住宅ローン
残価設定型住宅ローンとは?仕組み・注意点・向いている人をわかりやすく解説

残価設定型住宅ローンとは、国土交通省の定義では「借入金額から将来的な住宅の価値(残価)を差し引いた金額を返済する仕組み」の住宅ローンです。現在普及しているJTIの残価保証制度を活用したタイプでは、通常の住宅ローンに「返済額軽減オプション」と「買取オプション」の2つの権利を付加する形をとっており、借入時点では通常の住宅ローンと同じ返済額となります。ローン残高がJTIの保証する残価まで減った後(残価設定月)に返済額の圧縮や住宅の買取を選べる点が特徴でしょう。国土交通省は令和7年度補正予算で保険制度の創設を決定し、2026年3月から住宅金融支援機構による運用が始まる見込みです。自動車の残クレのように最初から返済額が減る仕組みではないため、正確な理解が欠かせません。
残価設定型住宅ローンの仕組みと背景

国が普及を後押しする残価設定型住宅ローンについて、制度整備の経緯を確認しておきましょう。
住宅価格高騰が生んだ新しい選択肢
国土交通省の「令和6年度住宅市場動向調査」によると、注文住宅の購入資金は平均6,188万円(中央値5,030万円)に達しています。こうした住宅価格の上昇を受けて、令和3年3月に閣議決定された「住生活基本計画(全国計画)」では、残価設定ローンを含む多様な金融手法の活用推進が明記されました。
さらに令和7年12月には、国土交通省が住宅金融支援機構による「残価設定型住宅ローン保険」の創設を発表しました。残価が想定を下回った場合に金融機関の損失をカバーする保険制度で、民間金融機関が残価設定型住宅ローンを提供しやすくなる環境整備が進んでいます。
出典:国土交通省「固定金利型住宅ローンの利用円滑化等の取組内容」
JTI(移住・住みかえ支援機構)の残価保証制度
残価設定型住宅ローンの中核を担うのが、国土交通省の支援を受けて設立された一般社団法人 移住・住みかえ支援機構(JTI)の残価保証制度です。JTIは「マイホーム借上げ制度」の運営データをもとに、家賃収入に基づく住宅の資産価値算出手法を開発しました。
対象となる住宅は、JTIが認定した住宅事業者が施工する認定長期優良住宅に限定されます。指定金融機関は日本住宅ローン、三菱UFJ銀行、楽天銀行の3社で、利用できる範囲が限られている点は注意が必要です。
出典:一般社団法人 移住・住みかえ支援機構「残価保証と残価設定型住宅ローンについて」
2つのオプションの仕組みと選び方

残価設定型住宅ローンには、残価設定月以降に行使できる「返済額軽減オプション」と「買取オプション」の2つの権利が付いています。どちらを選ぶかは、老後の住まい方の方針次第です。
返済額軽減オプション—住み続けたい場合
このオプションを行使すると、住宅ローンがリバースモーゲージ型(死亡時一括返済型)に転換され、月々の返済額を圧縮できます。定年退職後も住み慣れた家に住み続けたい場合に適した選択肢です。
ただし、転換後は当初の住宅ローンに付帯していた団体信用生命保険(団信)が終了し、以降は原則として団信に加入できなくなります。万が一の際にローン残高が遺族に引き継がれるリスクが生じるでしょう。ただし、相続人がローンを引き受けない場合はJTIが買い取る仕組みのため、相続人にローン負担が残らない設計にはなっています。
買取オプション—住み替えたい場合
買取オプションを行使すると、住宅ローンの残高と同額でJTIに住宅(土地・建物)を買い取ってもらえます。住宅の市場価値が下落していても、オーバーローン(住宅を売却してもローンが残る状態)を回避できる点が最大のメリットです。
一方、住宅の市場価値がローン残高を上回っている場合は、オプションを行使せず一般市場で売却したほうが有利になるケースもあるでしょう。市況を見極めて判断できる柔軟性は、通常の住宅ローンにはない利点です。
自動車の残クレとの違い—JTI型のコスト構造を理解する

国土交通省は残価設定型住宅ローンを広く「残価を差し引いた金額を返済する仕組み」と定義しており、将来的にさまざまな商品が登場する可能性もあるでしょう。ただし、現在普及しているJTI型は、自動車の残クレとは仕組みが根本的に異なります。自動車の残クレでは最初から残価を差し引いた金額で返済額が計算されますが、JTI型ではそうなりません。
JTI型では借入時点の返済額は通常の住宅ローンと同じです。5,000万円を借りれば5,000万円全体に対して元利均等返済を行い、残高がJTIの保証する残価まで減った時点が「残価設定月」となります。月々の負担が軽くなるのは、残価設定月以降にオプションを行使してからでしょう。
また、返済額軽減オプションを行使してリバースモーゲージに転換すると、残価以上の元本は返済不要となり月々の支払いは圧縮されるものの、利息の支払いは終身にわたって続きます。当初のローンを完済する場合と比べて利息の総支払額が増える可能性もあり、「返済額が減る=総コストが減る」ではない点を事前に確認しておくことが重要です。
残価設定型住宅ローンの利用条件

JTIの残価保証制度を利用する場合、以下の条件を満たす必要があります。
・認定長期優良住宅であること
・JTIが認定した住宅事業者(ハウスメーカー・工務店)が施工した住宅であること
・JTIの指定金融機関(日本住宅ローン、三菱UFJ銀行、楽天銀行)から借り入れること
・JTI認定のメンテナンスプログラムに沿った維持管理を継続すること
・「かeせるオプション証明書(残価設定型)」の発行手数料として5万円(税別)が必要
対象が認定長期優良住宅の戸建てに限られるため、マンションや一般的な建売住宅は対象外です。長期優良住宅は点検や補修にかかる費用が高くなる傾向があり、維持管理コストも含めた資金計画が求められます。
老後のライフプランから考える残価設定型住宅ローンの位置づけ

残価設定型住宅ローンは住宅の購入方法であると同時に、老後の暮らし方にも直結します。残価設定月は一般的に借入から20~25年後に設定されるケースが多く、定年退職前後の時期と重なります。
公的年金とのバランスを確認する
返済額軽減オプションを行使した後も利息の支払いは続きます。老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計額から住居費にどの程度充てられるか、事前のシミュレーションが欠かせないでしょう。
JTIによると、オプション行使後の返済額は近隣の想定家賃相場の半額以下を目安に設計されています。年金収入の範囲内に収まるケースも考えられるものの、個別の年金見込額と照らし合わせた検証が不可欠です。
団体信用生命保険が使えなくなるリスク
先述のとおり、返済額軽減オプション行使後は団信が原則終了します。配偶者がいる場合、万が一の際の住まいの確保を別途検討する必要があるでしょう。配偶者がオプション行使時に連帯債務者になっていれば住み続けることは可能ですが、団信による債務免除という「保険機能」が失われる点は、ライフプラン設計で見落としてはならない要素です。
残価設定型住宅ローンが向いている人・向いていない人

制度の特性を踏まえると、向き・不向きがはっきり分かれる住宅ローンです。
向いている人
・将来的に住み替えの可能性がある人(転勤が多い、子どもの独立後にダウンサイジングを検討等)
・相続人がいない、または住宅を相続させる予定がない人
・老後の返済負担を軽減したい人
・認定長期優良住宅の新築を指定ハウスメーカーで検討している人
向いていない人
・住宅を子や孫に確実に残したい人(最終的にJTIに帰属する可能性あり)
・維持管理コストを抑えたい人(認定長期優良住宅の維持管理は一般住宅より高額)
・マンション購入を希望する人(現時点では戸建ての認定長期優良住宅のみ対象)
・「月々の返済額がすぐに減る」と誤解している人(JTI型は借入当初の返済額が通常ローンと同じ)
まとめ
残価設定型住宅ローンは、住宅価格の高騰が続く中で国が普及を後押しする新しい選択肢です。返済額軽減オプションと買取オプションにより、老後の収入減や住み替えに柔軟に対応できる点にメリットがあります。
一方で、JTI型では借入当初の返済額は通常の住宅ローンと変わらず、オプション行使後は団信が使えなくなるなど、注意点も少なくありません。月々の返済額だけでなく、オプション行使後の利息総額や老後の収支バランスまで含めたシミュレーションを行ったうえで判断することが重要です。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
金子賢司へのライティング・監修依頼はこちらから。ポートフォリオもご確認ください。



