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iDeCoは「市場の暴落時」こそ積立を続けるべき理由:行動経済学の視点

「みんなが売ってる時に、自分だけ買い続けるのは本当に正しいの?」
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後資金を準備するための長期積立投資が基本です。しかし、市場が大きく下落する「暴落時」には、多くの人が不安や恐怖を感じ、積立を停止したり、最悪の場合は売却したりしてしまいがちです。これは、投資家が陥りやすい人間の心理的な罠が背景にあります。
この記事では、iDeCoの積立を「市場の暴落時」こそ続けるべき理由を、行動経済学の視点から深く掘り下げて解説します。市場暴落時に陥りやすい人間の心理(損失回避バイアス、群集心理)を理解し、それを乗り越えて「安く買えるチャンス」という合理的な視点への転換を促します。さらに、ドルコスト平均法の効果を改めて強調し、iDeCo運用を成功に導くためのメンタル戦略を提案します。
市場暴落時に陥りやすい人間の心理

市場が大きく下落する暴落時、私たちの脳は合理的な判断よりも、感情に支配されやすくなります。これは、行動経済学で説明されるいくつかの心理バイアスが働くためです。
損失回避バイアス(プロスペクト理論)
・心理: 人間は、利益を得る喜びよりも、同額の損失を避ける苦痛の方が、約2倍も大きく感じるという特性があります。これが「損失回避バイアス」です。
・暴落時の行動: iDeCoの評価額がマイナスになると、「この損失を確定したくない」「これ以上損失が膨らむのが怖い」という気持ちが強く働き、損をしている状態での売却(狼狽売り)や、これ以上の損失を避けるために積立を停止してしまう行動につながります。しかし、これは一時的な「評価損」を「確定損」に変えてしまう、最も避けるべき行動の一つです。
群集心理(バンドワゴン効果)
・心理: 人間は、周りの人と同じ行動をすることで安心感を得やすい傾向があります。「みんなが買っているから買う」「みんなが売っているから売る」といった心理が働くことを「群集心理」や「バンドワゴン効果」と呼びます。
・暴落時の行動: 市場が暴落し、「みんなが損をしている」「みんなが売っている」という情報が飛び交うと、「自分も早く売らないと乗り遅れる」「少数派になるのは怖い」と感じ、冷静な判断ができずに売りに走ってしまいます。しかし、市場の底で売却してしまう可能性が高まり、その後の回復の機会を失うことにつながります。
現状維持バイアス
・心理: 人間は、変化を避け、現在の状態を維持しようとする傾向があります。
・暴落時の行動: 積立を続けていた状態から「積立を停止する」という行動は、変化を伴います。しかし、損失が出ている現状からさらに悪化するのを避けたいという心理が働き、「ひとまず様子見で積立を止める」という選択をしてしまうことがあります。これもまた、合理的な判断とは限りません。
「安く買えるチャンス」という合理的な視点への転換

これらの感情的なバイアスを乗り越え、市場の暴落時を「危機」ではなく「安く買えるチャンス」という合理的な視点に転換することが、iDeCo運用成功の鍵です。
「バーゲンセール」と捉える
・暴落の本質: 市場が暴落し、株価や投資信託の基準価額が下がるということは、これまでと同じ資産を「より安い価格」で購入できるということです。例えるなら、高品質な商品が一時的に大幅な割引価格で手に入る「バーゲンセール」状態です。
・将来のリターン向上: 安い時に多く買い付けることで、市場が回復した際には、より多くの含み益が得られ、将来の運用成果を大きく引き上げる可能性が高まります。
長期投資の目的を再確認
iDeCoは原則60歳まで引き出せない、超長期の運用を前提とした制度です。
・短期的な変動は「通過点」: 暴落は、この数十年という長い投資期間の中での一時的なイベントに過ぎません。短期的な値動きに一喜一憂せず、老後資金という長期目標に焦点を当て直しましょう。
・歴史から学ぶ回復力: 過去の市場の歴史は、数々の危機を乗り越え、最終的に成長してきたことを示しています。この事実を信頼し、市場の回復力を信じることが重要です。
ドルコスト平均法の効果を改めて強調

市場の暴落時こそ、積立投資の最も基本的なメリットである「ドルコスト平均法」の真価が発揮されます。
ドルコスト平均法の仕組み
毎月、決まった金額(iDeCoの掛金)で運用商品を買い続けることで、
・価格が高い時: 同じ金額で、少ない口数(株数)を購入します。
・価格が安い時(暴落時): 同じ金額で、多くの口数(株数)を購入します。
これにより、購入単価が平準化され、特定の高値で一括購入してしまうリスクを避けられます。
ドルコスト平均法については、以下の記事も参考にしてください。
ドルコスト平均法とは?時間分散で賢く資産形成!
暴落時こそドルコスト平均法が輝く
・「安い時に大量購入」を実現: 市場が暴落して価格が下がった時、あなたは無意識のうちに多くの口数を買い付けることになります。これは、手動で「底値買い」を狙うよりもはるかに確実で、感情に左右されない方法です。
・平均購入単価の引き下げ: 暴落時も積立を継続することで、全体の平均購入単価が引き下がり、市場が回復した際に、より大きな含み益を生み出す土台となります。
まとめ:iDeCoは「市場の暴落時」こそ積立を「続ける」べき
iDeCoで積立投資を成功させるには、市場の暴落時に陥りやすい人間の心理的な罠を理解し、それを乗り越えることが不可欠です。
・損失回避バイアスや群集心理に惑わされないように、感情ではなく、事前に設定した投資ルール(自動積立の継続など)に従いましょう。
・市場の暴落は、「安く買えるチャンス」という合理的な視点に転換しましょう。
・ドルコスト平均法の恩恵を最大限に活かすため、掛金の拠出を絶対に止めないことが、あなたの老後資金を増やすための最も重要な戦略です。
市場の波を乗りこなし、iDeCoの非課税メリットを最大限に活かして、着実に老後資金を増やしていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。