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高額療養費制度の見直し案を徹底解説|2025年12月専門委員会とりまとめの最新動向
医療費が高額になった場合に患者負担を抑える「高額療養費制度」について、厚生労働省の専門委員会で新たな見直し案がまとまりつつあります。2024年末に公表された改革案は患者団体の反発により全面凍結されましたが、今回の見直し案では長期療養者への配慮と現役世代の保険料負担軽減のバランスを図る内容となっています。本記事では、最新の見直し案のポイントと今後の見通しについて詳しく解説します。
高額療養費制度の見直しが議論されている理由を理解するには、まず制度の基本的な仕組みと、現在の医療保険財政が直面している課題を把握する必要があります。
高額療養費制度は、医療機関の窓口で支払った医療費が1か月の自己負担限度額を超えた場合に、超過分が払い戻される制度です。入院や手術、高額な医薬品の使用などで医療費が高額になっても、家計への過度な負担を防ぐセーフティネットの役割を果たしています。
自己負担限度額は年齢と所得に応じて設定されており、70歳未満で年収約370万〜約770万円の場合、月額約8万100円(+医療費が26万7,000円を超えた部分の1%)が上限となります。
出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
高額療養費制度の見直しが検討される背景には、以下のような要因が挙げられます。
・高齢化の進展と医療技術の高度化により、高額療養費の総額が年々増加し、総医療費の6〜7%相当に達している
・高額薬剤の開発・普及が進み、1か月の医療費が1,000万円以上となる患者数が過去最多を更新
・前回の実質的な見直し(平成27年)から約10年が経過し、物価上昇や賃金増加など経済環境が変化
・現役世代を中心に保険料負担の軽減を求める声が増加
2024年12月に政府が公表した見直し案では、2025年8月から2027年8月にかけて3段階で自己負担限度額を引き上げる方針でした。しかし、がん患者団体や難病患者団体から「治療を続けられなくなる」との強い反発があり、2025年3月に石破茂首相が見直しの全面凍結を発表した経緯があります。
厚生労働省は社会保障審議会医療保険部会の下に「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」を設置し、2025年5月から議論を重ねてきました。12月8日の第7回専門委員会で示される見直し案の主要なポイントを解説します。
「多数回該当」の自己負担限度額は現行水準を維持する方針が示されました。多数回該当とは、直近12か月で高額療養費の支給を3回以上受けた場合に、4回目以降の自己負担限度額が引き下げられる仕組みを指します。
この制度は、がん治療や難病など長期間にわたって継続的な治療が必要な患者にとって、経済的負担を軽減する重要な役割を担っています。前回の見直し案では多数回該当の引き上げも検討されていましたが、患者団体からの反発が強かったため、今回は据え置きとなりました。
現行の所得区分は主に5つに分かれていますが、住民税非課税世帯を除き、各区分を3つに細分化することが適当との方向性が示されています。
現在の制度では、年収370万円の患者と年収770万円の患者が同じ区分・同じ限度額となっているケースがあります。細分化により、支払い能力に応じてより細やかな負担設定が可能になり、中・高所得層の負担が相対的に増える一方で、所得が低い層への配慮も維持される見通しです。
ただし、高所得者でも上限額が急増しないよう、引き上げ幅は2024年末の案より抑えられる方向で調整が進んでいます。
70歳以上の外来受診費を軽減する「外来特例」についても見直しが検討されています。外来特例は2002年に導入された制度で、現役並み所得がない70歳以上の場合は月額1万8,000円、住民税非課税者は月額8,000円を上限として外来診療を受けられます。
専門委員会のとりまとめ案では以下の点が示されました。
・限度額の見直しを実施する方向
・2002年の導入時と比べて健康寿命が延び、受診率が低下したことを踏まえ、対象年齢の引き上げも検討
・現役世代との公平性の観点から、将来の廃止を求める意見も明記
新たな負担軽減策として、自己負担に年間上限額を設ける方向で検討が進んでいます。現行の多数回該当は、月の上限に4回以上達しなければ恩恵を受けられない仕組みとなっており、月の上限に年1回でも達すれば年間上限の対象者とする案が示されました。
これにより、月単位では多数回該当の条件を満たさないものの、年間を通じて高額な医療費が発生している患者への配慮が図られることになります。
専門委員会での議論を経て、今後どのようなスケジュールで制度改正が進むのか、また患者や保険料負担者にどのような影響があるのかを整理します。
専門委員会のとりまとめ報告を受け、医療保険部会で年内に方向性がまとめられる予定です。具体的な上限額や対象年齢の設定は、年末の予算編成過程で決定される見込みとなっています。
ただし、負担増への患者団体の懸念は依然として強く、調整が難航する可能性も指摘されています。専門委員会には全国がん患者団体連合会や日本難病・疾病団体協議会の代表者も参加しており、患者の声を踏まえた丁寧な議論が求められます。
制度改正が実施された場合、以下のような影響が見込まれます。
・現役世代の保険料負担が軽減される可能性(2024年末の政府案では加入者1人当たり年間1,100円〜5,000円の軽減効果と試算)
・所得区分の細分化により、中〜高所得層では自己負担が増加する可能性
・長期療養者向けの多数回該当は維持されるため、継続的な治療が必要な患者への影響は限定的
・外来特例の見直しにより、70歳以上の外来受診費負担が増える可能性
2026年度からは少子化対策の財源として医療保険料に支援金が上乗せされることが決まっています。政府は1兆円分の社会保険負担の軽減に取り組むことで実質的な負担増を回避すると説明しており、高額療養費制度の見直しもその一環として位置づけられています。今後の動向を注視していく必要があるでしょう。
出典:厚生労働省「社会保障審議会(医療保険部会 高額療養費制度の在り方に関する専門委員会)」
高額療養費制度の仕組みと見直しが検討される背景
高額療養費制度の見直しが議論されている理由を理解するには、まず制度の基本的な仕組みと、現在の医療保険財政が直面している課題を把握する必要があります。
高額療養費制度とは
高額療養費制度は、医療機関の窓口で支払った医療費が1か月の自己負担限度額を超えた場合に、超過分が払い戻される制度です。入院や手術、高額な医薬品の使用などで医療費が高額になっても、家計への過度な負担を防ぐセーフティネットの役割を果たしています。
自己負担限度額は年齢と所得に応じて設定されており、70歳未満で年収約370万〜約770万円の場合、月額約8万100円(+医療費が26万7,000円を超えた部分の1%)が上限となります。
出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
見直しが検討される背景
高額療養費制度の見直しが検討される背景には、以下のような要因が挙げられます。
・高齢化の進展と医療技術の高度化により、高額療養費の総額が年々増加し、総医療費の6〜7%相当に達している
・高額薬剤の開発・普及が進み、1か月の医療費が1,000万円以上となる患者数が過去最多を更新
・前回の実質的な見直し(平成27年)から約10年が経過し、物価上昇や賃金増加など経済環境が変化
・現役世代を中心に保険料負担の軽減を求める声が増加
2024年12月に政府が公表した見直し案では、2025年8月から2027年8月にかけて3段階で自己負担限度額を引き上げる方針でした。しかし、がん患者団体や難病患者団体から「治療を続けられなくなる」との強い反発があり、2025年3月に石破茂首相が見直しの全面凍結を発表した経緯があります。
2025年12月専門委員会とりまとめ案の主なポイント
厚生労働省は社会保障審議会医療保険部会の下に「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」を設置し、2025年5月から議論を重ねてきました。12月8日の第7回専門委員会で示される見直し案の主要なポイントを解説します。
多数回該当は現行水準を維持
「多数回該当」の自己負担限度額は現行水準を維持する方針が示されました。多数回該当とは、直近12か月で高額療養費の支給を3回以上受けた場合に、4回目以降の自己負担限度額が引き下げられる仕組みを指します。
この制度は、がん治療や難病など長期間にわたって継続的な治療が必要な患者にとって、経済的負担を軽減する重要な役割を担っています。前回の見直し案では多数回該当の引き上げも検討されていましたが、患者団体からの反発が強かったため、今回は据え置きとなりました。
所得区分の細分化
現行の所得区分は主に5つに分かれていますが、住民税非課税世帯を除き、各区分を3つに細分化することが適当との方向性が示されています。
現在の制度では、年収370万円の患者と年収770万円の患者が同じ区分・同じ限度額となっているケースがあります。細分化により、支払い能力に応じてより細やかな負担設定が可能になり、中・高所得層の負担が相対的に増える一方で、所得が低い層への配慮も維持される見通しです。
ただし、高所得者でも上限額が急増しないよう、引き上げ幅は2024年末の案より抑えられる方向で調整が進んでいます。
70歳以上の外来特例の見直し
70歳以上の外来受診費を軽減する「外来特例」についても見直しが検討されています。外来特例は2002年に導入された制度で、現役並み所得がない70歳以上の場合は月額1万8,000円、住民税非課税者は月額8,000円を上限として外来診療を受けられます。
専門委員会のとりまとめ案では以下の点が示されました。
・限度額の見直しを実施する方向
・2002年の導入時と比べて健康寿命が延び、受診率が低下したことを踏まえ、対象年齢の引き上げも検討
・現役世代との公平性の観点から、将来の廃止を求める意見も明記
年間上限額の新設を検討
新たな負担軽減策として、自己負担に年間上限額を設ける方向で検討が進んでいます。現行の多数回該当は、月の上限に4回以上達しなければ恩恵を受けられない仕組みとなっており、月の上限に年1回でも達すれば年間上限の対象者とする案が示されました。
これにより、月単位では多数回該当の条件を満たさないものの、年間を通じて高額な医療費が発生している患者への配慮が図られることになります。
今後のスケジュールと想定される影響
専門委員会での議論を経て、今後どのようなスケジュールで制度改正が進むのか、また患者や保険料負担者にどのような影響があるのかを整理します。
今後の議論と決定のスケジュール
専門委員会のとりまとめ報告を受け、医療保険部会で年内に方向性がまとめられる予定です。具体的な上限額や対象年齢の設定は、年末の予算編成過程で決定される見込みとなっています。
ただし、負担増への患者団体の懸念は依然として強く、調整が難航する可能性も指摘されています。専門委員会には全国がん患者団体連合会や日本難病・疾病団体協議会の代表者も参加しており、患者の声を踏まえた丁寧な議論が求められます。
制度改正による影響
制度改正が実施された場合、以下のような影響が見込まれます。
・現役世代の保険料負担が軽減される可能性(2024年末の政府案では加入者1人当たり年間1,100円〜5,000円の軽減効果と試算)
・所得区分の細分化により、中〜高所得層では自己負担が増加する可能性
・長期療養者向けの多数回該当は維持されるため、継続的な治療が必要な患者への影響は限定的
・外来特例の見直しにより、70歳以上の外来受診費負担が増える可能性
2026年度からは少子化対策の財源として医療保険料に支援金が上乗せされることが決まっています。政府は1兆円分の社会保険負担の軽減に取り組むことで実質的な負担増を回避すると説明しており、高額療養費制度の見直しもその一環として位置づけられています。今後の動向を注視していく必要があるでしょう。
出典:厚生労働省「社会保障審議会(医療保険部会 高額療養費制度の在り方に関する専門委員会)」



