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iDeCoとNISA、併用する際のポートフォリオ戦略:バランスの取り方

「全体の資産配分ってどう考えればいいの?資金拘束があるiDeCoと、自由なNISA、どうバランスを取ればいいか分からない…」
iDeCo(個人型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)は、どちらも老後資金をはじめとする資産形成に役立つ、強力な税制優遇制度です。両方を併用することで、節税効果と非課税での資産成長というメリットを最大限に享受できますが、それぞれの口座の特性を理解し、賢く商品を配置する「ポートフォリオ戦略」が不可欠です。
この記事では、iDeCoとNISAを併用する際のポートフォリオ戦略を徹底解説します。iDeCoとNISAでそれぞれどんな商品を選ぶべきか(コア・サテライトの考え方)、そして全体として見た場合の資産配分とリスクコントロール、特に資金拘束の有無を考慮した商品の配置について、具体的なバランスの取り方を提案します。
iDeCoとNISA、それぞれの口座特性を活かす商品選びの基本

iDeCoとNISAは、同じ「非課税投資」であっても、その制度設計からくる「口座の特性」が大きく異なります。この特性を理解し、それぞれに適した商品を配置することが、ポートフォリオ戦略の第一歩です。
iDeCo口座の特性と適した商品
【特性】
・原則60歳まで引き出せない「資金拘束」がある:一度拠出すると、老後資金として固定されます。
・掛金が全額所得控除になる:現役時代の税金が軽減される、iDeCo最大のメリットです。
・受け取り時も税制優遇:退職所得控除や公的年金等控除が適用されます。
【適した商品】
・長期的な成長が期待できるリスク資産(株式型投資信託): 資金拘束があるため、短期的な価格変動に一喜一憂せず、長期で運用できるメリットを活かせます。老後までの期間が長い若年層ほど、株式比率を高める運用が推奨されます。
・低コストのインデックスファンド: 信託報酬が低いほど、長期運用でのコストを抑え、リターンを最大化できます。
具体例: 全世界株式インデックスファンド、S&P500インデックスファンドなど。
・(必要に応じて) 運用期間の後半での元本確保型: 退職が近づき、リスクを抑えたい場合は、元本確保型商品へのスイッチングも検討できます。
NISA口座の特性と適した商品
【特性】
・原則いつでも引き出し可能:資金の柔軟性が高いです。
・生涯非課税保有限度額1,800万円:売却後の枠復活も可能です。
・掛金控除はない:税制優遇は運用益のみです。
【適した商品】
・iDeCoでカバーできない幅広い目的の資金: 教育資金、住宅購入資金、近い将来使う可能性がある資金など。
・比較的柔軟な運用が可能: 必要に応じて現金化できるため、iDeCoよりも流動性を重視した商品選択も考えられます。
・リスク許容度に応じたリスク資産: iDeCoと同様に株式型投資信託が基本ですが、より個別性の高い銘柄も選択可能です。
具体例:
つみたて投資枠: iDeCoと同じく低コストのインデックスファンドで老後資金の補完や他の目的の資金形成。
成長投資枠: 個別株、高配当株、海外ETFなど、より戦略的・積極的な投資。
「コア・サテライト戦略」でiDeCoとNISAを使い分ける

iDeCoとNISAを併用する際の基本的なポートフォリオ戦略として、「コア・サテライト戦略」が有効です。
コア(核):iDeCoで「確実な老後資金」を構築
・iDeCo口座をポートフォリオの「コア」として位置づけましょう。資金拘束があるため、絶対に老後まで使わないお金を投入します。
・選択する商品: 長期的な成長を目指す低コストの株式型インデックスファンド(例:全世界株式、S&P500など)を中心に据えます。市場の変動に左右されず、淡々と積立を継続することで、複利効果を最大限に引き出します。
・理由: iDeCoは掛金が所得控除になるため、最も税制メリットが大きい部分です。このメリットを最大限活かすには、長期的にリターンが期待できる商品で運用し、運用益非課税の恩恵も最大限に享受することが重要だからです。
サテライト(衛星):NISAで「柔軟な資産と攻めの投資」を構築
・NISA口座をポートフォリオの「サテライト」として位置づけましょう。資金の柔軟性があるため、iDeCoでカバーできない目的や、より積極的な投資に活用します。
・選択する商品
1.iDeCoで足りない老後資金の補完: iDeCoの掛金上限を超える分や、iDeCoと同じ低コストインデックスファンドを積み立てる(つみたて投資枠)。
2.教育資金・住宅資金など、近い将来のライフイベント資金: 必要な時期が比較的近い場合、バランス型ファンドや、株式比率を少し抑えたインデックスファンドなどを検討する(つみたて投資枠・成長投資枠)。
3.個別株や高配当株、テーマ型投資信託: より高いリターンを狙う攻めの投資や、特定の関心分野への投資に活用(成長投資枠)。
・理由: NISAは資金を引き出しやすい特性があるため、いざという時の流動性を確保しつつ、非課税メリットを享受できます。
全体として見た場合の資産配分とリスクコントロール

iDeCoとNISAという複数の口座で投資をする場合、それぞれの口座内で最適な商品を選ぶだけでなく、二つの口座を合算した「全体」として、どのように資産配分がなされているかを把握し、リスクをコントロールすることが非常に重要です。
合算ポートフォリオの確認とリスク許容度への調整
・定期的な確認: 年に1回など、定期的にiDeCoとNISA両方の資産状況を合計し、全体の資産配分(例:株式〇%、債券〇%、元本確保型〇%)を確認しましょう。
・リスク許容度との照合: あなたのリスク許容度(どれくらいの損失なら許容できるか)と、合算ポートフォリオのリスクレベルが合致しているかを確認します。
資金拘束の有無を考慮した商品の配置と市場暴落時の対応
資産配分を考える際には、iDeCoの資金拘束を考慮した上で、リスク資産と安全資産のバランスを取ります。
・iDeCo口座: 原則60歳まで引き出せないため、市場が暴落したとしても売却して損失を確定させる必要がないという強みがあります。この特性を活かし、若年層やリスク許容度の高い方は、よりリスクの高い(しかし長期的に成長が期待できる)株式型投資信託を集中させることが可能です。暴落時は、「安く買い増せるチャンス」と捉え、冷静に拠出を継続しましょう。
・NISA口座: 資金の柔軟性があるため、比較的リスクを抑えた商品も組み合わせるなど、ライフプランに合わせた調整が可能です。もし市場が暴落し、緊急で現金が必要になった場合は、NISA口座の資産を優先的に現金化するという出口戦略も選択できます(その際、損益通算ができない点には注意が必要ですが、枠は翌年復活します)。
このように、資金の流動性が低いiDeCoで長期的な成長を狙い、流動性の高いNISAで短期的な資金ニーズや市場変動への対応力を確保するというバランスが有効です。
定期的な「リバランス」の実施
合算ポートフォリオが目標の資産配分から大きく乖離した場合、リバランスを行いましょう。
リバランスの方法:
・NISAで調整を優先: 柔軟性の高いNISA口座で、増えすぎた資産を売却し、比率が減った資産を買い増すことで、効率的にリバランスを行うことができます(売却枠が翌年復活する新NISAのメリットを活用)。
・iDeCoのスイッチング: iDeCo口座内の運用商品をスイッチングすることで、比率を調整することも可能です。
・新規拠出・積立額の調整: 今後のiDeCoやNISAの掛金・積立額を、比率が少ない資産に多く充てることで、徐々に調整することもできます。
税制変更リスクについて

iDeCoやNISAは税制優遇制度であるため、将来的に制度が変更されるリスクはゼロではありません。これまでのNISA制度の改正や、iDeCoの最近の改正(掛金上限の見直し、加入年齢の拡大など)のように、より使いやすくなる方向の変更もあれば、運用に影響が出る可能性のある変更もありえます。
ただし、税制変更リスクは「投資全般」に伴うリスクであり、iDeCoやNISAに限ったことではありません。 また、国が国民の資産形成を奨励する目的で導入している制度であるため、大幅な不利益変更は起こりにくいと考えることもできます。最新の税制改正大綱や政府の発表には常に注意を払い、必要に応じて運用戦略を見直す柔軟性を持つことが重要です。
まとめ:iDeCoとNISA併用で「攻守兼備」のポートフォリオを
iDeCoとNISAを併用する際のポートフォリオ戦略は、それぞれの口座の特性(資金拘束の有無、税制優遇の種類)を理解し、賢く商品を配置することが重要です。
・iDeCo: 「コア」として老後資金を確実に形成する、長期成長型(株式型投信など)がおすすめ。市場暴落時も売却せず、冷静に積立継続が可能な強みがあります。
・NISA: 「サテライト」として柔軟な資金や、個別株・高配当株など戦略的な投資を行う。市場暴落時に資金が必要になった場合の「最後の砦」としても活用できます。
二つの口座を合わせた全体の資産配分を定期的に確認し、あなた自身のライフステージやリスク許容度に合わせて適切にリバランスを行うことで、「攻守兼備」のポートフォリオを築き、老後資金をはじめとする資産形成を最大限に加速させていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています