生命保険
生命保険を活用した相続対策とは?非課税枠や受取人指定のメリットを徹底解説

ただし、契約形態によって課税される税金の種類が異なることや、相続放棄をした場合の取り扱いなど、注意すべき点も存在します。本記事では、国税庁や公益財団法人生命保険文化センターなどの公的機関の情報を基に、生命保険を活用した相続対策の仕組みとメリット、具体的な活用方法、そして注意点について詳しく解説していきます。
相続財産の状況や家族構成に応じた最適な対策を立てるために、生命保険の相続税非課税枠や受取人指定の効果について正しく理解しておきましょう。
生命保険が相続対策に有効な理由

生命保険は、相続対策として多くの方に活用されています。死亡保険金には税制上の優遇措置があり、相続税の負担軽減が期待できるためです。また、受取人を指定できることから、確実に財産を遺したい相手に現金を渡せるという特徴もあります。
相続財産の多くが不動産で構成されている場合、納税資金の確保が課題となることがあります。生命保険を活用すれば、こうした問題にも対応可能です。
生命保険の相続税非課税枠とは

非課税限度額の計算方法
契約者(保険料負担者)と被保険者が同一人物で、相続人が受取人となる生命保険契約の場合、死亡保険金には相続税の非課税枠が設けられています。
非課税限度額=500万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の計3人の場合、「500万円×3人=1,500万円」までの死亡保険金には相続税がかかりません。
この非課税枠は、死亡保険金が「遺族の生活保障」という重要な目的を持つ資産であることから設定されています。
出典:No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁
相続税の基礎控除との関係
生命保険の非課税枠は、相続税の基礎控除とは別に適用されます。相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されるため、両方を活用することで相続税の課税対象額を大きく圧縮できます。
法定相続人が3人の場合、相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」となります。死亡保険金3,000万円とその他の相続財産3,000万円がある場合、死亡保険金から非課税枠1,500万円を控除すると、課税対象となる相続財産は4,500万円となり、基礎控除額の範囲内に収まるため相続税は課税されません。
出典:死亡保険金に相続税がかかる場合の具体例は?|公益財団法人 生命保険文化センター
法定相続人の数え方の注意点
非課税限度額を計算する際の法定相続人の数には、以下の点に注意が必要です。
・相続放棄をした人も法定相続人の数に含める
・法定相続人の中に養子がいる場合、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人まで法定相続人の数に含める
相続放棄をした人が死亡保険金を受け取る場合でも、非課税限度額の計算では法定相続人として数えられます。ただし、相続放棄をした本人は非課税枠の適用を受けることができません。
出典:No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁
受取人指定による遺産分割対策
遺産分割協議が不要
生命保険金は、保険契約に基づいて受取人が固有の権利として取得するものです。そのため、原則として遺産分割協議の対象とはなりません。
預貯金や不動産などの相続財産は、遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が何を相続するかを決める必要があります。しかし、死亡保険金は受取人として指定された方が、他の相続人の同意を得ることなく単独で保険金請求手続きを行うことができます。
これにより、遺産分割協議が長引いた場合でも、受取人は速やかに保険金を受け取ることが可能です。
確実に財産を遺したい相手に渡せる
生命保険の受取人を特定の相続人に指定しておくことで、確実にその方に財産を遺すことができます。
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。この間に遺産分割協議がまとまらない場合、手続きが複雑になる可能性があります。生命保険を活用すれば、遺産分割協議の結果にかかわらず、指定した受取人に確実に現金を渡すことができます。
特別受益として扱われる可能性
原則として、生命保険金は特別受益には該当しません。ただし、相続人間で著しい不公平が生じる場合には、例外的に特別受益に準じて持ち戻しの対象となることがあります。
判例では、保険金の額が遺産総額の50%以上を占めている場合、特別受益とされる可能性が高いとされています。保険金の額、遺産総額に占める割合、被相続人と保険金受取人との関係、各相続人の生活実態など、諸般の事情を総合的に考慮して判断されます。
納税資金・流動性の確保
速やかに現金を受け取れる
被相続人が亡くなると、金融機関が死亡の事実を知った時点で預金口座は凍結されます。相続人全員の合意がない限り、預金を引き出すことはできません。
一方、死亡保険金は請求手続きから1週間程度で受け取ることができます。そのため、相続税の納税資金や葬儀費用、遺族の生活費などに速やかに充てることが可能です。
出典:相続における生命保険料控除と非課税枠|SMBC信託銀行プレスティア
相続税の納税資金対策
相続財産の多くが不動産や自社株などの換金しにくい資産で構成されている場合、相続税の納税資金が不足する可能性があります。
生命保険に加入しておけば、死亡保険金を納税資金として活用できるため、相続人が不動産を急いで売却する必要がなくなります。特に一次相続・二次相続の両方を見据えた対策として、生命保険による納税資金の準備が有効です。
代償分割への活用
不動産など分割しにくい財産を相続する場合、特定の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人に金銭(代償金)を支払う「代償分割」という方法があります。
生命保険の死亡保険金は、この代償金の原資として活用することができます。受取人を不動産を相続する相続人に指定しておけば、その方が他の相続人に代償金を支払う際の資金として利用できます。
出典:生命保険で相続税対策できる?死亡保険金の非課税枠等の制度を解説|ほけんの窓口
相続放棄と生命保険金の関係
相続放棄をしても受け取れるケース
相続放棄をした場合でも、死亡保険金は受け取ることができます。これは、死亡保険金が保険契約に基づく受取人固有の財産であり、相続財産ではないためです。
契約者と被保険者が被相続人で、受取人が相続人として指定されている場合、相続放棄をした方でも死亡保険金を受け取ることが可能です。
出典:相続放棄をした場合でも、死亡保険金を受け取れるの?|公益財団法人 生命保険文化センター
非課税枠の適用は受けられない
相続放棄をした本人が死亡保険金を受け取る場合、生命保険の非課税枠の適用を受けることはできません。相続放棄により、初めから相続人ではなかったものとして扱われるためです。
ただし、相続放棄をしていない相続人の非課税金額を計算する際の法定相続人の数には、相続放棄をした人も含めます。
例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の計3人で、子ども1人が相続放棄をした場合、非課税限度額は「500万円×3人=1,500万円」となります。相続放棄した子どもが保険金を受け取る場合、その子どもは非課税枠を利用できませんが、配偶者は1,500万円まで非課税の適用を受けることができます。
出典:相続放棄をした場合でも、死亡保険金を受け取れるの?|公益財団法人 生命保険文化センター
相続放棄をしても受け取れない生命保険
受取人が被相続人本人に指定されている場合、その保険金は被相続人の相続財産となるため、相続放棄をすると受け取ることができません。
以下のような保険金は、相続放棄すると受け取れないため注意が必要です。
・医療保険の入院給付金(受取人が被相続人の場合)
・満期保険金(受取人が被相続人の場合)
・生命保険契約に関する権利(解約返戻金など)
生命保険を活用した相続対策の注意点
契約形態による課税関係の違い
生命保険金にかかる税金は、契約者、被保険者、受取人の関係によって異なります。
・契約者=被保険者≠受取人(相続人):相続税
・契約者=受取人≠被保険者:所得税・住民税
・契約者≠受取人≠被保険者:贈与税
相続税対策として生命保険を活用する場合は、契約者と被保険者を同一人物にし、受取人を相続人に指定する契約形態が基本となります。この形態であれば、死亡保険金の非課税枠を活用できます。
受取人の選定
配偶者には「配偶者の税額軽減」という制度があり、最低1億6,000万円までの相続財産には相続税がかかりません。そのため、死亡保険金の受取人を配偶者にすると、生命保険の非課税枠を無駄にしてしまう可能性があります。
非課税枠を有効活用するためには、受取人を子どもに指定することを検討しましょう。ただし、家族構成や相続財産の内容によって最適な選択は異なるため、専門家に相談することをお勧めします。
相続人以外が受け取る場合
相続人以外の方が死亡保険金を受け取った場合、生命保険の非課税枠の適用はありません。受け取った保険金の全額が相続税の課税対象となります。
また、相続人以外の方が相続財産を取得する場合、相続税額が2割加算されるため、税負担が大きくなる点にも注意が必要です。
まとめ
生命保険を活用した相続対策には、以下のようなメリットがあります。
・500万円×法定相続人の数まで非課税で受け取れる
・受取人を指定することで、確実に財産を遺したい相手に現金を渡せる
・速やかに現金を受け取れるため、納税資金や葬儀費用に充てられる
・遺産分割協議の対象とならず、手続きがスムーズ
・相続放棄をしても受け取れる(ただし非課税枠は適用外)
ただし、契約形態によって課税される税金の種類が異なることや、著しく不公平な場合には特別受益として扱われる可能性があることなど、注意すべき点もあります。
生命保険を活用した相続対策を検討する際は、家族構成や相続財産の内容、将来の見通しなどを総合的に考慮する必要があります。相続税に詳しい税理士やファイナンシャルプランナーに相談しながら、最適な対策を立てることをお勧めします。
出典:No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁
出典:死亡保険金に相続税がかかる場合の具体例は?|公益財団法人 生命保険文化センター
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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