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iDeCoは住宅ローンと相性抜群?繰り上げ返済との優先順位

「住宅ローンがあるのに、iDeCoを始めるのって賢いのかな?」
住宅ローンを抱えている方にとって、毎月の返済に加え、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)といった資産形成、さらには住宅ローンの繰り上げ返済まで、どこにお金を回すべきか悩んでしまうかもしれません。特に、iDeCoと住宅ローンの関係性や優先順位は、家計全体を考える上で非常に重要です。
この記事では、iDeCoと住宅ローンの関係性に焦点を当て、iDeCoの所得控除による節税と住宅ローン減税の比較を行います。さらに、繰り上げ返済とiDeCo掛金のどちらを優先すべきかの判断基準を解説。ライフステージに応じた資金配分の考え方まで、住宅ローンを抱えながらiDeCoで賢く老後資金を準備するための戦略を提案します。
iDeCoと住宅ローン減税:節税効果の違いを比較

iDeCoの掛金控除も住宅ローン減税も、所得税・住民税を安くしてくれるという点で共通していますが、その仕組みや効果は異なります。
iDeCoの所得控除による節税
・仕組み: iDeCoに拠出した掛金は、その年の所得から全額所得控除されます。
・効果: 課税所得が減ることで、所得税と住民税が軽減されます。年収が高く、所得税率が高い人ほど、節税効果は大きくなります。
・特徴: 運用成果に関わらず、毎年確実に受けられる節税メリットです。iDeCoを続ける限り、このメリットを享受できます。
住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)
・仕組み: 住宅ローンの年末残高の一定割合が、所得税から控除される制度です。所得税から控除しきれない場合は、住民税からも一部控除されます。
・効果: 住宅ローン残高に応じて、所得税・住民税が直接減額されます。
・特徴: 適用期間(原則10年または13年)があり、年末のローン残高が多いほど控除額も大きくなります。
どちらが優先?:節税効果の「大きさ」と「期間」
・併用可能: iDeCoの所得控除も住宅ローン減税も、それぞれ異なる種類の所得控除・税額控除であるため、併用が可能です。
・税金がなくなる可能性: 所得税額や住民税額には上限があるため、iDeCoと住宅ローン減税を併用することで、支払うべき税金がなくなる(ゼロになる)可能性があります。その場合、iDeCoの所得控除のメリットはなくなります。
・期間の違い:
住宅ローン減税: 適用期間が限定的(10年または13年)
iDeCoの所得控除: 掛金を拠出し続ける限り、老後まで継続的に受けられる
住宅ローン減税が適用される期間中は、その控除額が非常に大きい場合が多いです。まずは住宅ローン減税を最大限活用できているか確認し、その上でiDeCoの所得控除メリットを検討するのが賢明です。
繰り上げ返済とiDeCo掛金のどちらを優先すべきかの判断基準

住宅ローンがある場合、毎月の返済とは別に手元にお金ができた際、「繰り上げ返済」をするか「iDeCo掛金」に回すか、迷う方が多いでしょう。どちらにもメリットがあるため、判断基準を明確にすることが重要です。
繰り上げ返済のメリット・デメリット
メリット:
・総返済額(利息)の軽減: 返済期間を短縮したり、毎月の返済額を減らしたりすることで、支払う利息の総額を減らせます。
・精神的安心感: ローン残高が減ることで、心理的な負担が軽減されます。
・金利上昇リスクの軽減: 変動金利型の場合、残高が減ることで将来の金利上昇による返済額増加リスクを抑えられます。
デメリット:
・手元資金の減少: 繰り上げ返済に回した分、現金が減り、急な出費に対応しにくくなります。
・投資機会の損失: 繰り上げ返済に回したお金は、iDeCoなどで運用して得られるはずの利益(特に非課税メリット)を逃すことになります。
iDeCo掛金に回すメリット・デメリット
メリット:
・掛金全額所得控除: 確実な節税メリットを享受できます。
・運用益非課税: 非課税で資産を増やせるため、効率的に老後資金を形成できます。
・複利効果: 長期運用で資産が大きく育つ可能性があります。
・老後資金の確保: 資金拘束があるため、確実に老後資金を積み上げられます。
デメリット:
・原則60歳まで引き出せない: 急な資金ニーズには対応できません。
・元本割れリスク: 投資信託で運用する場合、元本割れのリスクがあります。
判断基準:金利、税金、リスク、柔軟性
どちらを優先すべきかは、以下の点を総合的に考慮して判断しましょう。
住宅ローンの金利:
・繰り上げ返済優先: 住宅ローンの金利がiDeCoで期待できる運用利回りよりも高い場合(特に年2%以上など)は、繰り上げ返済を優先する方が合理的です。確実な利息軽減効果が得られます。
・iDeCo優先: 住宅ローンの金利が低金利(年1%未満など)の場合は、iDeCoで所得控除と運用益非課税のメリットを享受し、運用で得られるリターンが繰り上げ返済の利息軽減効果を上回る可能性があります。
所得税率:
iDeCoの所得控除メリットが大きい(所得税率が高い)人ほど、iDeCoを優先する意義が高まります。
住宅ローン減税の有無・残期間:
住宅ローン減税適用期間中(特に控除額が大きい時期)は、繰り上げ返済で年末残高を減らすと、減税額も減る可能性があります。その間はiDeCoを優先するのも一つの考え方です。
手元資金の余裕:
十分な生活防衛資金を確保できているか、教育費など近い将来の支出に備えがあるかを確認しましょう。繰り上げ返済もiDeCoも、余剰資金で行うのが鉄則です。
iDeCoの資金拘束への許容度:
60歳まで引き出せない制約をどこまで許容できるか、個人のリスク許容度によって優先順位は変わります。
ライフステージに応じた資金配分の考え方

住宅ローンを抱えながらiDeCoを活用する場合、ライフステージによって資金配分の考え方を変えることが重要です。
ローン返済初期(20代後半〜30代)
特徴: 住宅ローン残高が最も多く、利息負担も大きい時期。子育てが始まる時期とも重なることが多い。
戦略:
・まずは住宅ローン減税を最大限活用しましょう。
・その上で、iDeCoの最低掛金(月5,000円)から始め、所得控除のメリットを享受しつつ、積立の習慣をつけましょう。
・住宅ローンの金利が低ければ、繰り上げ返済よりもiDeCoを優先する選択も検討できます。
教育費ピーク期(40代)
特徴: 子どもの教育費が最もかかる時期。収入もピークを迎えることが多い。
戦略:
・家計に余裕があれば、iDeCoの掛金を増額し、老後資金のラストスパートをかけましょう。特に2025年度税制改正でiDeCo掛金上限が大幅に引き上げられる予定であり、このチャンスを活かせます。
・無理のない範囲で、住宅ローン減税の恩恵を受けつつ、NISAも併用して老後資金と教育資金のバランスを取ることが重要です。
ローン返済終盤・老後が間近(50代〜60代)
特徴: ローン残高が減り、定年が視野に入る時期。iDeCoの受給開始年齢も近づきます。
戦略:
・ローン残高が少なくなれば、繰り上げ返済の優先順位は相対的に下がります。
・iDeCoの掛金上限まで拠出し、税制メリットを最大限に享受しつつ、老後資金を積み増しましょう。
・iDeCoの受け取り方(一時金か年金か)や、受け取り時期(60歳からか、繰り下げて70歳や75歳からか)を検討し、住宅ローン完済後の家計状況を見据えた出口戦略を立てましょう。
まとめ:iDeCoと繰り上げ返済、賢い選択で盤石な家計へ
住宅ローンを抱えながらのiDeCo活用と繰り上げ返済は、どちらも家計にプラスとなる選択肢です。
・iDeCoの所得控除と運用益非課税、住宅ローン減税、繰り上げ返済による利息軽減効果をそれぞれ理解しましょう。
・住宅ローンの金利、所得税率、そして手元資金の余裕を総合的に判断し、繰り上げ返済とiDeCoの掛金拠出の優先順位を決めましょう。
・ライフステージの変化に合わせて資金配分を見直し、柔軟に対応することが、住宅ローン完済後の豊かな老後生活へとつながります。
賢くiDeCoと住宅ローンを管理し、盤石な家計を築いていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。