公的年金制度
学生時代の年金は追納すべき?追納しないとどうなる?判断基準とシミュレーションを解説

学生時代に学生納付特例で保険料の納付を猶予されていた方が、社会人になってから「追納すべきか・追納しないとどうなるか」と悩むケースは多いものです。結論として、追納は義務ではなく、追納しなくても罰則はありません。ただし、追納しなければ将来の老齢基礎年金が減額され、2年分(24カ月)猶予していた場合は年額約4万2千円・終身で減額が続きます。
厚生労働省の資料によると、学生納付特例期間の追納率は約8.9%にとどまっており、追納しない選択をする人が圧倒的多数です。重要なのは、追納の経済合理性と家計状況のバランスを冷静に判断することにあります。
この記事では、追納しないとどうなるかの具体的な影響、追納の損益分岐点シミュレーション、追納する場合・しない場合それぞれの判断基準、追納以外の選択肢まで、日本年金機構・厚生労働省・国税庁の一次情報に基づいて解説します。
追納しないとどうなる?年金額への具体的影響

追納しない場合、年金の受給資格は確保されるものの、受け取る年金額が減額される仕組みです。具体的にどの程度の減額になるのかを確認しましょう。
受給資格期間には算入される
学生納付特例の承認を受けた期間は、年金の受給資格期間(10年)に算入される扱いです。つまり、追納しなくても年金を受け取る権利は失われない仕組みになっています。
一方で、追納しない期間は年金額の計算には反映されないため、満額の老齢基礎年金は受け取れなくなります。これが「追納しないとどうなる」の最大の影響です。
2年間追納しなかった場合の減額額
令和8年度の老齢基礎年金の満額は年額847,300円(月額70,608円)となっています。20歳から60歳までの40年間(480カ月)すべて納付した場合に満額となり、未納期間がある場合は月数に応じて減額されます。
計算式は以下のとおりです。
・1カ月あたりの減額:847,300円 ÷ 480カ月 = 約1,765円
・2年間(24カ月)追納しなかった場合:1,765円 × 24カ月 = 年額約42,365円の減額
仮に65歳から85歳までの20年間受給した場合、合計で約84万円の差額になります。30年間受給した場合は約127万円の差額です。
追納率8.9%という現実
厚生労働省の社会保障審議会年金部会資料によると、学生納付特例期間の追納率は8.9%にとどまっています。約9割の人は追納していない計算で、「追納しない」が多数派という実態が読み取れます。
ただし、追納率が低い理由は「追納しない方が得だから」ではなく、家計に余裕がない・追納制度を知らない・10年の期限を逃しているといった事情が大半です。
追納の損益分岐点シミュレーション

追納すべきかどうかは、損益分岐点を計算すれば判断しやすくなります。「年金 追納 シミュレーション」「年金 追納 一括 分割 どっちが得」といった検索意図に応える具体的な数字で見ていきましょう。
追納にかかる費用(令和8年3月31日まで)
令和8年3月31日までに追納する場合の保険料額は、当時の保険料が適用されるルールです。たとえば令和6年度分の追納額は月額16,980円、令和7年度分は月額17,510円となっています。
2年分(24カ月)を追納する場合、概算で40万〜43万円の費用が必要となります。一括払いも分割払いも金額は同じで、納付期限内であれば1カ月分から自由に分割できる仕組みです。
損益分岐点:何年で元が取れるか
2年分追納(仮に42万円)した場合、年金額は年間約42,365円増えます。社会保険料控除による節税効果を考慮すると以下のとおりです。
・追納実費:約42万円
・社会保険料控除による節税(所得税率10%+住民税率10% = 20%の場合):42万円 × 20% = 約8万4千円の節税
・実質負担額:42万円 − 8万4千円 = 約33万6千円
年金で実質負担額を回収するのに必要な年数は、約33万6千円 ÷ 42,365円 = 約8年となります。65歳から受給開始した場合、73歳以降は追納分がプラスに転じる計算になります。
所得税率による節税効果の違い
追納時の所得が高いほど、社会保険料控除による節税効果も増す傾向です。
・年収300万円程度(所得税率5%+住民税率10%):節税額約6万3千円、実質負担約35万7千円
・年収500万円程度(所得税率10%+住民税率10%):節税額約8万4千円、実質負担約33万6千円
・年収700万円程度(所得税率20%+住民税率10%):節税額約12万6千円、実質負担約29万4千円
・年収900万円超(所得税率23%+住民税率10%):節税額約13万9千円、実質負担約28万1千円
所得が高い時期に追納するほど節税効果が大きく、損益分岐年数も短くなる構造といえるでしょう。
追納すべきか判断するための4つのチェックポイント

追納するか・しないかの判断基準を整理します。家計状況とライフプランから総合的に判断しましょう。
チェック1:先行して優先すべき支出があるか
住宅ローンの返済・子どもの教育費・iDeCo/NISAでの資産形成・生活防衛資金(生活費6カ月分)の確保など、追納より優先すべき支出があれば、そちらを優先するのが家計上は合理的です。特に40万円超の支出は、若い世代の家計にインパクトのある負担といえるでしょう。
チェック2:自営業・フリーランスかどうか
自営業・フリーランスは、厚生年金がなく老齢基礎年金だけが公的年金の柱となります。基礎年金の減額は老後生活に直撃するため、追納する経済合理性が高いといえるでしょう。一方、会社員・公務員は厚生年金が上乗せされるため、基礎年金の減額インパクトは相対的に小さくなります。
チェック3:所得税率が高い時期に該当するか
追納の節税効果は、所得税率が高い時期ほど大きくなります。前述のとおり、所得税率20%(年収700万円程度)以上の時期に追納すれば、実質負担を3割程度に抑えられる計算です。
チェック4:追納期限(10年)が迫っているか
追納は承認月の翌月から10年以内に限定されます。期限を1日でも過ぎると追納できなくなるため、20代後半〜30代前半で猶予期間の終期を迎える方は、計画的な検討が必要です。なお、3年度目以降の追納には加算額が上乗せされる仕組みのため、できるだけ早期に追納するのが有利となります。
追納の手続きと注意点

追納すると決めたら、年金事務所での手続きが必要です。一括・分割の選択もこの段階で行います。
申込みの手順
・ステップ1:日本年金機構ホームページまたは最寄りの年金事務所で「国民年金保険料追納申込書」を入手
・ステップ2:申込書に必要事項を記入(追納希望期間・分割の有無など)
・ステップ3:年金事務所に提出(郵送可)
・ステップ4:審査後、納付書が郵送される
・ステップ5:金融機関・コンビニ・電子納付で保険料を納付
一括払いと分割払い
追納は1カ月分から自由に分割できる柔軟な仕組みです。家計状況に応じて以下の選択肢があります。
・全額一括払い:手続きが1回で完結し、年末調整・確定申告でまとまった社会保険料控除を一度に活用できる
・年度ごと分割:毎年の所得税率に応じて節税効果を分散できる
・月ごと分割:家計への負担を最小化できる
注意点として、原則として古い期間から順に納付するルールが設けられています。これは古い期間ほど10年期限が早く到来するためです。
3年度目以降は加算額が発生
学生納付特例の翌年度から起算して3年度目以降に追納する場合、当時の保険料に一定の加算額が上乗せされます。たとえば令和7年度に令和2年度分を追納する場合は加算額がつき、納付額が当時の月額より高くなる仕組みです。可能な限り早く追納するほうが、加算額は抑えられます。
追納以外の選択肢|任意加入制度

追納の10年期限を過ぎてしまった場合や、現役世代に追納する余裕がない場合の選択肢として、60歳以降の任意加入制度があります。
任意加入制度の概要
任意加入制度は、60歳以上65歳未満で、保険料納付済期間が40年(480カ月)に満たない方が、満額に近づけるために任意で国民年金に加入できる制度です。最長で65歳まで保険料を納付し続けることで、未納期間分の年金額を補える仕組みになっています。
追納と任意加入の比較
・追納:10年以内・社会保険料控除あり・若い時期から年金額増のメリットを長く享受可能
・任意加入:60〜65歳の5年間限定・社会保険料控除あり・追納期限切れの方も利用可能
任意加入の保険料は、加入時点の保険料額(令和8年度なら月額17,920円)が適用されるため、過去の保険料額より高くなる傾向です。一方、加算額は発生しない仕組みになっています。
追納と任意加入のどちらが有利かは、現役時代の所得税率・余裕資金・60歳時点の働き方によって変わるでしょう。50代後半の段階で改めて検討する選択肢として認識しておくと良いでしょう。
まとめ|追納は「実質負担と将来の年金額」で判断
学生時代の年金を追納するかどうかは、義務ではなく任意の選択です。追納しないと2年分で年額約4万2千円の減額が終身続く一方、追納の費用は約42万円(社会保険料控除を考慮すると実質約30万円〜35万円)かかります。損益分岐点は約8年で、長生きするほど追納のメリットが大きくなる構造といえるでしょう。
判断のポイントは、優先すべき支出の有無・自営業/会社員といった働き方・追納時期の所得税率・10年期限までの残り期間の4点です。所得税率が高い時期に、加算額のつかない2年度目以内に追納するのが最も経済合理性が高い選択肢となります。期限を過ぎた場合は60歳以降の任意加入制度も検討材料となるでしょう。
追納する・しないの判断は、現在の家計状況だけでなく将来の年金生活も見据えた総合的な視点が重要です。迷う場合は、最寄りの年金事務所や年金相談センターに相談すると、個別の状況に応じた具体的な助言が得られます。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司による執筆です。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムでご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズにお調べいただけるでしょう。
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