公的年金制度
障害年金申請で知っておくべき書類と診断書のポイント
障害年金の申請は、複雑な書類作成と医師による診断書の準備が不可欠です。これらの書類が適切でなければ、受給が難しくなることもあります。障害年金の審査は書類のみで行われるため、調査員が訪問するようなことはありません。それだけに、提出書類の内容が審査結果を左右することになります。
この記事では、特に重要な書類と診断書のポイントを具体的に解説します。
はじめに:書類一つで結果が変わる障害年金申請の現実

障害年金は、病気やけがによって生活や仕事に支障が生じた場合に支給される公的年金制度です。眼や耳、手足などの障害だけでなく、がんや糖尿病などの内部疾患、うつ病や統合失調症などの精神障害も対象となります。
申請にあたっては、初診日の証明から診断書の取得、病歴・就労状況等申立書の作成まで、多くの書類を準備する必要があります。これらの書類に不備があると、本来受給できるはずの年金が不支給になったり、等級が低く認定されてしまったりする可能性もあるのです。
障害年金の手続きは複雑なため、申請を行う前に年金事務所や街角の年金相談センターで事前相談することが推奨されています。相談の際は、基礎年金番号がわかるものと、身体障害者手帳や療育手帳など障害の状態に関する資料を持参するとスムーズに進められます。
「事後重症」と「遡及請求」の違い:知らないと数百万円の損失も

障害年金の請求方法には複数の種類があり、どの方法で請求するかによって受給開始時期や受給額が大きく異なります。特に「事後重症請求」と「遡及請求(障害認定日請求)」の違いを正しく理解しておくことが重要です。
よくある誤解:「過去の分もまとめてもらえるはず」
相談現場でよくある誤解が、「数年前から動けなかったのだから、その分もまとめてもらえるはず」という思い込みです。実際には、請求の方法やタイミングによっては、過去の分が1円も遡れない場合があります。
障害認定日請求(遡及請求)とは、障害認定日(原則として初診日から1年6か月後)の時点で障害等級に該当していた場合に、その時点に遡って年金を請求する方法です。この場合、過去5年分まで遡って年金を受け取ることができます。
一方、事後重症請求は、障害認定日には障害等級に該当しなかったものの、その後症状が悪化して等級に該当するようになった場合に行う請求方法となります。この場合、年金は請求した翌月分からの支給となり、過去に遡ることはできません。
つまり、障害認定日の時点で等級に該当する状態であった可能性があるにもかかわらず、当時の診断書が取得できないなどの理由で遡及請求ができず、事後重症請求になってしまうと、本来受け取れた可能性のある数年分の年金を受け取れなくなります。請求のタイミングや準備の仕方によって、受給額に数百万円の差が出ることもあるのです。
今すぐ動くべき理由
障害年金の請求は、早ければ早いほど有利になるケースが多いといえます。その理由は以下のとおりです。
・事後重症請求は「請求した翌月から」の支給となるため、請求が遅れた月数分だけ年金を受け取れない
・障害認定日から時間が経過すると、当時のカルテが廃棄されて遡及請求ができなくなる可能性がある
・医療機関の閉院や医師の転勤などで、過去の診断書取得が困難になることがある
「もう少し様子を見てから」「手続きが面倒だから後で」と先延ばしにすることで、本来受け取れるはずの年金を失ってしまう可能性があります。障害の状態が受給要件を満たしている可能性がある場合は、できるだけ早く年金事務所に相談することをおすすめします。
障害年金申請の要となる書類

障害年金を請求するには、複数の書類を揃える必要があります。請求する人の状況によって必要な書類は異なり、書類の中には有効期限があるものもあるため注意が必要です。ここでは、申請において特に重要な書類について解説していきます。
病歴・就労状況等申立書の重要性
病歴・就労状況等申立書は、発病から現在までの通院状況や日常生活、就労状況について請求者本人が作成する書類です。家族が代わりに作成しても問題ありませんし、不安な方は、社労士などの専門家に作成を依頼してもよいでしょう。医師が作成する診断書を補足するための参考資料として位置づけられており、審査において次のような役割を果たしています。
・初診日が妥当かどうかの確認
・症状の推移の把握
・日常生活への支障の程度の判断
・就労状況の確認
この申立書は、請求者本人の視点で状況を伝えられる唯一の書類となります。診断書の内容を補足しつつ、日本年金機構から適切な審査を受けるための重要な役割を果たすため、丁寧に作成することが求められます。
申立書の様式は、年金事務所で受け取るか、日本年金機構のホームページからPDFまたはExcel形式でダウンロードすることも可能です。手書きでなくても構わないため、パソコンでの作成も認められています。
診断書の記載内容が全てを決める
障害年金の審査において、診断書は最も重要な書類といえます。診断書には障害の状態が医学的な観点から記載されており、この内容に基づいて障害等級が判定されます。
診断書の様式は障害の部位によって8種類に分かれています。
・眼の障害用(様式第120号の1)
・聴覚・鼻腔機能・平衡機能・そしゃく・嚥下機能・音声又は言語機能の障害用(様式第120号の2)
・肢体の障害用(様式第120号の3)
・精神の障害用(様式第120号の4)
・呼吸器疾患の障害用(様式第120号の5)
・循環器疾患の障害用(様式第120号の6-1)
・腎疾患・肝疾患・糖尿病の障害用(様式第120号の6-2)
・血液・造血器・その他の障害用(様式第120号の7)
1つの傷病で複数の障害がある場合は、それぞれの障害状態が的確に表現できる様式の診断書を準備する必要があります。例えば、脳血管疾患により片麻痺と高次脳機能障害が併存する場合には、「肢体の障害用」と「精神の障害用」の2種類の診断書が必要になることもあります。
その他の提出書類(戸籍謄本、住民票など)
診断書や申立書以外にも、状況に応じて以下のような書類が必要になります。
・年金請求書(障害基礎年金用または障害厚生年金用)
・受診状況等証明書(初診の医療機関と診断書作成医療機関が異なる場合)
・戸籍謄本または抄本
・住民票
・預金通帳またはキャッシュカードのコピー
・年金手帳または基礎年金番号通知書
なお、日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合や、年金請求書にマイナンバーを記載する場合は、住民票や戸籍謄本等の一部書類の添付が省略できることがあります。また、配偶者や子がいる場合は加算対象となるため、その証明書類も必要となることがあります。
医師に書いてもらう診断書のポイント

診断書は医師が作成するものですが、日常生活の状況など医師が把握しきれていない情報もあります。適切な内容の診断書を作成してもらうためには、請求者側からの働きかけも重要になってきます。
診断書の専門用語とチェックすべき項目
診断書を受け取ったら、以下の項目を確認することが大切です。
・傷病名とICD-10コードが正しく記載されているか
・発病年月日と初診日が正確か
・現症日(診断書を作成した日付の基準日)が適切な期間内か
・障害の状態を示す各項目に記載漏れがないか
・日常生活や就労に関する記載が実態を反映しているか
特に注意が必要なのは、診断書の有効期限です。事後重症請求の場合は、請求日前3か月以内の現症日のものが必要となります。障害認定日請求の場合は、障害認定日以降3か月以内の現症日のものが求められます。この期限を過ぎると再度診断書を取得しなければならなくなるため、計画的な準備が必要です。
出典:厚生労働省「障害年金の診断書(精神の障害用)記載要領」
日常生活の状況(ADL)を具体的に伝える方法
精神障害の診断書では、「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」が障害等級を判定する上で重要な項目となっています。これらの評価は、仮に一人暮らしだった場合にどの程度できるかを基準に判断されます。
日常生活能力の判定は、以下の7つの項目について4段階で評価されます。
・適切な食事:配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂れるか
・身辺の清潔保持:洗面、入浴、着替えなどができるか
・金銭管理と買い物:金銭を適切に管理し、計画的な買い物ができるか
・通院と服薬:規則的に通院や服薬を行い、病状を主治医に伝えられるか
・他人との意思伝達及び対人関係:他人とのコミュニケーションが適切にできるか
・身辺の安全保持及び危機対応:危険から身を守り、適切に対応できるか
・社会性:銀行や公共施設の利用、社会生活に必要な手続きができるか
これらの状況を医師に正確に伝えるためには、事前にメモを用意しておくことが有効です。実際にできないことがあっても、恥ずかしさや遠慮から伝えないでいると、診断書に実態が反映されないことになります。
家族が同席して客観的な視点から日常生活の様子を伝えてもらう方法も効果的です。普段の診察では伝えきれない情報を書面にまとめて渡すことで、医師が日常生活の実態を把握しやすくなります。
【精神疾患の方へ】診断書と実態のズレを防ぐ「伝え方のコツ」
うつ病などの精神疾患で障害年金を請求する場合、特有の難しさがあります。それは、主治医の前では無理をして「大丈夫です」と言ってしまう傾向があるという点です。
診察室では気を張って普通に会話ができていても、実際の生活では食事もままならない、入浴が何日もできない、外出が困難といった状態であることは珍しくありません。しかし、医師は診察室での様子を基に診断書を作成するため、「診断書の内容と実際の生活のズレ」が生じやすいのです。このズレが原因で、本来受給できるはずの年金が不支給になってしまうケースも少なくありません。
こうした事態を防ぐために、診断書を依頼する前に以下の準備をしておくことをおすすめします。
【医師に伝えるべき内容の整理】
・調子が悪いときの具体的な状態(例:「週に3日は起き上がれない」「入浴は週1回がやっと」)
・家族やヘルパーからどのような援助を受けているか
・症状の波がある場合は、悪いときの状態を中心に伝える
・就労している場合は、職場でどのような配慮を受けているか
【伝え方のコツ】
・口頭で伝えにくい場合は、事前にメモや手紙にまとめて渡す
・家族に同席してもらい、客観的な生活状況を説明してもらう
・「できる」「できない」の二択ではなく、「どの程度の援助があればできるか」を伝える
・症状の波がある場合は、好転と増悪の両方を含めて伝える
・診察時の一時的な状態ではなく、過去1年程度の状態の変動を伝える
医師も限られた診察時間の中で患者の生活全体を把握することは困難です。適切な診断書を作成してもらうためには、請求者側から積極的に情報を伝えることが重要になります。
複数の主治医がいる場合の対応
転院歴がある場合や、複数の医療機関を受診している場合は、書類の準備に注意が必要です。
初診の医療機関と現在の医療機関が異なる場合は、初診日を証明するために「受診状況等証明書」が必要になります。これは初診の医療機関に作成を依頼する書類で、様式は年金事務所や日本年金機構のホームページから入手できます。
初診の医療機関でカルテが廃棄されている場合や、医療機関が閉院している場合は、「受診状況等証明書が添付できない申立書」を提出することになります。この場合、医療保険の給付記録や診察券、お薬手帳など、初診日を確認できる参考資料をできる限り添付することが求められます。
また、第三者証明という方法もあります。これは、初診日頃の受診状況を見聞きした第三者(隣人、友人、民生委員など家族以外の人)が、当時の状況を証明する書類です。20歳前に初診日がある場合は第三者証明のみで認められることもありますが、20歳以降に初診日がある場合は、他の参考資料と組み合わせて提出することが求められます。
スムーズな申請のために日頃から準備しておきたいこと

障害年金の申請では、過去の受診歴や症状の経過を正確に証明することが求められます。いざ申請しようとしたときに慌てないよう、日頃からの準備が役立ちます。
受診歴の記録と参考資料の保管
申請において苦労しやすいのが、過去の受診歴を正確に整理することです。初診日から長期間が経過していると、どの医療機関をいつ受診したかの記憶があいまいになっていることも少なくありません。
日頃から以下のような記録を残しておくことで、いざというときの備えになります。
・診察券や領収書の保管
・お薬手帳の継続的な利用
・症状や通院の記録をノートやスマートフォンに残す
・健康保険の医療費通知の保管
医師への情報伝達と書類の整合性
診察時間は限られているため、伝えたいことを事前にメモにまとめておくと効率的です。日常生活で困っていること、仕事や家事への影響、症状の変化などを具体的に伝えることで、診断書に実態が反映されやすくなります。
また、病歴・就労状況等申立書と診断書の内容に矛盾があると、審査において疑義が生じる可能性があります。申立書を作成する際は、診断書の記載内容と整合性が取れているかを確認することも重要です。
申請代行(社会保険労務士)の活用も検討しよう

障害年金の申請は自分自身でも行えますが、書類の準備や手続きに不安がある場合は、専門家である社会保険労務士に依頼することも選択肢の一つです。
専門家への依頼メリット・デメリット
社会保険労務士に依頼するメリット
・書類作成や年金事務所とのやり取りの負担を軽減できる
・初診日の証明が困難なケースでも、さまざまな方法を駆使して対応してもらえる
・診断書の内容確認や医師への情報提供をサポートしてもらえる
・手続きがスムーズに進み、結果的に早く年金を受け取れる可能性がある
・不支給になった場合の審査請求にも対応してもらえる
社会保険労務士に依頼するデメリット
・費用がかかる(着手金や成功報酬など)
・不支給になった場合でも着手金などの初期費用は返金されないことが多い
・社労士によって経験や得意分野に差がある
費用の相場は、着手金が1〜3万円程度(無料の事務所もあり)、成功報酬が年金の2か月分または初回振込額の10〜15%程度とされています。完全成功報酬制を採用している事務所であれば、受給が決定するまで費用が発生しないため、金銭的なリスクを抑えることができます。
依頼を検討する際は、障害年金の申請実績が豊富か、料金体系が明確か、審査請求まで対応可能かなどを事前に確認することが重要です。無料相談を実施している事務所も多いため、まずは相談してみることをおすすめします。
まとめ:正しい書類作成で障害年金受給への道を開く
障害年金の申請において、書類の作成は受給の可否を左右する重要な要素です。主なポイントを改めて整理すると以下のとおりです。
・審査は書類のみで行われるため、提出書類の内容が全て
・請求方法によって受給額に数百万円の差が出ることもあるため、遡及請求の可能性を必ず確認する
・病歴・就労状況等申立書は、本人の状況を伝えられる唯一の書類として丁寧に作成する
・診断書は障害の種類に応じた適切な様式を選び、記載漏れがないか確認する
・精神疾患の場合は、診断書と実態のズレを防ぐため、医師に日常生活の困難を具体的に伝える
・受診歴や症状の記録を日頃から残しておくと、申請時に役立つ
・手続きに不安がある場合は、社会保険労務士への相談も検討する
障害年金は、病気やけがで生活に支障が生じている人の生活を支える制度です。請求しなければ受け取ることができないため、受給要件を満たしている可能性がある場合は、できるだけ早く年金事務所や街角の年金相談センターに相談してみることをおすすめします。
日本年金機構では、ねんきんダイヤル(ナビダイヤル0570-05-1165)でも相談を受け付けています。障害年金について分からないことがある場合は、積極的に問い合わせてみてください。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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