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iDeCoの転職・退職時の手続き:確定拠出年金の移換で失敗しない

「会社を辞めたら、企業型DCの資産はどうすればいい?」
iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC(企業型確定拠出年金)は、老後資金を準備するための大切な資産です。しかし、転職や退職といったライフイベントの際に、これらの確定拠出年金の資産をどうすれば良いのか、手続きに不安を感じる方は少なくありません。特に、適切な手続きを怠ると、大切な資産が思わぬ形で目減りしてしまうリスクもあります。
この記事では、iDeCoや企業型DCの資産を転職・退職時にスムーズに移換するための手続きについて詳しく解説します。企業型DCからiDeCoへ、またはiDeCoから企業型DCへの移換方法、見落としがちな手続きの期限と「自動移換」のリスク、そして必要書類と手続きの流れをわかりやすく説明します。あなたの確定拠出年金資産を守り、将来にわたって最大限に活用するためのポイントをお伝えします。
企業型DCからiDeCoへの移換、iDeCoから企業型DCへの移換

転職や退職の際、これまで積み立ててきた確定拠出年金の資産は、新しい勤務先の状況やご自身の働き方に応じて移換手続きが必要です。
企業型DCからiDeCoへの移換
企業型DCに加入していた方が、以下のようなケースで転職・退職した場合に必要となる手続きです。
・転職先に企業型DCがない場合: 新しい勤務先に企業型DC制度がない場合、これまでの企業型DCの資産を個人型確定拠出年金であるiDeCoに移換することができます。
・転職先に企業型DCがあるが、加入しない場合: 新しい勤務先に企業型DCがあっても、ご自身の判断でiDeCoに移換することも可能です。
・自営業者になる場合: 会社員を辞めて自営業者になった場合も、企業型DCの資産はiDeCoに移換します。
・退職し、専業主婦(夫)になる場合: 会社を退職し、専業主婦(夫)になる場合も、企業型DCの資産をiDeCoに移換して運用を続けることができます。
移換のメリット:
・運用を継続できるため、非課税メリットや複利効果を活かせる。
・ご自身で運用商品を選び、コントロールできる。
・掛金を拠出し続けることで、所得控除のメリットを享受できる(iDeCoに加入し、なおかつ所得がある場合)。
iDeCoから企業型DCへの移換
iDeCoに加入していた方が、転職先の企業に企業型DC制度があり、その企業型DCに加入する場合に必要となる手続きです。
・転職先の企業型DCに加入する場合: iDeCoの資産を、転職先の企業が提供する企業型DCに移換することができます。
移換のメリット:
・企業型DCの掛金は、原則として会社が拠出するため、自己負担なしで資産形成を続けられる。
・iDeCoでかかっていた口座管理手数料が不要になる場合がある。
注意点:
・企業型DCからiDeCoへ、またはiDeCoから企業型DCへの「移換」は可能ですが、これは確定拠出年金の種類(個人型と企業型)間での資産の移動手続きです。
・これに対し、複数のiDeCo口座を一つに統合する(例えば、異なる金融機関で開設したiDeCo口座を一つにまとめる)ような移換はできません。 iDeCoは一人一口座が原則であり、金融機関を変更する場合は「運営管理機関※変更」という別の手続きとなります。
【補足】運営管理機関変更時の運用商品について: 運営管理機関を変更する際、基本的に各運営管理機関で取扱商品が異なるため、これまで運用していた商品を売却して、買い替える必要があります。この手続きはすべてiDeCoの非課税枠内で行われるため、課税されることはありません。
※運営管理機関とは:確定拠出年金(DC)の制度を運営する専門的な金融機関のことを指します。
移換手続きの期限と注意点(自動移換のリスク)

転職・退職時の確定拠出年金の移換手続きには、重要な期限と、手続きを怠った場合のリスクがあります。
移換手続きの期限
企業型DCの加入者であった方が退職した場合、原則として退職日の翌月から6ヶ月以内に、企業型DCの資産をiDeCoに移換するか、または転職先の企業型DCに移換する手続きを完了させる必要があります。
「自動移換」のリスク
この6ヶ月の期限内に何の手続きも行わなかった場合、あなたの確定拠出年金資産は、国民年金基金連合会に自動的に移換されてしまいます。これが「自動移換」です。
自動移換されてしまうと、以下のような大きなデメリットが生じます。
・運用が停止される: 自動移換された資産は、現金として管理されるため、運用が行われません。 そのため、資産が増える機会を失ってしまいます。
・手数料がかかる:
自動移換された場合、まず自動移換の際に手数料(合計4,348円:国民年金基金連合会へ1,048円、指定の事務委託先金融機関へ3,300円)が資産から徴収されます。
さらに、自動移換中は月額52円(国民年金基金連合会手数料)の管理手数料が継続的に発生します。
そして、自動移換された資産をiDeCoや企業型DCへ移し替える際にも、移換手数料(1,100円:特定運営管理機関手数料)が発生し、移換先の運営管理機関によっては別途手数料がかかる場合があります。
iDeCo 公式サイト 自動移換された場合、次の手数料をご負担いただきます
運用されないにもかかわらず、これらの手数料が引かれ続けるため、大切な資産が目減りする一方です。
・税制優遇が受けられない: 自動移換中はiDeCoの加入者とは見なされないため、掛金の所得控除や運用益非課税といったiDeCoの税制優遇を受けることができません。
・将来の受給額が減る: 運用が停止され、手数料が引かれ続けるため、将来受け取れるはずだった年金資産が減少してしまいます。
自動移換は、大切な老後資金を守る上で絶対に避けたい事態です。転職・退職が決まったら、速やかに確定拠出年金の手続きに着手することが極めて重要です。
必要書類と手続きの流れ

確定拠出年金の移換手続きは、ご自身の状況によって必要書類や流れが異なります。ここでは一般的なケースについて解説します。
必要書類(一般的な例)
移換手続きには、主に以下の書類が必要となります。詳細は移換先の金融機関や国民年金基金連合会のウェブサイトで確認してください。
・本人確認書類: 運転免許証、マイナンバーカードなど
・基礎年金番号: 年金手帳やねんきん定期便などで確認
・勤務先情報: 勤務先の名称、事業所番号など(企業型DCから移換する場合)
・退職証明書または源泉徴収票: 退職日を確認できる書類
・確定拠出年金に関する情報: 以前の企業型DCの加入者口座番号など
手続きの流れ(ケース別)
A. 企業型DCからiDeCoへの移換の場合
難しそうですが、おそらく退職時などに担当部署から連絡があり、手続きなどの指導を受けられるでしょう。
1.iDeCoの金融機関を選ぶ: まず、資産を移換するiDeCoの運営管理機関(証券会社や銀行など)を選び、口座開設の手続きを行います。運用商品や手数料を比較して選びましょう。
2.移換申出書の提出: 選んだiDeCoの金融機関を通じて、「個人別管理資産移換申出書」などの必要書類を提出します。
3.旧運営管理機関での手続き: iDeCoの金融機関が、あなたの旧企業型DCの運営管理機関と連絡を取り、資産の移換手続きを進めます。
4.移換完了: 資産がiDeCo口座に移換され、運用が開始されます。手続き完了までには通常1〜2ヶ月程度かかります。
B. iDeCoから企業型DCへの移換の場合
こちらも難しそうですが、基本的には入社してしばらくすると担当部署から手続きの依頼が来るはずです。
1.転職先の企業型DC担当部署に連絡: 転職先の会社の人事部や確定拠出年金担当部署に、iDeCoからの移換を希望する旨を伝えます。
2.必要書類の確認と提出: 転職先の企業型DC運営管理機関から指示された必要書類(加入者情報登録書、移換申出書など)を準備し、提出します。
3.iDeCo運営管理機関での手続き: 転職先の企業型DC運営管理機関が、あなたのiDeCo運営管理機関と連絡を取り、資産の移換手続きを進めます。
4.移換完了: 資産が転職先の企業型DC口座に移換され、運用が開始されます。
共通の注意点:
・手続きには時間がかかるため、余裕を持って早めに着手しましょう。
・不明な点があれば、必ず移換先の金融機関や国民年金基金連合会に問い合わせてください。
まとめ:転職・退職時の確定拠出年金手続きは「早めの行動」がカギ
iDeCoや企業型DCの資産は、あなたの老後を支える大切な財産です。転職や退職といった人生の節目では、その資産を適切に管理するための手続きが不可欠となります。
・企業型DCからiDeCoへ、またはiDeCoから企業型DCへの移換は、ご自身の働き方や新しい勤務先の制度に合わせて適切に行いましょう。
・最も重要なのは、退職後6ヶ月以内という移換手続きの期限を守ることです。期限を過ぎて「自動移換」されてしまうと、手数料負担が増え、運用機会を失うなど、大きなデメリットが生じます。
・必要書類を揃え、早めに金融機関や勤務先に相談し、計画的に手続きを進めることが、あなたの確定拠出年金資産を守り、将来の安心につなげるためのカギとなります。
この機会に、ご自身の確定拠出年金資産の状況を確認し、適切な手続きで大切な資産を守り育てていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。