公的年金制度
シングルマザー・ファザーが知るべき年金制度:遺族年金と児童扶養手当の併給と最適活用

配偶者との死別や離婚によってひとり親となった方にとって、経済的な安定は子育てを続けるうえで欠かせない要素となります。日本には遺族年金や児童扶養手当、児童手当など、シングルマザー・シングルファザーの生活を支える複数の公的支援制度が整備されています。
ひとり親の方からよくいただくのは「頑張って働いて収入が増えたら、手当がカットされて結局損をしませんか?」という切実な悩みです。制度を正しく理解することは、単にお金をもらうためだけでなく、将来に向けて安心して一歩踏み出し、自立したキャリアを築くための「武器」になります。
しかし、これらの制度は受給要件や支給額の計算方法がそれぞれ異なり、どの制度が利用できるのか分かりにくいと感じる方も少なくありません。本記事では、その武器となる知識を整理しました。ひとり親が知っておくべき年金・手当の概要から、併給時の調整ルール、さらにはケース別のシミュレーション、将来に向けた経済対策まで幅広く解説します。
はじめに:シングルペアレントの生活を支える公的支援

日本の社会保障制度には、ひとり親家庭を経済的に支援する複数の仕組みがあります。主な支援として挙げられるのは、配偶者の死亡によって受給できる「遺族年金」、ひとり親家庭を対象とした「児童扶養手当」、そしてすべての子育て世帯に支給される「児童手当」です。
これらの制度は、それぞれ目的や支給要件が異なるため、自分がどの制度を利用できるのかを正確に把握することが重要になります。特に遺族年金と児童扶養手当については、平成26年12月の法改正により併給調整の仕組みが変更され、以前は受給できなかったケースでも差額分を受け取れるようになりました。
まずは、それぞれの制度の概要を理解することから始めましょう。
シングルマザー・ファザーが受け取れる主な年金・手当

ひとり親が受給できる可能性のある公的支援は複数存在します。ここでは、遺族基礎年金・遺族厚生年金、児童扶養手当、児童手当の3つについて、それぞれの制度内容と支給額を確認していきます。
遺族基礎年金と遺族厚生年金
遺族年金は、国民年金または厚生年金の被保険者(または被保険者であった方)が死亡した際に、その方によって生計を維持されていた遺族に支給される年金です。国民年金から支給されるものが「遺族基礎年金」、厚生年金から支給されるものが「遺族厚生年金」と呼ばれます。
遺族基礎年金は、死亡した方に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」に支給されます。ここでいう「子」とは、18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級・2級の状態にある方を指します。
【令和7年度(2025年度)の遺族基礎年金額】
・基本額:831,700円(年額)※昭和31年4月2日以後生まれの場合
・子の加算(1人目・2人目):各239,300円
・子の加算(3人目以降):各79,800円
たとえば、子が1人の配偶者が受け取る場合の年額は1,071,000円(月額約89,000円)、子が2人の場合は1,310,300円(月額約109,000円)となります。
遺族厚生年金は、死亡した方が厚生年金に加入していた場合に、遺族基礎年金に上乗せして支給される年金です。支給額は、死亡した方の厚生年金加入期間と報酬(給与・賞与)に基づいて計算され、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3相当額となります。
遺族厚生年金の計算式(平成15年4月以降の加入期間)は以下のとおりです。
報酬比例部分 = 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数 × 3/4
※加入期間が300月(25年)未満の場合は、300月として計算されます。平成15年3月以前の加入期間がある場合は別の計算式が適用されます。
また、夫を亡くした40歳以上65歳未満の妻で、遺族基礎年金を受給できない方(子がいない、または子が18歳の年度末を過ぎた場合)には、「中高齢寡婦加算」として年額623,800円が遺族厚生年金に加算されます。
出典:日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」
児童扶養手当
児童扶養手当は、ひとり親家庭等の生活の安定と自立を促進するために支給される手当です。父母の離婚、父または母の死亡、父または母が重度の障害状態にある場合などに、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの子どもを養育している方が対象となります。
【令和7年度(2025年度)の児童扶養手当額】
・子ども1人の場合:全部支給 月額46,690円、一部支給 月額11,010円~46,680円
・子ども2人目の加算:全部支給 月額11,030円、一部支給 月額5,520円~11,020円
・子ども3人目以降の加算:全部支給 月額11,030円、一部支給 月額5,520円~11,020円
令和6年11月分から子ども3人目以降の加算額が2人目と同額に引き上げられ、多子世帯への支援が拡充されました。
児童扶養手当には所得制限が設けられており、受給資格者(父または母、養育者)の所得に応じて「全部支給」「一部支給」「支給停止」のいずれかに区分されます。所得には、養育費の8割相当額も加算されて計算される点に注意が必要です。
児童手当
児童手当は、ひとり親家庭に限らず、子どもを養育しているすべての世帯に支給される手当です。令和6年10月から制度が大幅に拡充され、所得制限の撤廃や支給対象年齢の延長などが実施されました。
【令和6年10月以降の児童手当額】
・3歳未満:月額15,000円
・3歳以上〜高校生年代(18歳の誕生日後最初の3月31日まで):月額10,000円
・第3子以降:月額30,000円(年齢にかかわらず)
改正後は所得制限が撤廃され、すべての対象世帯が全額を受給できるようになりました。また、支給対象が中学生以下から高校生年代まで延長されています。
多子加算のカウント方法も見直され、22歳年度末までの子について、親等の経済的負担がある場合は第3子以降のカウント対象となります。
出典:政府広報オンライン「2024年10月分から児童手当が大幅拡充!」
遺族年金と児童扶養手当は併給できる?併給時の調整について

かつては遺族年金を受給している方は児童扶養手当を受給できませんでしたが、平成26年12月の児童扶養手当法改正により、併給調整の仕組みが変更されています。現在は、遺族年金等の公的年金の月額が児童扶養手当の月額より低い場合、その差額分を児童扶養手当として受給できます。
所得制限や支給額の計算方法
併給調整の基本的な考え方は、遺族年金などの公的年金を受給している場合でも、年金額が児童扶養手当の支給額を下回るときは、その差額分を児童扶養手当として支給するというものです。
具体的な計算方法は、受給する公的年金の種類や、受給資格者本人が受給しているのか、子が受給しているのかによって異なります。
【受給資格者本人が遺族年金を受給している場合】
受給資格者が障害基礎年金以外の公的年金(遺族年金、老齢年金など)を受給している場合、公的年金の月額相当額が児童扶養手当の月額を下回るときに、その差額分を受給できます。
【子が遺族年金を受給している場合】
子が遺族厚生年金などを受給している場合も同様に、子の年金月額相当額が児童扶養手当の月額を下回るときに差額分を受給できます。ただし、複数の子が年金を受給している場合は、計算方法が複雑になるため、詳細は居住地の市区町村窓口に確認することをお勧めします。
所得制限については、児童扶養手当の通常の所得制限が適用されます。受給資格者の前年所得(1月〜9月の間に請求する場合は前々年所得)に基づいて、全部支給・一部支給・支給停止のいずれかが決定されます。
なお、障害基礎年金等を受給しているひとり親家庭については、令和3年3月分から併給調整の仕組みがさらに見直され、障害基礎年金等の子の加算部分の額が児童扶養手当の額を下回る場合に、その差額を受給できるようになっています。
【ケース別】シングルペアレントが受け取れる年金・手当シミュレーション

ひとり親家庭が受給できる年金・手当は、ひとり親になった経緯(死別か離婚か)、子どもの人数、所得状況などによって大きく異なります。ここでは、代表的なケースをもとにシミュレーションを行います。
死別の場合
【ケース1:会社員の夫が死亡、妻(35歳)と子ども1人(5歳)】
夫が厚生年金に加入していた会社員の場合、妻は遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受給できる可能性があります。
・遺族基礎年金:年額1,071,000円(月額約89,000円)
・遺族厚生年金:夫の平均標準報酬月額35万円、加入期間300月と仮定した場合、年額約431,000円(月額約36,000円)
合計:年額約1,502,000円(月額約125,000円)
この金額は児童扶養手当の全部支給額(子1人で月額約46,000円)を上回るため、児童扶養手当は受給できません。ただし、児童手当は別途支給されます。
子が18歳の年度末を迎えると遺族基礎年金の受給は終了しますが、妻は40歳以上65歳未満の間、中高齢寡婦加算(年額623,800円)を加えた遺族厚生年金を受給できます。
【ケース2:自営業の夫が死亡、妻(38歳)と子ども2人(8歳、3歳)】
夫が自営業者で国民年金のみに加入していた場合、妻が受給できるのは遺族基礎年金のみとなります。
・遺族基礎年金:年額1,310,300円(月額約109,000円)
・遺族厚生年金:なし
この場合、遺族年金額が児童扶養手当を上回るため、児童扶養手当は原則受給できません。別途、児童手当(子2人で月額25,000円)は受給可能です。
離婚の場合
【ケース3:離婚後、母(30歳)と子ども1人(3歳)、所得制限内】
離婚によるひとり親の場合、遺族年金は受給できませんが、児童扶養手当と児童手当の両方を受給できます。
・児童扶養手当(全部支給):月額45,500円〜46,690円
・児童手当:月額15,000円(3歳未満)
合計:月額約61,000円
年収が一定額を超えると児童扶養手当は一部支給または支給停止となるため、就労収入との兼ね合いを考慮する必要があります。
子の数による違い
【ケース4:離婚後、母と子ども3人の場合】
子どもが3人いる場合の受給額は以下のようになります(全部支給の場合)。
・児童扶養手当:月額約68,000円(本体46,000円+2人目加算11,000円+3人目加算11,000円)
・児童手当:月額55,000円(仮に小学生1人・3歳未満2人の場合:10,000円+15,000円+30,000円)
合計:月額約123,000円
令和6年10月からの児童手当拡充により、第3子以降は月額30,000円に増額されているため、多子世帯への支援は以前より手厚くなっています。
シングルペアレントが今からできる年金以外の経済対策

公的支援に加えて、将来の経済的安定のために自助努力による資産形成も重要になります。ここでは、シングルマザー・シングルファザーにも活用しやすい制度や商品を紹介します。
つみたてNISA(新NISA)
2024年1月から開始した新NISAは、投資で得た利益が非課税となる制度です。少額から始められるため、毎月の収入から無理のない範囲で将来の教育資金や老後資金を準備できます。
【新NISAの概要】
・つみたて投資枠:年間120万円まで
・成長投資枠:年間240万円まで
・非課税保有限度額:生涯で1,800万円まで
・非課税保有期間:無期限
・対象年齢:18歳以上
つみたて投資枠では、金融庁が定めた基準を満たす長期・積立・分散投資に適した投資信託が対象となっており、投資初心者でも始めやすい設計になっています。月々100円から積立可能な金融機関もあり、生活に余裕がないときでも継続しやすいのが特徴です。
出典:金融庁「NISAを知る」
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは、自分で掛金を拠出して運用し、原則60歳以降に年金または一時金として受け取る私的年金制度です。掛金が全額所得控除の対象となるため、節税効果を得ながら老後資金を準備できます。
【iDeCoの掛金上限額(月額)】
・自営業者・フリーランス:68,000円(国民年金基金等との合算)
・会社員(企業年金なし):23,000円
・会社員(企業年金あり):20,000円(2024年12月改正後)
・公務員:20,000円(2024年12月改正後)
・専業主婦(夫):23,000円
ただし、iDeCoは原則60歳まで資金を引き出せないため、子どもの教育費など近い将来に必要となる資金には向きません。生活費を圧迫しない範囲で掛金を設定することが重要です。
出典:政府広報オンライン「iDeCoがより活用しやすく!2024年12月法改正のポイント」
学資保険
学資保険は、子どもの教育資金を計画的に準備するための保険商品です。契約者(親)に万が一のことがあった場合に保険料払込免除となる特約が付いている商品が多く、シングルマザー・シングルファザーにとって安心材料となります。
ただし、近年の低金利環境では返戻率(払込保険料総額に対する受取総額の割合)が100%を下回る商品も存在するため、加入前に複数の商品を比較検討することをお勧めします。
生命保険の見直し
ひとり親家庭では、残された子どもの生活を守るための死亡保障が重要になります。一方で、遺族年金や児童扶養手当などの公的支援を考慮すると、過剰な保障は保険料の無駄になる可能性もあります。
生命保険を見直す際のポイントは以下のとおりです。
・遺族年金の受給見込み額を把握する
・児童扶養手当や児童手当の支給額を確認する
・子どもの教育費や生活費の必要額を算出する
・公的支援でカバーできない不足分を民間保険で補う
掛け捨て型の定期保険は保険料が比較的安価なため、子どもが独立するまでの期間に集中して保障を確保したい場合に適しています。
まとめ:制度を最大限に活用し、お子さんと安心して暮らすために
シングルマザー・シングルファザーが活用できる公的支援制度は複数存在し、それぞれの状況によって受給できる内容は異なります。本記事の要点を整理すると、以下のようになります。
・遺族年金:配偶者との死別の場合に受給可能。遺族基礎年金は子のある配偶者または子に、遺族厚生年金は厚生年金加入者の遺族に支給される
・児童扶養手当:ひとり親家庭を対象とした手当。所得制限あり。遺族年金との併給も一定の条件下で可能
・児童手当:すべての子育て世帯が対象。令和6年10月から所得制限撤廃、高校生まで延長
・併給調整:遺族年金等の月額が児童扶養手当の月額を下回る場合、差額分を児童扶養手当として受給可能
・将来への備え:新NISAやiDeCoを活用した資産形成、学資保険や生命保険の見直しも検討を
制度の詳細や自分のケースに当てはまるかどうかは、居住地の市区町村窓口や年金事務所に相談することで正確な情報を得られます。公的支援を最大限に活用しながら、お子さんと安心して暮らせる環境を整えていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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