資産運用
アセットアロケーションとポートフォリオの違いとは?GPIFの運用戦略から学ぶ資産配分の基本

資産運用を始めると「アセットアロケーション」と「ポートフォリオ」という言葉を目にする機会が増えます。これらは似ているようで明確に異なる概念であり、長期的な資産形成において重要な役割を果たすものです。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、約280兆円もの年金積立金を運用する世界最大規模の機関投資家として知られています。GPIFの運用戦略は、長期的な観点から資産配分を行う好事例となっており、個人投資家にとっても参考になる考え方が多く含まれているのが特徴です。
本記事では、アセットアロケーションとポートフォリオの違いを明確にしながら、GPIFの基本ポートフォリオや運用戦略をもとに、効果的な資産配分の考え方を解説していきます。
アセットアロケーションとは何か

アセットアロケーションとは、投資資金を複数の資産クラスに分散して配分する戦略的な割合を指します。資産クラスには、国内株式、外国株式、国内債券、外国債券といった伝統的資産のほか、不動産やインフラ、プライベートエクイティなどのオルタナティブ資産が含まれるのが一般的です。
1980年代にGary P. Brinson氏らが発表した研究では、運用成果の約9割がアセットアロケーションによって決まることが示されました。個別の銘柄選択や売買のタイミングよりも、どの資産クラスにどれだけの割合で投資するかという判断が、長期的なリターンに影響を与えるということになります。
GPIFでは、この資産配分の割合を「基本ポートフォリオ」として定めており、2025年4月から適用される第5期中期目標期間における基本ポートフォリオは以下の通りです。
・国内債券:25%
・外国債券:25%
・国内株式:25%
・外国株式:25%
この配分は、年金財政上必要な実質的な運用利回り1.9%を最低限のリスクで確保することを目標として策定されました。
出典:年金積立金管理運用独立行政法人「基本ポートフォリオの考え方」
ポートフォリオとの違い

一方、ポートフォリオとは、アセットアロケーションで決めた配分割合に基づいて、実際に保有する具体的な金融商品の組み合わせを指すものです。
例えば、アセットアロケーションで「国内株式40%、外国株式30%、国内債券30%」と決めたとします。これに基づいて実際に購入する商品を選定し、「国内株式はTOPIX連動型のインデックスファンド、外国株式はMSCI ACWI連動型ファンド、国内債券は個人向け国債」といった形で構成したものがポートフォリオとなる仕組みです。
GPIFの場合、基本ポートフォリオで定めた資産構成割合を実現するために、各資産クラスのベンチマークとなる指数を設定し、それに基づいて運用を行っています。第5期中期目標期間では、外国債券はFTSE世界国債インデックス、外国株式はMSCI ACWIが政策ベンチマークとして採用されました。
両者の関係性
アセットアロケーションは戦略的な資産配分の方針であり、ポートフォリオはその方針を実現するための具体的な商品の組み合わせという関係にあります。長期的な運用においては、短期的な市場の動向で資産構成割合を変更するよりも、基本となる資産構成割合を決めて長期間維持していく方が効率的とされているのが特徴です。
GPIFでは5年ごとに基本ポートフォリオの見直しを行っていますが、第5期中期目標期間では資産構成割合は第4期と同様となり、変更されませんでした。これは、様々な地政学リスクや地球規模の課題による不確実性が高まる中でも、長期的な視点に基づいた資産配分の重要性を示すものといえます。
GPIFの基本ポートフォリオから学ぶ資産配分の考え方

GPIFの運用戦略には、個人投資家にとっても参考になる考え方が数多く含まれています。ここでは、基本ポートフォリオの策定プロセスから学べる重要なポイントを見ていきましょう。
長期的な運用目標を定める
GPIFでは、厚生労働大臣から示された中期目標において、「長期的に年金積立金の実質的な運用利回り1.9%を最低限のリスクで確保すること」が運用目標として設定されています。実質的な運用利回りとは、運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いたものを指すのが特徴です。
この運用目標を達成するために、各資産の期待リターンやリスク、相関係数を推計し、年金財政上必要な利回りを最低限のリスクで達成できる資産構成割合を策定しています。個人投資家においても、まず自身の運用目標を明確にすることが資産配分を考える第一歩となるでしょう。
分散投資でリスクを抑える
GPIFの基本ポートフォリオは、国内外の株式と債券に均等に近い形で配分されています。これは、複数の資産に投資することでリスクを抑えながら期待収益率を上げる「分散投資効果」を活用した結果といえます。
過去のデータを見ると、リーマンショック時(2008年)における一時的な最大損失は、基本ポートフォリオの場合で-33%でした。一方、全額を国内債券で運用した場合、日本のバブル崩壊時(1990年代)の最大損失は-4.7%となっています。株式を含むポートフォリオは短期的な変動が大きくなるものの、長期的には債券のみの運用よりも高いリターンが期待できる仕組みです。
また、株式と債券は一般的に逆相関の関係にあり、株式市場が下落する局面では債券価格が上昇する傾向があります。この性質を利用することで、ポートフォリオ全体のリスクを軽減できるのが分散投資の利点となります。
定期的な見直しとリバランス
GPIFでは、基本ポートフォリオからの乖離を許容する範囲として「乖離許容幅」を設定しています。第5期中期目標期間における乖離許容幅は、国内債券が±6%、外国債券が±5%、国内株式と外国株式がそれぞれ±6%です。さらに、株式リスクの管理強化の観点から、債券全体と株式全体についても±9%の乖離許容幅が設定されました。
市場の変動により実際の資産構成割合が基本ポートフォリオから乖離した場合には、適時適切に資産の入替え等(リバランス)を行い、乖離許容幅内に収まるよう管理が行われています。
個人投資家においても、定期的にポートフォリオを確認し、当初設定した資産配分から大きく乖離している場合はリバランスを検討することが推奨されます。リバランスには、高くなりすぎた資産を売却して安くなった資産を購入するという、「高く売って安く買う」効果も期待できるためです。
コア・サテライト戦略とオルタナティブ資産

GPIFの運用戦略では、伝統的な4資産(国内外の株式・債券)を中心としながら、オルタナティブ資産も活用する考え方が採用されています。この戦略は「コア・サテライト戦略」と呼ばれるものです。
コア・サテライト戦略とは
コア・サテライト戦略とは、ポートフォリオを「コア(中核)」部分と「サテライト(衛星)」部分に分けて運用する手法を指します。
コア部分では、全体の70〜90%程度を占める資産を国内外の株式や債券といった伝統的な資産クラスに配分し、長期的かつ安定的なリターンを目指す運用を行います。一方、サテライト部分では、残りの10〜30%程度をオルタナティブ資産や個別銘柄に配分し、より高いリターンやリスク分散を追求するのが特徴です。
GPIFの場合、基本ポートフォリオで定めた国内外の株式・債券の4資産がコア部分に相当し、それに加えてオルタナティブ資産をサテライト部分として活用する戦略が取られています。
オルタナティブ資産の役割
GPIFでは、オルタナティブ資産としてインフラストラクチャー、プライベートエクイティ、不動産などへの投資を行っています。これらの資産は、伝統的な株式や債券とは異なるリスク・リターン特性を持つため、ポートフォリオ全体の分散効果を高める役割を果たすものです。
ただし、GPIFではオルタナティブ資産を独立した資産区分としては位置づけず、リスク・リターン特性に応じて国内債券、外国債券、国内株式、外国株式の中で管理することとし、資産全体の5%を上限としています。
これは、オルタナティブ資産が流動性の低さや評価の難しさといった特性を持つため、過度に依存することなく、あくまで伝統的資産を補完する形で活用するという考え方に基づくものです。
個人投資家にとっても、REIT(不動産投資信託)やコモディティ(金など)といったオルタナティブ資産を少量組み入れることで、ポートフォリオの分散効果を高められる可能性があります。ただし、これらの資産への投資は全体の5〜10%程度に抑え、まずは伝統的な株式や債券での資産配分を固めることが重要といえるでしょう。
個人投資家が実践する際のポイント

GPIFの運用戦略から学べる考え方を、個人投資家が実際の資産運用に活かすためのポイントをまとめます。
・明確な運用目標を設定する
まず、老後資金の準備、教育資金の積立、住宅購入の頭金準備など、運用の目的と目標額を明確にしましょう。運用期間が長いほどリスク資産(株式など)の比率を高められる傾向にあります。
・長期的な視点で資産配分を決める
短期的な市場の変動に惑わされず、長期的な資産配分方針を定めることが重要です。一般的には、年齢が若いほど株式の比率を高くし、年齢が上がるにつれて債券の比率を増やしていく考え方が推奨されています。
・低コストな商品を選ぶ
インデックスファンドやETFなど、運用コストの低い商品を活用することで、長期的なリターンの向上が期待できます。GPIFも政策ベンチマークとして市場指数を採用し、効率的な運用を行っている点が参考になるでしょう。
・定期的にポートフォリオを確認し、必要に応じてリバランスする
年に1〜2回程度、ポートフォリオの状況を確認し、当初の資産配分から大きく乖離している場合はリバランスを検討します。ただし、頻繁な売買は取引コストや税金の負担を増やすため、機械的に行うのではなく、一定の乖離幅(例えば±5%)を超えた場合に実施するなど、ルールを決めておくとよいでしょう。
・分散投資を心がける
「卵を一つのかごに盛るな」という格言の通り、特定の資産や地域に集中投資せず、複数の資産クラスや地域に分散することでリスクを抑えられます。
銘柄選びより大切な資産配分

「特定の銘柄や流行りの商品選びに夢中になり、肝心な資産配分(アセットアロケーション)がバラバラになっている」方を多く見かけます。世界最大級の投資家であるGPIFでさえ、成果の9割を決めるのは「配分」だと言い切っているのです。
読者の皆さんの資産運用においても、まずは「どの銘柄を買うか」という悩みから一歩引いて、「自分の船(ポートフォリオ)は、どのような海図(アセットアロケーション)で進むのか」を、GPIFの基本配分を参考に一度整理してみてください。それだけで、長期投資の不安は驚くほど解消されます。
まとめ
アセットアロケーションとポートフォリオは、長期的な資産形成において密接に関連する重要な概念です。アセットアロケーションは戦略的な資産配分の方針を定めるものであり、ポートフォリオはその方針を実現するための具体的な商品の組み合わせを指します。
GPIFの基本ポートフォリオからは、長期的な運用目標の設定、分散投資によるリスク管理、定期的なリバランスの重要性といった、個人投資家にも応用できる考え方を学ぶことができます。また、コア・サテライト戦略の活用により、伝統的資産を中心としながらオルタナティブ資産で分散効果を高めるアプローチも参考になるでしょう。
資産運用を行う際は、まず自身の運用目標を明確にし、それに基づいた適切なアセットアロケーションを設定することから始めてみてください。そして、長期的な視点を持ちながら、定期的にポートフォリオの状況を確認し、必要に応じて調整を行っていくことが、成功への近道となります。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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