自動車保険
搭乗者傷害保険は必要か?取り扱い縮小が進む中での判断基準と代替手段

「搭乗者傷害保険は本当に必要なのだろうか?」──自動車保険の見直しで、多くの方がこの疑問にぶつかります。損保会社のサイトには補償内容の説明はあっても、加入しなかった場合に何が起きるのか、他の保険で代替できるのかまで踏み込んだ情報はあまり見当たりません。加えて、近年は搭乗者傷害保険そのものを取り扱わない保険会社も増えており、以前と同じ感覚では判断できなくなっています。この記事では、業界の構造変化を踏まえつつ、搭乗者傷害保険の要否を判断するための具体的な基準を整理しました。
搭乗者傷害保険を取り巻く業界の変化|取り扱い廃止・縮小の背景

搭乗者傷害保険は2021年に参考純率の算出対象から外れ、取り扱いを廃止・縮小する保険会社が増えています。損害保険料率算出機構は2021年6月に自動車保険参考純率の改定を届け出た際、搭乗者傷害保険を参考純率の算出対象から除外しました。参考純率とは、保険会社が保険料を算出する際の基礎となる数値のことで、ここから外れたということは、業界全体として搭乗者傷害保険の標準的な料率を提示しなくなったことを意味します。
保険会社ごとの対応が分かれている
この変化を受けて、保険会社ごとに対応が分かれている状況です。現在の状況を大きく分けると、次の3パターンに整理できます。
・搭乗者傷害保険の取り扱いを廃止し、人身傷害保険のみで補償するシンプルな商品構成に移行した会社
・搭乗者傷害保険に代えて「人身傷害定額払保険」を付帯する形に切り替えた会社
・搭乗者傷害保険(搭乗者傷害特約)を引き続き提供している会社
また、搭乗者傷害特約を残していても「死亡・後遺障害」に限定し、入通院の定額補償を外している会社もあり、同じ「搭乗者傷害特約」という名称でも補償内容に差があるのが実情です。
つまり、搭乗者傷害保険に入りたくても、そもそも契約している保険会社で取り扱いがないケースが増えています。見直しの際には、まず現在の保険会社で選べる選択肢を確認することが出発点になるでしょう。
「人身傷害定額払保険」と搭乗者傷害保険の違い|名前が変わっただけではない

搭乗者傷害保険の縮小と並行して広がっているのが「人身傷害定額払保険」です。仕組みは似ていますが、補償範囲や支払条件は保険会社ごとに異なるため、乗り換え時には内容の確認が欠かせません。損害保険料率算出機構「自動車保険の概況(2024年度)」によると、自家用普通乗用車における人身傷害定額払の加入率は39.2%と報告されており、搭乗者傷害保険に代わる定額補償の受け皿になりつつあることがうかがえます。
搭乗者傷害保険と人身傷害定額払保険の主な違い
両者は「定額で保険金が支払われる」点は共通していますが、以下のような違いがあります。
・名称と位置づけ:搭乗者傷害保険は独立した保険種類として提供されることが多いのに対し、人身傷害定額払保険は人身傷害保険に付随する形で設計されている
・支払条件:搭乗者傷害保険では「入通院日数5日以上」で部位・症状別の保険金が支払われるケースが多い一方、人身傷害定額払の支払条件は保険会社ごとに設計が異なる
・死亡・後遺障害の補償:搭乗者傷害保険では死亡保険金・後遺障害保険金が支払われる商品が一般的だが、人身傷害定額払では入通院の一時金のみで死亡・後遺障害の定額補償がない商品もある
保険を切り替える際に「人身傷害定額払があるから大丈夫」と思い込むと、従来の搭乗者傷害保険にあった死亡保障がなくなっていたというケースも起こり得ます。商品ごとの補償内容を確認することが欠かせません。
搭乗者傷害保険が必要なケース|預貯金だけでは不安な場面を具体的に考える

人身傷害保険は「実際にかかった損害額」を補償するため、最終的には治療費や休業損害を広くカバーできます。しかし、保険金が支払われるまでには損害額の確定に時間を要するのが一般的です。事故直後に発生する雑費や収入減に対して、預貯金や他の保険で対応が難しい場合に搭乗者傷害保険の価値が高まります。搭乗者傷害保険は定額で支払われるため、損害額の確定を待たずに保険金を受け取れるのが実務上の利点です。
搭乗者傷害保険の検討が特に有効なケース
・医療保険に未加入で、入院一時金を確保する手段がない場合:差額ベッド代やタクシー代、付き添いの家族の交通費など、治療費以外の出費は人身傷害保険の支払いを待てないことがある
・家族や友人を同乗させる機会が多い場合:同乗者がケガをした場合、お見舞い金としての定額給付が人間関係上の安心材料となる
・自営業やフリーランスで休業補償が手薄な場合:会社員の傷病手当金のような公的保障がなく、治療中の収入減に即座に対応する手段が限られている
搭乗者傷害保険だけの保険金請求は「ノーカウント事故」として扱われ、翌年の等級や保険料に影響しない点も、請求をためらわずに済むという意味でメリットになります。
搭乗者傷害保険が不要と判断できるケース|他の手段で代替できるかを確認する

医療保険の入院給付金や勤務先の福利厚生で事故直後の一時的な出費に対応できるなら、搭乗者傷害保険の優先順位は低くなります。以下のいずれかに該当する場合は、付帯しなくても差し支えない可能性があるでしょう。
不要と判断しやすい具体的な条件
・医療保険の入院一時金や入院給付金が十分にある場合:事故による入院であっても、医療保険は通常通り支払われる。搭乗者傷害保険と同様の「定額給付」を既に確保しているなら、補償が重複する
・勤務先の団体傷害保険や労災上乗せ保険がある場合:企業の福利厚生でカバーされている範囲を確認すると、追加の定額補償が不要なケースもある
・預貯金で30万~50万円程度の一時的な出費に対応できる場合:搭乗者傷害保険の支払額は、入通院の場合で数万~数十万円程度が一般的であり、同程度の預貯金があれば自己対応が可能
・1人で運転することがほとんどの場合:同乗者への配慮という観点でのメリットが薄れる
判断の基準は「搭乗者傷害保険がなくても、事故直後の資金を別の方法で確保できるかどうか」という一点に集約されます。保険料を他の補償(弁護士費用特約や車両保険など)に回したほうが家計全体で見て合理的な場合もあるため、優先順位をつけて判断することが重要です。
搭乗者傷害保険の支払い方式の違い|「日数払い」と「部位・症状別払い」はどちらが有利か

搭乗者傷害保険を付帯する場合、保険会社によって支払い方式が異なります。日数払い方式は長期入院に強く、部位・症状別払い方式は支払いスピードに優れるため、どちらが有利かは事故の態様次第です。損保会社のサイトでは方式の説明はされていても、どちらが自分にとって有利なのかまでは触れられていないことがほとんどでしょう。
日数払い方式の特徴
入院・通院の日数に応じて、あらかじめ決められた日額(例:入院日額5,000円、通院日額3,000円など)が支払われる方式です。
・長期の入院や通院になるほど支払額が大きくなるため、重傷の場合に手厚い
・一方で、日数を確定するまで支払いが始まらないため、部位・症状別払いと比べると支給まで時間がかかる傾向がある
部位・症状別払い方式の特徴
ケガの部位(頭部、腕、足など)と症状(骨折、打撲、挫傷など)に応じて、あらかじめ定められた金額が支払われる方式です。
・入通院日数が5日以上であれば支払対象となるケースが多く、支払いまでのスピードが速い
・ただし、長期入院でも定額のため、重傷の場合は日数払い方式より支払額が少なくなることがある
・現在はこちらが主流となっている
保険料の差は、同じ保険会社であっても方式によって変動する場合があるため、見積もりの段階で両方のパターンを確認するとよいでしょう。
搭乗者傷害保険の注意点|見落としやすい支払条件と制限

搭乗者傷害保険に加入する場合でも、180日以内の制限や保険金額の上限設定など、見落としやすい条件があります。以下の点は事前に確認しておくとよいでしょう。
「180日以内」の制限条件
死亡保険金や後遺障害保険金の支払対象は、一般的に「事故日からその日を含めて180日以内」に死亡した場合や後遺障害が確定した場合に限られています。180日を超えて後遺障害が残った場合は、医師の診断に基づき保険会社が判断することになりますが、支払いが認められないケースもあるため注意が必要です。
保険金額の設定と保険料のバランス
搭乗者傷害保険の死亡保険金は、500万円や1,000万円など定額で設定するケースが多く見られます。保険金額を大きく設定するほど保険料も上がるため、人身傷害保険の保険金額とのバランスを意識する必要があります。たとえば、すでに人身傷害保険を5,000万円で設定し、別途生命保険にも加入しているなら、搭乗者傷害保険の死亡保険金を高額に設定する必要性は低くなるでしょう。
保険を使っても等級は下がらない
搭乗者傷害保険のみの保険金請求はノーカウント事故として扱われるため、翌年の等級は1等級上がります(等級ダウンはありません)。ただし、同じ事故で対物賠償保険など他の保険も同時に使用した場合は、3等級ダウン事故として扱われる点には注意が必要です。
まとめ|搭乗者傷害保険の判断は「取り扱い状況」と「代替手段の有無」で決まる
搭乗者傷害保険は、定額給付により事故直後の資金を確保できる点に特徴があります。ただし、近年は取り扱いを廃止・縮小する保険会社が増えており、人身傷害定額払保険への移行が進んでいます。加入するかどうかの判断は、まず現在の保険会社で取り扱いがあるかを確認し、そのうえで医療保険や預貯金など他の手段で代替できるかどうかを軸に考えるとよいでしょう。限られた保険料を有効に使うためには、搭乗者傷害保険だけを切り取って考えるのではなく、自動車保険全体の補償バランスの中で判断することが重要です。
参考情報
・損害保険料率算出機構|自動車保険参考純率
・損害保険料率算出機構|自動車保険の概況(2024年度)
・損害保険料率算出機構|保険料率制度の概要
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



