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iDeCoは出産・育児期間中も続けるべき?家計状況に合わせた選択

出産や育児は、夫婦にとって喜ばしいライフイベントである一方、家計にとっては大きな変化と負担をもたらします。特に、産休・育休による収入減や、子育て費用の増加は、iDeCo(個人型確定拠出年金)の積立を続けるべきか悩む原因となるでしょう。
この記事では、iDeCoを出産・育児期間中も続けるべきかという問いに対し、あなたの家計状況に合わせた賢い選択肢を解説します。収入減が想定される育児期間中の掛金設定(減額・停止・再開)の具体的な方法から、iDeCoの資金拘束のデメリットと、それでも続けるメリット、そして教育資金とのバランスまで、子育て世代のためのiDeCo活用術を提案します。
出産・育児期間中の家計変化とiDeCo掛金の見直し

出産・育児期間は、家計にとって「収入減」と「支出増」が同時に起こりやすい時期です。
収入減が想定される育児期間中の掛金設定
・産休・育休中の収入減: 多くの場合、産休・育休中は給与が減額されたり、育児休業給付金で補填されたりしますが、現役時代の収入よりは少なくなることが一般的です。
・働き方の変化: 育児を機に、時短勤務やパート勤務に切り替えることで、世帯収入が減少する可能性もあります。
このような状況で、iDeCoの掛金を無理に続けることは家計の破綻につながりかねません。iDeCoは、家計状況に合わせて柔軟に掛金を設定できます。
・掛金の「減額」: 月々の掛金を、最低額の月5,000円まで減らすことができます。収入が減っても、可能な範囲で積立を継続したい場合に有効です。
・掛金の「停止」: 家計が一時的に極めて厳しく、iDeCoの掛金拠出が困難な場合は、一時的に掛金を停止することも可能です。
手続き: 掛金変更(減額・停止)の手続きは、年に1回まで可能です。iDeCo口座を開設している運営管理機関に「掛金変更届」などの書類を提出します。
注意点: 掛金を停止しても、iDeCoの口座管理手数料(月額171円〜、金融機関によって異なる)は継続して発生します。運用されないのに手数料だけが引かれる期間は、資産が目減りするリスクがあります。
掛金の「再開」も可能
家計に余裕が戻ったら、iDeCoの掛金拠出を再開しましょう。
手続き: 運営管理機関に再度「掛金変更届」を提出し、掛金額を設定することで再開できます。
再開のメリット: 税制メリット(所得控除、運用益非課税)を再び享受でき、老後資金の積み立てを本格的に再スタートできます。
資金拘束のデメリットと、それでもiDeCoを続けるメリット

出産・育児期間中は、子どもの急な医療費や予期せぬ出費など、資金の流動性が特に重要になります。iDeCoの「原則60歳まで引き出せない」という資金拘束は、この時期にデメリットと感じるかもしれません。しかし、それでもiDeCoを続けるメリットは大きいです。
資金拘束のデメリット
・緊急資金として使えない: 子どもの教育費や家族の医療費など、60歳より前にまとまったお金が必要になったとしても、iDeCoの資産は引き出すことができません。
・家計圧迫のリスク: 無理して掛金を拠出し続けると、家計を圧迫し、生活費が不足する可能性があります。
それでもiDeCoを続ける「大きなメリット」
資金拘束があるにもかかわらずiDeCoを続けるべき理由は、その強力な税制優遇と、老後資金の「確実性」にあります。
・所得控除の継続(年間所得によっては限定的): iDeCoの掛金は所得控除の対象ですが、育児休業給付金などは非課税所得です。そのため、給付金のみの期間で所得税・住民税がかからない場合は、所得控除による税軽減メリットを直接享受することはできません。 ただし、年の途中から産休・育休に入ったり復帰したりするなど、その年に給与所得などの課税所得がある場合は、iDeCoの掛金はその所得から控除されるため、税金軽減のメリットを受けられます。 たとえ少額でも積立を継続すれば、年間で数万円の税金軽減効果が家計を助けてくれる可能性があります。
・運用益非課税の継続: 積立を続ければ、運用益が非課税になるメリットを途切れさせずに享受できます。長期投資の最大のメリットである複利効果は、運用期間が長ければ長いほど大きくなるため、中断しないことが重要ですし、出産から大学進学まで18年といった長い期間を非課税で運用できるのは大きな魅力です。
・半強制的な老後資金確保: 資金拘束があるからこそ、誘惑に負けて途中で使ってしまう心配がなく、着実に老後資金を積み上げることができます。子育て世代は他の支出が多いため、この「半強制性」はむしろメリットになり得ます。
・ドルコスト平均法の継続: 市場が不安定な時期や下落局面でも積立を継続すれば、平均購入単価を平準化し、市場回復時に大きなリターンを得られる可能性が高まります。
教育資金とのバランス:iDeCoとNISAの使い分け

出産・育児期間は、子どもの教育資金準備が本格化する時期でもあります。iDeCoと教育資金とのバランスをどう取るかが重要です。
教育資金の目標と準備方法の確認
・教育費の目安: 幼稚園から大学まで、進路によって数百万〜数千万円の教育費がかかります。まずは目標額を具体的に設定しましょう。
・準備方法の検討: 学資保険、NISA、預貯金など、教育資金の準備方法は様々です。
iDeCoと教育資金の「すみ分け」
iDeCoは老後資金に特化しており、原則60歳まで引き出せないため、教育資金としては直接使えません。
・iDeCo: 老後資金の「コア」として、絶対に途中で使わないお金を積立ましょう。税制メリットを最大限に活かし、着実に増やすことに集中します。
・NISA: 教育資金準備の主軸として活用しましょう。NISAは必要な時にいつでも引き出しが可能であり、運用益も非課税です。新NISAの年間360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)の非課税枠をフル活用できます。
優先順位と家計のバランス
理想はiDeCoとNISA(教育資金用)の両方を活用することですが、家計に余裕がない場合は優先順位を考えましょう。
1.生活防衛資金の確保: 最低でも生活費の半年〜1年分は預貯金で確保します。
2.iDeCoの最低掛金継続: 月5,000円でもiDeCoの所得控除メリットを享受し、老後資金の積立を途切れさせない。
3.NISAで教育資金準備: 浮いたお金や児童手当などをNISAに回し、教育資金を確保します。
4.iDeCoの掛金増額: 教育資金の目処が立ち、家計に余裕ができたら、iDeCoの掛金を増額して老後資金のラストスパートをかける。
まとめ:iDeCoは「無理なく継続」が子育て世代の鍵!
出産・育児期間中は家計が大きく変動するため、iDeCoの継続に悩むかもしれません。しかし、iDeCoの「資金拘束」は、この時期の不安定な家計において、老後資金を確実に守る「半強制的な貯蓄」として機能します。
・収入減時は掛金減額・停止も検討し、無理なく継続できる範囲で続けましょう。
・所得控除のメリットと運用益非課税の恩恵を最大限に享受するために、積立を途切れさせないことが重要です。ただし、非課税所得のみの期間は所得控除の直接的な恩恵は限定的である点も理解しておきましょう。
・iDeCoは老後資金、NISAは教育資金というように、目的を分けて使い分けることで、効率的かつ柔軟に資産形成を進められます。
子育てで忙しい日々の中でも、iDeCoを「無理なく続ける」ことを意識し、将来の安心を着実に築いていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。