税金(一般的な内容)
事業所得と雑所得の違いとは?副業はどっち?国税庁の判断基準をわかりやすく解説

副業やフリーランスの収入を確定申告する際、「事業所得」と「雑所得」のどちらで申告すべきか迷うケースが増えています。国税庁が令和4年10月に改正した所得税基本通達によると、事業所得として認められるかどうかは「社会通念上事業と称するに至る程度で行っているか」で判定され、帳簿書類の保存がない場合は原則として雑所得に区分されるという基準が示されました。事業所得には青色申告特別控除(最大65万円)や損益通算といった税制上の優遇がある一方、雑所得にはこれらの適用がありません。この記事では、事業所得と雑所得の定義の違いから、国税庁が示す具体的な判断基準、副業収入の申告で押さえておくべきポイントまで解説します。
事業所得と雑所得の基本的な違い

事業所得と雑所得はどちらも「収入−必要経費」で所得金額を計算しますが、税務上の取扱いに明確な差があります。ここでは、それぞれの定義と主な違いを整理しましょう。
事業所得とは
事業所得とは、国税庁No.1350によると、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人が、その事業から得る所得のことです。個人事業主やフリーランスが本業として営む事業の収入がこれに該当します。
計算式は「総収入金額−必要経費=事業所得の金額」で、青色申告を選択している場合はさらに青色申告特別控除(最大65万円)を差し引くことができます。
雑所得とは
雑所得とは、国税庁No.1500によると、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得のいずれにも当てはまらない所得を指します。いわば、所得税法で定められた10種類の所得区分のうち「その他」に位置づけられる区分です。
具体例としては、公的年金のほか、副業で得る原稿料やシェアリングエコノミーによる収入などが挙げられます。雑所得は「公的年金等」「業務に係るもの」「その他」の3つに細分されており、副業収入は一般的に「業務に係る雑所得」に分類されることが多くなっています。
事業所得と雑所得で異なる税務上の取扱い

事業所得と雑所得の区分が重要な理由は、適用できる税制上の優遇措置に差があるためです。主な違いを項目ごとに確認していきましょう。
青色申告特別控除の適用
事業所得では青色申告が利用でき、最大65万円の特別控除が受けられます。e-Taxでの申告または電子帳簿保存と複式簿記を組み合わせれば65万円、複式簿記のみなら55万円、簡易簿記でも10万円の控除が可能です。
一方、雑所得には青色申告制度の適用がなく、特別控除を受けることができません。同じ収入・経費であっても、事業所得なら課税所得が最大65万円少なくなるため、税負担に差が生じます。
損益通算の可否
事業所得で赤字(損失)が出た場合、給与所得など他の所得と損益通算して税負担を軽減できます。たとえば、給与所得が400万円で事業所得が50万円の赤字であれば、合計所得は350万円として計算されます。
これに対し、国税庁No.1500でも明記されているとおり、雑所得の赤字は他の所得との損益通算ができません。副業で赤字が出ても、給与所得からの差し引きは認められない点に注意が必要です。
純損失の繰越控除
事業所得で青色申告をしている場合、その年に控除しきれなかった純損失の金額を翌年以降3年間にわたって繰り越し、各年の所得から差し引くことが可能です。雑所得にはこの繰越控除の仕組みがないため、損失が生じた年限りで切り捨てられることになります。
青色事業専従者給与
事業所得で青色申告をしている場合、生計を一にする配偶者や親族への給与を全額必要経費にできる「青色事業専従者給与」が利用できます。白色申告でも事業専従者控除(配偶者86万円、その他50万円)が認められています。雑所得にはこれらの制度の適用がありません。
必要経費の範囲
事業所得と雑所得では、いずれも「収入を得るために直接要した費用」と「販売費、一般管理費その他業務上の費用」が必要経費として認められる点は共通しています。ただし、事業所得では少額減価償却資産の特例(30万円未満の資産を一括で経費計上可能)が利用できるのに対し、雑所得ではこの特例の適用がありません。
国税庁が示す判定基準:令和4年改正通達のポイント

令和4年(2022年)10月7日に国税庁が改正した所得税基本通達(通達35-2)では、事業所得と雑所得の判定に関する考え方が明確化されました。この改正は令和4年分以後の所得税に適用されています。
原則は「社会通念」による判定
改正通達では、事業所得として認められるかどうかの判定について、「その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうか」で判定すると明記されました。
この「社会通念」の具体的な判断要素として、最高裁判所の判例(昭和56年4月24日判決)では以下の点が示されています。
・営利性、有償性を有しているか
・継続性、反復性があるか
・自己の計算と危険において独立して営まれているか
・社会的地位が客観的に認められるか
さらに東京地裁の判例(昭和48年7月18日判決)では、取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、取引の目的、その者の職歴や生活状況なども含めた総合判断が必要とされています。
出典:国税庁「所得税基本通達の一部改正について(法令解釈通達)」(令和4年10月7日)
帳簿書類の保存が事実上の分岐点
改正通達の実務上最も重要なポイントは、帳簿書類の保存の有無が判定の重要な分岐点になったことです。具体的には次のように整理されています。
・帳簿書類の保存がある場合:その所得を得る活動について、一般的に営利性、継続性、企画遂行性を有しており、社会通念での判定において事業所得に区分される場合が多い
・帳簿書類の保存がない場合:原則として事業所得に区分されない(=雑所得)
つまり、帳簿をつけて保存しているかどうかが、事業所得と認められるための事実上の前提条件となっています。
収入金額300万円と個別判断のケース
帳簿書類の保存がない場合でも、収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合は、雑所得ではなく事業所得として取り扱う余地が残されています。
一方、帳簿書類を保存していても、次のようなケースでは事業と認められるかどうかを個別に判断するとされています。
・収入金額が僅少と認められる場合:例年(概ね3年程度)の収入が300万円以下で、主たる収入に対する割合が10%未満のケース
・営利性が認められない場合:例年赤字で、かつ赤字を解消するための営業活動等を実施していないケース
この基準は、副業の赤字を事業所得として申告し、給与所得と損益通算する「行き過ぎた節税」を防ぐ目的で設けられた経緯があります。
副業収入は事業所得と雑所得のどちらになるか

会社員の副業収入がどちらに区分されるかは、上記の通達基準に照らして判断されます。ここでは副業の典型的なケース別に整理しましょう。
雑所得に該当しやすいケース
副業収入が雑所得に区分される典型的なケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
・帳簿をつけていない、または帳簿書類を保存していない
・収入が年間数万円〜数十万円程度で不定期に発生する
・単発の原稿料、講演料、フリマアプリでの売上など
・本業の片手間に行っており、特に設備投資や事業計画がない
また、帳簿書類を保存していても、収入金額が例年300万円以下で主たる収入の10%未満であれば、「僅少」と判断されて雑所得に区分される可能性があります。
事業所得として認められやすいケース
一方、副業であっても以下のような要素を備えていれば、事業所得として認められる可能性が高まります。
・帳簿書類を作成・保存している(最も重要な要素)
・継続的・反復的に収入を得ている
・開業届と青色申告承認申請書を税務署に提出している
・相応の時間と労力を投じている
・事業用の設備やスペースを確保している
・収入金額が一定の規模に達している
ただし、開業届を出しているだけでは事業所得とは認められません。実態として上記の要素を総合的に満たしていることが求められます。
事業所得で申告するために押さえておくべきポイント

副業収入を事業所得として申告したい場合は、事前の準備と適切な記録管理が欠かせません。ここでは具体的な対応策を確認しましょう。
帳簿の記帳と書類保存を確実に行う
令和4年改正通達の趣旨を踏まえると、帳簿書類の作成・保存は事業所得として認められるための最低限の前提条件といえます。収支の記録を日々つけ、請求書・領収書・契約書などの書類を法定の保存期間(法定帳簿は7年、その他の書類は5年)にわたって保管しておくことが重要です。
会計ソフトやクラウドサービスを活用すれば、複式簿記による記帳も効率的に行えるため、青色申告65万円控除の要件を満たしやすくなります。
事業としての実態を客観的に示す
税務調査で事業所得の適否が問われた場合に備え、事業としての実態を客観的に示せるようにしておくことも重要です。具体的には次のような要素を意識しましょう。
・取引先との契約書や受注記録を整備する
・事業のための時間管理記録(作業日報など)をつける
・事業計画や営業活動の記録を残す
・赤字が続いている場合は、黒字化に向けた取り組みを行い、その記録を残す
安易な損益通算を目的にしない
令和4年の通達改正は、副業の赤字を事業所得として給与所得と損益通算し、所得税の還付を受けるという節税手法を規制する目的で行われた経緯があります。実態が伴わないまま事業所得で申告すると、税務調査で雑所得に否認される可能性があるほか、加算税などのペナルティが課されるリスクも生じます。
事業所得で申告する以上は、利益を出すことを目的とした継続的な活動が前提であり、節税のための形式的な申告は避けるべきでしょう。
雑所得でも確認しておきたい申告上のルール

副業収入が雑所得に該当する場合にも、いくつか押さえておくべきルールがあります。
収入金額に応じた書類保存と手続き
令和4年分以後の所得税から、業務に係る雑所得の前々年の収入金額に応じて以下の手続き等が求められます。
・前々年の収入金額が300万円超:現金預金取引等関係書類(請求書・領収書等)の保存義務
・前々年の収入金額が1,000万円超:確定申告書に収支内訳書を添付する義務
なお、前々年の収入金額が300万円以下の場合は、現金主義の特例(収入した金額・支出した費用の額で計算)を適用できますが、確定申告書にその旨の記載が必要です。
確定申告の要否と住民税の申告
給与所得者で副業の所得(収入−経費)が年間20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要です。ただし、住民税には「20万円以下なら申告不要」というルールがないため、市区町村への住民税の申告は別途必要となります。この点は見落としやすいポイントです。
また、医療費控除やふるさと納税のワンストップ特例を利用せずに寄附金控除を受ける場合など、他の理由で確定申告を行う場合は、20万円以下の副業所得も含めて申告する必要があります。
まとめ:所得区分の判断は帳簿保存と事業実態がカギ
事業所得と雑所得の違いは、青色申告特別控除(最大65万円)の適用、損益通算の可否、純損失の繰越控除など、税負担に直結する項目に及びます。令和4年の通達改正により、帳簿書類の保存の有無が判定の重要な分岐点となり、保存がなければ原則として雑所得に区分されることが明確化されました。
副業収入を事業所得として申告する場合は、帳簿の記帳・保存を徹底し、継続的な事業活動の実態を客観的に示せることが前提となります。一方で、節税目的のみで実態の伴わない事業所得の申告は、税務調査で否認されるリスクがある点に留意が必要です。所得区分の判断に迷う場合は、税務署や税理士に相談することをお勧めします。
出典:国税庁「所得税基本通達の一部改正について(法令解釈通達)」(令和4年10月7日)
出典:国税庁「No.1350 事業所得の課税のしくみ」
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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