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iDeCoの「自動移換」とは?放置すると損するって本当?

「『自動移換』って聞くけど、それって放置すると損するって本当?」
iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC(企業型確定拠出年金)は、あなたの老後を支える大切な資産です。しかし、転職や退職といったライフイベントの際に、これらの確定拠出年金の資産を適切な手続きで管理しないと、知らず知らずのうちに「自動移換」という状態になり、大切な資産が目減りしてしまうリスクがあります。
この記事では、転職・退職時に手続きをしないと起こる「自動移換」の仕組みを詳しく解説します。さらに、自動移換が引き起こす具体的なリスク(手数料、運用停止など)と、万が一自動移換されてしまった場合の対処法や移換手続きまで、あなたの確定拠出年金資産を守るために知っておくべき重要な情報を提供します。
転職・退職時に手続きをしないと起こる「自動移換」の仕組み

確定拠出年金制度では、会社を退職するなどして企業型DCの加入者資格を失った場合、その資産を個人型(iDeCo)や転職先の企業型DCへ移換する手続きが必要です。この手続きを一定期間内に行わないと、「自動移換」という状態になります。
自動移換とは?
・企業型DCの加入者資格喪失時: 勤務先を退職し、企業型DCの加入者資格を失った場合、原則として退職日の翌月から6ヶ月以内に、その資産をiDeCoに移換するか、転職先の企業型DCに移換する手続きを行う必要があります。
・手続きをしないと発生: この6ヶ月の期限内に何の手続きも行わなかった場合、あなたの確定拠出年金資産は、国民年金基金連合会に自動的に移し替えられてしまいます。この状態を「自動移換」と呼びます。
自動移換の目的
自動移換の仕組みは、確定拠出年金制度から資産が宙に浮いてしまうことを防ぎ、将来確実に老齢給付金として受け取れるようにするためのものです。しかし、加入者にとっては多くのデメリットを伴います。
自動移換が引き起こす具体的なリスク(手数料、運用停止)

自動移換されてしまうと、あなたの確定拠出年金資産に以下のような大きなデメリットが生じます。
運用が停止され、資産が増えない
自動移換された資産は、現金として管理されるため、運用が行われません。 そのため、資産が増える機会を失ってしまいます。せっかくの非課税制度なのに、資産が増えるどころか、手数料だけが引かれ続けてしまう状態になります。
高額な手数料がかかり、資産が目減りする
自動移換された資産からは、運用されていないにもかかわらず、様々な手数料が徴収されます。
・自動移換される際の手数料: 自動移換が実行される際に、合計4,348円(国民年金基金連合会へ1,048円、指定の事務委託先金融機関へ3,300円)が資産から徴収されます。
・自動移換中の管理手数料: 自動移換されている間は、月額52円(国民年金基金連合会手数料)の管理手数料が継続的に発生します。
・再移換時の手数料: 自動移換された資産を、改めてiDeCoや企業型DCで運用を開始するために移し替える際にも、再度移換手数料(iDeCoへ移換の場合は1,100円(特定運営管理機関手数料)に加え、移換先の運営管理機関によっては別途手数料がかかる場合があります)が発生します。 運用されないにもかかわらず、これらの手数料が引かれ続けるため、大切な資産が目減りする一方です。
iDeCo公式サイト 自動移換された場合、次の手数料をご負担いただきます
税制優遇が受けられない
・自動移換中はiDeCoの加入者とは見なされないため、iDeCoの最大のメリットである掛金の所得控除を受けることができません。
・運用が停止されているため、運用益非課税のメリットも享受できません。
将来の受給額が減る
運用が停止され、手数料が引かれ続けるため、将来受け取れるはずだった年金資産が減少してしまいます。せっかく税制優遇を活用して積み立ててきた老後資金が、思わぬ形で損をしてしまうのです。
自動移換された場合の対処法と移換手続き

万が一、ご自身の確定拠出年金資産が自動移換されてしまっても、諦める必要はありません。適切に対処すれば、再びiDeCoや企業型DCで運用を再開し、資産を増やしていくことが可能です。
まずは「確認」する
・自動移換されたかどうかを確認: 以前勤めていた会社の企業型DCの担当部署や、国民年金基金連合会に問い合わせて、自分の資産が自動移換されているか、その資産額はいくらかを確認しましょう。
・どの金融機関に自動移換されたか確認: 国民年金基金連合会から送られる「自動移換通知」などで、指定された事務委託先金融機関(移換先の金融機関)を確認します。
速やかに「移換手続き」を行う
自動移換された資産を再び運用するためには、以下のいずれかの手続きが必要です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)への移換:
・手続きの流れ: まずiDeCoの運営管理機関(証券会社や銀行)を選び、口座開設の手続きを行います。その際に、自動移換された資産をiDeCoへ移換する旨を申し出ます。運用管理機関が、国民年金基金連合会と連携し、資産の移換手続きを進めてくれます。
・必要書類: 本人確認書類、基礎年金番号など。金融機関の指示に従いましょう。
転職先の企業型DCへの移換:
転職先に企業型DCがある場合、その企業型DCへ資産を移換することができます。転職先の確定拠出年金担当部署に相談しましょう。
手続き後の注意点
・手数料の発生: 自動移換状態からiDeCoなどへ移換する際にも、上述した移換手数料が発生します。
・運用再開: 移換手続きが完了し、資産がiDeCo口座などに戻れば、再び運用商品を自由に選択し、積み立てを再開することができます。
まとめ:転職・退職時の確定拠出年金手続きは「早めの行動」がカギ
iDeCoや企業型DCの資産は、あなたの老後を支える大切な財産です。転職や退職といった人生の節目では、その資産を適切に管理するための手続きが不可欠となります。
・企業型DCからiDeCoへ、またはiDeCoから企業型DCへの移換は、ご自身の働き方や新しい勤務先の制度に合わせて適切に行いましょう。
・最も重要なのは、退職後6ヶ月以内という移換手続きの期限を守ることです。期限を過ぎて「自動移換」されてしまうと、手数料負担が増え、運用機会を失うなど、大きなデメリットが生じます。
・必要書類を揃え、早めに金融機関や勤務先に相談し、計画的に手続きを進めることが、あなたの確定拠出年金資産を守り、将来の安心につなげるためのカギとなります。
この機会に、ご自身の確定拠出年金資産の状況を確認し、適切な手続きで大切な資産を守り育てていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。