社会保障
資産形成の始め方とは?公的保障を踏まえた3つのステップと年代別ロードマップをわかりやすく解説

資産形成とは、収入の一部を計画的に貯蓄・運用し、将来に向けて金融資産を積み上げていくことを指します。J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査2025年」によると、二人以上世帯の金融資産保有額は平均1,940万円・中央値720万円で、世帯間の格差が拡大傾向です。
金融庁も「長期・積立・分散投資」を家計の安定的な資産形成の柱として推進していますが、投資を始める前に「生活防衛資金の確保」と「公的保障の正確な把握」を済ませておくことが、資産形成を成功させるための前提条件となります。
この記事では、資産形成の基本的な考え方から、公的保障を踏まえた3つのステップ、20代から50代までの年代別ロードマップ、NISA・iDeCoの活用方法まで解説します。
資産形成とは何か|「貯蓄」と「投資」の使い分けが基本

金融庁のNISA特設サイトでは、資産形成の方法を「貯蓄」と「投資」の2つに分類しています。貯蓄は銀行預金などでお金を蓄えること、投資は株式や投資信託などに利益を見込んでお金を出すことを指します。
ここで重要なのは、貯蓄と投資は「どちらが優れているか」ではなく、目的と時間軸に応じて使い分けるものだという点です。数年以内に使う予定の資金は元本保証のある預金で確保し、10年以上先に必要となる資金は投資信託などで運用するというのが基本的な考え方になります。
ただし、投資には元本割れのリスクがともなう点に注意が必要です。金融庁が推奨する「長期・積立・分散投資」は、このリスクを軽減する方法として示されているもので、利益を保証するものではありません。資産形成に取り組む際には、まず自分の家計の状況を把握し、投資に回してもよい余裕資金の範囲を明確にすることが出発点です。
資産形成を始める前に確認したい3つのステップ

証券会社や金融メディアでは「まず投資を始めよう」という切り口が多くみられますが、投資はあくまで3番目のステップです。ここでは、家計全体を見渡したうえで資産形成に取り組む順序を確認しましょう。
ステップ1:生活防衛資金を確保する
資産形成の第一歩は、生活費の6か月分(自営業者は12か月分)を預金で確保することです。総務省「家計調査(2025年平均)」によると、二人以上世帯の消費支出は月額平均314,001円で、6か月分は約189万円になります。
この生活防衛資金は、病気やケガによる収入減少、突然の失業、家電の故障や家族の急な出費など、予測できない支出に備えるためのものです。投資に回してしまうと、必要なタイミングで元本割れしている可能性があるため、普通預金や定期預金など元本保証の商品で保有しておく必要があります。
会社員と自営業者で必要額が異なるのは、公的保障の手厚さに差があるためです。会社員は傷病手当金(給与のおよそ2/3、最長18か月)や雇用保険の基本手当を受給できますが、自営業者にはこれらの制度が原則として適用されません。
ステップ2:公的保障を把握し、保険を適正化する
生活防衛資金を確保したら、次に取り組むべきは公的保障の内容を正確に把握することです。日本の社会保険制度には、医療費・収入減少・死亡リスクをカバーする仕組みが整備されており、これを知らないまま民間保険に加入すると、保障の重複が生じて保険料が無駄になりかねません。
具体的には、以下の公的保障が整備されている状況です。
・高額療養費制度:年収約370万〜770万円の場合、1か月の医療費自己負担の上限は80,100円+α(年収約370万円以下では57,600円)
・傷病手当金:会社員が業務外の病気やケガで働けなくなった場合、給与のおよそ2/3が最長18か月支給される
・遺族基礎年金:令和7年度の年額は831,700円に子の加算が上乗せされる
・労災保険:業務上の傷病では治療費全額+休業補償として給付基礎日額の80%が支給される
たとえば、高額療養費制度を知っていれば、入院時の医療費負担は月額8〜9万円程度に収まることがわかります。それにもかかわらず「入院日額1万円」の医療保険に加入していると、公的保障と民間保険の保障が重複し、その保険料を貯蓄や投資に回したほうが合理的だったというケースは少なくありません。
ステップ3:余裕資金で長期・積立・分散投資を始める
生活防衛資金の確保と保険の適正化を済ませたうえで、はじめて投資のステップに進みます。金融庁は「長期・積立・分散投資」を資産形成の基本として推進しており、NISAの制度設計もこの考え方にもとづいています。
「長期」とは、価格変動のリスクを時間で緩和する考え方です。「積立」は毎月一定額を購入することで購入単価を平準化する方法(ドル・コスト平均法)を指します。「分散」とは、国内外の株式・債券・不動産など値動きの異なる資産に投資先を分けることでリスクを抑える手法です。
投資を始める際の注意点として、余裕資金の範囲内で行うことが鉄則となります。住宅ローンの返済や教育費の支払いが控えている場合は、それらの確実な支出を優先し、投資額は無理のない範囲に抑える判断も重要になります。
年代別の資産形成ロードマップ

資産形成の優先順位は、年齢やライフステージによって異なります。J-FLEC「家計の金融行動に関する世論調査2024年」の年代別データをもとに、各年代で重視すべきポイントを確認しましょう。
20代:少額でも「始めること」が最優先
J-FLEC(2024年)によると、20代の二人以上世帯の金融資産保有額は平均382万円です。収入がまだ低い時期ですが、資産形成においては「時間」が最大の味方となります。
まず取り組むべきは、生活費3〜6か月分の生活防衛資金の確保です。次に、毎月5,000円や1万円といった少額からでも積立投資を始めることが重要になります。NISAのつみたて投資枠を利用すれば、運用益が非課税になるため、少額でも効率的に資産を増やせる可能性があります。
20代で意識したいのは、固定費の見直しで「投資に回せる金額」を捻出することです。公的保障の仕組み(高額療養費制度や傷病手当金)を正しく理解していれば、過剰な民間保険に入らずに済み、その分を資産形成に充てられます。独身で扶養家族がいない場合、死亡保険の優先順位は低くなります。
30代:ライフイベントと資産形成の両立がカギ
30代の二人以上世帯の金融資産保有額は平均677万円で、結婚・出産・住宅購入といったライフイベントが重なる時期です。この年代では、短期的な支出と長期的な資産形成のバランスを取ることが課題となります。
住宅購入を検討する場合、頭金と諸費用で物件価格の25〜30%程度を準備するのが一つの目安です。住宅ローン返済額が手取り収入の25%を超えると家計が圧迫されやすくなるため、借入額は慎重に設定する必要があります。
子どもが生まれた場合には遺族年金の受給対象となるため、死亡保険の必要保障額を公的保障から逆算して見直すのが合理的です。遺族基礎年金(令和7年度:年額831,700円+子の加算)に加え、会社員なら遺族厚生年金も上乗せされるため、民間の死亡保険で必要な保障額は公的保障の不足分だけで十分なケースが多くなります。
40代:教育費のピークに備えつつ老後資金の準備を本格化
40代の二人以上世帯の金融資産保有額は平均944万円です。子どもの教育費がピークに向かう時期であると同時に、老後資金の準備を本格的に始めるべきタイミングでもあります。
文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」によると、高校3年間の学習費総額は公立で約179万円、私立で約309万円にのぼります。大学進学まで含めると、教育費の総額は1人あたり1,000万円を超えるケースも少なくないのが実情です。教育費の支出が見込まれる時期のお金は預金で確保し、投資に回すのは10年以上先に使う資金に限定するという切り分けが重要になります。
一方で、老後資金の準備には時間的な制約が意識され始める時期です。50代に入ると教育費の負担が軽くなるケースも多いため、40代のうちから老後資金の積立計画を立てておくことで、50代以降の積立額を無理なく設定できるようになります。
50代:リスク資産の配分を見直し、出口戦略を意識する
50代は、退職までの期間が短くなるため、リスク資産(株式型の投資信託など)の配分を段階的に見直す時期です。退職直前に株式市場が下落した場合、運用資産が大きく目減りするリスクがあるため、債券型の投資信託や預金の比率を徐々に高めていくことが検討課題になります。
ただし、人生100年時代を前提にすると、65歳からの資産運用期間は30年以上続く可能性もあります。すべてを預金に切り替える必要はなく、生活費として数年以内に使う資金と、当面使わない資金を分けて管理する考え方が有効です。
また、50代は退職金の受け取り方(一時金と年金の選択肢)やiDeCoの出口設計を具体的に検討すべき時期でもあります。退職所得控除と公的年金等控除の活用方法は、受け取り方によって税負担が変わるため、早めに試算しておくことをおすすめします。
出典:J-FLEC「家計の金融行動に関する世論調査2025年」
NISAとiDeCoの使い分け方

資産形成に活用できる税制優遇制度として、NISAとiDeCo(個人型確定拠出年金)が代表的です。それぞれ特徴が異なるため、目的に応じた使い分けが重要になります。
NISA:いつでも引き出せる柔軟性が強み
NISAは、投資で得た利益(売却益・配当金)が非課税になる制度で、つみたて投資枠(年間120万円)と成長投資枠(年間240万円)を合わせて年間最大360万円まで投資できます。非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)に設定されています。
NISAの最大の特徴は、いつでも売却・引き出しができる点です。住宅購入資金や教育費など、まとまった支出が見込まれる場合にも対応しやすく、ライフイベントが多い30代・40代の資産形成にも適しています。
iDeCo:掛金が全額所得控除になる節税効果
iDeCoは、掛金が全額所得控除の対象となるため、所得税・住民税の節税効果が得られます。ただし、原則として60歳まで引き出せないという制約があるため、老後資金の準備に特化した制度です。
会社員の場合、勤務先の企業年金制度の有無によって掛金の上限額が異なります。企業型確定拠出年金に加入していない場合は月額23,000円(年間276,000円)が上限の目安です。自営業者は月額68,000円(年間816,000円)まで拠出でき、節税効果はさらに大きくなります。なお、2025年6月成立の年金制度改正法により、2027年1月から掛金上限が引き上げられる予定で、企業年金なしの会社員は月額62,000円、自営業者は月額75,000円に拡大される見込みです。
NISAとiDeCoのどちらを優先すべきかは、ライフステージによって判断が分かれます。教育費や住宅購入が控えている場合はNISAを優先し、老後資金の準備に集中できる段階ではiDeCoの活用を検討するのが一つの考え方です。余裕があれば両方を併用することで、非課税枠と所得控除の両方のメリットを享受できます。
資産形成でよくある失敗パターン

ここでは、資産形成に取り組む際に陥りやすい失敗パターンを確認しましょう。
生活防衛資金なしで投資を始める
投資ブームに乗って生活防衛資金を確保しないまま投資を始めると、急な出費が発生した際に投資商品を不利なタイミングで売却せざるを得なくなります。株式市場は短期的に20〜30%程度の下落が起こることもあるため、生活費6か月分の預金確保が投資開始の前提条件です。
公的保障を知らずに保険料を払いすぎる
高額療養費制度や傷病手当金の存在を知らないまま、月額2〜3万円の民間保険料を支払い続けているケースは珍しくありません。年間で24〜36万円、30年間では720〜1,080万円にもなる保険料のうち、公的保障と重複している部分を見直すだけで、資産形成に回せる金額は大きく変わります。
短期的な値動きで積立をやめてしまう
積立投資の途中で株価が下落すると不安になりますが、積立を継続していれば安い価格で多くの口数を購入できるため、長期的にはリターンの改善につながる可能性も考えられるでしょう。金融庁のデータでは、保有期間5年では元本割れのケースもある一方、20年間保有した場合は過去の実績では元本割れが発生していないとされています。ただし、これは過去のデータにもとづくもので、将来を保証するものではありません。
会社員と自営業者で異なる資産形成の優先順位

資産形成の基本ステップは共通ですが、会社員と自営業者では公的保障に構造的な差があるため、優先順位の付け方が異なります。
会社員は公的保障が手厚い分、投資に回しやすい
会社員は健康保険(傷病手当金・出産手当金)、厚生年金(老齢・遺族・障害)、雇用保険(基本手当・育児休業給付金)、労災保険という4つの社会保険に加入しています。これらの公的保障を正確に把握すれば、民間保険の必要性を最小限に絞り込み、浮いた保険料を投資に回す判断がしやすくなります。
自営業者は公的保障が薄い分、自助の比率を高める必要がある
自営業者は国民健康保険と国民年金のみで、傷病手当金や雇用保険、厚生年金がありません。そのため、生活防衛資金を12か月分確保するとともに、iDeCoや小規模企業共済など税制優遇のある制度を最大限活用することが合理的です。iDeCoの掛金上限は月額68,000円と会社員より高く設定されており、所得控除のメリットも拡大する点が特徴となっています。
また、2024年11月から全業種のフリーランスが労災保険に特別加入できるようになり、年間約1万円程度の保険料で業務上の傷病に対する補償を受けることが可能です。民間の就業不能保険を検討する前に、まずこの制度を確認することをおすすめします。
まとめ:資産形成は「守る」から始めて「増やす」へ進む
資産形成の基本は、「①生活防衛資金の確保→②公的保障の把握と保険の適正化→③長期・積立・分散投資」の3ステップで進めることです。投資を始めること自体は難しくありませんが、その前段階で家計の基盤を整えておくことが、長期にわたって資産形成を継続するための土台となります。
J-FLECの調査では、二人以上世帯の金融資産中央値は720万円、単身世帯では130万円と、多くの世帯にとって資産形成は道半ばの状況にあります。焦って投資額を増やすのではなく、まず公的保障の内容を正確に把握し、保険料や固定費の見直しで余裕資金を確保したうえで、NISAやiDeCoを活用した積立投資に取り組むことが、堅実な資産形成への近道となるでしょう。
年代を問わず共通するのは、「公的保障で守られている範囲を知り、そのうえで不足する部分だけを自助で補う」という考え方です。この順序を守ることで、限られた収入のなかでも効率的に資産を積み上げていくことができるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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