iDeCo
iDeCoは「みんなやってるから」で始めていい?後悔しないための自己分析

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後資金準備のための強力な税制優遇制度として、メディアでも取り上げられ、周りの人も始めているという話を聞く機会が増えたかもしれません。しかし、「みんながやっているから」という理由だけでiDeCoを始めてしまうと、後で「こんなはずじゃなかった…」と後悔する可能性もゼロではありません。
この記事では、iDeCoを始める際に周りの意見に流されることの危険性に警鐘を鳴らします。その上で、あなたがiDeCoを始めるべきかどうか、そしてどのように活用すべきかを判断するための自分自身の加入資格、目的、リスク許容度、資金拘束への理解を深める方法を解説。さらに、ファイナンシャルプランナー(FP)相談の活用まで、iDeCoで後悔しないための「自己分析」のヒントを提案します。
「みんなやってるから」は危険?周りの意見に流されることのリスク

「みんながやっている」という安心感や、「乗り遅れたくない」という焦りは、投資において誤った判断を招くことがあります。これは、行動経済学でいう「群集心理(バンドワゴン効果)」と呼ばれるものです。
周りの意見に流されることの危険性
1.自分のニーズと合わない可能性: 友達や同僚のiDeCoの目的や家計状況、リスク許容度は、あなたと全く同じではありません。彼らにとって最適なiDeCo活用法が、あなたにとっても最適とは限りません。例えば、友人は退職金がないためにiDeCoを始めたかもしれませんが、あなたは十分な退職金が見込めるかもしれません。
2.制度のデメリットを見落とす: 「みんなお得だと言っている」という声ばかりが耳に入り、iDeCoの「原則60歳まで引き出せない資金拘束」や「手数料」といったデメリットを十分に理解しないまま始めてしまうリスクがあります。
3.モチベーションが続かない: 自分の明確な目的や理解がないまま始めたiDeCoは、市場が下落した時や家計が厳しくなった時に、「何のために続けているんだろう?」と疑問に感じ、モチベーションが続かなくなる可能性が高まります。
4.「何を選んでいいか分からない」状態に陥る: いざ運用商品を自分で選ぶ段階になった時、「みんながS&P500を選んでいるから」といった理由で選んでも、それが自分のリスク許容度や目標に合っているのか判断できず、不安を感じやすくなります。
後悔しないための自己分析:4つのポイント
「みんながやっているから」ではなく、iDeCoを「自分にとって」最適な制度にするためには、始める前に以下の4つのポイントで自己分析を行いましょう。
あなたの「加入資格」と「掛金上限」を理解する
iDeCoは、加入できる人が限られており、職業や企業年金の有無で掛金上限も異なります。
確認ポイント:
・日本国内に住む20歳以上65歳未満か?(2025年度税制改正で70歳未満まで延長が検討されています)
・あなたの職業(会社員、公務員、自営業者、専業主婦(夫)など)は何か?
・勤務先に企業年金(企業型DC、DBなど)はあるか?
なぜ重要?: まずiDeCoに加入できるかどうか、そしていくらまで積み立てられるかという前提条件を正しく把握することが第一歩です。これによって、受けられる税制メリットの大きさも変わってきます。
iDeCoで何を「目的」とするのかを明確にする
「老後資金」という漠然とした目的だけでなく、具体的に「何歳までにいくら貯めたいのか」を明確にしましょう。
確認ポイント:
・60歳でリタイアしたいのか、65歳以降も働きたいのか?
・公的年金だけで足りるのか?不足するなら月いくら?
・老後資金は「〇〇円」必要、そのうちiDeCoで「〇〇円」貯めたい、という具体的な目標は?
なぜ重要?: 目標が明確であればあるほど、iDeCoを続けるモチベーションを維持しやすくなります。目標が曖昧だと、途中で挫折する原因になりかねません。
あなたの「リスク許容度」と向き合う
iDeCoの運用商品は元本変動型(投資信託)を選ぶのが基本であり、元本割れのリスクがあります。
確認ポイント:
・もしiDeCoの資産が一時的に20%〜30%評価額が下がっても、冷静でいられるか?
・損失が出た場合に、その影響を許容できるだけの生活防衛資金は確保できているか?
・投資経験はどのくらいあるか?
なぜ重要?: リスク許容度を超えた運用は、市場が下落した際に感情的な判断(狼狽売りなど)につながり、失敗の原因となります。自分に合った運用商品や資産配分を選ぶために不可欠です。
iDeCoの「資金拘束」を許容できるか理解する
iDeCoの最大のデメリットである「原則60歳まで引き出せない」という資金拘束を、あなたが許容できるかを確認しましょう。
確認ポイント:
・60歳までに使う予定のある資金(住宅購入資金、教育資金、結婚資金など)ではないか?
・急な病気や失業など、万が一の事態に備える「生活防衛資金」は、iDeCoとは別に確保できているか?
なぜ重要?: 資金拘束はiDeCoの確実な老後資金形成を促すメリットですが、一方で、緊急時に使えないという大きな制約でもあります。この制約を理解し、他の資金と区別して拠出することが後悔しないための大前提です。
FP相談の活用:客観的な視点を取り入れる

自己分析は重要ですが、自分一人で判断するのが難しいと感じる場合は、ファイナンシャルプランナー(FP)などの専門家に相談することを検討しましょう。
FPが提供できること
・客観的なアドバイス: あなたの家計状況、ライフプラン、リスク許容度などをヒアリングし、iDeCoがあなたに合っているか、最適な掛金額はいくらか、どのような運用商品が良いかなど、客観的な視点からアドバイスしてくれます。
・税制優遇の最大化: あなたの所得状況からiDeCoによる節税効果を具体的にシミュレーションし、所得控除を最大限に活用するための最適な掛金額を提案してくれます。
・NISAなど他の制度との比較・併用: iDeCoだけでなく、NISAや他の金融商品(保険、貯蓄など)を含めた総合的な資産形成プランを提案してくれます(個別の商品は提案できません)。
・複雑な手続きのサポート: iDeCoの口座開設手続きは複雑に感じることもあるため、FPが手続きのサポートをしてくれる場合もあります(アドバイスに留まり、実際の口座開設手続きは本人が行います)。
相談先の選び方
・独立系FP: 特定の金融機関に属さず、中立的な立場からアドバイスを提供します。相談料がかかる場合があります。
・金融機関のFP: iDeCo口座を開設する金融機関のFPに相談できます。無料で相談できることが多いですが、その金融機関のiDeCo商品ラインナップに限定される傾向があります。
・IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー): 顧客の立場に立ち、金融商品の提案やアドバイスを行う専門家です。金融商品の販売や助言には専門の資格が必要であり、IFAはその資格を有しています。
まとめ:「みんな」ではなく「あなた」に合うiDeCoを
iDeCoを始める際に「みんながやっているから」という理由だけで行動するのは、後悔の元になる可能性があります。大切なのは、始める前にしっかり「自己分析」を行い、iDeCoが「自分にとって」最適な制度であるかを見極めることです。
・加入資格、目的、リスク許容度、資金拘束の4つのポイントで自分自身を分析しましょう。
・必要であれば、FPなどの専門家の客観的な視点も取り入れましょう。
「みんな」ではなく「あなた」に合うiDeCoを賢く活用することで、安心して豊かな老後を築いていくことができるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。