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iDeCoの運用益非課税 vs NISAの非課税:税金ゼロの範囲の違い

「どっちの制度も非課税なら、好きな方を選べばいいの?」
iDeCo(個人型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)は、どちらも投資で得た利益に税金がかからない、非常に魅力的な税制優遇制度です。この「運用益非課税」という共通点があるため、どちらを選べばいいか迷ってしまう方もいるでしょう。
しかし、この二つの制度の「非課税」には、決定的な違いがあります。この記事では、iDeCoとNISAが持つ運用益非課税という共通点を明確にした上で、その具体的な適用範囲の違いを解説します。さらに、iDeCoの掛金控除の有無が最終的な手取りにどう影響するかを比較し、それぞれの制度の非課税メリットを最大限に活かすための視点を提供します。
iDeCoとNISA共通の強み:運用益が「非課税」

まず、iDeCoとNISAに共通する最大のメリットである「運用益非課税」について確認しましょう。
通常、株式や投資信託などへの投資で得た利益(売却益や配当金・分配金、利息など)には、約20%の税金がかかります。しかし、iDeCo口座やNISA口座内で得られたこれらの運用益には、この税金が一切かかりません。
・複利効果を最大化: 税金が引かれずに利益が再投資されるため、利益がさらに利益を生む「複利効果」が最大限に発揮されます。税金が引かれない分、再投資される元本が大きくなり、資産が雪だるま式に増えるスピードが加速します。
・手取りが増える: 運用がうまくいけば、同じ運用益でも手元に残る金額が約20%増えることになります。これは、長期になればなるほど大きな差となります。
この運用益非課税という点は、両制度に共通する強力な資産形成の武器です。
iDeCoとNISA「非課税」の具体的な適用範囲の違い

運用益が非課税という共通点を持つiDeCoとNISAですが、その「非課税の範囲」には明確な違いがあります。
iDeCoの「非課税」:掛金も、運用益も、受け取り時も
iDeCoは、老後資金準備に特化した制度であるため、「拠出時(掛金)」、「運用時(運用益)」、「受け取り時」の3段階すべてで税制優遇が受けられます。
拠出時:掛金が全額「所得控除」に
iDeCo最大のメリットであり、NISAにはない唯一無二の優遇です。iDeCoに拠出した掛金は、その年の所得税・住民税の計算で所得から全額差し引かれます。これにより、現役時代の所得税・住民税が直接軽減されます。例えば、年収500万円の会社員が月2万円(年間24万円)iDeCoに拠出すれば、年間約4.8万円の節税になります。
運用時:運用益が「非課税」に
投資信託などの運用で得た利益に税金がかかりません。非課税期間は原則60歳まで(または受け取り開始まで)。iDeCoは最長で75歳まで運用できるため、非常に長期にわたって非課税運用が可能です。
受け取り時:税制上の「控除」が適用
原則60歳以降に資産を受け取る際にも、一時金なら「退職所得控除」、年金なら「公的年金等控除」が適用され、税負担が軽減されます。このように、iDeCoは、老後資金準備に特化しているため、税制上のメリットが「入口から出口まで」手厚いのが特徴です。
NISAの「非課税」:運用益のみが非課税
NISAは、幅広い国民の資産形成を後押しするための制度で、「運用時」に非課税優遇が受けられます。
拠出時:掛金控除は「なし」
NISAの掛金(投資額)は、所得控除の対象にはなりません。
運用時:運用益が「非課税」に
NISA口座内で投資した株式や投資信託の売却益、配当金・分配金に税金がかかりません。また、非課税期間は「無期限」です(新NISAの場合)。これにより、iDeCoと同様に長期にわたる非課税運用が可能です。
受け取り時:非課税範囲内の利益に税金は「なし」
NISAは、非課税で得た運用益については、受け取り時に税金はかかりません。これは、そもそも課税されていない利益だからです。しかし、NISA自体にiDeCoのような受け取り時の税制優遇(退職所得控除や公的年金等控除)はありません。NISAは、いつでも資金を引き出せる柔軟性があるのが大きなメリットですが、その分、iDeCoのような拠出時の所得控除はありません。
掛金控除の有無が最終的な手取りにどう影響するか

iDeCoの「掛金控除」の有無は、最終的な手取りや資産形成に大きく影響します。
iDeCoの掛金控除がもたらす「確実な節税効果」
iDeCoの掛金控除は、運用成果に関わらず、毎年確実に所得税・住民税を軽減します。これは、老後資金を積み立てながら、現役時代の手取りを増やす「二重にお得」な効果です。
例えば、年収が高い人ほど所得税率が高くなるため、iDeCoの節税メリットはより大きくなります。この節税で浮いたお金をさらに投資に回すことで、資産形成のスピードを加速させることも可能です。
NISAには「所得控除」がない
NISAには掛金控除がないため、運用益が非課税になったとしても、現役時代の所得税・住民税は減りません。NISAのメリットは「運用益が非課税になること」に特化しており、それが資産の成長を助ける形です。
・iDeCoのメリット: 資産形成中も毎年税金が安くなる(現役時代のお得)。
・NISAのメリット: 資産形成の成果が出たときに税金がかからない(将来のお得)。
それぞれの制度の非課税メリットを最大限に活かす視点

iDeCoとNISAは異なる税制優遇を持つため、それぞれの強みを理解し、あなたのライフプランに合わせて活用することが重要です。
老後資金の「確実性」と「節税」を重視するならiDeCo:
・所得税・住民税を支払っている現役世代なら、まずiDeCoの掛金全額所得控除のメリットを最大限に活かすことを検討しましょう。
・原則60歳まで引き出せない資金拘束はありますが、それがあるからこそ老後資金を確実に確保できます。
・早く始め、長く続けることで、非課税運用益と所得控除の両方のメリットが最大化されます。
資金の「柔軟性」と「多様な目的」で活用するならNISA:
・老後資金だけでなく、教育資金、住宅購入資金など、将来使うかもしれない資金も非課税で増やしたい場合は、NISAが適しています。
・新NISAは非課税期間が無期限で、売却後の枠復活もあるため、柔軟な資産活用が可能です。
・iDeCoの掛金上限額を超えてさらに投資したい場合も、NISAを活用しましょう。
「両方併用」で最強の老後資金戦略:
・所得税・住民税を支払っており、かつ資金の柔軟性も確保したい場合は、iDeCoとNISAの両方を併用するのが最も効率的です。
・iDeCoで現役時代の節税効果と老後資金の確実な確保を図り、NISAで幅広い目的の資金を非課税で増やし、柔軟性を持たせることで、相乗効果を生み出せます。
まとめ:iDeCoとNISA、それぞれの「非課税」を賢く使い分けよう
iDeCoとNISAは、どちらも運用益が非課税になるという共通の強みを持っていますが、その非課税の範囲や制度の目的は大きく異なります。
・iDeCo: 掛金控除、運用益非課税、受け取り時控除の3段階優遇。老後資金に特化し、確実な節税と資産形成を目指す。
・NISA: 運用益非課税。資金の柔軟性が高く、多様な目的に対応。
あなたのライフステージ、収入、そして投資目的に合わせて、それぞれの制度のメリットを最大限に活かすことが重要です。賢く使い分け、あるいは併用することで、あなたの資産形成はより効率的かつ確実に進むでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています