資産運用
個別株の分散投資で選ぶべき業種とは?効果的なポートフォリオの組み方を解説

個別株への投資を検討する際、どの業種を選択すればリスクを適切に分散できるのか、迷われる方は多いのではないでしょうか。東京証券取引所では33の業種分類が採用されており、これらを理解することが効果的な分散投資の第一歩となります。
本記事では、公的機関の情報をもとに、個別株で分散投資を行う際の業種選択の考え方について解説していきます。
分散投資の基本的な考え方

分散投資とは何か
分散投資とは、資金を1つの資産や銘柄に集中させず、複数の種類に分けて投資する手法のことを指します。投資には「卵は1つのカゴに盛るな」という格言があり、複数のカゴに分けて卵を盛っておけば、そのうちの1つを落としても他のカゴの卵は影響を受けずにすむという教えから来ています。
分散投資の目的は、リスクの軽減にあります。特定の商品だけに投資するのではなく、複数の商品に投資することで、リスクを分散させ、リターンの安定度を増す効果が期待できるのです。
出典:財務省中国財務局「投資のリスクを減らす方法【分散投資】」
分散投資の3つの要素
効果的な分散投資を実現するには、以下の3つの分散を組み合わせることが重要とされています。
・資産(銘柄)の分散:異なる値動きをするさまざまな種類の資産や銘柄を組み合わせて投資する
・地域の分散:投資先の地域を分散させることで、特定の国や地域の経済状況に左右されるリスクを軽減する
・時間(時期)の分散:投資する時期を分けることで、高値掴みのリスクを抑える
本記事では、この中でも特に「資産(銘柄)の分散」、すなわち業種分散について詳しく見ていきましょう。
出典:金融庁「資産形成の基本」
東証33業種とは

業種分類の仕組み
日本の株式市場で個別株投資を行う際に基準となるのが、東証33業種と呼ばれる業種分類です。証券コード協議会が「業種別分類に関する取扱い要領」という規則を定めており、それに基づいて同協議会が個別の株式公開会社について業種を決定しています。
この業種分類の基準は、総務省が定める「日本標準産業分類」に準拠しており、10の大分類の下に33の中分類があります。通常「業種」といった場合は、この中分類を指すことが一般的となっています。
東証33業種の内訳
東証33業種は以下のように分類されます。
・水産・農林業
・鉱業
・建設業
・食料品
・繊維製品
・パルプ・紙
・化学
・医薬品
・石油・石炭製品
・ゴム製品
・ガラス・土石製品
・鉄鋼
・非鉄金属
・金属製品
・機械
・電気機器
・輸送用機器
・精密機器
・その他製品
・電気・ガス業
・陸運業
・海運業
・空運業
・倉庫・運輸関連業
・情報・通信業
・卸売業
・小売業
・銀行業
・証券・商品先物取引業
・保険業
・その他金融業
・不動産業
・サービス業
これらの業種は、それぞれ異なる特性を持ち、景気や経済環境の変化に対する反応も異なります。
業種選択における重要な視点

景気循環株(シクリカル株)とディフェンシブ株の理解
個別株で分散投資を行う際には、業種を景気循環株(シクリカル株)とディフェンシブ株という2つの観点から理解することが重要になります。
景気循環株(シクリカル株)とは、景気の動きに敏感な株式を指し、景気の動きに業績が左右されやすい企業の株のことを言います。一般的には、以下のような業種が該当します。
・鉄鋼
・化学
・非鉄金属といった素材産業
・銀行業や証券業などの金融業
・工作機械などの設備投資関連
・自動車
・商社
・海運
・卸売業
・半導体などの電気機器
一方、ディフェンシブ株は景気の影響が比較的小さい業種で、生活必需品に絡んだ業種が挙げられます。
・電力
・ガス
・鉄道
・通信といったインフラ関連
・医薬品
・食料品
ディフェンシブ株も景気との連動性が全くないわけではありません。しかし、生活必需品への支出は、嗜好品や電気製品などへの支出と比べて、景気が悪くなっても抑制度合いが小さいものにとどまる傾向があるのです。
景気局面による業種選択の考え方
好景気時には景気循環株の人気が高まり、不景気時にはディフェンシブ株の人気が高まる傾向が見られます。これは、好景気時には景気敏感業種の方が業績の伸びが高く、株価の上昇が大きくなるとの期待が高いためです。
反対に、不景気時にはディフェンシブ株の方が業績の悪化度合いが小さく、株価の下落が限定的となります。配当利回りが高ければ配当で株価の値下がり分を相殺できる期待もあり、実際に不景気時にディフェンシブ株に資金が集まることによって、ディフェンシブ株の株価が上昇する局面も過去において確認されています。
効果的な業種分散の実践方法

景気循環株とディフェンシブ株のバランス
個別株で分散投資を行う際の基本的なアプローチは、景気循環株とディフェンシブ株をバランスよく組み合わせることになります。このバランスは、投資家のリスク許容度や投資期間によって調整する必要があるでしょう。
たとえば、長期的な資産形成を目指す場合、景気の変動による影響を受けにくいポートフォリオを構築するため、ディフェンシブ株の比率を高めることが考えられます。一方、短期的な値上がり益を狙う場合は、景気拡大局面で景気循環株の比率を高めるという選択肢もあるかもしれません。
複数業種への分散
東証33業種の中から、できるだけ異なる特性を持つ業種を選択することが重要です。同じ景気循環株でも、素材産業と金融業では経済環境への反応が異なる場合があります。また、同じディフェンシブ株でも、医薬品と電力では事業の性質が大きく異なるでしょう。
最低でも3〜5業種以上に分散することで、特定の業種に固有のリスクを軽減できる可能性が高まります。ただし、過度に分散しすぎると管理が煩雑になるため、自身で適切に管理できる範囲での分散を心がけることが大切です。
定期的な見直しの重要性
一度構築したポートフォリオも、経済環境の変化や企業の業績動向によって、定期的な見直しが必要となります。景気循環の局面が変わった場合には、保有する業種のバランスを調整することも検討しましょう。
また、各業種の株価が上昇または下落することで、当初想定していた業種配分から乖離してしまうこともあります。年に1〜2回程度、ポートフォリオ全体を確認し、必要に応じてリバランス(配分の調整)を行うことが推奨されます。
個別株投資における注意点

分散投資の限界を理解する
業種を分散したとしても、株式市場全体が大きく下落する局面では、多くの個別株が同時に値下がりするリスクがあります。分散投資はリスクを軽減する手法ではありますが、リスクを完全になくすものではありません。
金融庁も推奨しているように、株式だけでなく債券など他の資産クラスへの分散や、長期投資・積立投資との組み合わせを検討することで、より効果的なリスク管理が可能となります。
出典:金融庁「資産形成の基本」
個別株特有のリスク
業種を分散したとしても、個別企業特有のリスク(倒産リスクや不祥事リスクなど)は依然として残ります。そのため、各企業の財務状況や事業内容について、投資前に十分な調査を行うことが不可欠となります。
また、個別株投資では一定の投資金額が必要となるため、少額から分散投資を始めたい場合は、投資信託やETF(上場投資信託)の活用も検討に値するでしょう。
まとめ
個別株で分散投資を行う際の業種選択では、以下のポイントを押さえることが重要です。
・東証33業種の分類を理解し、各業種の特性を把握する
・景気循環株とディフェンシブ株をバランスよく組み合わせる
・最低でも3〜5業種以上に分散し、異なる特性を持つ業種を選択する
・定期的にポートフォリオを見直し、必要に応じてリバランスを行う
・分散投資の限界を理解し、他の資産クラスへの分散も検討する
財務省や金融庁が推奨する「長期・積立・分散」の考え方を取り入れながら、自身のリスク許容度や投資目的に合わせた業種選択を行うことで、より安定的な資産形成を目指すことができるでしょう。個別株投資を始める前には、各業種や企業について十分な調査を行い、慎重に投資判断を行うことをお勧めします。
出典:財務省中国財務局「投資のリスクを減らす方法【分散投資】」
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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