公的年金制度
老齢基礎年金・老齢厚生年金はいくらもらえる?計算方法と受給額の目安を徹底解説

「年金って結局いくらもらえるの?」という疑問は、老後の生活設計を考える上で最も重要なテーマといえるでしょう。老後の収入の柱となる公的年金ですが、その計算方法は複雑で、実際にいくら受給できるのかわからないという声も多く聞かれます。本記事では、老齢基礎年金と老齢厚生年金それぞれの計算方法を分かりやすく解説するとともに、2025年度の最新データに基づいた平均受給額の目安を紹介します。将来の年金額を把握し、より具体的な老後資金計画を立てる参考にしてください。
年金額の「見える化」が老後資金計画の第一歩

老後の生活設計において、年金収入がいくらになるかを把握することは極めて重要です。漠然とした不安を抱えたまま老後を迎えるのではなく、具体的な数字を知ることで、必要な貯蓄額やiDeCo・NISAなどの資産形成の目標を明確にできます。
日本の公的年金は「2階建て構造」になっています。1階部分が国民年金(老齢基礎年金)、2階部分が厚生年金(老齢厚生年金)となり、会社員や公務員は両方を受給できる仕組みです。自営業者やフリーランスの場合は、原則として老齢基礎年金のみの受給となります。
それぞれの年金がどのように計算され、いくら受給できるのかを順番に見ていきましょう。
老齢基礎年金の計算方法と満額受給の条件

老齢基礎年金は、20歳以上60歳未満のすべての日本国民が加入する国民年金から支給される年金です。保険料の納付状況によって受給額が決まるシンプルな仕組みとなっており、満額受給には一定の条件を満たす必要があります。
満額の内訳と受給資格期間
2025年度(令和7年度)の老齢基礎年金の満額は、月額69,308円(年額831,700円)となっています。これは1958年(昭和33年)4月2日以後に生まれた方の金額で、1956年(昭和31年)4月1日以前生まれの方は月額69,108円(年額829,300円)となります。
満額を受給するための条件は、20歳から60歳までの40年間(480月)にわたって国民年金保険料を完納することです。なお、厚生年金に加入している期間は、自動的に国民年金の保険料納付済期間としてカウントされます。
老齢基礎年金を受給するには、保険料納付済期間と保険料免除期間などを合算した「受給資格期間」が10年以上必要です。この条件を満たせば、65歳から年金を受け取る権利が発生します。
出典:厚生労働省「令和7年度の年金額改定についてお知らせします」
未納期間や免除期間がある場合の減額計算
保険料を納めていない期間や免除を受けた期間がある場合、受給額は減額されます。計算式は以下のとおりです。
老齢基礎年金額 = 満額(831,700円)× 保険料納付済月数 ÷ 480月
保険料免除を受けていた期間については、免除の種類によって年金額への反映率が異なります。
・全額免除:年金額に2分の1が反映
・4分の3免除:年金額に8分の5が反映
・半額免除:年金額に4分の3が反映
・4分の1免除:年金額に8分の7が反映
例えば、保険料納付済期間が360月(30年)、全額免除期間が60月(5年)、残り60月が未納だった場合の計算は次のようになります。
831,700円 ×(360月 + 60月 × 1/2)÷ 480月 = 831,700円 × 390 ÷ 480 = 約675,756円(年額)
未納期間があると年金額は確実に減少するため、経済的に保険料の納付が難しい場合は、免除制度を積極的に活用することが重要となります。
老齢厚生年金の計算方法:報酬比例部分の考え方

老齢厚生年金は、会社員や公務員として厚生年金保険に加入していた期間がある方に支給される年金です。老齢基礎年金に上乗せして受け取ることができ、現役時代の収入と加入期間に応じて受給額が決まります。
報酬比例部分の計算式
老齢厚生年金の中心となる「報酬比例部分」は、以下の計算式で算出されます。
報酬比例部分 = A + B
A:平均標準報酬月額 × 7.125/1,000 × 2003年(平成15年)3月までの加入月数
B:平均標準報酬額 × 5.481/1,000 × 2003年(平成15年)4月以降の加入月数
2003年4月を境に計算式が異なるのは、この時期に「総報酬制」が導入され、賞与(ボーナス)も年金額の計算に反映されるようになったためです。2003年3月以前は月給のみを基準としていたため、乗率が高く設定されていました。
出典:日本年金機構「老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額」
年金額に影響する3つの要素
老齢厚生年金の受給額は、主に以下の3つの要素によって決まります。
(1)加入期間
厚生年金保険に加入していた期間が長いほど、受給額は増加します。1ヶ月以上の加入があれば受給権が発生しますが、長期間働くほど有利になる仕組みとなっています。
(2)給与額(標準報酬月額)
毎月の給与を32等級に区分した「標準報酬月額」が年金額計算の基礎となります。等級の上限は第32等級の65万円で、これを超える収入があっても年金額への反映は65万円が上限です。
(3)賞与額(標準賞与額)
2003年4月以降は、賞与も年金額に反映されるようになりました。標準賞与額の上限は1回あたり150万円となっており、年間を通じて賞与が多い方は年金額も増加します。
これらの要素を踏まえた概算として、厚生年金加入期間中に受け取った給与・賞与の総額に約0.55%を掛けると、おおよその報酬比例部分を把握できます。
加給年金・振替加算とは?夫婦で受け取るお得な年金

厚生年金には、扶養家族がいる場合に加算される「加給年金」という制度があります。年金版の「家族手当」とも呼ばれ、条件を満たすと老齢厚生年金に上乗せして支給されます。
加給年金の支給条件と対象者
加給年金を受け取るには、以下の条件を満たす必要があります。
・厚生年金保険の被保険者期間が20年以上あること
・65歳到達時点で、生計を維持している65歳未満の配偶者または18歳到達年度末までの子(障害等級1級・2級の場合は20歳未満の子)がいること
・生計を維持している配偶者・子の年収が850万円未満であること
ただし、配偶者自身が厚生年金保険に20年以上加入していて老齢厚生年金を受給している場合は、加給年金は支給停止となります。
2025年度の加給年金額
2025年度の加給年金額は以下のとおりです。
・配偶者:年額415,900円(加給年金額239,300円+特別加算176,600円)
※特別加算は1943年(昭和18年)4月2日以後生まれの場合
・1人目・2人目の子:各年額239,300円
・3人目以降の子:各年額79,800円
配偶者が65歳になるまで受給できるため、夫婦の年齢差が大きいほど総受給額は増加します。例えば5歳差の夫婦であれば、約5年間で200万円以上の加給年金を受け取れる計算です。
振替加算の仕組みと金額
配偶者が65歳に到達すると加給年金は停止しますが、代わりに配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」が加算されます。これは、国民年金への加入が任意だった時代に専業主婦だった方などの年金額を補填するための制度です。
振替加算の対象となるのは、1926年(大正15年)4月2日から1966年(昭和41年)4月1日までに生まれた方です。金額は生年月日によって異なり、年齢が高いほど加算額が大きくなっています。
2025年度の振替加算額の例は以下のとおりです。
・1956年(昭和31年)4月2日〜1957年(昭和32年)4月1日生まれ:年額47,860円
・1960年(昭和35年)4月2日〜1961年(昭和36年)4月1日生まれ:年額22,255円
・1961年(昭和36年)4月2日〜1966年(昭和41年)4月1日生まれ:年額16,033円
振替加算は加給年金と異なり、一度支給が開始されると生涯にわたって受け取ることができます。
老齢年金の平均受給額と世帯別モデルケース

実際に年金をいくら受給できるのか、統計データと具体的なモデルケースで確認してみましょう。
国民年金・厚生年金の平均受給額
厚生労働省「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、年金受給者の平均月額は以下のとおりとなっています。
・老齢基礎年金のみ(自営業者等):月額約57,584円
・老齢厚生年金(老齢基礎年金含む):月額約146,429円
厚生年金受給者の平均は国民年金のみの場合と比較して約2.5倍となっており、現役時代の働き方による差が顕著に表れています。男女別では、男性の平均受給月額が約166,606円、女性が約107,200円と差があり、これは就労期間や収入の違いが反映された結果です。
出典:厚生労働省「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
夫婦のモデルケースで見る受給額
厚生労働省が公表している標準的な世帯のモデル年金額(2025年度)は以下のとおりです。
【会社員の夫+専業主婦の妻】
夫が平均的な収入(賞与含む月額換算45.5万円)で40年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦だった場合
・夫婦合計:月額232,784円(年額約279万円)
(内訳:夫の老齢厚生年金+夫婦2人分の老齢基礎年金満額)
【共働き夫婦の場合】
夫婦ともに平均的な収入で40年間厚生年金に加入した場合
・夫婦合計:月額約30万円前後(年額約360万円)
【自営業の夫婦の場合】
夫婦ともに国民年金のみに40年間加入した場合
・夫婦合計:月額約138,616円(年額約166万円)
(老齢基礎年金満額69,308円×2人分)
自営業の夫婦は会社員世帯と比較して年間100万円以上の差が生じるため、iDeCo(個人型確定拠出年金)や国民年金基金などを活用した上乗せ対策が特に重要となります。
「ねんきん定期便」「ねんきんネット」で年金額を確認する方法

将来の年金額をより正確に把握するには、日本年金機構が提供する「ねんきん定期便」と「ねんきんネット」を活用するのが効果的です。
ねんきん定期便の見方
ねんきん定期便は、毎年誕生月に届く年金加入状況のお知らせです。年齢によって記載内容が異なります。
【50歳未満の場合】
「これまでの加入実績に応じた年金額」が記載されています。これは現時点までの納付実績のみを反映した金額であり、今後の加入分は含まれていません。記載額が少なく感じても、今後も保険料を納付すれば年金額は増加していきます。
【50歳以上の場合】
「老齢年金の見込額」が記載されます。これは現在の加入条件が60歳まで継続した場合の見込額で、より現実的な数字を確認することが可能です。65歳・70歳・75歳での受給額の比較も掲載されています。
35歳・45歳・59歳の節目年齢には、全加入期間の詳細な記録が記載された封書が届きます。記録に漏れや誤りがないか、必ず確認するようにしましょう。
ねんきんネットの活用方法
ねんきんネットは、日本年金機構が提供するインターネットサービスで、24時間いつでも最新の年金記録を確認できるのが特徴です。主な機能は以下のとおりとなっています。
・年金加入記録の照会
・将来の年金見込額の試算(さまざまな条件でシミュレーション可能)
・電子版ねんきん定期便のダウンロード
・届書の作成・印刷
特に便利なのが「年金見込額試算」機能です。今後の働き方や収入の変化、受給開始時期の繰上げ・繰下げなど、さまざまな条件を設定して将来の年金額をシミュレーションできます。
利用登録は日本年金機構のホームページから行えます。マイナンバーカードをお持ちの場合は、マイナポータルと連携することでより簡単に利用開始が可能です。
まとめ:年金額を把握し、老後資金計画に役立てよう
老後の生活設計において、年金額の「見える化」は不可欠です。本記事で解説したポイントを改めて整理します。
・老齢基礎年金の2025年度満額は月額69,308円(年額831,700円)で、40年間の保険料完納が条件
・老齢厚生年金は「報酬比例部分」として、現役時代の収入と加入期間に応じて支給額が決まる
・厚生年金に20年以上加入し、65歳未満の配偶者がいる場合は加給年金(年額最大約41万円)が加算される
・厚生年金受給者の平均月額は約14.6万円、国民年金のみでは約5.8万円と大きな差がある
・ねんきん定期便やねんきんネットで、自身の年金見込額を定期的に確認することが重要
年金だけで老後の生活費をすべて賄うのは難しいケースも多いでしょう。しかし、年金額を正確に把握することで、不足分を補うための具体的な対策を講じることができます。iDeCoやつみたてNISAなどの資産形成制度も活用しながら、計画的に老後資金を準備していくことが大切です。
まずはねんきん定期便を確認し、ねんきんネットに登録して、ご自身の年金見込額を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
金子賢司へのライティング・監修依頼はこちらから。ポートフォリオもご確認ください。



