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NISAは損益通算できない?仕組みを理解して賢く運用

NISAは非課税で効率的に資産を増やせる魅力的な制度ですが、その仕組みにはいくつか特有のルールがあります。その一つが、「損益通算ができない」という点です。このルールを理解せずに運用を始めると、「こんなはずじゃなかった」と後悔することになりかねません。
この記事では、NISA口座の大きな特徴である「損益通算不可」の仕組みを詳細に解説します。なぜ損益通算ができないのか、そのデメリット、そしてこの制約を理解した上でどのように賢く運用すべきか(例:長期保有、分散投資の徹底など)を具体的に説明し、NISAをより効果的に活用するためのヒントを提案します。
そもそも「損益通算」とは?

NISAの「損益通算不可」を理解するために、まず「損益通算」とは何かを把握しておきましょう。
損益通算とは、複数の口座や取引で生じた「利益」と「損失」を相殺(通算)することです。これにより、課税対象となる利益を減らし、支払うべき税金を抑えることができます。
例えば、あなたが通常の課税口座(特定口座など)でA株を売却して10万円の利益を得て、B株を売却して5万円の損失を出したとします。この場合、損益通算を行うことで、10万円の利益から5万円の損失を差し引き、課税対象となる利益は5万円になります。この5万円に対して約20%の税金がかかるため、税負担を軽減できるわけです。
また、損益通算で相殺しきれなかった損失は、翌年以降3年間繰り越して利益と相殺できる「繰越控除」という制度もあります。
NISA口座で「損益通算」ができない理由とデメリット

では、なぜNISA口座ではこの便利な損益通算ができないのでしょうか?
NISA口座で損益通算ができない理由
NISAは、投資で得た利益が「非課税」になる制度です。つまり、利益が出た場合に税金がかからない代わりに、損失が出た場合も税制上の優遇措置(損益通算や繰越控除)は適用されないという仕組みになっています。非課税であることと引き換えに、損失時のメリットは享受できない、と理解すると良いでしょう。
損益通算ができないことのデメリット
NISA口座で損益通算ができないことには、以下のようなデメリットがあります。
1.税負担が増える可能性: もしNISA口座で損失が出たとしても、その損失を他の課税口座(特定口座など)で得た利益と相殺して税金を減らすことができません。例えば、NISA口座で10万円の損失、課税口座で10万円の利益が出た場合、課税口座の10万円の利益にはそのまま税金がかかります。
2.繰越控除も利用できない: NISA口座で発生した損失は、翌年以降に繰り越して将来の利益と相殺することもできません。損失は損失として、そのまま計上されることになります。
3.出口戦略の複雑化: 特に複数の銘柄をNISA口座で運用している場合、一部の銘柄で利益が出ていても、他の銘柄で損失が出ている状況で売却すると、利益が出た銘柄には税金がかからないものの、損失が出た銘柄の損失は税制上考慮されないため、全体として非効率になる可能性があります。
NISAの「損益通算不可」を理解した上で賢く運用する戦略

NISA口座の損益通算不可という制約はデメリットではありますが、それを理解した上で適切な運用戦略を取れば、NISAの非課税メリットを最大限に活かすことができます。
長期保有を前提とする
NISAの非課税期間は無期限です。短期的な値動きで売買を繰り返すと、損失が出た場合に損益通算ができないデメリットが顕在化しやすくなります。しかし、長期で保有し続けることで、一時的な損失は将来の株価回復や成長でカバーされる可能性が高まります。売却せずに持ち続けることで、含み損(評価上の損失)が確定損失になるのを避けられます。
徹底した分散投資を行う
一つの銘柄や特定の資産クラスに集中投資すると、その対象が大きく下落した場合に損失が大きくなるリスクが高まります。
・銘柄の分散: 複数の高配当株に投資する場合でも、業種や企業規模を分散させましょう。
・資産の分散: 株式だけでなく、投資信託(特に全世界株式やS&P500などのインデックスファンド)など、複数の資産クラスに分散投資することで、全体のリスクを抑えられます。NISAの「つみたて投資枠」を活用して、安定的なインデックスファンドを積み立てるのが、この分散投資の基本戦略です。
損失が出ている銘柄は「売らない」という選択肢も
NISA口座で含み損を抱えている銘柄がある場合、損益通算ができないため、安易に売却して損失を確定させるのは避けるべきです。売却して損失を確定させると、その損失は税制上、他の利益と相殺できません。
・回復を待つ: 長期的な視点で、その銘柄の回復を待つという選択肢も重要です。
・非課税枠の再利用を検討する場合: ただし、他の投資機会に資金を回したい、あるいは非課税枠を再利用したいといった明確な目的がある場合は、損失を確定させることも検討の余地はあります。その際は、失った枠が翌年以降に復活することを理解した上で判断しましょう。
余剰資金で投資を行う
NISAに限らず投資全般に言えることですが、生活に必要なお金や、近い将来使う予定のあるお金で投資を行うのは避けましょう。NISAは元本保証がないため、損失が出た場合に生活に影響が出ないよう、必ず余剰資金で運用することが重要です。
まとめ:NISAの特性を理解し、賢く非課税の恩恵を享受する
NISA口座では損益通算ができないという制約はありますが、これはNISAが「利益を非課税にする」という大きなメリットを提供していることの裏返しです。
この仕組みを正しく理解し、長期保有、徹底した分散投資、そして余剰資金での運用を心がけることで、損益通算ができないデメリットを最小限に抑え、NISAの非課税メリットを最大限に享受することができます。
NISAは、あなたの資産形成を強力に後押しする制度です。その特性を理解し、賢く運用することで、将来の目標達成に近づいていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。