iDeCo
30代からのiDeCo:結婚・出産を見据えた掛金設定と運用

「家計が変化する中で、iDeCoの掛金って見直した方がいいのかな?」
30代は、結婚、出産、子育て、住宅購入など、人生で最も大きなライフイベントが集中する時期です。これらの変化は、家計に大きな影響を与え、資産形成の計画を複雑にするかもしれません。しかし、同時に、iDeCo(個人型確定拠出年金)で本格的に老後資金の準備を始める絶好のタイミングでもあります。
この記事では、30代のライフイベント(結婚、出産)を見据えたiDeCoの賢い活用術を解説します。ライフイベントによる家計の変化と掛金の見直し方、夫婦でのiDeCo活用と教育資金・住宅資金とのバランス、そして資産形成の本格化時期としてのiDeCoの重要性まで、30代のあなたに最適なiDeCo戦略を提案します。
30代からiDeCoを始める重要性:資産形成の本格化時期

20代からiDeCoを始めるのが理想的と言われますが、30代からでも決して遅くありません。むしろ、30代にはこの時期ならではのiDeCo活用メリットがあります。
収入の安定と増加
30代はキャリアが本格化し、収入が安定したり、増加したりする時期です。これにより、iDeCoへの掛金を増やしやすくなります。20代の頃には難しかった金額で、一気に老後資金の準備を加速させられるチャンスです。
強力な税制メリットをまだ長く享受できる
たとえ30代から始めても、60歳まで(あるいは将来70歳まで延長が検討されている受給開始年齢まで)の期間は、まだ20年〜30年以上あります。この期間、iDeCoの「掛金全額所得控除」と「運用益非課税」という強力な税制メリットを最大限に享受できます。
将来の目標が明確になる
結婚、出産といった具体的なライフイベントが現実味を帯びてくる30代は、「何のために、いつまでに、いくら貯めるか」という投資目標が明確になりやすい時期です。iDeCoは老後資金という特定の目的に特化しているため、他の資金と混同することなく、着実に目標達成を目指せます。
ライフイベントによる家計の変化とiDeCo掛金の見直し方

30代のライフイベントは、家計に大きな変化をもたらします。iDeCoの掛金も、これらの変化に合わせて柔軟に見直すことが重要です。
結婚時:夫婦の家計と年金制度の確認
結婚は家計が一体となり、将来設計を共有する第一歩です。
・家計の合算と見直し: 夫婦それぞれの収入・支出を把握し、iDeCoに回せる世帯全体の余裕資金を特定しましょう。
・年金制度の確認: 夫婦がお互いの勤務先の企業年金(企業型DC、確定給付企業年金など)の有無や種類を確認します。これにより、iDeCoの掛金上限額が変わる可能性があります。
・掛金設定の最適化: 夫婦の所得バランスを見て、iDeCoの掛金配分を最適化しましょう。所得が高い方がiDeCoに拠出する方が、所得控除による節税効果は大きくなります。
出産・育児時:家計の再編と掛金の柔軟な調整
出産や育児は、家計の支出が大きく増える時期です。
・支出の増加に対応: オムツ代、ミルク代、保育料、ベビー用品など、子育てにかかる費用が増加します。また、片方が育児休業に入る場合、世帯収入が一時的に減少することもあります。
・iDeCo掛金の柔軟な調整: 家計が厳しくなった場合は、iDeCoの掛金を一時的に減額したり、数ヶ月〜1年程度停止したりすることも検討しましょう。
ポイント: iDeCoの掛金は年に1回まで変更が可能です。60歳まで引き出せないiDeCoだからこそ、無理に掛金を拠出し続けることで生活が破綻するよりも、一時的に減額・停止して家計を守り、余裕ができた時に再開する方が賢明です。ただし、停止中も口座管理手数料がかかる点には注意が必要です。
夫婦でのiDeCo活用と教育資金・住宅資金とのバランス

30代は、老後資金以外にも、教育資金や住宅資金といった大きな目標が見えてくる時期です。夫婦でiDeCoとNISAを賢く使い分け、バランスを取ることが重要です。
夫婦でiDeCoを活用するメリット
夫婦それぞれがiDeCoに加入することで、世帯全体で利用できる税制優遇の枠が2倍になります。
世帯全体の所得控除を最大化: 夫婦それぞれに所得がある場合、それぞれの掛金が所得控除の対象となり、世帯全体の所得税・住民税を大幅に軽減できます。
夫婦それぞれの老後資金を確保: 夫婦別々に老後資金を形成するため、将来の年金生活での安心感が高まります。
iDeCo掛金上限:
・会社員(企業年金なし)・専業主婦(夫): 月額2.3万円
・会社員(企業年金あり)・公務員: 月額2万円 (2024年12月改正後)
NISAとiDeCoを併用し、目的に応じて使い分ける
iDeCoは老後資金に特化していますが、NISAは柔軟性が高いため、夫婦でこれらを併用し、目的に応じて使い分けるのが効果的です。
・iDeCo: 老後資金の「コア」として、60歳まで引き出せないことを前提に、低コストの株式型インデックスファンドを中心に積み立てましょう。
・NISA:
教育資金: 子どもの大学入学など、比較的期間が限られている目標には、NISAのつみたて投資枠(年間120万円)を活用しましょう。必要な時に引き出しやすい柔軟性が魅力です。
住宅資金: 住宅購入の頭金など、数年後に使う可能性がある資金にも、NISAのつみたて投資枠や成長投資枠(年間240万円)を活用できます。
iDeCoの掛金上限を超える老後資金: iDeCoの掛金上限まで拠出した上で、さらに老後資金を積み増したい場合は、NISAのつみたて投資枠や成長投資枠を活用しましょう。
具体的なシミュレーションで家計とのバランスを確認
夫婦でiDeCoやNISAに拠出する金額を決める際は、必ずシミュレーションを行い、家計に無理がないかを確認しましょう。
例:年収700万円(夫)と年収500万円(妻)、30歳夫婦の場合
【前提】
・夫:年収700万円、所得税率20%、住民税率10%
・妻:年収500万円、所得税率10%、住民税率10%
・夫婦ともに企業年金なし、iDeCo掛金上限は月2.3万円
・夫婦それぞれiDeCoに月2.3万円、NISAに月5万円を積立
所得税率 国税庁 No.2260 所得税の税率
住民税率 総務省 個人住民税(均等割は考慮していません)
【iDeCoによる年間節税額】
・夫:2.3万円 × 12ヶ月 × (20% + 10%) = 8.28万円
・妻:2.3万円 × 12ヶ月 × (10% + 10%) = 5.52万円
・世帯合計約13.8万円の節税が、毎年の税金から差し引かれることに。
【30年後(60歳時点)の資産額シミュレーション(年率5%運用、運用益非課税)】
・夫のiDeCo資産:約1,914万円
・妻のiDeCo資産:約1,914万円
・夫のNISA資産:約4,161万円
・妻のNISA資産:約4,161万円
・世帯合計で約1億2,150万円の資産形成の可能性
金融庁 つみたてシミュレーターで試算
このように、夫婦でiDeCoとNISAを活用することで、現役時代の節税メリットを享受しながら、将来の大きな資産形成が期待できます。
まとめ:30代はiDeCoで「賢く基盤」を築く好機
30代は、ライフイベントが集中し家計が大きく変動する時期ですが、同時にiDeCoで老後資金の基盤を築く絶好の機会です。
・夫婦でiDeCoに加入することで、世帯全体の所得控除を最大化し、税金対策を強化しましょう。
・出産や住宅購入などで家計が厳しくなった場合は、掛金の一時的な減額や停止も可能であることを理解し、柔軟に対応しましょう。
・iDeCoを老後資金の核としつつ、NISAも併用して教育資金や住宅資金など、多様なライフイベントに備えるバランスが重要です。iDeCoの資金は60歳まで引き出せないことを理解した上で、他の柔軟な資金とのバランスを慎重に考えることが大切です。
30代からiDeCoを賢く活用し、ライフイベントの波を乗りこえながら、将来の安心を築いていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています