金」と捉える考え方

iDeCoは、その運用成果を老後に年金または一時金として受け取ることができます。特に一時金として受け取る場合、会社から支給される退職金と同じ「退職所得」として扱われるため、「自分で作る退職金」という位置づけで活用できます。
「自分で作る退職金」としてのiDeCoのメリット
・税制優遇が手厚い: 会社からの退職金と同様に、受け取り時に「退職所得控除」という大きな控除が適用されるため、税金がかからない、または大幅に軽減されるケースが多いです。
・計画的な形成: 毎月、自分で掛金を設定し、運用商品を選ぶため、将来受け取る退職金の額を自分でコントロールできます。
・転職・離職時も持ち運び可能: 会社の退職金制度は転職するとリセットされることがありますが、iDeCoは個人に紐づく制度のため、転職・離職しても資産を持ち運び、運用を継続できます。
目標額設定の考え方
iDeCoを退職金として活用する場合、まずは「いくら準備したいか」という具体的な目標額を設定することが重要です。
・老後必要資金の試算: 公的年金だけでは不足する老後の生活費を試算し、その不足分をiDeCoで補うことを考えます。例えば、「老後資金が総額で2,000万円必要で、公的年金やNISAで1,000万円はまかなえそうだから、iDeCoで残りの1,000万円を目標にする」といった考え方です。
・掛金上限からの逆算: iDeCoの掛金上限額は、会社員(企業年金なし)の場合、現在の月額2.3万円(年間27.6万円)ですが、2025年度の税制改正大綱では月額6.2万円(年間74.4万円)への大幅引き上げが予定されています。この上限を最大限活用できると、より大きな資産を築けます。 例えば、45歳から60歳までの15年間で1,000万円をiDeCoで貯めたい場合、年率5%運用で月額約3.8万円の積立が必要となります。
金融庁 つみたてシミュレーターで試算
退職所得控除の活用と老後の課税シミュレーション

iDeCoを一時金で受け取る際に適用される「退職所得控除」は、税負担を大きく軽減する強力な優遇措置です。
退職所得控除の仕組み
退職所得控除額は、iDeCoの加入期間(勤続年数とみなされます)によって計算されます。
・勤続年数20年以下: 40万円 × 勤続年数(最低80万円)
・勤続年数20年超: 800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年)
国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
【課税シミュレーション例】
・iDeCoの加入期間: 30年
・iDeCoの資産額(受け取り額): 1,500万円
・会社からの退職金: 0円(退職金がないケース)
この場合、iDeCoの加入期間30年で計算される退職所得控除額は、800万円 + 70万円 × (30年 − 20年) = 1,500万円となります。
課税対象額: (1,500万円 − 1,500万円) × 1/2 = 0円
このケースでは、1,500万円のiDeCo資産を受け取っても、税金は一切かかりません。
会社からの退職金がある場合の受け取り方
もし会社からの退職金が少額であっても、iDeCoの一時金と合算して退職所得控除額が計算されます。
・受け取り時期をずらす戦略: 退職金を受け取ってからiDeCoの一時金を受け取るまでに、一定期間(現行5年、2026年1月からは10年)の間隔を空けることで、それぞれが独立した退職所得控除枠を利用できる可能性があります。これにより、税負担を大幅に軽減できます。
年金形式での受け取り(公的年金等控除)
iDeCoの資産を年金形式で受け取る場合は、「公的年金等控除」が適用されます。この場合、公的年金とiDeCo年金が合算されて税金が計算されるため、公的年金の受給額が多い人は、iDeCoの年金にも税金がかかる可能性が高まります。
退職金がない(少ない)人は、退職所得控除の枠を最大限活用できる一時金での受け取りを検討するケースが多いですが、自身の退職金や公的年金の受給見込み額、他の所得状況を考慮して、最適な受け取り方を検討することが重要です。
まとめ:iDeCoで「もう一つの退職金」を築こう
退職金がない、あるいは少ない場合でも、iDeCo(個人型確定拠出年金)を賢く活用すれば、老後資金の不安を解消し、安心してセカンドライフを迎えるための「もう一つの退職金」を自ら築くことができます。
・iDeCoの重要性: 公的年金だけでは不足する老後資金を補う、税制優遇付きの「自分年金」として活用しましょう。
・目標額の設定と掛金最大化: 必要な老後資金を試算し、ご自身のiDeCo掛金上限額(特に将来の引き上げも視野に)を最大限に活用して積み立てましょう。
・退職所得控除の活用: 一時金で受け取る際は、退職所得控除の仕組みを理解し、税負担を最小限に抑える受け取り方を検討しましょう。
40代からでも「ラストスパート」をかけられるのがiDeCoの魅力です。ぜひ今日からiDeCoを始めて、あなたの退職金となる資産形成を着実に進めていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。